ハイドン交響曲集
ギュンター・ピヒラー プリンシパル・ゲスト・コンダクター就任記念
交響曲第88番ニ短調「王妃」
交響曲第101番ニ長調「時計」
交響曲第100番ト長調「軍隊」

指揮/ギュンター・ピヒラー
●発売/ビクター・エンタテインメント(2001.9.3) NCS-258
●録音/富山県・小杉町文化ホール ラポール(2001.4) \2,500

2001年4月にギュンター・ピヒラーがOEKのプリンシパル・ゲスト・コンダクターに就任した。その就任記念演奏会をライブ収録したのがこのCDである。演奏会は,金沢市と小杉町で行われた。このCDは小杉町で収録されている(私は,金沢の方に行った)。発売は,2001年9月の石川県立音楽堂の柿落公演に合わせて行われた。というわけで「記念」ずくめのCDである。

CD1枚に1つの演奏会を丸ごと収録したもので,曲順も演奏会どおりである。ライブとはいえ,曲のすみずみまでピヒラーの解釈が浸透しており,曖昧なところの全く無い完成度の高いものになっている。岩城指揮のモーツァルト交響曲集では,同じライブ録音でも拍手が収録されていたが,このハイドンの方には拍手が収録されていない。ライブ録音に対する指揮者の考えの違いが出ていて興味深い。各曲の第1楽章提示部の繰り返しはすべて行われているが,これも岩城とは対照的である。

全般に,現代楽器で古楽器風の演奏をしたような表現が徹底しており,現代の世界標準と言って良いような演奏になっている。弦楽器も管楽器もヴィヴラートは控え目で,音の純度が高い。音がキリっと引き締まり,各楽器の音が明確に聞こえる。そのため,アクセントが効果的に決まっている。室内オーケストラの音の薄さを生かした見事な演奏といえる。こういう表現が3曲すべてに一貫しており,すべての曲が新鮮に響いている。

ただし,古楽器風といっても,金管楽器,打楽器などは不必要に強奏させていない。古典的な均衡感を崩していないのに,十分強い表現意欲が感じられるのが素晴らしい。

テンポは全般に速目だが,「王妃」のメヌエットのトリオ,「時計」の序奏などではかなりテンポを落としている。ライブということもあり良い意味での緊張感の漂う演奏となっている。ピヒラーは,トリオの直前,展開部の直前,変奏の間などに不意に大きな間を作ることがあるが,そういう時に緊張感がパッと漂う。「時計」のメヌエットでは,その間の後に,意表をつくような軽やかさに転換し,ハッとさせられる。

「王妃」では,やや緊張し過ぎているような感じもあるが,「時計」「軍隊」と進むにつれて伸びやかさが出てきているような気がする。これは,演奏会の流れどおり収録したCDならではの面白さかもしれない。

3曲の中では,「時計」の演奏がいちばん気に入っている。非常にキビキビとしていて,厳しい感じのある1楽章展開部。すっきりとしていて,しかも弾んでいる2楽章の弦の美しさ。優しい表情のある4楽章など,どの楽章にも緊張感としなやかさが共存している。

「軍隊」の2楽章の終わりに出てくるトランペットの信号ラッパも緊張感が漂っているが,金沢で生で聴いた時の方がもっと緊張感が漂っていて迫力があったような気がする。また,オーボエの音は,もう少しカラッとした雰囲気がある方が私は好みである。

この演奏には息を抜いたところがないので,のんびりとした演奏を求める人には向かないかもしれないが,OEKの新たな可能性を開いた録音だということは確かである。ピヒラーは,今のところ指揮者としてよりもヴァイオリン奏者としてよく知られているが,ここでの統率力の強さを見る限り,指揮者としても実力のある人だということがよくわかる。恐らく,初レコーディングということで,相当練習したのではないかと思われる。このCDは,その成果がはっきりと納められた記念すべきCDである。