インタビュー

語学院の4級も終わりに近づいてきて、なかなか伸びない語学力をもう少し集中的に勉強してから帰りたい、と思うようになった。語学の勉強はどこまでいっても

そうだけれど、いつもなんか足りなくてもどかしい、そういう気持ちが常につきまとう。そのもどかしさを解消するために、ひとつひとつこつこつと勉強をしていくしか

ないのだけれど。

外国人への韓国語教育で有名な延世大の語学堂では、同じ4級でももっとレベルが上なのだという話も聞いた。しっかり発音も、文法も細かく教えてくれる、とも。

まあどれくらいそうなのかは行っていないからわからないけれど、その時、修了試験というか、課題で、自分で韓国人にインタビューをしてくる、というのがあるんだ

と聞いた。それもどの程度のものか実際にはわからないけれど、それを聞いて、そうだ、私も勉強のために、インタビューをやろう、と思った。

           

勝手に自分で自分に課した課題。それをやることで、韓国語の会話の勉強になる。特に、丁寧な言葉遣いをしなければならないから、その練習だ、と決めた。

そんなこと、別にしなくてもよかったのだけれど、これをやらないと帰れない、と強制的に自分に課してしまった。

インタビューの相手は、5人。それまでに知り合っていた、ジャズの関係者、友人など。もともと韓国のジャズの状況がどうなのかを少しまとめたいな、と考えて

いたので、いい機会でもあった。

まず、友達のミオクを通じて知り合ったジャズスクールのチョン先生。それから、インターネットのジャズ同好会「メゾカフェ」の、運営者シロちゃんと、ピアニストを

目指しているイファン。私が通っている成均館大のジャズサークルのメンバー。ジャズクラブのエバンスのマスター。

これだけいれば、かなりいい練習になるだろう。友達と違って、あらたまって質問するのだから、少しはきちんとしゃべる必要がある。

前もって、聞きたいことを整理し、メモと、録音機も持って行くこともあった。

                

最初やったのは、チャン先生だった。一番きちんとしゃべらなければならない年上の方だ。録音テープを聞くと恥ずかしくなるくらい、変てこな質問が流れてくるの

だけれど、それでも1時間以上、チャン先生は、韓国のジャズの歴史や今の状況について、つたない私の質問に答えてくれた。本当にありがたく、いろいろ教わる

ことがあった。

メゾカフェのシロちゃんは、男の子みたいに元気のいい女の子で、夕食を食べ終わってから、スタバのカウンターに座って、メゾカフェの立ち上げから、韓国人が

どういうふうにジャズを聴くのか、誰かと集まるのが好きでいつも忙しく、ひとりでコンサートに行くことがあまりない韓国の習慣、どんなミュージシャンが好きか、

同好会での音楽鑑賞会のこと、韓国のジャズファンがどんな曲が好きか、話を聞かせてくれた。

                      

一番、ドキドキして、思い切っていかなければならなかったのが、大学の同好会だ。

それまで、定期演奏会を聴きにいったりはしていたけれど、直接知っている人はいない。何度も何度もサークル部屋のドアの前まで行ったけれど、とっても緊張

する。もうその日にいかなければ行く日がない、という時に、覚悟を決めて出かけて行った。そのサークル部屋の周りをうろうろうろうろしていたのだが、その時、

建物中の電気が全部消えてしまって真っ暗になった。

え?と思っていると、どうやら定期点検かなにかで停電になったらしい。

しばらく真っ暗のようである。ジャズサークルの部屋からも人が出てきた。中は真っ暗で何も見えない。どうしようどうしよう。そしたら、外のベンチにジャズサークル

の学生が座った。よし今だ、と思い2人の男の学生に声をかけた。

ここの語学堂で韓国語を勉強しています。ジャズが大好きで、韓国のジャズについて知りたくて、ちょっとだけ簡単なインタビューをしたいのですが・・・。

                    

快く応じてくれた2人は、トランペットとギターの2人だった。そういえば定演で見たような気がするなあ。ジャズがなんで好きか、ジャズをやっていくのに何が足り

ないか、日本のミュージシャンは誰を知っているか・・・そういえばその日はパットメセニーの公演のある日だった。ギターの男の子は、行きたいんだよなー、

でも高いからなー、そう言った。私は友達からチケットも取ってもらっていたのだった!そうして気さくに話をしてくれて、メールアドレスも聞いてわかれた。

                  

自分で決めたインタビューとはいえ、心理的には実は重荷でもあり、延ばし延ばしにしてしまい、エバンスのマスターは、時間帯がなかなか合わず、何度か変更

しても、どうしても時間が合わずじまいで、結局できなかったのが残念だった。

                

最後に、ピアノを勉強しながら教えてもいる、イファンに、無理矢理お願いした。イファンも、メゾの運営者のひとりでもあった。メゾの集まりのライヴで声をかけられ、

その後、ジャズパークという、毎月無料であるジャズコンサートでも偶然会ったりもした人だ。インタビューをするにはもう日もなかった。

コンサートホールでの公演後のジョンスコフィールドがチョンニョンドアンドに来るという日、イファンは、彼女らしき子と友達と、男女4人で行くから、その時でも

いいか?と言ってきた。チョンニョンドアンドは近いし、ちょっとだけ行って話を聞くことにした。

ジョンスコフィールドはなかなか現れず、待つ間、お酒を飲みながらインタビューした。彼はまだ実はかなり若くて、友達も皆楽器をやっている仲間だった。

イファンは、ちっともピアノを練習しないのよ、と歌をやっているという女の子が言う。

イファンは、軽そうに見える子だったけれど、音楽を聴く耳は鋭いというのが話を聞いていてよくわかる。バランスのいい子だと思った。こういう若い子がどんどん

ジャズをやっていける環境に早く韓国もなればいいのに。

                          

そうやって、ぎりぎりになんとかインタビューは4つ終えた。上手くしゃべれたかは疑問だけれど、無理矢理喋らなければいけないので、いい勉強にはなった。

私は、ジャズを口実に、そうやって見知らぬ韓国の人に勝手に話し掛けたりすることが多かったが、ある時知り合いの紹介で遊びに行った先で会った、

写真を勉強するチャンセという男の子にも、ライヴの写真をとって欲しい、と、JazzParkに日本人ミュージシャンが出演した時に、カメラマンとしてお願いした。

お願いするときも、夕食を一緒に食べて、賑やかなマロニエ公園の階段に座りながら、夜、芸術とはなんぞや?という話をしたり、本当になんだかんだと口実を

つけては、知り合いをつくって会話練習をしていた私であった。

                         

仲のいい友達以外に、様々な人と話したのだが、喋り方にも、使う言葉にも人それぞれ癖がある。日本語だと、意識しないけれど、外国語だととてもよくわかる。

いろんな人の話し方に慣れることができるし、いろんな人の持つボキャブラリーをもらうことができる。

それからなにより、いろんな人の考え方に出会えるのが一番、楽しい