オーケストラ・アンサンブル金沢21
ミヨー:打楽器と小管弦楽のための協奏曲,プーランク:子象ババールのお話他

1)ミヨー/打楽器と小管弦楽のための協奏曲op.109
2)プーランク(フランセ編曲)/音楽物語「子象ババールのお話」
3)ジョリヴェ/打楽器と管楽器のための協奏曲
●演奏
ジャン=ルイ・フォレスティエ指揮 オーケストラ・アンサンブル金沢
トーマス・オケーリー(打楽器*1,3),黛まどか(語り*2)
●録音/2004年5月24日 石川県立音楽堂コンサートホール(ライヴ録音)
●発売/ワーナー・ミュージック・ジャパンWPCS-11862(2005年5月25日発売) \1500(税込)


「オーケストラ・アンサンブル(OEK)金沢21」の第2弾には,2004年5月24日に行われた第160回定期公演で演奏された3曲が収録されている。指揮はOEKをたびたび指揮しているジャン=ルイ・フォレスティエである。この定期公演はフランス音楽特集だったが,ドビュッシー,ラヴェルといったメジャーな作曲家の作品が含まれていなかったのが特徴だった。もちろん,ミヨー,プーランク,ジョリヴェといった作曲家も有名な作曲家ではあるが,CDの発売点数や演奏会で取り上げられる機会を見る限りでは,やはりマイナーな存在である。今回のCDのメイン・プログラムである「子象ババールのお話」は,比較的よく知られているが,日本語の語り入りのCDは,「ピーターと狼」などと比べるとまだまだ少ない。このCDの主眼は,「レパートリーのすきま」を埋め,知られざるフランス音楽を紹介するという点にあったのではないかと思う。

今回のCD中最も演奏時間の長い「子象ババールのお話」は,ジャン・フランセによるオーケストラ編曲版で演奏されている。こういったナレーション入りの曲の場合,演奏自体よりも,ナレーターの作る雰囲気の占めるウェイトが大きくなってしまう。

今回のナレーションは,俳人の黛まどかが担当している。ゆったりとした上品な語り口でまとめられており,非常に正統的な雰囲気を作っている。実演の際も全く読み間違いはなかった記憶があるので,正真正銘のライブの語りを収録しているのではないかと思う。録音も広い空間の中に声が響いているような雰囲気がある。音はやや遠いが,オーケストラの音とのバランスは悪くない。

ただし,このナレーションは,あまりにも癖がないので,少々物足りなさを感じる。若奥さんが子供に読み聞かせているような気分があるが,CD録音として楽しむには,もう少し演劇的な朗読の方が面白いと思う。

演奏の方は,黛のナレーションに合わせるように落ち着いたペースで進む。室内オーケストラならではのさっぱりとした空気が演奏全体を包んでいる。エピローグをはじめとして,所々出てくる夜のひんやりとした空気を感じさせる静けさの表現が特に美しい(時折出てくるスマートな美しさを持ったヴァイオリン・ソロはこの日のコンサート・マスターのサイモン・ブレンディスによるものである)。その一方,管楽器の音の動きも大変鮮やかで好対照を作っている。落ち着きの中に時折,洒落た感覚が溢れ出てくる演奏は,プーランクの世界にぴったりである。

その他の2曲にはどちらも,トーマス・オケーリーのパーカッション独奏が加わっている。オケーリーは,OEKのティンパニ奏者として活躍しており,金沢ではすっかりお馴染みの奏者である。ソリストとしても活躍しており,CD録音も残しているが,OEKとの協奏曲録音は今回が初めてである。

今回,収録されている2曲中では,ジョリヴェの曲が特に聞き応えがある。この曲は近年,音大生の登場する少女マンガとして人気を集めている「のだめカンタービレ」第6巻で登場する「秘曲」として,意外なところで注目を集めている。レコーディングの少ない曲なので,非常にタイムリーな発売だったと言える。

曲は,打楽器だけではなく,サックス,トランペットといったジャズバンドを彷彿とさせる楽器の活躍が目立つ。定期的にポップスの演奏会を行っているOEKは,こういうジャンルをクロスオーバーするような作品に対する適応力が高い。クラシカルな4楽章形式の中にジャズのテイストを加えるというこの曲のコンセプトを十分楽しむことができる。

第1楽章は野性的な雰囲気を持ち,打楽器以外にもサクソフォーンやピアノの活躍も目立つ(サクソフォーンは筒井裕朗,ピアノは松井晃子と地元の奏者が参加している)。オケーリーは乱れ打ちのようなティンパニの後,小太鼓を演奏するが,これが「嵐を呼ぶ男」という感じで次第にエキサイトしてくる。パーカッション対オーケストラという激しいムードになっていくのが聞き物である。ピアノのオスティナート風のリズムの上にいろいろな楽器が加わって行き,さらに野性味を増していく辺りも面白い。演奏全体のリズムのキレもよく大変生き生きとしている。

第2楽章は一転して静かな楽章となる。ピアノ独奏にサクソフォーン,フルート,ヴィブラフォーンが加わっていく夜の音楽である。この楽章では太鼓類は登場しないので一見打楽器協奏曲風ではなくなる。

第3楽章は「ギー」というラトルの音で始まるスケルツォ風の楽章である。その後,木琴の音が続く。ここでもリズムの弾み方が何となくジャズを彷彿とさせるところがある。

第4楽章はトロンボーンと太鼓の激しい乱れ打ちで始まる。第1楽章以上に野性味のある楽章で迫力満点である。特に和太鼓を思わせる腹に応える音が大変印象的である。

最初に収録されているミヨーも演奏されるのが珍しい曲である。ジョリヴェの曲と雰囲気は似ているが,ストラヴィンスキーの「兵士の物語」の中の行進曲を思い出させるような響きがする。ちょっと安っぽい響きが不思議な味を出している。ジョリヴェでは楽章ごとに楽器を使い分けている感じだったが,ミヨーの方は,7分ほどの曲の間に次々と違った打楽器の音が聞こえてくる。音だけ聞いているとこれらを1人の奏者が弾いていることは実感できない。こういう曲については,一人で汗をかきながら沢山の打楽器を演奏している様子を見る方がずっと楽しめるだろう。

このCDに収録された曲は1つの演奏会で演奏されたものではあるが,改めて1つのCDとして聞くとまとまりはよくないと感じる。黛まどかの丁寧なナレーションによる「ババール」はやはり,家族向けの曲だが,ジョリヴェとミヨーの打楽器協奏曲の方はより前衛的でクールな気分がある。この日演奏された曲の雰囲気からすると,サティの「パレード」あたりと組み合わせた方が納まりが良かったのではないだろうか。

■演奏・録音データ
2004年5月24日に行われた第160回定期公演のライブ録音である。フォレスティエは,OEKをたびたび指揮しているが,OEKとのCD録音は今回がはじめてである。コンサートマスターは,サイモン・ブレンディス。OEKのナレーション入りの録音は,吉行和子のナレーションによる武満徹の「系図」以来2枚目である。今回のナレーターの黛同様も吉行もOEKの「応援団」メンバーである。

■参考ページ
オーケストラ・アンサンブル金沢第160回定期公演(2004/05/24)
(2005/08/04)