ピアノ協奏曲ト長調 ラヴェル:ピアノ作品集/三浦友里枝

1)ラヴェル/ピアノ協奏曲ト長調
2)ラヴェル/亡き王女のためのパヴァーヌ
3)ラヴェル/古風なメヌエット
4)ラヴェル/ソナチネ
5)ラヴェル/高雅にして感傷的なワルツ
6)ラヴェル/水の戯れ
●演奏
三浦友里枝(ピアノ)
ケン・シェ指揮オーケストラ・アンサンブル金沢*1
●録音/2008年7月9日 石川県立音楽堂コンサートホール*1,2008年11月26〜28日ヤマハピアノ・テスト・スタジオ)
●発売/Avex AVCL-25440(2009年4月22日発売) \3000(税込) 


オーケストラ・アンサンブル金沢は,現在,avexとワーナーを中心に続々とCD録音を行っているが,いつの間にか「若い日本人アーティストとの共演」シリーズと言っても良い録音が増えてきている。これまでに菊池洋子,遠藤真理,吉田恭子,森麻季...と録音を行っているが,今回,これにピアニストの三浦友里枝さんと共演したラヴェル作品集の録音が加わった。共演といってもCD全体ではなく,その一部だけで共演している。この構成もこれまでのパターンと共通する。

三浦さんの演奏は,どの曲についても大げさな表情付けはなく,全体的にクールな印象を与える。それはラヴェルの音楽に相応しいものだが,部分的には堅さとなって感じられる。どの曲もきちんとまとまった演奏で悪くはないが,特に協奏曲では,しっかり合い過ぎていて,「ソツなく」まとまっているように聞こえる。これは,私自身,三浦さんの実演を聞いたことがなく,演奏者に対する思い入れが少ないこともあるかもしれない。

ピアノ協奏曲ト長調は,これまでOEK自身,実演で何回も演奏している協奏曲ということもあり,ムチの入る冒頭部から非常に軽快である。それほど速いテンポというわけではないが,響きが薄く,リズムのキレが良いので硬質で透明感のあるサウンドとなっている。イングリッシュ・ホルン,トランペット,ホルン,ピッコロなどの管楽器の音も鮮やかに収録されている。アクの強さがない分,ピアノとオーケストラの音がしっくりと溶け合い,ピアノとオーケストラのためのディヴェルティメントといったムードを作っているのが特徴と言える。

第2楽章はシンプルなメロディをたっぷりと聞かせてくれる。永遠に続くようなムラのない音に浸るのはとても気持ちが良い。第3楽章も爽快な演奏である。小気味良いスピード感が曲のイメージどおりで,OEKの音もダイナミックである。

ただし,上述のとおり,あまりにまとまりが良いので,もう少し毒気や不健康さがあり,破天荒なムードがある演奏を求めたくもなる。今後,三浦さんの演奏には,全体に漂う”クールビューティ”な雰囲気に,彼女ならではの「味」や「強さ」が加わっていくことを期待したい。

協奏曲以外では,5曲のピアノ独奏曲が収録されている。これらも基本的には協奏曲と同様の演奏だが,「亡き王女のためのパヴァーヌ」など,協奏曲の第2楽章と同傾向の優雅さのある曲が特に素晴らしいと思う。三浦さんの演奏には,自然な優雅さが備わっており,静かに流れる時間の動きを感じさせてくれる。

古風なメヌエット,ソナチネといった偽古典的な曲では,くっきりとした形が見えるような透明感が気持ち良い。高雅にして感傷的なワルツについては,非常に堂々としているが,ちょっと慎重で堅い感じがする。

最後に収録されている,水の戯れは,繊細かつ爽快な演奏である。音の粒立ちがとても良く,曲のイメージどおりの生き生きとした演奏である。このCDのジャケット写真は,水色が主体となっているが,この曲のイメージを表しているに思える。ラヴェルのピアノ曲には,今回収録されているもの以外では,「夜のガスパール」という大曲があるが,その第1曲の「オンディーヌ(水の精)」などの演奏にも,今後期待したいと思う。

●録音
協奏曲は,2008年7月9日に石川県立音楽堂コンサートホールでセッション録音,それ以外は2008年11月26日〜28日,ヤマハのスタジオで収録されている。指揮者のケン・シェは,1980年,カナダ生まれの若手指揮者で,実演でOEKと共演した実績はほとんどない。国内のオーケストラへの客演は多いようなので,今後,OEKとの共演も増えてくるかもしれない。
(2009/08/02)