オーケストラ・アンサンブル金沢21
ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番/ブラームス:交響曲第1番
1)ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番ト短調op.26
2)ブラームス:交響曲第1番ハ短調op.68
●演奏
岩城宏之指揮オーケストラ・アンサンブル金沢
アン・アキコ=マイヤース(ヴァイオリン*1)
●録音/2005年3月19日 石川県立音楽堂コンサートホール(ライヴ録音)
●発売/ワーナー・ミュージック・ジャパンWPCS-11921(2006年4月26日発売) \1500(税込)

「オーケストラ・アンサンブル(OEK)金沢21」の2006年度第1弾は,岩城宏之OEK音楽監督指揮によるブラームス交響曲第1番を中心とした定期公演のライブ録音である。フィルアップとして,ブラームスと同日に演奏された,アン・アキコ=マイヤースのソロによるブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番が収録されている。CDの収録順も演奏会の時同様にブルッフ,ブラームスとなっている。

最初のブルッフを実演で聞いた時はアン・アキコ=マイヤースの堂々とした弾きっぷりと音の持つボリューム感に圧倒された記憶がある。このCDには,ライブそのままの表情豊かな歌いっぷりがしっかりと収録されている。第1楽章冒頭から繊細かつ濃厚なヴァイオリンの歌を堪能できる。秘めようとしても溢れ出てきてしまうような情感の高ぶりは大変聞き応えがある。音楽が盛り上がる部分での情熱的なヴィブラートが特に印象的である。OEKも彼女のヴァイオリンに呼応するような熱気に満ちた音を聞かせてくれる。

ただし,第3楽章は少々力が入りすぎていて,ヴァイオリンの美感が損なわれているようなところがある。実演を聞いた時は,その気迫に圧倒されっぱなしだったが,CDとして聞いてみるとかなり疲れる。この楽章については評価が分かれるのではないだろうか。

交響曲第1番の方は,それに比べると常にバランスの良さを感じさせる音楽となっている。特に変わったことはせず,自然にしみ出す”味”を聞かせるあっさりとした演奏となっている。第1楽章冒頭のティンパニの連打の部分も充実感はあるものの,重くもたれることはない。第1楽章全体としても古典派の交響曲を聞くような,かっちりとした小気味よさのある演奏となっている。室内オーケストラによるブラームスらしさに相応しい表現と言えるかもしれない。

第2楽章,第3楽章はもともと内向的で室内楽的な雰囲気のある音楽なので,OEKの特質にぴったりと合っている。オーボエ,ヴァイオリン,ホルン,クラリネットなどの独奏もしっとりと落ち着いた演奏を聞かせてくれる。

第4楽章も基本的にすっきりとした表現を聞かせてくれる。楽章前半のアルペン・ホルン風の部分,その後のトロンボーンの重奏,弦楽器による第1主題,後半に出てくるコラール風の部分など,普通はタメを作りたくなるような部分も立ち止まることなくすっきりと演奏される。第1楽章同様,古典派の交響曲を聞くようなまとまりの良さがある。このように,全体としてさらりとした感触があるのだが,音楽が抵抗感なく流れ去っていくのではなく,常に落ち着きが漂うのは近年の岩城さんらしさである。

実演で聞いたときは,熱演が大変印象的だったティンパニもCDとして聞くと,バランス良く聞こえる。曲全体としては,大変オーソドックスでこれ見よがしの効果を狙ったところが全くない演奏となっている。その「何もしていないところ」が新鮮に聞こえる演奏である。


■演奏・録音データ
両曲とも2005年3月19日に石川県立音楽堂コンサートホールで行われたOEKの定期公演のライブ録音である。コンサート・ミストレスはアビゲイル・ヤングだった。ブラームスは,ヴァイオリン以外にも管楽器の独奏が目立つ曲である。この時は次の方々がトップ奏者だった。オーボエ:水谷元,ホルン:金星眞,フルート:岡本えり子,クラリネット:遠藤文江

オーケストラの配置は,他のブラームスの交響曲の場合同様,コントラバスを正面奥に4本並べる変則的なものだった。ちなみにブルッフの演奏の時は通常の配置だった。

■演奏時間の比較
それぞれの曲について他のCDと時間を比較してみた。
ブラームス  第1楽章 第2楽章 第3楽章 第4楽章 合計
今回の録音 12:03 8:15 4:13 15:58 40:29
マッケラス/スコットランド室内O(1997) 15:29 8:51 4:16 16:31 45:07
ワルター/VPO(1937) 13:20 9:00 4:33 15:13 42:06
ベーム/BPO(1959) 12:39 9:32 4:32 16:38 43:21
ショルティ/CSO(1979) 16:45 9:48 4:40 17:19 48:31

40分ちょっとの今回の録音は過去のいくつかの録音の中でも特にテンポが速いものである。もっと速い演奏がないかいろいろ調べてみたのだが,戦前のワルター/ウィーン・フィルの演奏よりもさらに速かった。同じく室内オーケストラを指揮したマッケラス盤とは似た傾向ではあるが,さらに速い。ちなみに,マッケラス盤,ショルティ盤は第1楽章の繰り返しを行っていると思われる。

ブルッフ  第1楽章 第2楽章 第3楽章 合計
今回の録音 8:09 8:39 7:03 23:51
アン=アキコ・マイヤース(1996) 8:23 8:26 6:48 23:37
諏訪内晶子(1996) 8:34 8:29 7:12 24:15

ブルッフの方はアン=アキコ・マイヤースにとっては再録音となる。前回(1996年録音。キャニオン・クラシックス)は,クリストファー・シーマン指揮ロイヤル・フィルと共演している。演奏時間的にはやや遅くなっているが,ほぼ平均的なテンポと言える。

■参考ページ
オーケストラ・アンサンブル金沢第178回定期公演(2005/03/19)
(2006/05/31)