オーケストラ・アンサンブル金沢21
武満徹/地平線のドーリア;メシアン/異国の鳥たち;一柳慧/インタースペース;高橋悠治/鳥も使いか

1)武満徹/地平線のドーリア
2)メシアン/異国の鳥たち
3)一柳慧/インタースペース
4)高橋悠治/鳥も使いか:三絃弾き語りを含む合奏
●演奏
岩城宏之指揮オーケストラ・アンサンブル金沢
木村かをり(ピアノ*2),高田和子(三絃弾き語り*4)
●録音/2006年3月22日*1,2005年11月24日*2, 2005年5月9日*3石川県立音楽堂コンサートホール(ライヴ録音*1-2,セッション録音*3),1994年9月3日シドニーオペラハウス(ライヴ録音)*4
●発売/ワーナー・ミュージック・ジャパンWPCS-12294(2009年7月22日発売) \1500(税込) 


オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)21シリーズの2009年第4回発売は,これまでのこのシリーズとは少し趣きを変え,単一の定期公演で演奏された曲を収録するのではなく,別時期に行われた4公演で演奏された4曲をまとめたものとなっている。指揮が,没後3年となる岩城宏之である点も特徴で,かなり以前のお宝的な録音の発掘を含む「岩城宏之未公開録音集」といった趣きのアルバムとなっている。

収録されている4曲は,武満,メシアン,一柳,高橋という岩城が情熱を傾けてきた現代の作曲家の作品ばかりである。OEKの場合,一つの定期公演の中でバラエティに富んだ曲を取り上げることが多いので,一つの公演をそのままCDとしてリリースするよりは,今回のようなセレクション形式の方が,むしろアルバム全体としてのプログラムの統一感があるのが面白い。

最初の武満徹の地平線のドーリアは,1996年以来の再録音ということになる。前回は,「21世紀へのメッセージ」シリーズの第4巻に収録されたセッション録音だったが,今回の録音は,2006年3月の岩城さんの最晩年の演奏ということで(同じ年の6月に亡くなっている),演奏時間がやや長くなっているが,全体に漂う張り詰めた空気は,さらに強くなっている。録音もより生々しい。特にコントラバスの迫力や,呻き叫ぶような弦楽合奏のフレーズなど,ライブ演奏の面白さを伝えている。1996年録音は,より透明な感じがするので,どちらが良いとは言えないが,最晩年の岩城さんの生演奏の空気を伝えるもので,今回の録音は貴重である。

2曲目のメシアンは,管,打楽器のみによる演奏で,弦楽合奏のみによる演奏だった1曲目と好対照を成している。全体に響きが鮮やかで,木村かをりさんのピアノと一体となって硬質な響きをじっくと聞かせてくれる。前半は,メシアン得意の鳥の鳴き声を模倣したようなキラキラした響きが続く,メロディはほとんどないが,自然を模倣していることもあり,気持ちよく浸ることができる。

後半は,少し行進曲っぽくなったり,トゥランガリラ交響曲を思わせる輝きに満ちた響きが出て来る。木村かをりさんのピアノは,カデンツァ風の部分を中心に,激しさを感じさせるが,熱狂する部分はなく,いつもどおり甘さのない密度の高い音楽を聞かせてくれる。

この曲については,1970年頃,岩城さん+木村さん+東京コンサーツによって記念碑的な録音を残している。その演奏での思いつめたような迫力も素晴らしいが,今回の演奏は,その35年後のライブ録音ということもあり,より生き生きとした,こなれた演奏になっている。

3曲目の一柳慧のインタースペースは,OEKがCD録音するのは今回が初めてだが,設立当初から何回も演奏会で取り上げてきた作品である。もともとは弦楽四重奏曲第2番「インタースペース」の最終楽章だったものを,一柳自身が弦楽オーケストラ用に編曲したもので,岩城指揮札幌交響楽団によって1987年に初演されている。OEKでは,アンコールピースとして演奏されることもあった曲ということもあり,ロマン派音楽の残像のような心地よい甘さを感じさせる曲である。今回の演奏は,初演を行った岩城の指揮ということもあり,古典的な落ち着きを感じさせてくれるような,よくこなれた演奏である。コンサートマスターはマイケル・ダウスだが,その艶やかな音も見事である。

最後の収録されている,高橋悠治の「鳥もつかいか」も再録音である。前回は,「21世紀へのメッセージ」シリーズの第1巻の第1曲目に収録された1993年9月のセッション録音だったが,実は,ここに収録されている演奏は,ほぼ同じ時期(1年後)の演奏である。もともと即興的な部分の多い作品ということもあり,同時期の,セッション録音とライブ録音の雰囲気の比較を楽しむのがこのアルバムに収録した意図の一つといえる(ちなみに,この曲の最後にだけは拍手が収録されている)

シドニーのオペラハウスでの演奏記録である点が,ファンとしては,「お宝」的な価値を感じる。最初,いきなり三味線の音で始まり,しばらくして岩城さんの声も聞こえてくるが,そう思って聞くせいか,オーストラリアの聴衆は,大変エキゾティックな音楽として聞いたのではないだろうか。岩城さんの声については,今回の録音の方が以前の録音よりもはっきり聞こえる。メロディがなく,各楽器が即興的にバラバラと動きまわる部分の多い曲だが,三味線の音が入り,鐘の音などによって,気分が区切られることによって,曲としてもまとまりや構成感を感じさせてくれるところが面白い,

今回のような,未発売曲のコンピレーションは,ファンとしてはとても嬉しい。岩城/OEKについては,まだまだ未発表の音源が残されているはずである。今後もいろいろな切り口から,岩城/OEKの思い出を発掘していって欲しいと思う。

●録音データ
地平線のドーリア
コンサート・ミストレスは,アビゲイル・ヤング。第198回定期公演のライブ録音。同時に演奏された,ブラームスの交響曲第3番は,既にCD化されている。

参考ページ:http://oekfan.web.infoseek.co.jp/review/2006/0322.htm
録音年等 演奏時間
1996年録音 9:09
2006年録音*この録音 9:27
1984年録音(NHK交響楽団) 11:59

異国の鳥たち
第191回定期公演のライブ録音
参考ページ:http://oekfan.web.infoseek.co.jp/review/2005/1124.htm
録音年等 演奏時間
2005年録音*この録音 14:07
1972年録音(東京コンサーツとの録音) 14:21
1972年録音は,フランスのACCディスク大賞を受賞

インタースペース
2005年5月10日に名古屋のしらかわホールで,「オーケストラ・アンサンブル金沢〜弦楽セレナードを聴く〜」という演奏会を行っているが,その中で,この曲も演奏されている。収録日はこの前日なので,ゲネプロを収録したものと思われる。コンサートマスターは,マイケル・ダウス。この曲は,岩城がNHK交響楽団の定期演奏会に最後に登場した,1996年4月でも,NHK交響楽団と演奏されている。

鳥も使いか −三絃弾き語りを含む合奏
1994年9月にオーストラリアに演奏旅行に出かけた際のシドニー・オペラハウスでのライブ録音。CD録音は,その前年に行われており,「21世紀へのメッセージ」シリーズの第1巻として発売されている。
録音年等 演奏時間
1993年録音 16:50
1994年録音 *この録音  18:52
即興性の高い曲のせいか,演奏時間はかなり違っている。
(2010/02/06)