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ベルリンへの誘い
 
 
                                        (11)大晦日
 
 
 日を追うごとにチューブが抜けていく。感染症が怖いのでなるべく早くとるそうだ。尿の管が抜けるとすごく
 
楽になった。リハビリは続いている。
 
どうも経過がいまひとつ良くないようで、一週間でICUを出て一般病棟に移るはずが、クリスマスもICUで
 
迎えた。ガラスの仕切りから一般病棟を覗くと大きなクリスマスツリーが飾られている。
 
それでも移植前とは全く違い元気になっているのが自分でも分かる。
 
 
12月31日、大晦日に一般病棟に戻ることになった。
 
着替えをしてICUから一般病棟のドアを押し一歩踏み込んだ時、二人とも立ちすくんだ。
 
なんと樫田先生が微笑みながら立っている。
 
   「せ、せんせい・・・!」
 
   「おめでとう、よかったですねぇ。正月休みをとって顔を見にきました」
 
   「顔を見に来た、たって、ご近所でもあるまいし・・・・・奥さんきっと怒ってまっせ」
 
一般病棟に戻ってからは電話をかけまくった。
 
   「いそだや、手術、なんとか成功して一般病棟に戻れたわ」
 
   「お〜、ほんまに磯田か。ぜんぜん声がちがうわ、すごい元気な声や早かったな〜」
 
   「成功するかどうか、皆で賭けてたのとちがうんか」
 
   「歩けるのか」
 
   「アホ言え!帰るときはスキップしてかえったるわ」
 
 
 その夜、阿曽先生のお宅でニューイヤー パーティーをするという。樫田先生と女房が招待された。
 
ドイツでは大晦日にカウントダウンして、年に一度だけ許されている花火を上げて大騒ぎするという。
 
 
11時ごろ消灯された病室でひとりベッドに腰をかけ、窓の外を眺めていた。
 
大学病院の建物や木々があり、外灯がほのかな明かりを放っている。その向こうの地平線近くにベルリンの
 
街の灯が見えている。
 
四ヶ月前には、移植なんて思ってもいなかったし、ましてこんな運命が待っているなんて思ってもいなかった。
 
なのに今、すべてが終わりドイツの病院でベッドに腰掛けて、新年を迎えようとしている自分が信じられない。
 
樫田先生、布施さん、遠藤先生、門田教授、阿曽先生、そして プロフェッサー ピーター ノイハウス。
 
誰一人欠けてもここにはいなっかたろう。
 
街の灯りが明るさを増し、櫛目のように沢山の花火が上がりだした。日本の花火のように大掛かりではないが
 
地平線が持ち上がったように隙間なく、市民総出で花火をしているようだ。あの光の中で女房が亭主をグチリ
 
ながら阿曽先生や樫田先生と飲んだくれていることだろう。
 
花火はまだ続いているが、もう眠ろう。
  
 
 


      
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