オーケストラ・アンサンブル金沢21
エイト・シーズンズ ヴィヴァルディ:四季/ピアソラ:ブエノスアイレスの四季 
ヴィヴァルディ/ヴァイオリン協奏曲ホ長調,op.81-1「春」
ピアソラ/ブエノスアイレスの夏
ヴィヴァルディ/ヴァイオリン協奏曲ト短調,op.81-2「夏」
ピアソラ/ブエノスアイレスの秋
ヴィヴァルディ/ヴァイオリン協奏曲ヘ長調,op.81-3「秋」
ピアソラ/ブエノスアイレスの冬
ヴィヴァルディ/ヴァイオリン協奏曲ヘ短調,op.81-4「冬」
ピアソラ/ブエノスアイレスの春
ピアソラ/リベルタンゴ
ピアソラ/オブリビオン
ピアソラ/現実との3分間
●演奏
マイケル・ダウス(リーダー,ヴァイオリン)
オーケストラ・アンサンブル金沢
●録音/2007年2月9日 石川県立音楽堂コンサートホール(ライヴ録音)
●発売/ワーナー・ミュージック・ジャパンWPCS-12034(2007年7月23日発売) \1500(税込) 
録音: 石川県立音楽堂コンサートホール(ライヴ録音) 

ワーナーミュージック・ジャパン/オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)提携シリーズ5(2007年版)の第4回発売は,つい最近の2007年2月に行われた定期公演で演奏された曲をほとんどそのまま収録したアルバムである。この演奏会は,おなじみマイケル・ダウスによる弾き振りだったが前半後半ともに弦楽合奏のみによる演奏となっていた。これまで,チャイコフスキーの弦楽セレナードなど,”管・打抜き”のCD録音はあったが,全編指揮者なしで弦楽器のみというのは今回が初めてのケースかもしれない。

演奏されている曲は,ヴィヴァルディの「四季」とデシャトニコフ編曲によるピアソラの「ブエノスアイレスの四季」が中心である。この「2つの四季」を交互に演奏し「エイト・シーズン」とした点がこのアルバムのいちばんの特徴である。この発想は,ギドン・クレーメルとクレメラータ・バルティカによるものだが,これを繰り返し演奏することによって,新たな弦楽合奏曲のレパートリーとして定着させようという狙いなのかもしれない。

演奏順は以下のとおりである。

春V→夏P→夏V→秋P→秋V→冬P→冬V→春P (V:ヴィヴァルディ,P:ピアソラ)

ヴィヴァルディの方は,通常の曲順,その間にピアソラの「ブエノスアイレスの四季」を夏から順に挟みこむ形になる(ちなみに,このピアソラの曲順は,作曲順と一致する)。言ってみれば,北半球の「四季」を演奏している途中に,南半球の「四季」をアルゼンチンから時々”中継”するような趣きとなる。演奏時間的には,ヴィヴァルディの「四季」の各曲を4楽章にしたぐらいの長さとなる。

というわけで,この演奏は,OEKがクレーメルによる「画期的な演奏」に挑んだ形になるが,一発勝負的なライブ録音であるという点でクレーメル盤に対抗するような魅力と迫力を生んでいると思う(クレーメル盤は未聴なので憶測なのだが)。

まず,曲は,ヴィヴァルディの「四季」から始まる。何の過不足もなく,まるでこれからの展開を悟られまいとするような感じで円満な音楽が始まる。たっぷりしているけれども音がスリムなのは,室内オーケストラならではんである。ダウスのヴァイオリンは,しなやかさ,切れの良さ,力感をバランス良く表現しており,このまま普通に「四季」を演奏していても堂々たる演奏になっていたと思う。

その「春」が終わった瞬間,突如不穏なムードになり,ピアソラの「夏」になる。音程がキューンとズリ下がるようなピアソラ独特のフレーズをはじめ,これまでの調和の取れたクラシック音楽の世界から,別世界に一気に連れて行かれる。それでも弦楽合奏というベースが共通しているので,不思議と違和感はない。

しかし,終結部では再度驚かされれる。ピアソラの「夏」の中にヴィヴァルディの「冬」のフレーズが挿入されるのだが(ブエノスアイレスの夏は,イタリアでは冬ということ?),これが暴力的と言ってよいほどの不協和音になる。この豹変ぶりには冗談音楽的ユーモアさえ感じてしまう。

続くヴィヴァルディの「夏」は対照的にひっそりと始まるのだが,このピアソラ版の「夏」に呼応するかのような激しさを見せる。ヴィヴァルディとピアソラが競っているような面白さがある。そして何よりもライブ的な熱気が素晴らしい。

「秋」以降も同様のペースでぐいぐいと進んでいく。「冬」の2楽章などはかなり速いテンポで演奏される。この中で印象的なのは,「ブエノスアイレスの冬」である。この曲の最後の部分はオリジナル版でもパッヘルベルのカノンを思わせるコード進行の上にバロック音楽風のフレーズが出てくるのだが,こうやって続けて演奏すると,「どちらの「四季」?」というような不思議な味わいをかもし出す。

全曲は,「ブエノスアイレスの春」で締められる。その最後で,チェンバロがヴィヴァルディの「四季」の「春」の断片をポロっと演奏するが,「四季」の輪廻が永遠に続くようで,洒落ている。

その後,アンコール・ピースのようにピアソラの小品を弦楽合奏用に編曲したものが3曲収録されている(編曲者は不明)。リベルタンゴでは,チェロのルドヴィート・カンタによる,ヨーヨー・マに劣らないような流麗で熱いカンタービレを聞くことができる。

●録音
2007年2月9日に行われた第216回定期公演のライブ録音。拍手はカットされているが,演奏にはライブ的な迫力が溢れているので,ほとんどそのまま収録したものと思われる。ヴィヴァルディの「四季」のチェンバロは,秋山裕子という客演奏者が担当している。

OEKによる「四季」には,ルドルフ・ヴェルテン指揮,サイモン・ブレンディスの独奏ヴァイオリンによる”古楽奏法”を意識したCD録音(2003年)があるが,それと演奏時間を比べると次のようになる。以下の表の赤字が演奏時間の長い方である。ほぼ同様の速さだが,心持ちダウス版の方が速いかもしれない。
ダウス
(2007)
ヴェルテン
(2003)
第1楽章 3:23 3:17
第2楽章 2:49 2:26
第3楽章 4:16 4:20
第1楽章 5:12 5:10
第2楽章 2:08 2:21
第3楽章 2:44 2:36
第1楽章 4:52 5:17
第2楽章 2:10 2:44
第3楽章 3:17 3:25
第1楽章 3:22 3:14
第2楽章 1:59 2:06
第3楽章 3:10 3:06
(2007/08/16)