ポエジー
1)加古/ポエジー
2)ウィーラン(石坂慶彦編曲)/リバーダンス〜「キャスリーン伯爵夫人/妖精の女たち」「太陽を巡るリール」
3)スコットランド民謡(石坂慶彦編曲)/シェトランド・エア
4)クロール(啼鵬編曲)/バンジョーとフィドル
5)ブルッフ/ヴァイオリン協奏曲第1番〜第2楽章
6)モリコーネ(長生淳 編曲)/ガブリエルのオーボエ
7)ピアソラ(鷹羽弘晃編曲)/タンティ・アンニ・プリマ
8)加古/明日への遺言
9)加古/黄昏のワルツ
10)エルガー/愛のあいさつ

奥村愛(ヴァイオリン),加古驕iピアノ*1,8,9)
竹本泰蔵*1-9;本名徹次*10指揮オーケストラ・アンサンブル金沢
遠山哲朗(ギター*2-3),石坂慶彦(ピアノ,鍵盤ハーモニカ*2-3)
小林洋二郎(ゲスト・パーカッション*2)
●録音
2007年12月12,13,17,18日(10のみ2006年2月14日) 石川県立音楽堂 コンサートホール
●発売/avex classics AVCL-25191 (2008年3月26日発売)\3,000(税込)

若手ヴァイオリニストの奥村愛さんが,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)との共演でヒーリング・ミュージック系の作品を演奏したアルバム。奥村さんとOEKとの共演アルバムはこれが2枚目だが,収録されている曲のジャンルは,前作がクラシック中心だったのに対して,より多彩である。それでいて,気分的に統一感が取れており,アルバムとしてのコンセプトがしっかりと伝わって来る。

前半は,アイリッシュ,ケルティック風のどこか懐かしさを感じさせる曲で始まる。1曲目のポエジーは,グリーンスリーヴスを加古隆がヴァイオリン+弦楽合奏用にアレンジしたものである。2曲目の「キャスリーン伯爵夫人/妖精の女たち」と3曲目の「太陽を巡るリール」には,パーカッションの刻むリズムの上に,奥村がフィドル風の奏法でノリ良く演奏したものである。特に「太陽を巡るリール」の方は8分ほどある曲で,編曲も大変起伏に富んでおり,聞き応えたっぷりである。

「シェトランド・エア」は,非常に美しいメロディを持った作品で,しっとりと聞かせてくれる。ただし,この曲の編曲はオーケストラの響きで映画音楽的で少々甘すぎる気がする。「バンジョーとクロール」は,クラシック音楽のヴァイオリン奏者も取り上げる曲で,大変表情豊かな楽しい演奏になっている。次のブルッフのヴァイオリン協奏曲は,オリジナルのままの演奏であるが,他の曲とぴったり調和している。ここでは,第2楽章だけを抜き出して演奏しているが,アルバムのコンセプト的には正解で,他の曲を邪魔することなく,すっきりした叙情性に浸らせてくれる。

次の2曲は映画音楽である。ただし,「ミッション」「エンリコ4世」という,渋めの作品の音楽である点が特徴である。「ミッション」の方は,映画音楽の大家のモリコーネの作品ということで,「ニュー・シネマ・パラダイス」の音楽に通じるような懐かしさとロマンが感じられる。モリコーネの作品は,メロディ・ラインがくっきりしているので,ヴァイオリンなどの楽器で熱く演奏するのにぴったりである。

「エンリコ4世」は,ピアソラの作品だが,一瞬,ブルッフのヴァイオリン協奏曲の第2楽章が再現してきたように感じさせてくれるのが面白い。私自身,この曲を聞くのは初めてだが,奥村自身は2度目の録音ということで,彼女のお気に入りの作品なのかもしれない。

最後に加古隆の作品が2曲続く。加古自身のピアノ演奏も加わり,ヴァイオリンと交互にソロを演奏するような感じで演奏される。最初の「明日への遺言」は,2008年の新作映画用の音楽で,そのサウンドトラック盤でも奥村とOEKは演奏に参加している。「黄昏のワルツ」は,加古の代表的な作品である。ヴァイオリンが加わることで,より華やかな雰囲気の演奏となっている。

最後にアンコール・ピース的にエルガーの「愛のあいさつ」が入っている。これは,前回OEKと共演した時のアルバムに入っていた曲だが,そのせいか,演奏の空気が少し違う気がする。「ボーナス」ということだが,これは特に収録する必要はなかった気がする。

この手のアルバムは軽く見られがちだが,演奏・編曲ともにしっかりとしたもので,新しくレパートリーの幅を広げようという意図が感じられる。そしてその意図は成功している。ジャケットに使われている奥村さんのポートレート(素晴らしい写真です)に釣られてCDに手を伸ばし,さりげなく聞き始めると,いつの間にか奥村さんのヴァイオリンの美点が伝わって来て,その世界にはまる―そういうアルバムになっている。

クラシック音楽のCDの世界については,レパートリーが飽和状態になっているので,この方向性は間違っていない。今後もクラシック音楽という原点を大切にしながらも,新しい分野に挑戦していって欲しいと思う。

●録音
いずれも石川県立音楽堂コンサートホールで行われたセッション録音である。コンサートマスターは不明。「明日への遺言」については,サウンドトラック盤と同じ音源かどうかは不明。
(2008/08/03)