モーツァルト:アイネ・クライネ・ナハトムジーク
1)モーツァルト:セレナード第13番ト長調K.525「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」
2)モーツァルト:ディヴェルティメントニ長調K.136
3)モーツァルト:ディヴェルティメントヘ長調K.138
●演奏
ギュンター・ピヒラー指揮オーケストラ・アンサンブル金沢
●録音/2005年3月28,29日石川県立音楽堂コンサートホール
●発売/avex-classics AVCL-25513(2005年12月21日発売) \3000(税込) )

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)は,これまでにもかなり多くのモーツァルト作品のレコーディングを行ってきたが,ギュンター・ピヒラー指揮によるこの録音はOEK弦楽セクションの真髄を伝えてくれる名演となった。ワーナー・ミュージック・ジャパンから発売されているOEK21シリーズは定期公演のライブ録音が中心なのに対し,avex-classicsから発売されている録音は,SACDというフォーマットで発売されていることもあり,より念入りで精緻に演奏されている。ピヒラーは,アルバン・ベルク四重奏団の一員として数多くのレコーディングを行っているが,このCDはその延長上にあるような完成度の高さを持っている。

収録されているのは,アイネ・クライネ・ナハトムジーク,ディヴェルティメントK.136,138の3曲である。合計39分という時間は,新譜CDに収録する時間としては,異例に短いが,その結果,1曲ずつの密度の高さが際立つことになった。これらの曲については,SPレコード,LPレコード時代から録音が多く,それに更にスタジオ録音の新譜を付け加えるには相当の勇気が必要である。そのことを十分に意識した上での密度の高い録音ということで文句のつけようのない仕上がりとなっている。現代楽器によるモーツァルト演奏の「お手本」といって良い演奏である。

アイネ・クライネ・ナハトムジークは,手垢がまったく付いていないような新鮮な響きで始まる。どの楽章もテンポは中庸だが,フレーズの歌わせ方の一つ一つにピヒラーの気持ちが入っており,多彩なニュアンスの変化を楽しむことができる。細部に至るまで強弱の変化が精密にくっきりと付けられている。同じフレーズを2回繰り返す時に,2回目がエコーのように弱音で演奏されるのだが,その表情付けが本当に繊細に付けられているのがとても気持ちが良い。

単調に音楽が流れる部分が皆無である。どの瞬間にも豊かな表情が満ちている。内容は豊かなのだが,音楽全体は厚ぼったくなく,キリっと締まっている。楷書で書かれた文字のように崩れた部分はなく格調高くまとめられている。ニュアンスは豊かなのに自然なのである。聞くたびに,すごいなぁと感心してしまう(ピヒラーさんもすごいけれどもOEKもすごい)。何回聞いても飽きることがない。

演奏全体には,常に前向きのベクトルが感じられる。その一方,アレグロ楽章の後のアンダンテ楽章になるとその歩みが,ふっと立ち止まるような風情になる。その安堵感が曲全体を深いものにしている。メヌエット楽章でも,メヌエット主題とトリオ主題との対比が素晴らしい。第4楽章は繊細な音の動きが絶妙である。ピヒラーさんの細かい指示に忠実に応え,集中力の高い演奏を聞かせてくれたOEKの弦楽セクションに大きな拍手を送りたい

残りのディヴェルティメント2曲も同様に完成度の高い演奏である。こちらもアイネ・クライネ・ナハトムジークと全く同じことが言えるが,全体によりリラックスした穏やかな気分が溢れている。中庸のテンポで豊かに,しかしすっきりと流れる見事な演奏となっている。

このCDのいちばんの問題点は「39分で3000円」という価格だろう。非常に素晴らしい内容なのだが,「6枚で3000円」というCDが売られている時代にこの価格設定だとOEKのファン以外にはなかなか買ってもらえないかもしれない。ただし,私自身は価格に見合う内容だと確信している。精密に作られた工芸品を味わうような楽しみのあるCDである。ちょっと高価だけれども,いつも手元に置いておきたい一枚である。

■録音
2005年3月28,29日に石川県立音楽堂で収録されている。これまでavexから発売されてきたOEKのCDにはメンバー表は付いてこなかったが,今回の録音には全員のメンバー表が付いている。このことはこれからも継続してもらいたい。サイモン・ブレンディスがコンサート・マスターとなっている。

演奏には,はっきりとした古楽奏法は取り入れていないが,楽器の配置は低弦が下手側に来る対向配置になっているようである。レコーディング・セッションの写真も1枚欲しかったところである。

この録音は,Super Audio CD層と通常のCDの2層からなる,「ハイブリッド仕様」となっている。どちらのCDプレーヤーでも対応可能とのことである。

■他の録音との演奏時間の比較
3曲とも呈示部の繰り返しは行っている。3曲だけを収録したCDなので,そのことによって時間的なボリューム感を増している。OEKは,岩城宏之とも同じ曲を録音しているので演奏時間を比較してみた(*繰り返しを行っている楽章)

■アイネ・クライネ・ナハトムジーク
   第1楽章 第2楽章 第3楽章 第4楽章 合計
ピヒラー盤 5:34* 5:52* 2:01 2:55 16:22
岩城盤 4:12 5:31 2:03 2:55 14:41

■ディヴェルティメンK.136

   第1楽章 第2楽章 第3楽章 合計
ピヒラー盤 4:07* 5:21* 2:45* 12:13
岩城盤 3:18 4:31 2:41* 10:30

■ディヴェルティメンK.138

   第1楽章 第2楽章 第3楽章 合計
ピヒラー盤 3:39* 4:16* 2:02 9:57
岩城盤 4:04* 4:29 1:59 10:32
(2006/02/26)