オーケストラ・アンサンブル金沢1000 第2期
シューベルト:交響曲第8番/ブラームス:交響曲第4番

1)シューベルト/交響曲第8番ロ短調D.759「未完成」
2)ブラームス/交響曲第4番ホ短調作品98
●演奏
岩城宏之指揮 オーケストラ・アンサンブル金沢
●録音/2003年4月24日[1]、2003年3月8日[2] 石川県立音楽堂コンサートホール(ライヴ録音)
●発売/ワーナー・ミュージック・ジャパンWPCS-11724(2004年2月25日発売) \1000(税抜)

オーケストラ・アンサンブル金沢1000第2期の中の1枚。これまでオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)は古典派の交響曲を中心としてレコーディングを行って来たので,シューベルトとブラームスの交響曲を録音するのは今回が始めてとなる。特に通常大編成で演奏されるブラームスは,室内オーケストラが演奏すること自体かなり珍しい。

シューベルトの未完成交響曲は大変有名な曲だが,トロンボーンが入るためOEKが演奏する機会は比較的少ない。岩城指揮の演奏は,適度にロマンティックな味を残しながらも,甘くなることはなく引き締まった響きを聞かせてくれる。冒頭からテンポは中庸で,さり気ないぐらいに抑えた雰囲気で始まる。チェロによる第2主題はさらに抑制される。この部分の控え目で禁欲的な美しさが素晴らしい。いろいろな解釈のある1楽章最後の音は力強く終わっている。呈示部の繰り返しは行われている。

第2楽章は速目のテンポで演奏されているが,慌てたところはなく,じっくりとした落ち着きが感じられる。この特徴は岩城の最近の他の演奏にも言える点である。クラリネットからオーボエへと続く第2主題は抑制が効いており,第1楽章第2主題に通じるようなはかなさがある。大きな表情づけはしていないが,弦楽器も管楽器ともに大変瑞々しく演奏されているため,自然な悲しみが浮き出てくる。

ブラームスの方もシューベルト同様,感傷的なところのない演奏である。実演を聴いた時にも感じたのだが,室内オーケストラ編成にも関わらず低弦やティンパニを中心に充実した響きを出しているのが特徴である。この時のオーケストラの編成は,第1,第2ヴァイオリンが対向配置で,コントラバス4人(いつもよりも増強されています)はティンパニの直前の高い場所に配置していたが,この楽器の並び方が充実した響きに関係していたのかもしれない。

第1楽章は引き締まったシリアスな表情で始まる。感傷的なところはなく,芯の強さを感じさせてくれる。この日のティンパニはトーマス・オケーリーだったが,全楽章を通じて,充実した響きを聞かせてくれている。第1楽章最後の盛り上がりでのティンパニの音は大変聞き映えがする。

第2楽章はホルン,クラリネット,チェロなど,どの楽器も深々とした呼吸を持っている。その一方,この楽章でも後半になるとティンパニの連打を中心に力強さが出てくる。それに続く,チェロのしみじみとした味との対比も素晴らしい。

第3楽章は,キビキビとした運動性を感じさせながらも足取りが確実ではしゃぎ過ぎるところがない。深く抑制されたホルンの音を中心とした中間部の寂寥感も印象的である。楽章後半ではリズムのノリがさらに良くなっているように感じられる。これはライブ録音ならではの楽しさだろう。

第4楽章もまた着実な足取りで進む。各変奏とも丁寧に演奏されており,楽章が進むにつれて聞き応えのある緊張感とエネルギーが蓄積されてくる。ソロを取る楽器の中では,何かを語りかけるような力を持ったフルートのソロの印象的である。楽章の最後ではこの蓄積されたエネルギーが一気に開放され,キリっと結ばれる。その力強さはフル編成のオーケストラに負けないものがある。

このCDに収録された2曲については,岩城は特に変わった解釈は行っていないが,OEKのよくコントロールされた瑞々しい響きに,しみじみとした風格が加わり,全曲聞き終わった時に大きなものが体の中に残るような演奏となっている。特にOEKのブラームスには今後に注目したい。2004〜2005年の定期公演では,岩城指揮で第1,2番も取り上げられる予定なので,室内オーケストラによるブラームス交響曲全集への期待が高まってくる。

■演奏・録音データ
2003年4月24日に行われた第140回定期公演,2003年3月8日に行われた第137回定期公演のライブ録音を主テイクとしてスタジオで編集されたもの(よく聞くと会場のノイズも聞こえる)。4月24日の演奏会では,このシリーズに収録されている山口恭子と一ノ瀬トニカの作品が演奏された。コンサートマスターはCDには明記されていないが,シューベルトの方がサイモン・ブレンディス,ブラームスの方がアビゲイル・ヤングである。

■演奏時間の比較
岩城は,「未完成」を2回レコーディングしている。その演奏時間を比較してみた。
  第1楽章 第2楽章
岩城/NHK響(1966年) 12:00 13:20
岩城/OEK(2002年) 13:50 10:35
C.クライバー/VPO(1978年) 13:49 10:32

演奏時間がかなり速くなっていることが分かる。第1楽章第2主題の歌わせ方など全く別人のように違っている。ちなみに新録音の方は,カルロス・クライバー指揮ウィーン・フィルの演奏時間とほぼ同じである。

■参考ページ
オーケストラ・アンサンブル金沢第140回定期公演(2003/04/24)
オーケストラ・アンサンブル金沢第137回定期公演(2003/03/08)
(2004/05/27)