ドヴォルザーク/チェロ協奏曲ロ短調,op.77
●演奏
ジャン・レイサム=ケーニック指揮オーケストラ・アンサンブル金沢
●録音/2001年7月21日,金沢市観光会館  \1200(税込み)

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)は,2001年秋に金沢市観光会館から石川県立音楽堂に定期公演の会場を移した。この録音は,金沢市観光会館で行なわれた”最後の定期公演”で演奏された曲目のライブ録音である。OEKの首席チェロ奏者ルドヴィート・カンタさんは,OEK団員の中でもソリストとして活躍する機会が特に多く,非常に人気が高い方である。チェロ協奏曲の最高傑作とも言えるドヴォルザークのチェロ協奏曲を「スロバキア出身のカンタさんの演奏で聞いてみたい」というファンの希望に応える,待望のCDである。

このCDは,各楽器の音がとても生々しく収録されている。最近,ワーナー・ミュージック・ジャパンから連続して発売されている石川県立音楽堂でのライブ録音シリーズと比較すると,ホールの響きの豊かさはあまり感じられず,各楽器の音がダイレクトに収録されている。弦楽器については小編成による響きの薄さが強調されている感じだが,管楽器については奏者の息遣いが伝わるような迫力を感じる。もっと柔らかい響きがほしい所もあるが,楽器のダイレクトな音を楽しめるのは,この録音の大きな特徴である。

第1楽章の序奏から,ホルン,クラリネットをはじめとして,各楽器の演奏するニュアンスが非常に鮮明に収録されている。ライブらしい熱気も漂う。ダイナミックレンジも室内オーケストラとは思えないほど幅広い。CD全体に渡り,あまり編集をしていないような生々しさがある。生で演奏で聞いた時よりも音が鮮明な気がする。

カンタさんのチェロの音もかなり生々しい。全体に細かいニュアンスに富んだ歌が聞きものである。特に第1楽章第2主題での優しく繊細な歌いまわしが素晴らしい。聞けば聞くほど心優しい歌が耳に染み込んでくる。その一方,速いパッセージや聞かせどころでの熱のこもり方も素晴らしい。第2楽章は室内楽的演奏となっている。オーケストラの楽器との対話が素晴らしい。第3楽章は録音のせいか,少々雑然とした印象があるが,チェロの音は相変わらず素晴らしいし,最後の部分のキリっと締った雰囲気も見事である。途中,チェロとコンサートマスターとの掛け合いがあるが,この日コンサートマスターだったサイモン・ブレンディスさんの細身の美しい音も楽しめる。

先に書いたとおりオーケストラ全体の響きは石川県立音楽堂での美しく溶け合った録音に比べると,音の混ざり具合が悪い感じはするが,それは見方を変えると魅力にもなる。細かい部分での微妙な音のズレやちょっとしたノイズも「ライブならでは」の臨場感となっている。指揮者のレイサム=ケーニックさんは,日本ではそれほど知られていない指揮者だが,非常に熱い指揮ぶりで,OEKから豊かな表情を引き出している。

このCDは,通常のレコード会社から発売されているものではなく(石川県立音楽堂のチケットボックスで買うことができる),一種私家版的なものだが,きちんとした解説も付いているし,宣伝文句の入った帯も付いている。OEKがこの曲を演奏する機会はそれほど多くないので,お宝的なCDとも言えそうである。

■録音データ
2001年7月21日に行なわれた定期公演のライブ録音。演奏後の拍手も収録されている。この日のプログラムの2曲目で演奏された。当日「この日の演奏はFM放送されます」という貼り紙がしてあったが,結局,放送はされていない。そのまま埋もれるのが惜しいのでCD化されたのかもしれない。収録時間が39分ということで\1200という価格設定がされているのも面白い。

■参考ページ
オーケストラ・アンサンブル金沢第105回定期公演(2001/7/21)
(2003/05/27)