オーケストラ・アンサンブル金沢21
ウェーバー作品集 魔弾の射手ミサ 他

1)ウェーバー/歌劇「魔弾の射手」序曲 作品77 J.277
2)ウェーバー/クラリネット協奏曲第1番ヘ短調作品73 J.114
3)ベールマン/クラリネットと弦楽のためのアダージョ
4)ウェーバー/聖なるミサ第1番 変ホ長調 作品75a J.224 (魔弾の射手ミサ)
●演奏
アヴィップ・プリアトナ指揮オーケストラ・アンサンブル金沢
遠藤文江(クラリネット*2,3),ラトナ・クスマニングルム(ソプラノ*4),フィトリ・ムリアティ(メゾ・ソプラノ*4),プルナマ(テノール*4),ライニール・レウィレイノ(バス*4)
バターヴィア・マドリガル・シンガーズ(合唱*4)
●録音/2007年6月22日 石川県立音楽堂コンサートホール(ライヴ録音)
●発売/ワーナー・ミュージック・ジャパンWPCS-12049(2007年9月26日発売) \1500(税込) 

ワーナーミュージック・ジャパン/オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)提携シリーズ5(2007年版)の第5回発売は,2007年6月22日に行われた定期公演で演奏された曲をほとんどそのまま収録したアルバムである(定期公演では,「舞踏への勧誘」も演奏された)。発売日が2007年9月26日なので,わずか3ヶ月後というスピード発売ということになる。

収録曲は,ウェーバーの序曲,協奏曲,ミサ曲にウェーバーの同時代人であるベールマンの小品を加えたものである。新譜CDの収録曲として,これだけいろいろなジャンルの作品を盛り込んでいるのも珍しいが,特定作曲家に焦点を当てたコンピレーション・アルバム的な構成は新鮮である。収録曲中では,最後に収録されている「魔弾の射手ミサ」は録音数が非常に少ないので,このCDのいちばんのセールス・ポイントとなるだろう。

指揮は,当初岩城宏之の予定だったが,死去によりインドネシアのアヴィップ・プリアトナに変更になったものである。プリアトナは,今回,ミサ曲の合唱団として参加しているバターヴィア・マドリガル・シンガーズの指揮者で,専門は合唱指揮なのだが,それがそのままオーケストラ全体及び定期公演全体の指揮も担当した形になる。

そのせいもあるのか,オーケストラだけによる「魔弾の射手」序曲などは,かなり腰が重く,遠慮がちに聞こえる(実演の時はそれほど感じなかったが)。これは,2曲目のクラリネット協奏曲第1番の伴奏についても言えるが,手兵のバターヴィア・マドリガル・シンガーズの加わるミサ曲では違った気分になる。

この曲は40分近くかかるが,この合唱団の持つ控えめで暖かい表情が曲全体に染み渡り,とても耳に馴染みやすい。ミサ曲といっても,厳格な感じはなく,素朴な親しみやすさにあふれた曲で,もう少し頻繁に演奏されても良い曲だと思う。メンデルスゾーン,シューベルトなどに比べると,同じドイツ・オーストリア系の初期ロマン派の作曲家でもウェーバーの曲が演奏される機会は少ないが,こういった手作り風の喜ばしさに満ちた演奏で聞くと,その良さがストレートに伝わってくる。

この曲では,合唱以外にもソリストが4名登場するが,いずれも合唱団員である。いちばん出番の多いソプラノを中心に発声法には独特のヴィブラートがあり,ちょっと古臭い感じがしないでもないが,逆にそれが魅力を生んでもいる。合唱の響きともマッチしており,攻撃的なところのない平和な気分を作り出している。合唱なしの曲の場合,少し物足りないと感じた穏やかさも,合唱とオーケストラが一体となると,包み込むような穏やかさとなり,宗教曲に相応しい慎み深い真摯さも感じさせてくれた。実演の時も感じたのだが,指揮者のプリアトナさんの穏やかな微笑みがそのまま反映したような演奏だった。

このアルバムで,もう一つ特筆すべきは,クラリネット協奏曲とベールマンの曲でソリストとして登場した遠藤文江の演奏である。遠藤は,定期会員にはすっかりお馴染みのOEK団員だが,今回のような立派な演奏を聞くと,身内の一人が晴れ舞台に上がっているような嬉しさを感じる。上述のとおり全体的にテンポが少し落ち着きすぎている気もするが,その分,両端楽章では,愉悦感がしっかりと再現されており,じわじわと暖かさが広がる。遠藤は,OEKの一員として演奏する時も,随所でたっぷりとメロディを聞かせてくれていたので,元々ソリスト的な華やかさを持った方だと感じていたが,今回の演奏は,そのことを証明していたと思う。高音から低音までムラのない,しっとりとした充実感のある美音を堪能できる。このことは,デリケートな森の雰囲気を感じさせるOEKの伴奏が印象的な第2楽章で特に強く感じることができる。

もう1曲,ベールマンのアダージョという一種の秘曲が収録されているのも注目である。これは当日アンコールで演奏されたものだが,クラリネット協奏曲の初演者のベールマン自身の作品という考えられた選曲となっている。ウェーバーの協奏曲の第2楽章の気分を受けるのにぴったりの歌に満ちた曲であり,演奏である。

このアルバムは,ウェーバーという有名だけれどもこれまで注目されて来なかった作曲家に焦点を当てた点,インドネシアの合唱団と共演を行った点,OEK団員のソロによる協奏曲演奏を含めた点でオリジナリティに満ちたものになった。大変企画力の優れたCDだと思う。OEKファンとしては,同様の企画を他の作曲家でも期待したい。

●録音
2007年6月22日石川県立音楽堂コンサートホールでのライヴ録音。ただし,拍手はすべてカットされている。当日のコンサート・ミストレスは,アビゲイル・ヤングだった。収録時間は77分ほどで,質量ともに充実といった感じになっている。

参考ページ:第223回定期公演(2007/06/22)

(2007/10/21)