オーケストラ・アンサンブル金沢1000 第2期
モーツァルト:交響曲第41番&ピアノ協奏曲第17番
1)モーツァルト/ピアノ協奏曲第17番ト長調K.453
2)モーツァルト/交響曲第41番ハ長調 K.551「ジュピター」
●演奏
オーケストラ・アンサンブル金沢(リーダー:安永徹)
市野あゆみ(ピアノ*1)
●録音/2003年6月27日 石川県立音楽堂コンサートホール(ライヴ録音)
●発売/ワーナー・ミュージック・ジャパンWPCS-11725(2004年2月25日発売) \1000(税抜)

オーケストラ・アンサンブル金沢1000第2期の中の1枚。ベルリン・フィルのコンサート・マスター,安永徹をリーダーに迎えて行われた定期演奏会の中から2曲を選んで収録されたアルバムである。演奏されているのは,モーツァルトの作品2曲で,演奏会の雰囲気をそのまま伝えるように,「協奏曲−交響曲」の順に収録されている。録音の方もコンサートホールの空気をよく伝えている。

安永徹のリードするOEKの響きは,極端な古楽器風の演奏ではないが,両曲とも弦楽器のビブラートは控え目で全体にすっきりとした響きを作っている。そのため,ところどころ入るさりげない表現が,演奏全体の中でちょっとしたアクセントとして,効果的に響いている。

最初に収録されているピアノ協奏曲第17番には,安永のリサイタルで毎回パートナーを務めている夫人の市野あゆみがソリストとして加わっている。そのせいもあり,折り目正しさの中に親しみが込められた演奏となっている。

第1楽章は作為的な雰囲気のない軽快な弦楽器の演奏で始まる。ピアノ独奏も同様に押し付けがましいところがなく,とても収まりが良い。ちょっとした音階のようなフレーズもコロコロと気持ちよく転がる。ダイナミクスも表情付けもあっさりとしており,水彩画風の爽やさがある。そういう中で時々出てくる翳りのある表情がとても効果的である。カデンツァはおしゃべりし過ぎない品のよさがある。その後のひっそりとしたムードがさりげない悲しみを表現している。

第2楽章は,より深く,濃い情緒をもった楽章であり演奏である。弦楽器がゆったりとした間を取って始まり,それを管楽器が連綿と受け継いでいく。独奏ピアノも同様に暖かでゆったりとした気分を保ちながら,さらに濃い表情を持って加わる。ここでも時折加わる翳りの表情が印象的である。特に中間部での憂いをたたえたピアノの弱音の表情が素晴らしい。オーケストラと独奏との間の絶妙のバランスが良い。モーツァルトのピアノ協奏曲の中でもこれだけ深さを感じさせる楽章も少ないのではないかと思う。

カデンツァは,歌うよりはモノローグに近い。その後に入るオーケストラの響きが孤独感を慰めてくれるように響く。じっくりきけばきくほど,その気持ちに応えてくれるような演奏である。

第3楽章は快適なテンポで始まる。インティメートでありながら,次第に静かな華やぎが加わっていくような変奏曲となっている。この楽章では,管楽器の活躍も聞きものである。オーボエ,フルート,ファゴットなどがメロディを引き継いでいく辺りは協奏交響曲風である。短調の部分で時々入るアクセントも印象的である。コーダには,「フィガロの結婚」の中の幕切れのアンサンブルを聞くような楽しさがある。管楽器とピアノがコメディの役者のように動き,軽快なクライマックスを作っている。

この協奏曲の演奏は,ピアノ独奏だけが突出しておらず,オーケストラと一体となってバランスの良い音楽を作り出している。全体に漂う品の良さの中に深い情緒を秘めた見事な演奏になっている。

後半に収録されている,「ジュピター」交響曲の方は,演奏会の後半で演奏されたこともあり,より表現意欲が外に強く現れた演奏となっている。

第1楽章は,意欲と立派さの感じられる演奏となっている。力強く始まった後,かなり大きな間を取っているのが印象的である。この楽章は,もともと休符によって部分部分が分かれているような曲だが,そのことを強調した演奏になっている。

弦楽器の音の切り方も非常にキビキビとしている。時々出てくるクレッシェンドも強調されている。こういった表現が鮮やかに響くのは,安永の解釈が弦楽器奏者に十分に浸透しているからだろう。

第2楽章は,落ち着きのあるテンポで演奏されている。こもったような弦楽器の響きと時々出てくる濃い悲しみの表情が素晴らしい。第3楽章はきっちりと格調高く始まるが,中間部になると,独特の表情が出てくる。管楽器が「ターラ」「タタタラ...」という応答をするのだが,この前半部分が「ターーーーラ」という感じでとても長く伸ばされている。その表情はどこかユーモラスである。続いて出てくる短調部分の表情との気分の差の付け方も効果的である。

第4楽章は,弦楽器のノンビブラートの古楽器風のすっきりとした響きを中心として,精密でキリっとしたフィナーレを作り上げている。第1楽章同様,ここでも微妙にクレッシェンドを強調しているところがある。また,楽章が進むにつれて,ティンパニの強打が目だって来て,がっちりとした凝集力のある響きを一層強めている。最後の最後に来て,「ちょっと」盛り上がりを付ける辺りの奥ゆかしい設計も効果的である。

この「ジュピター」はいろいろな部分で「小細工」がされているのが特徴である。そういう面では,やや恣意的な解釈ともいえるが,競合するレコーディングが多い中で,新鮮な魅力を打ち出しているといえる。

■演奏・録音データ
2003年6月27日に行われた第143回定期公演のライブ録音を主テイクとしてスタジオで編集されたもの。

■参考ページ
オーケストラ・アンサンブル金沢第143回定期公演
(2004/05/09)