ユンフンの変身

韓国の若い男の子たちは、髪を染めている子が多い。それも日本の色より、ずっと派手だ。

派手というか、自然に染めて、ちょっとわかるかわからないかくらい、なんでいう半端なカラーリングはあまりなくて、「染めました!」とはっきりわかる色だ。

本当に金髪。そんな髪の色の子をよく見かけたし、黒い髪だったのが、ある日、すごく明るい茶色や、金髪に近い色に変わって、わーすごいイメチェンしたねえ

と声をかけることも。女の子も染めている子がとても多い。それもはっきりわかる色で。日本より格段にカラーリングの値段が安いせいもあるし、

手軽にできるからというのもある。私のクラスメートの中国人の女の子たちも、韓国に来て髪を染めていた。

                 

そんな、周りのヘアスタイルを見て、ユンフンが、僕も染めたいんだよねー、としきりに言っていたのだが、ソルラル(旧正月)の休みに染める、といい始めた。

私も日本で染めていたので、いいかもね〜、と相槌を打っていたのだが。

安いと言っても、美容室で染めるのは、留学生のふところ具合に負担がないわけではない。街のドラッグストアで売っている染色剤は、日本と同じく

バリエーションも豊富で安い。ユンフンは、それを買って染めることにした、で、イクコやってもらえない?と言ってきた。

私も自分で買ってやったこともあるので、いいよいいよ、とOKした。

                         

ソルラルを控えたある日、黄色っぽい色がいいって言って、友達から買って来てもらった、と見せてくれた染色剤の箱は、本当に黄色、というか、

金髪に染まるものだった。

うーん、うまくいくかなあーと、少々不安になったが、私のハスクならシャワーもあるし、家でいいよ、と約束した。

ユンフンは、しいて言えば、田舎から東京の大学に出てきて、いろんなことに目覚め始めたような感じの男の子であった。ファッションも、

友達とのお酒の付き合いも。

髪染めたなんて言ったら、中国の親に怒られる!と言いながら、どんな変身をするかわくわくしてるのである。うーん、やっぱり上手くできるか、不安だなあ。

             

さて、ソルラルの連休が始まったその日、ユンフンは染色剤の箱を持って、私のハスクにやってきた。イクコお願い。早速私はユンフンの首にタオルを巻き、

ビニールを巻いた。

液を混ぜ合わせてから、ユンフンの髪にぺたぺたつけ始めた。染色をむらなく仕上げるのは実は非常に難しいのである。ユンフンの髪もほぼ黒色なので、

金髪にきれいに染めるなんて、やっぱりムリかも・・・。

そして、ストーブはあるけれど、すごく暖かいというわけではない私の部屋で、髪に液体をつけられるのは寒いはず。

私もユンフンの頭に染色液を撫で付けながら、お願い!きれいに染まって〜、と思いながら結構必死であった。

                     

しばらく放置して待っている時、いきなり部屋をノックされた。ドアの外でハスクのおばさんが何か言ってるではないか。

はい!と返事して、ユンフンになんて言ってるの?と聞くと、よかったらお昼食べに降りておいで、と言ってるよ、と言う。

いつもはドアを開けて話をしたりするけど、この状況。

まさか、ドアを開けて、ユンフンのこの恰好を見たら、まじめなおばさんのこと、何か言われそうである。おなかいっぱいだからいいです、とドア越しに答える。

男の子も私の部屋に遊びにくることがあったけれど、保守的な韓国では多分あまり好まれないことだ。私は、日本人だからと言われて、

余計なよくない印象を持たせるのは極力避けていて、かなりそういうことには神経を使っていたような気がする。

         

ユンフンは頭がだんだん冷えてくるのにも我慢して、髪の色が変わるのをじっと待っていた。説明書にある時間は過ぎたけど、どう見ても金髪にはなってない。

多少長くやったけれどそれ以上はもう変わりそうにないので、髪を洗ってきてもらう。

狭いトイレで服を着たまま、不自然な恰好で髪をシャワーしてきたユンフンは、腰がいたい!、と言いながら出てきた。

そして、やっぱり、金髪の男の子には変身していなかった。

でも最初の染色だし、自然な茶色になっていて私は気にいったのだけど・・・。

金髪には変わらなかったけれど、ドライヤーをしながら、イクコは、いい人だねえ、イクコみたいな人と結婚したいねーとご機嫌である。

終わってから、友達のところへ一緒に遊びに行ったが、中国人の友達には、染めたんだよ、といわないとわからないくらいであった。

でも、ユンフンは、イクコ今日はかわいく見えるねー、と更にご機嫌であった。

ソルラルの休みも終わって学校へ行くと、先生は、ユンフン、ちょっと染めたのね、いいじゃない、と気がついてくれた。

ほらね。金髪よりそれくらいがいい感じなのだ。ユンフンの変身願望は、ちょこっとだけ叶えられた。そして私はひそかに胸をなでおろした。

ところで、1年以上たって、メールと一緒に送られてきたユンフンの写真を見て、思わず、わー!と叫んでしまった。

ユンフンは、韓国人にも負けないくらいの、完璧な金髪の男の子になっていたのであった。