オーケストラ・アンサンブル金沢1000 第2期
三善晃:三つのイメージ/武満徹:系図−ファミリー・トゥリー
1)三善晃/三つのイメージ −童声・混声合唱とオーケストラのための[詩:谷川 俊太郎](2002年度オーケストラ・アンサンブル金沢委嘱作品)
2) 武満徹(室内オーケストラ編曲:岩城宏之)/系図(ファミリー・トゥリー)−若い人たちのための音楽詩−(1992)[詩:谷川 俊太郎]
●演奏
岩城宏之指揮 オーケストラ・アンサンブル金沢
木村かをり(ピアノ*1),オーケストラ・アンサンブル金沢合唱団(1),オーケストラ・アンサンブル金沢エンジェルコーラス[1] ,吉行和子(語り*2)
●録音/2002年9月8日 [1],2003年9月19日 [2],石川県立音楽堂コンサートホール(ライヴ録音)
●発売/ワーナー・ミュージック・ジャパンWPCS-11722(2004年2月25日発売) \1000(税抜)

オーケストラ・アンサンブル金沢1000第2期の中の1枚。第1期同様,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期演奏会のライブ録音を中心とした最新録音を1枚1000円で発売する内容である。第2期でも岩城宏之音楽監督の指揮の録音を3枚含んでいる。そのうちの2枚が現代日本の作品集となっている。

このCDも現代日本の作品集だが,もう1枚の方が若手の作品を集めたものであるのに対し,三善,武満という大家の作品を組み合わせたものになっているのが特徴である。このCDの収録時間は,合計約36分と新譜としては非常に短いものだが,共に谷川俊太郎の詩に音楽を付けた曲ということで,CD全体をまとまった内容にしている。

三善作品は,「火」「水」「人間」「問い」の4つの部分からなり,切れ目なく演奏される。混声合唱,童声とピアノが入る曲ということでOEK用の曲としてはかなりスケールの大きい作品となっている。それぞれの部分では,「火」「水」「人間」といったキーワードが連呼され,時に語りかけるように歌われるのが印象的である。最初の「火」からドラマティックな展開を見せる。「水」の後には,木村かをりのピアノが入ってきて,気分を転換するように硬質でキラキラとした表情を見せる。

”矛盾に満ちた存在=人間”に対する問い掛け,というメッセージ性のある曲で,言葉を強く押しつけてくるような迫力が聞き所となっている。合唱団の歌も,美しく聞かせるというよりは,言葉をしっかりと伝えることに主眼があるようである。児童合唱の方は,曲名に”童声”と書かれているとおり,子供っぽい声そのものを聞かせることに主眼がある。少々バラツキのある素人っぽい歌声は,作曲者が意識的に使ったと思われる。

もう一つの「系図」は,既に小澤征爾指揮サイトウ・キネン・オーケストラの演奏がCD化されているが,その演奏とあらゆる面で対照的である。小澤版は大規模なオーケストラによる豊かな音響でたっぷりと聞かせてくれるのに対し,岩城版は室内オーケストラ編成で淡々と演奏している。編成が薄くなっているのに応じて,テンポも非常に速く,全体の演奏時間は20分ほどしかない。

この曲の最大の特色である,語りも対照的である。小澤版の遠野凪子の語りは,卒業式の挨拶を聞くような,感動に満ちたものだが,その分ややしつこさを感じ,私には聞いていて恥ずかしくなるようなところがある。岩城版の吉行和子の語りは,「むかしむかし」とちょっとしわがれた声で語り始めると,おばあさんのおとぎ話を聞くような雰囲気になる。はじめはあまりに淡々としていて,棒読みのように聞こえるが,後半の「おとうさん」「おかあさん」辺りになると,にじみ出るようなユーモアを感じさせる。最後の「とおく」は,アコーディオンのノスタルジックな音も交えて,爽やかな懐かしさのようなものを感じさせてくれる。ナレーションはわずかに音が遠く感じられるところがあるが,これはライブ録音のせいかもしれない。

今回の室内オーケストラ編成版では,晩年の武満トーンの特徴である豊饒さが失われている反面,透き通る透明感が感じられる。すでに堂々たる古典となっている小澤版に対して,もう一つ別の選択肢を呈示したのが今回の録音と言える。

■演奏・録音データ
2002年9月8日に行われた第128回定期公演とその約1年後の2003年9月19日に行われた第147回定期公演のライブ録音を主テイクとして,スタジオで編集されたもの。コンサートマスターはCDには明記されていないが,どちらもマイケル・ダウスである。三善作品はこの演奏が世界初演だった。武満の「系図」の編曲版が演奏されたのは2002年11月20日浜離宮朝日ホールで行われたOEKの演奏会に次いで2回目と思われる。

■参考ページ
オーケストラ・アンサンブル金沢第128回定期公演(岩城指揮/02/09/08)
オーケストラ・アンサンブル金沢第147回定期公演(岩城指揮/03/09/19)
(2004/04/18)