オーケストラ・アンサンブル金沢21
新実徳英:協奏的交響曲「エラン・ヴィタール」,渡辺俊幸:Essays for Drums and Small Orchestra,ロジェ・ブトリー:Urashima
1)新実徳英:協奏的交響曲 「エラン・ヴィタール」 (2006年度コンポーザー・イン・レジデンス、OEK委嘱作品・世界初演)
2)渡辺俊幸:Essays for Drums and Small Orchestra (新曲・世界初演)
3)ロジェ・ブトリー:Urashima(OEK委嘱作品・世界初演)
●演奏
外山雄三(1,2);ロジェ・ブトリー指揮オーケストラ・アンサンブル金沢
デイヴィッド・ジョーンズ(パーカッション*2),木村かをり(ピアノ*1)
●録音/2006年9月7日(1,2),2005年4月9日(3)石川県立音楽堂コンサートホール(ライヴ録音)
●発売/ワーナー・ミュージック・ジャパンWPCS-12032(2007年5月23日発売) \1500(税込) 

ワーナーミュージック・ジャパン/オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)提携シリーズ5(2007年版)の第2回発売は,近年のOEKの定期公演で世界初演された曲ばかりを集めたプログラムとなっている。この「世界初演シリーズ」は,”初演魔”故岩城宏之音楽監督の遺志を伝えるものである。今回収録されている曲の中では,新実と渡辺の作品が岩城が初演するはずの曲だったので,岩城の追悼盤という意味合いもあるアルバムとなっている。

各曲については,OEKが委嘱したという点だけが共通し,それ以外には共通点はないので,アルバム全体としては,統一感のないものとなっている。以前,ドイツ・グラモフォンから発売された「21世紀へのメッセージ」シリーズもそういう特徴があったが,「岩城宏之指揮」「コンポーザー・イン・レジデンス」という芯のない今回の演奏は,少々”目玉”が見つけにくいところがある。

特に渡辺の作品と新実の作品の雰囲気はかなり違う。この両者は,実は同じ演奏会で初演されたのではあるが,アルバムとして収録するとなると座りの悪い部分がある。個々の曲をそれぞれ楽しむアルバムと言えそうである。

最初に収録されている新実の作品は,2007年度の尾高賞を受賞した作品である。OEKのコンポーザー・イン・レジデンスとして岩城宏之指揮OEKのために書かれた作品だが,岩城を追悼する作品となってしまった。その初演を代行したのが,岩城の盟友の外山雄三であり,ピアノ・ソロが木村かをりだというのも何かの因縁かもしれない。追悼演奏に相応しい組み合わせとなっている。

曲のサブ・タイトルのエラン・ヴィタールというのは,「生命の奔流」という意味になる。これには「岩城の死」と「生きて作曲している自分」という対比が反映しているのかもしれない。協奏的交響曲ということで,ピアノが活躍するのも特徴である。

曲は,違ったテンポ・拍子を持つ,いくつかの部分に分かれている。キラキラとしたピアノや管・打楽器の音を含む同音反復のような部分(9/18拍子)に始まり,大きく盛り上がった後,神妙で不穏な感じのある中間部(9/8拍子)になる,その後,慌しい感じに変わり,リズミカルで,少しエキゾティックな気分を持つ部分(3/4拍子)になる。この辺は,急・緩・急という3楽章構成を思わせるが,それほど鮮明ではない。グリッサンドによる静かな音も出てくるが,これは他の新実の作品でも聞くことが出来る。最後はクラリネットなどとピアノとの音が対話をした後,弔いの鐘のような音が出てきて,静かな雰囲気で閉じられる。

ピアノを核とした音色,意外性のあるリズムの変化の面白さが特徴だが,特に終結部のしっとりとした雰囲気が大変魅力的な作品である。

渡辺俊幸の作品は,日豪交流年だった2006年にオーストラリア・ヴィクトリア州とOEKの共同委嘱によって作られた曲であり,2006年秋のOEKのオーストラリア公演で演奏された。「ドラム協奏曲」という曲が他にあるのか不明だが,非常に珍しい編成の協奏曲であることは確かである。ソリストとして,OEKのポップス公演等でも時々共演していた,デイヴィッド・ジョーンズさんを想定して作られた曲ということで,今回収録された3曲の中では,もっとも親しみやすい作品となっている。

渡辺さんと言えば,大河ドラマ「利家とまつ」の音楽の作曲者ということで,ドラマや映画音楽のプロという先入観を持って聞いてしまうのが,このドラム協奏曲にもどこかストーリーを感じさせる部分がある。軽快なリズムに乗って始まる冒頭部は「のどかな船出」という感じである。その後,比較的単純なリズムが続くので,少しレトロなポップス調を思わせる。ヴァイオリンによる無窮動風のくっきりとした音の動きの後,コントラバスをはじめとしてどこかジャズ風味が漂う。その後もラテン的な気分になったり,多彩な表情が続く。最初の「旅立ち」と絡めると,世界各地を旅行して回っているような部分と言える。

協奏曲ということで,ドラムのカデンツァも入る。今回のソリストのデイヴィッド・ジョーンズさんは,OEKのポップス系コンサートでもおなじみの方だが,相変わらずキレの良い気持ちの良い演奏を聞かせてくれる。この部分はアドリブなのだろうか?これが弱音で終わった後,「再出発」という感じになり,曲は終わる。

さすがにドラマ用の音楽の時のような分かりやすいメロディは少ないが,基本的なサウンドの明るさや気持ちよさはいつもどおりである。渡辺さん自身,「赤い鳥」のドラム奏者として活躍していた時期もあるので,このドラム協奏曲は,「念願の作品」だったのかもしれない。私自身,この曲の生演奏を聞いていないので,機会があれば是非再演して欲しいと思う。

最後の「Urashima」は,パリ・ギャルド吹奏楽団の指揮者としても有名なロジェ・ブトリーの作品である。今回のCDの中ではもっとも古く,2004年度に初演されたものである。「Urashima」といえば,浦島太郎だが,その物語の元になった,8世紀の日本の伝説に基づく作品である(”竜宮城”が出てきたりするわけではありません)。具体的なストーリー展開は音楽を聞くだけでは分からないのだが,”破局”に向かう流れは感じることができる。

音楽の雰囲気は,冒頭はドラマティックだが,基本的にはしなやかな柔らかさがあり”やっぱりフランス音楽かな”という感じである。作曲者名を伏せて作曲者当てクイズなどをやってみると,かなりの難問になると思う。個人的にはプーランクにつながるムードがあると思う。CDのカップリングとしては,「象のババール」などと組み合わせても良いと思う。

ただし,途中,打楽器が特徴的なモチーフを演奏したり,弦楽器がしっとりしたムードを伝えたりしているのだが,残念ながら何を表現しているのか分からない。この辺に少々もどかしさを感じる。最後はテンポアップし,切迫感を増す。「ジャン」と終わるあたりも物語的である。

上述のとおり,このアルバムに収録されている曲は,OEKの演奏会の「何でもあり」の雰囲気を伝えるものとなっている。個人的には,生演奏の時とは違い,CDアルバムの場合は,もう少し統一感を考慮した方が良いとは思うが,21世紀の”現代の音楽の作曲家”の多様性の縮図を感じるにはなかなか良い録音かもしれない。

●録音
「Urashima」は,サイモン・ブレンディスがコンサートマスター,それ以外はアビゲイル・ヤングがコンサート・ミストレスを努めている。「Urashima」以外の2曲は,当初,岩城が指揮する予定だったが,その死去に伴い,外山に変更になった。CDの解説には,各作曲家からの一言が入っている。(2007/07/29)