ロマンス:奥村愛 limied version 
Disc1(CD)
アイルランド民謡(大谷裕子編曲)/サリー・ガーデン
ブルッフ/スコットランド幻想曲〜アンダンテ・ソステヌート
マスカーニ(鈴木行一編曲)/歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲
ラフマニノフ(Clinton F. Nieweg編)/ヴォカリーズ
サティ(鈴木行一編曲)/ジムノペディ第1番
エルガー/弦楽セレナード〜ラルゲット
ヴォーン=ウィリアムズ/あげひばり
アイルランド民謡(ハミルトン・ハーティ編曲)/ロンドンデリーの歌

Disc2(特典DVD)
チャイコフスキー/なつかしい土地の思い出〜第3曲「メロディ」(テレビ朝日系列「題名のない音楽会21」(2003年2月23日放送分より))*
マスカーニ/歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲(プロモーション・ビデオ)

奥村愛(ヴァイオリン)
本名徹次指揮オーケストラ・アンサンブル金沢
羽田健太郎指揮東京シティフィルハーモニー管弦楽団*
●発売/ワーナー・ミュージック・ジャパン(2003.11.12)
●Warner Classics WPZS-30003〜4
●録音/石川県立音楽堂コンサートホール(2003年7月16〜18日)

若手ヴァイオリニスト奥村愛さんの2枚目のCD。デビューCDは,ピアノ伴奏による「愛のあいさつ」("愛"のデビューに相応しい洒落たネーミングですね)だったが,今回はイギリスに関連する曲を中心にヴァイオリンとオーケストラのための小品を集めた内容となっている。アルバム全体には「ロマンス」というタイトルが付けられている。ただし,収録曲の中には「ロマンス」という曲はなく,どことなくロマンティックなムードを漂わせた,爽やかな曲を集めているのが特徴となっている。

収録されている曲は,元々ヴァイオリンとオーケストラのための曲と編曲されたものが3:5の比率で収録されている。また,全曲ではなく,一つの楽章だけを取り出して録音している曲も2曲含まれている。堅苦しいイメージは全くなく,奥村愛さんの魅力を耳になじみやすいクラシック音楽の小品を通じて,より多くの人に伝えたいという構成になっている。イギリス音楽の持つ品の良さと親しみやすさを基調とした統一感があるので,大変まとまりの良い仕上がりとなっている。

奥村愛さんのヴァイオリンは,常に控え目で静かな品の良さをたたえている。ヴァイオリンの音にはアクの強さとか押しつけがましいところは皆無で,とても自然で素直な歌を楽しむことができる。技巧的にも安定しており,心から安心して聞くことができる。もっと個性的な表現を好む人がいるかもしれないが,聞けば聞くほど耳になじみ,心に染み込むような落ち着いたヴァイオリンを聞かせてくれる人は多くはないと思う。

CDはまず,アイルランド民謡のサリー・ガーデンで始まる。このアルバムのコンセプトを象徴するような1曲である。その後,ブルッフのスコットランド幻想曲の第3楽章が続く。この2曲は本当によくマッチしているので,私ははじめこの2曲が1つの曲かと勘違いしてしまった(どちらもよく知らない曲だったこともあります)。2曲ともしっとりと聞かせてくれながら,静かに高揚するのが素晴らしい。繊細なトリルの音が心地良い。本名徹次指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の伴奏も,ひんやりとした空気を伝えてくれる。

カヴァレリア・ルスティカーナ間奏曲はヴァイオリン・ソロを前面に出す形にアレンジされたものである。ここでも息の長い清潔な歌を楽しめる。間奏曲ならぬ”アリア”のようである。オーケストラの方は弦楽器とハープが主体だが,わずかに管楽器も入っている。

ヴォカリーズでは,爽やかさを感じさせながらも,そこはかとない哀感を漂わせる。途中低音を中心に歌う部分の落ち着きも良い。管楽器の音が所々な彩りを加えるように入って来るのもよい。

サティの曲は曲のシンプルさをそのまま生かしたアレンジとなっている。奥村さんの癖のない音がシンプルさにとてもよく合っている。

エルガーの弦楽セレナードのラルゲットでは,OEKの弦楽セクションと一体になって爽やかなロマンティシズムを聞かせる。演奏者の個性を越えて曲の美しさだけがストレートに伝わって来る,素晴らしい演奏である。

あげひばりは,このアルバム中,もっとも長い曲で16分ぐらいかかる。OEKがおっとりとした響きで幻想的な田園風景のイメージを作る中,奥村さんが全然乱れのない丁寧なソロを聞かせてくれる。折り目正しい演奏なのに,堅苦しいところがないのが素晴らしい。途中出てくるホルンなどの管楽器の響きにもイギリス風の雰囲気がある。このレコーディングの時のOEKのリーダーは,イギリス出身のアビゲイル・ヤングさんだったはずだが,そのリードの力も大きいと思う。

CDの最後はおなじみのロンドンデリーの歌である。曲の出だしの部分は,編曲者が付け加えたメロディだが,ここに収録されている他のイギリスの曲と雰囲気が似ており,全体的な統一感を作っている。曲の後半が情熱的な弦楽合奏になるのも聞きものである。落ち着いたペースで進んできたこのアルバムの中で,ほんの少し情熱的になり,さりげないクライマックスを作っている。

私は今,このCDを携帯用のオーディオ装置に入れ,ごろっと寝転んでヘッドフォンで聞いている。最高に幸せな気分に浸れる1枚である。

(追記)このCDの初回プレス版には,DVDが附属している。DVDといっても2曲しか収録されておらず,収録時間は10分未満である。最初の「メロディ」の方は,奥村さんがテレビ朝日の「題名のない音楽会」に出演した時の映像をそのまま使っている。後半は,このCDのプロモーション用のような内容となっている。CDと同一音源のカヴァレリア・ルスティカーナの演奏の上に奥村さんの姿を映したイメージ映像が重なっている。OEKファンとしては,レコーディングの時の映像などを見てみたかったと思う。

■録音について
2003年7月20日に行われたOEKの朝日親子サマーコンサートに合わせて収録されている。この演奏会では,サティ,マスカーニ,ロンドンデリーの歌の3曲が演奏された。この時のコンサート・ミストレスはアビゲイル・ヤングさんだったので,このレコーディング・セッションでもヤングさんがリーダーだったと思われる。

■参考ページ
朝日親子サマーコンサート(本名徹次指揮,奥村愛(Vn),OEKエンジェル・コーラス/2003/07/20)  (2003/12/22)