オーケストラ・アンサンブル金沢21
リムスキー=コルサコフ/交響組曲「シェエラザード」op.35
リムスキー=コルサコフ/スペイン奇想曲op.34
●演奏
ドミトリー・キタエンコ指揮オーケストラ・アンサンブル金沢
アビゲイル・ヤング(ヴァイオリン)
●録音/2009年1月30日 石川県立音楽堂コンサートホール(ライヴ録音)
●発売/ワーナー・ミュージック・ジャパンWPCS-12293(2009年6月24日発売) \1500(税込)    

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)21シリーズの2009年第3回発売は,2009年1月30日に行われたドミトリー・キタエンコ指揮の定期公演の一部を収録したものである。この録音の注目は,大編成のオーケストラによる「音の絵巻」といった印象のあるリムスキー・コルサコフの管弦楽2曲を室内オーケストラがどう演奏するか,という点にある。

当然のことながら,この演奏では,金管楽器,打楽器及び低弦についてはかなり増強しているが,ヴァイオリンや木管楽器の編成はほぼ通常どおりなので,ジャケットの写真にあるとおり,中規模編成による「シェエラザード」ということになる。これだけの小編成による「シェエラザード」の録音は,かなり珍しい。キタエンコさんの選曲意図もこの辺にあったと思われる。

実際,曲の冒頭から荒々しい雰囲気はなく,じっくりと落ち着いた感じで演奏している様子がCD録音からも伝わる。テンポも落ち着いており,響きの薄さを音の密度の高さで補っているように感じられる。確かにフル編成オーケストラによる演奏に比べるとゴージャスさは減退しており,どちらかというと大人しい演奏ではあるが。反面,浅薄な軽さがない。物理的な重さはないとしても,実感としての重みやスケール感が十分感じられるのがこの演奏の特徴である。この点は,リムスキー・コルサコフの音楽がうまく出来ていることにもよるのだろう。

恐らく,賛否両論のある演奏だろうが,「中規模編成で密度の濃いシェエラザードを」というキタエンコさんの意図は十分達成されていると思う。ダイエットした響きでありながら,ゆったりとしたテンポでじっくり聞かせ,スケール感と曲の流れ・うねりを感じさせてくれるあたり,同曲の数多い録音の中でも一つの個性を打ち出していると言える。

ただし,こうやって聞くと,この曲自体,それほど豪快な響きが多い曲というわけでもないことに気づく。第2楽章,第3楽章などでは,特に違和感を感じない。何よりもしっとりとした響きの美しさや,丁寧にじっくりと歌われたメロディなど,フル編成のオーケストラにはない,味わい深さが随所に感じられる。

その一方,第2楽章最後の引き締まった追い込みであるとか,全曲のクライマックスが来る,第4楽章の難破シーンでの歌舞伎のツケ打ちを思わせる豪快さ(菅原淳さんが担当)など,ダイナミックさにも不足しない。響きがすっきりしている分,各楽器のソリスティックな華やかさが際立っているのも印象的である。

また,全曲を通じて,コンサートミストレスのアビゲイル・ヤングさんの独奏ヴァイオリンの安定度の高さと,音色の美しさも特筆されるべきである。姫のテーマを女性奏者が演奏するのもぴったりだが,これだけ雄弁で見事なソロを聞かされれば,残酷な王も満足するだろう,というという演奏である。OEKファンとしては,ヤングさんのその名前がクレジットされるだけでうれしい。演奏である。

もう1曲収録されているスペイン奇想曲も,同様の演奏で,全体的に大変じっくりと演奏されている。ここでは,ヤングさんのソロに加えて,クラリネットのソロ(遠藤さんが担当)なども大活躍するが,安心して,曲の楽しさ,華やかさに浸ることのできる演奏である。曲の終盤を中心に打楽器群も大活躍するが,浅薄なお祭り騒ぎにならず,腹の底から盛り上がってくる力強さを感じさえてくれる点もキタエンコらしい。

近年は,それほど編成の大きくない山形交響楽団がブルックナーの交響曲のCDを演奏したりして話題を集めているが,今回の室内オーケストラが演奏した「シェエラザード」についても,それと同様の目新しさがある。この流れがどこまで行くのか分からないが,レパートリーの制限があるOEKとしては,注目すべき傾向と言えるだろう。

●録音
2009年1月30日,石川県立音楽堂で行われた定期公演のライブ録音。拍手は収録されていない。発売日は2009年6月24日ということで,定期演奏会後,半年以内でのスピード・リリースとなった。なお,この定期公演の全曲については,NHK-FMでも放送されたことがある。

2009年度のこのシリーズの恒例となっているジャケットの表紙の金沢の名所の写真は,「シェエラザード」と水つながりなのか,雪釣りのされた兼六園の唐崎の松が池に映っている「上下線対象」の写真となっている。
(2009/09/16)