オーケストラ・アンサンブル金沢21
ブラームス:交響曲第3番/間宮芳生:オーケストラのためのタブロー2005他
1)ブラームス:交響曲第3番ヘ長調op.90
2)ブラームス:ワルツop.39-15
3)間宮芳生:オーケストラのためのタブロー2005(2005年度オーケストラ・アンサンブル金沢委嘱作品・世界初演)
4)間宮芳生:コントルタンツNr.1(2005年度オーケストラ・アンサンブル金沢委嘱作品・世界初演)
●演奏
岩城宏之指揮オーケストラ・アンサンブル金沢
●録音/2005年11月24日,2006年3月22日 石川県立音楽堂コンサートホール(ライヴ録音)
●発売/ワーナー・ミュージック・ジャパンWPCS-11925(2006年8月23日発売) \1500(税込)

「オーケストラ・アンサンブル(OEK)金沢21」,2006年度第5回目の新譜は,2006年6月13日に亡くなられた岩城宏之音楽監督の追悼録音となってしまった。収録曲の中心は,岩城さんが晩年,OEKの定期公演で順に取り上げてきたブラームスの交響曲全集の完結編となる第3番である。亡くなる2ヶ月半ほど前の録音であるこのブラームスは,岩城さんの遺言となった演奏である。73歳の生涯というのは,現代日本の平均からみれば決して長くはない。しかし,病気との闘いの連続だったにも関わらず,死の直前までオーケストラを指揮することができ,ブラームスの交響曲全集を無事完結できたことを考えると「やることはやった。思い残すところはない」と言っても良いのではないだろうか。このブラームスは,そういう満足感に満ちた演奏となっている。

冒頭からテンポは遅めでたっぷりとしたまろやかな感じの響きを聞かせてくれる。この録音では,通常のOEKの編成にトロンボーンと低弦を補強した編成で演奏しているのだが,室内オーケストラによる演奏だと思えないような堂々とした貫禄のある演奏となっている。弦楽器の音の芯のしっかりとした響きに室内オーケストラらしさが出ているが,それ以外は,通常のオーケストラ編成との差は感じられない。そういう意味で,「室内楽オーケストラ=軽い」という演奏を期待して聞いた人には,意外な感じが残ったかもしれない。

いずれにしても,このブラームスは,岩城さんの残した最後のメッセージとして聞くと感慨が増す。すべての楽章を通じて,神経質な表情は皆無で,音楽がただただ自然に流れて行く。元々,この交響曲自体には,大河の流れを思わせるような大きなうねりがあるのだが,その流れに岩城さん自身が浸っているようである。その一方,流れに逆らって,力強く立ち上がる部分もある。その姿に,岩城さんの闘いの人生を重ね合わせてしまう。第4楽章の最後の部分では,闘いが終わった後の,平和な空気が残る。この部分の真実味は,この演奏のもっとも感動的な部分だろう。

この曲の後,当日,アンコールとして演奏されたワルツが収録されている。このアンコール曲は,岩城さんが晩年大変好んでいたものである。実演でも何回か聞いたことがある。一仕事を終えた後の,岩城さんの穏やかな顔の表情が浮かぶような滋味あふれる演奏となっている。

この録音は,さらにこの後に間宮芳生作曲による新曲が2曲収録されている。現代日本の作品と古典的な作品との組み合わせというのは,岩城さんのプログラミングの基本だったので,この録音自体,そのコンセプトをそのまま反映した形となっている。岩城さんは,「あれもこれもやりたい」という大変欲張りな方だったと思う。実際の演奏会の時は,この「異種混合」プログラムは,聴衆の好奇心と耳を刺激するのに効果的だったが,追悼録音となると,私自身は保守的に考えてしまう。

間宮さんの作品は,大変エネルギッシュな響きで始まるのだが,ブラームスのワルツの脱力した感覚の後で聞くとかなり違和感を感じる。妙に生々しい。追悼盤としては,少々取り合わせが悪い。間宮さんには申し訳ないが,いつもブラームスを聞いた後,CDプレーヤーを止めてしまう。

この録音については,少々収録時間は短くても,ブラームスの第3番とワルツだけというCDにした方が良かったような気がする。それだけこのブラームスの演奏は追悼盤に相応しい内容だった。間宮さんの作品は,どちらもブラームスとは別の日に演奏されたものだったので,その点でも別収録とした方が良かったのではないだろうか?

それかまたは,.間宮さんの作品は,このアルバムの1曲目として収録されていれば良かったのかもしれない。外山雄三さんの「ラプソディ」を思わせるような鳴子を叩くような音で曲が始まった後,バルトークの音楽に通じる民族的な躍動感と同時にほの暗さを漂わせた音楽が続く。途中,かなり長いオーボエのカデンツァが入る。間宮さん自身による解説には「びっしりと沢山の音が書き込まれたスコアとなった」と書かれているが,そのとおり11分ほどの曲にしては,大変聞き応えのある音楽となっている。

最後の「白峯かんこ」は,当日,アンコールとして演奏された曲である。こちらの方も土俗的な野性味をもった作品である。ブラームスとは全く違った個性をもった2曲は,非常に存在感のある作品なので,ブラームスを聞いて岩城さんの追悼に浸ったの後で聞くには,やはり合わない気がする。

■演奏・録音データ
2006年3月22日及び2005年11月24日に石川県立音楽堂コンサートホールで行われたOEKの定期公演のライブ録音である。ブラームスの2曲及び最後の「白峯かんこ」の後には,拍手もそのまま収録されている。コンサート・ミストレスは,どちらもアビゲイル・ヤングだった。岩城がOEKの定期公演に最後に登場したのは,2006年4月28日の定期公演だったので,今回のブラームス3番が演奏されたのは,その約1ヶ月前の録音ということになる。オーケストラの配置は,他のブラームスの交響曲の場合同様,コントラバスを正面奥に4本並べる変則的なものだった。

間宮芳生の作品の方は通常の配置だった。この曲の中間部には,オーボエによる長いソロが入るが,このオーボエは水谷さんが担当していた。

■演奏時間の比較
ブラームスの交響曲第3番について他のCDと時間を比較してみた。聞いた実感としては遅いと思ったのだが,演奏時間的には他の巨匠たちに比べるとそれほど遅くないことが分かる。特に第2楽章が速い。実際のテンポは速いのに,性急な感じがないのは,晩年の岩城さんの指揮の特徴でもある。ショルティ盤は第1楽章の繰り返しを行っているため,特に演奏時間が長くなっている。
ブラームス  第1楽章 第2楽章 第3楽章 第4楽章 合計
今回の録音 10:24 7:56 6:43 8:38 34:08
セル/クリーヴランドO(1964) 10:17 8:55 6:25 8:52 34:29
ベーム/VPO(1975) 11:04 10:30 6:41 8:45 37:00
シュタイン/バンベルクSO(1997) 11:02 9:21 6:46 10:05 37:14
ショルティ/CSO(1979) 13:49 9:41 6:25 8:50 39:45

■参考ページ
オーケストラ・アンサンブル金沢第198回定期公演(2006/03/22)
オーケストラ・アンサンブル金沢第191回定期公演(2005/11/24)
(2006/09/18)