オーケストラ・アンサンブル金沢1000 第1期
権代敦彦;猿谷紀郎;一柳慧
1)権代敦彦/愛の儀式:構造と技法op.70
2)猿谷紀郎/ときじくの香の実
3)一柳慧/音に還る:尺八とオーケストラのための
●演奏
岩城宏之指揮 オーケストラ・アンサンブル金沢
宮田まゆみ(笙*1),林英哲(和太鼓*2),赤尾三千子(能管*2),三橋貴風(尺八*3)
●録音/2002年3月14〜16日,石川県立音楽堂コンサートホール  \1000(税抜)

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)1000第1期の中の1枚。第1期の5枚の中には,もう1枚現代日本の作曲家の作品を集めたCDがあったが,それとはかなり性格の違った作品が集められている。もう1枚には外山雄三の作品を中心にダイレクトに日本らしさを感じさせる作品を2曲含んでいたが,こちらの方は,より「現代音楽」的な斬新な響きを持った作品が集められている。いずれも,2002年3月16日の第117回定期公演にOEKによって初演された邦楽器と室内オーケストラのための協奏的作品である(ちなみに,この演奏会で取り上げられたもう一つの作品が西村朗の「樹海」であり,もう1枚の日本人作曲家集に収録されている。)。

最初の権代敦彦の「愛の儀式」という作品はタイトルからして怪しい。曲の方もかなり怪しい。邦楽器として宮田まゆみの演奏する笙が登場するが,日本的なイメージは全然感じさせない。笙の透明感のある高音とオーケストラの重低音とが交錯し,次第に盛り上がっていくのが気持ち良く,美しい。同音の繰り返しが多いので,一見単純だが,響きは微妙で複雑なムードを持っている。単調さの中にメッセージやドラマを感じさせる,不思議な魅力のある曲である。途中で音が上っていく辺りの響きは,他で味わったことのないような陶酔感を持っている。

猿谷紀郎の「ときじくの香の実」は,タイトルの意味がよくわからないが,和太鼓と能管のための二重協奏曲となっている。音量的にかなり違う楽器なので,実演では和太鼓の迫力に圧倒された記憶がある。録音でも和太鼓の迫力が凄いが,バランスは悪くはない。曲の構成は緩やかな部分から興奮するような急速な部分へと推移していく。前半は少々退屈な感じもするが,林英哲さんの和太鼓が活躍し始めるとぐっと盛り上がる。途中,ジャズバンドのドラムソロのようなかなり長い独奏があるのが聞きものである。その後,林さんの掛け声が入るのも粋で格好良い。所々,赤尾さんの鋭い能管の音が加わることで,その興奮がさらに盛り上がる。正直なところ,曲自体の魅力なのか邦楽器の魅力なのかよく分らないところがあるが,これだけ豊かな和太鼓の音とオーケストラの音を同時に楽しめる録音というのは貴重だと思う。

最後の一柳の「音に還る」は,曲の最初から,渋い尺八の音色が出てくが,尺八協奏曲というのとはちょっと違う。途中,OEKの石黒さんによるヴィオラの長い独奏があり,素晴らしい音色を楽しませてくれる。その他のオーケストラの楽器もソリスティックに活躍する部分が多い。その間,尺八はしばらくお休みになる。それほど,尺八が目立ち過ぎず,オーケストラとうまく溶け合っているので,このCDに収録された3曲の中では,いちばん落ち着いた感じに響く。ただし,実演で聞いた時ほどの鮮明な印象はCDからは感じなかった。やはり,ライブの方がすべての点で生きた音楽が感じられると思った。

■録音データ
すべて2002年3月16日の定期公演で演奏された曲である。録音データを見ると複数の日付が書いてあるので,ゲネプロでの演奏も使用していると思われるが,会場のノイズや盛大な拍手も入っているので,大部分は定期公演での音を使っているのかもしれない。コンサート・ミストレスはアビゲール・ヤングだった。

■参考ページ
オーケストラ・アンサンブル金沢第117回定期公演PH(岩城指揮/林英哲他/03/16)
(2003/03/24)