ベートーヴェン交響曲全集

指揮/岩城宏之
大倉由紀枝(S),岩森美里(A),伊達英二(T),勝部太(Br)
東京混声合唱団
●発売/朝日新聞社、(財)石川県音楽文化振興事業団(1995)
●Asahi Shinbun(5枚組) 限定販売 ¥10,000(税込)
●録音/東京都・浜離宮朝日ホール、ライヴ録音(1994-95)
※分売(No.1-3,2-4,5-6,7-8,9)各 \2,200(税込)

OEKが東京の浜離宮朝日ホールで行ったベートーヴェンの全曲演奏会のライブ録音CD。通常のCDショップでは入手しにくいものだと思う。岩城にとっては,NHK交響楽団と1960年代に録音して以来2回目の全集となる。なお,第5番だけは3回目の録音となる。

岩城は,OEKで演奏する曲目の柱として,現代音楽とともにベートーヴェンの交響曲を置いていることは確かである。その意味で,1995年時点でのOEKの集大成とも言える内容になっている。ただし,前回のNHK交響楽団のものと比べると一長一短がある。NHK交響楽団とのものは,非常に直線的で録音自体も生々しい迫力があるが,OEKとのものは,全体にもっと落ち着いてまろやかな雰囲気になっている。これは録音のせいもあるだろう。全体の響きは,室内オーケストラだけあって軽いが,低音は意外にずしりと響いてくるのも面白い。

中では,田園と第7番が印象に残っている。田園は,近年岩城が実演でも取り上げる機会が多いので,実演を彷彿とさせる。第4楽章では,トマス・オケーリー(だと思う)のティンパニの威力が存分に発揮されている。第7番も取り上げられる機会が多いが,4楽章は次第にリズムがキビキビとしてきて,聞いていて気持ちが良い。第5番は冒頭の運命の主題がやけに大人しいので,ちょっと物足りない。第9には岩城のもう一つの手兵である東京混声合唱団が参加している。小人数で非常に整った合唱が聴ける。全体に飾り気のない素朴な感じのする第9になっている。バリトンが最初に登場してくる部分の音程をはじめ,ソリストは絶好調ではないようだが,これはライブの難しさかもしれない。

録音については,私はもう少しくっきりしたものが好きである。これは,このホールの特性なのだろうか?このセットの解説には,音楽評論家の平野昭氏と岩城氏の対談が収録されている。これは,岩城の考え方がわかってとても面白い。

なお,私が所蔵している初版の箱に入った全集は,非常に扱いにくい。5枚のCDが5つの透明ケースに入っているのだが,それぞれ,透明のプラスチックの板のようなものに英文で曲名が書いてあるだけなので,どれがどの曲なのかはっきりしない。デザインを重視する余り機能性がおろそかになった例である。ちなみに,各曲を分割販売しているCDでは,CDごとに色分けされていて非常にわかりやすい。このデザイン重視のパッケージは評判が悪かったのではないかと予想される。