ブラームス:交響曲第3番 金聖響/オーケストラ・アンサンブル金沢

1)ブラームス/交響曲第3番ヘ長調,op.90
2)ブラームス/大学祝典序曲,op.80
金聖響指揮 オーケストラ・アンサンブル金沢
●録音/2007年11月28,29,30日*1;2007年4月21日*2 石川県立音楽堂コンサートホール
 ※11月30日,4月21日のみライブ録音
●発売/Avex-classics AVCL-25363(2008年9月24日発売)\2100(税込)

金聖響とオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)によるブラームスの交響曲全集の第3弾。2007年から2008年にかけて番号順に演奏するチクルスに合わせて石川県立音楽堂で行われた定期公演をライブ収録したもので,今回は第3番と大学祝典序曲が収録されている(ただしそれぞれ別の定期公演である。)。

これまでのこのチクルスでの編成同様,現代の一般的な編成からするとブラームスを演奏するには弦楽パートの人数が少な目である。大きくうねるような厚みに不足する分,スリムで時に鋭い響きが新鮮さとなって響く。この点が金聖響とOEKのブラームス・シリーズのいちばんの魅力である。その点に物足りなさを感じるかどうかで評価の分かれる演奏だろう。

第1楽章は,冒頭から十分に堂々としているが,弦の響きが薄いので曲の姿がすっきりと見通しが良く見渡せる。聞きなれた演奏とは違ったフレーズが浮き上がっている部分もある。各楽器の音は瑞々しく,音やフレーズの絡み合いがくっきりしている。テンポの動きは大きくないが,細部のニュアンスがしっかり付けられていることもあり変化に富んだ印象を与える。ティンパニやホルンが要所要所で区切りを付けるようにしっかりとした音を聞かせてくれるのも特徴である。特にコーダ付近に出てくるホルンのゲシュトップ奏法にはドキリとさせられる。「やられた!」という感じの面白さがある。

第2楽章はクラリネットの独奏で始まる静かな楽章だが,孤独なモノローグというよりは,親密な仲間との語り合いといった暖かみを感じさせてくれる。しかし,そこにはベタベタしたところはなく,節度がある。この辺に室内オーケストラとしてのOEKらしさが出ている。威圧的でない軽さが心地よい。中間部の響きはノンヴィブラート風の弦楽器の演奏が大変清潔で,雲の間から柔らかい光が差し込んでくるような神聖さを感じさせてくれる。楽章の最後のトロンボーンによるコラールのデリケートさもこの気分にぴったりである。

有名な第3楽章は,チェロのハートフルな歌で始まる。音自体は薄いのに,秘めた熱さを感じさせてくれる。甘くセンチメンタルで哀愁に満ちたメロディなのだが,ダイレクトに悲しみを表現することはなく,どこかさりげない。この辺にむしろ現代的なリアリティが漂う。第2楽章同様,インティメートな室内楽的な気分を持った演奏だが,朗々としたホルンのソロ(この日のソロは客演のコンスタンティン・ティモキヌが担当)の後に続く後半部ではテーマがより切実に突き刺さるように迫ってくる。

第4楽章は,第1楽章を受けるように共通した気分で始まる。要所で出てくるティンパニのたくましい音が特に印象的だが,音の肉付きが多くない分,がっちりとした骨格をそのまま見せるような演奏となっている。そして,この楽章でもホルンのゲシュトップ奏法がドキリとさせる。曲の構造の区切りごとに警鐘を鳴らすように出てくるのが暗示的である。このホルンの後,一気に音のテンションが下がり,安らかな終結感が広がる。弦楽器の繊細な音と金管楽器のコラールが耳に染みるエンディングである。

大学祝典序曲は,落ち着いたテンポだが,音全体が軽やかで動きがキビキビしているので,もたれる所がない。木管楽器の軽妙な演奏をはじめ,曲想にマッチしている。曲の最後の方にホルンの音が出てくるが,ブラームスの3番に出てきたゲシュトップ奏法のエコーのようでとても面白い。音楽によるシャレという感じである。コーダの部分での悩みを突き抜けたような無駄な力が全く入っていないスッキリとした響きのまとまりの良さもお見事である。

今回の2曲の中では,特に交響曲第3番の演奏に,一見自然でありながら,細部にドキリとさせるような現代性が漂っているのが大変面白かった。筋肉質の力強さにも溢れ,生命力が満ちているのも金聖響とOEKのコンビらしい。「1年間のチクルス」という枠を先に作ることで,目に見えない緊張感がずっと持続しているようなところもある。残りは第4番だけとなったが,大いに期待したい。

なお,交響曲第3番の楽器の配置は,以下のとおりだった。古典的な対向配置だが,コントラバスがいちばん奥に来ているのが独特である(CDの解説の写真だとコントラバスは下手奥になっているが,定期公演の時は下のような配置だった)。

             Cb
      Hrn  Cl  Fg CT-Fg Perc
          Fl  Ob   Timp
         Vc    Va   Tp
       Vn1  指揮者 Vn2 Tb


第1ヴァイオリンは増強していないが,それ以外の弦楽器では定員+2名の増強が行われているのも前回同様である。

●録音
交響曲第3番は2007年11月28〜30日,大学祝典序曲は,2007年4月21日に石川県立音楽堂コンサートホールで収録。セッション録音とライブ音源を混ぜて使用している。拍手はすべてカットされている。コンサートマスターは,交響曲の方がアビゲイル・ヤングで序曲の方がサイモン・ブレンディスだった。

参考ページ:オーケストラ・アンサンブル金沢第232回定期公演PH

OEKは岩城宏之ともこの曲の録音を残しているが,それと演奏時間の比較を行ってみた。
  第1楽章 第2楽章 第3楽章 第4楽章 合計
今回の録音 12:57 8:43 6:11 8:46 36:37
岩城/OEK(2006) 10:24 7:56 6:43 9:05 34:58
第1楽章が2分も違うのは,呈示部の繰り返しの有無による。(2008/11/25)