当店のパラゴンの図面etc


    店主の呟き目次に戻る


                            

  
ベルリンへの誘い
 
                         (2) 窮地
 
 仕入れで、定休日に年3・4回東京へ日帰り出張する。5月のゴールデンウイークも終わった定休日に
 
伊丹から飛んだ。羽田からモノレールに乗り山手線に乗り換えるあたりで、喉の奥に飯粒かなにかが張り
 
付いたような違和感を覚え飲んだり食べたりしたが治らない。そんなことより仕事だ。何軒かのメーカーを
 
まわるうちに忘れてしまっていた。
 
帰りは新幹線で、家にたどり着いたのは11時を過ぎていた。
 
 ・・・・・疲れた・・・本当にしんどい・・・・
 
風呂も入らずパジャマに着替え横になったが、布団に吸い付かれているようだ。少しウトウトしたのだろうか、
 
便意をもよおしトイレに立ったがなんと便が真っ黒。この疲労感といい異常だ。女房を起こし、家から近い
 
神戸中央市民病院の救急へ走った。
 
 
診察した若い医者が言った。
 
   「胃から出血してると思います。胃カメラをしましょう。」
 
どうもこの医者は診察の時から気にいらなかった。なにか真剣さか感じられないし胃カメラは大の苦手だ。
 
それでもしかたなく胃カメラをすることに同意し、喉を麻酔されカメラを突っ込んで数秒。すごい嘔吐感が
 
喉を突き上げ血が噴出した。それもかなり大量で嘔吐物を受ける瓢箪型の皿が血であふれそうだ、
 
医者が胃カメラを抜きうろたえている。
 
2度ほど大量の吐血した。そこへ別の医者が来た。彼も若くて小柄で一見頼りなさそうなのだが、処置は
 
素早く的確だ。看護師に輸血を指示し、自分は細い樹脂の棒をバルーンに差し込んでいる。それを鼻から
 
胃まで差込み、棒だけを抜きとりバルーンを強く吹いて膨らまし、グッと少し引っ張ってから空気が抜けない
 
ように縛り、処置が終わった。
 
 
女房が呼ばれた。
 
   「消化器内科の樫田です。ご主人は食道の静脈瘤が破裂して出血してます。恐らく
 
   肝硬変だと思います。肝硬変だと肝臓に血が入りにくく血管に圧力がかかり静脈瘤が
 
   食道にできて破裂しやすいんです。いまバルーンを入れて膨らし圧迫して出血を止めて
 
   いますが、肝臓の悪い人は血が止まりにくく止まらない確率がかなりあります。その場合
 
   あきらめていただかなければなりません。身内の人を呼んでください。」
 
女房に説明する樫田医師の声はすべて聞こえている。でも不思議なことに”死ぬ”と言われているのに
 
冷静だった。鼻から息ができないから口で呼吸しすこし苦しいだけだ。
 
   『 ・・・ 俺、死ぬかもしれん・・・ 財産はないが借金もないし乱れた女性関係もない。
 
    女房の両親は元気だし商売も順調だ生活は心配いらんやろ ・・・・死んでもなにも
 
    変わらん・・・・ということは俺って影の薄い男やったんやなぁ・・・』
 
ベッドの周りに身内の顔が並んでいる。小学生の二人の子供に声をかけてやりたいが声が出ない・・・・。
 
 
ひどく喉に乾きを覚え目が覚めた。
 
まだ生きているようだしバルーンも入ったままだ。女房に筆談でウガイをさせてもらい思い出した。たしか
 
身内が来てたはず。私があまりにも死ぬのが遅いのであきれて帰ってしまったのだろうか。時計を見ると
 
5時を過ぎている、もう外は薄明るいだろう。
 
 
樫田先生が来た。
 
   「バルーンを抜いてみましょう」
 
ゆっくり空気を抜きバルーンを抜く。
 
   「よっかったですね、血は止まったようです。今から硬化術という処置をします。胃カメラで 
 
   破れている血管の上流に注射して良性のポリープを作り血管をつぶします。もう大丈夫です。」
 
   『また胃カメラかいな、でもこの医者は頼れそうや』


            ∇
      
CONTINUES
      +
        Copyright (C) 2004 JUST IN TIME . All Rights Reserved


 

       +
       +
       +
       +
       +

       
       +
       +
       +
       +
       +

       
       +

       +
       +
       +
       +

       +
       +
       +
       +
       +

       +
       +
       +
       +
       +


       +
       +
       +
       +
       +


       +
       +
       +
       +
       +

       +
       +
       +
       +
       +

       
       CONTINUES
       +
         Copyright(C) 2004  
 JUST IN TIME .
All Rights Reserved
























































店主の呟き