オーケストラ・アンサンブル金沢1000 第1期
モーツァルト,ブラームス:クラリネット五重奏曲

モーツァルト/クラリネット五重奏曲イ長調K.581
ブラームス/クラリネット五重奏曲ロ短調op.115
●演奏
ヴェンツェル・フックス(クラリネット), ザ・サンライズ・クヮルテット(マイケル・ダウス(第1ヴァイオrん),坂本久仁雄(第2ヴァイオリン),石黒靖典(ヴィオラ),大澤明(チェロ))
●録音/2002年2月25,26日,石川県立音楽堂コンサートホール  \1000(税抜)

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)1000第1期の中で,室内楽作品が唯一収録された録音。ベルリン・フィルの首席クラリネット奏者ヴェンツェル・フックスさんとオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のメンバーによる弦楽四重奏団・ザ・サンライズ・クワルテットが共演し,クラリネット五重奏曲の名曲2曲を演奏している。

ここに収録されたモーツァルトとブラームスのクラリネット五重奏は,両者とも,大変じっくりと落ち着いたテンポで演奏されている。フックスさんのクラリネットのふくよかで暖かい音が見事に収録されている。フックスさんは,ベルリン・フィルの首席奏者であるが,もともとはオーストリアの出身である。これは推測で言っているのだが,どこかウラッハなどのウィーン・フィルの奏者の伝統を感じさせてくれる音色のような気がする。フックスさんの音色は,ひっそりと始まるモーツァルトの第1楽章から,多彩なニュアンスを含んでいる。特に弱音のデリケートさが素晴らしい。非常に滑らかな演奏で,傷がないのも素晴らしい。第2楽章では,さらにこってりとした暖かみのある音を楽しめる。

ザ・サンライズ・クワルテットも第1ヴァイオリンのマイケル・ダウスさんのリードのもとに,フックスさんにぴたりと付けた演奏を聞かせてくれる。特に第3楽章の中間部では豊かな表情を見せる。2回目のトリオで,クラリネットと一体となってじっくりとテンポを落とす辺りの奥ゆかしさも聞きものである。最後の楽章の変奏曲も着実なテンポで進められ,いろいろな曲想をくっきりと聞かせてくれる。

主要なメロディは,フックスさんのクラリネットとダウスさんのヴァイオリンを中心に魅力的に歌われているが,その他の楽器の担当する内声部もじっくりと歌いこまれており,大変味わいが深い。全体として深沈とした夜のムードのある音楽になっていると思う。

ブラームスの方も,同様に暖かなムードのある演奏である。この曲はブラームス晩年の諦観を表現していると言われるが,落ち着いたテンポ,よく練られた音でじっくりと演奏される第1楽章を聞いていると,伸びやかな幸福感を感じる。第2楽章にも穏やかで暖かな表情がある。フックスさんは,ダウスさんのヴァイオリンと共に,大変じっくりと歌っており,陶然とした世界を作っている。途中のモノローグでの連綿と続く雄弁さも印象的である。クライマックスでのクラリネットの高音の美しさも素晴らしい。

第3楽章は緊張感の解けた明るい雰囲気になる。中間部では弦の速い音の動きとクラリネットとの活気のある対話が楽しめる。第4楽章も音は明るいけれども,全体に渋い雰囲気が出ている。微妙な明るさと甘さが大変ブラームスらしい。大澤さんのチェロの語りかけも渋い。暗い情熱を感じさせるヴァイオリンとそれに応えるクラリネットのせつない音のやりとりも聞きごたえがある。思いつめたようなセンチメンタルな音楽が続くが,節度があるのが良い。

ここに収録された両曲とも各作曲家の晩年の作品である。その曲想に相応しく,とてもよく熟成された音楽になっている。フックスさんは,OEKとの共演も多く,金沢の聴衆にもおなじみの奏者だが,協奏曲での共演だけではなく,OEKのメンバーとの室内楽にも期待したいと思わせる1枚である。

■録音データ
2002年2月25,26日に石川県立音楽堂コンサートホールで収録されている。収録時及びCD発売時に,この2曲の組み合わせによる演奏会が金沢で行われているが,この録音はライブではない。これらの演奏会を聞いた印象では,ライブの演奏の表情付けがより大胆だったような気がする。

■参考ページ (2003/12/21)