メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲
メンデルスゾーン/ヴァイオリン協奏曲ホ短調,op.64
サラサーテ/ツィゴイネルワイゼン

ヴァイオリン/吉田恭子
指揮/金聖響
●発売/ワーナーミュージックジャパン(2002.9.26) WPCS-11405
●録音/2002年5月30,31日 石川県金沢市・石川県立音楽堂コンサートホール \2000(税別)

これまで,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のCDは,グラモフォン,ソニー,ビクターといったレーベルから発売されてきたが,今回のCDは,ワーナーミュージック・ジャパンから発売されている。来年以降,OEKのCDは,ワーナーから随時発売されるという情報もあるので,このCDは「長いおつきあいの第1歩」になるのかもしれない。

指揮者の金聖響とソリストの吉田恭子はいずれもOEKの定期公演には登場していないアーティストである。この2人は2003年5月の定期公演でOEKと共演する予定だが,その公演に期待を持たせてくれる,非常に新鮮な組み合わせのCDとなった。吉田はソロアルバムを既に2枚出しているが,協奏曲のレコーディングは初めてである。金にとっては初のCD録音である。若い2人とやはり若い雰囲気のあるOEKとの初共演ということで,多くの”初”の重なったCDとなった。

メインのメンデルスゾーンは,非常によく整った演奏である。吉田のヴァイオリンは,甘くなり過ぎることなく,とても念入りである。これ見よがしの派手な個性はないが,全体の完成度が高いので,飽きのこない演奏となっている。ただ,全体に少々とりすまして無表情なところもある。第2楽章など,聞く人をせつなくさせるような秘めたパッションがあると良いかなという気もする(と書きつつ,何度かこのCDを聞いているうちに,微妙なニュアンスがついており,控え目な表現にセンスの良さを感じるようになった。何度も聞いているうちに味が出てくるCDである。)。3楽章の小気味よさは,とても若々しく,さっぱりとした感触が素晴らしい。

金の指揮は,OEKの美しさをとてもよく引き出している。石川県立音楽堂という本拠地ホールで自らの音を作りつつあるOEKの日常的な音がうまく収録されている録音である。室内オーケストラらしい響きの軽味と透明感が非常に気持ちよい。特に管楽器の音が非常に自然に収録されている。今後のOEKのレコーディングに期待を持たせてくれるCDといえる。

OEKはこの曲を岩城指揮,マイケル・ダウスのソロでもレコーディングしている。岩城指揮のものの方が,ビシっと締まった感じがし,立派な感じがする。ヴァイオリンの方も,ダウスの方が表情が豊かで艶やかである。この辺は,好みの問題である。ただ,音楽堂で録音したせいもあるのか,全体の響きの美しさでは,新録音の方が上回っていると思う。いずれにしても,OEKファンにとっては,この2つをあれこれ聞き比べるのも面白いだろう。

もう1曲のツィゴイネルワイゼンもじっくりと演奏されている。ジプシー風の濃い演奏を期待している人には,やや薄味かもしれないが,センチメンタルになり過ぎない癖のないのびやかさも大変気持ちが良い。特に終盤の軽やかさはOEKの軽さもあって非常に爽やかである。

このCDは,収録時間が約35分という,LP並みの長さだが,このこと自体は短所ではない。響きの軽さと同時にCD全体もすっきりした感じにまとまっている。その分,2000円という価格で発売しているのも,一つの面白い試みだと思う。CDは長ければ良いというものではないだろう。

CDの外側は吉田さんの写真ですが...
中を見てみると,OEKと音楽堂の写真が大々的に使われています。
このCDのジャケット写真は吉田さんの写真だが,中味の方には,石川県立音楽堂の写真が大々的に使われている(このCDにはOEKのレコーディング参加者リストがついていないが,この写真を見れば大体参加した団員がわかる。コンサートマスターは,サイモン・ブレンディス氏のようである)。吉村渓氏によるライナーノートの方も吉田のことより,OEKと音楽堂についての記載が多いぐらいである。

この録音は,大河ドラマのサントラ盤を除くと音楽堂初のレコーディングということになるが,音楽堂の長い残響と柔らかい響きをうまく収録した良い録音となっている。ワーナーミュージック・ジャパンのOEKと石川県立音楽堂に対する期待の大きさを伝えてくれる録音といえる。(2002/10/10)