本のことなど

last update 2003.6/26
☆下へ行くほど古い記述です。


2003.6.
昔、本や図書館について高校生向きに書いた文章のファイルが出てきたので公開。

1999
図書室で借りた本

 「必要な本、必要になるかもしれない本、はすべて自宅にそろえておくべきである」と高校時代に読んだ野田昌宏氏の教えに従って本をため込んできたが、空間的・経済的に不可能であることに気づいてからは「今すぐ読みたい本・いくらなんでもマズイ本」以外はなるべく図書館で借りることにした。
 最近では柴田よしきの作品がおもしろかった。
「RIKO 女神の永遠」「聖母の深き淵」「月神の浅き夢」の三部作は女性刑事を主人公とする(広い意味での)ハード・ボイルドだ。女性が主人公のハード・ボイルドは海外ではいくつかシリーズがあるが、日本の作品では初めてだ。
魅力的な登場人物たち、複雑なプロット、三部作を通しての主人公の変化など、傑作ハード・ボイルドの条件を満たしているのはもちろんだが、女性の視点・思考で物語が進むのが新鮮だった(作者は女性です)。
 柴田よしきならもう一冊あると、Hさんから紹介されて読んだのは「RED RAIN」という未来の東京を舞台にしたSFものだった。
やはり女性刑事が主人公で「RIKOシリーズ」の番外編とみてもおもしろい。後半小松左京の「牙の時代」を思わせる「進化テーマ」が前面に出て興味深いが、 新書版でページが少ない分ちょっと薄味であと二倍の枚数で読みたかった。

 先週借りて夢中になったのが馳星周の二冊だ。
おもしろいとは聞いていたけど評判通りでそれぞれ一晩で一気読みした。
 デビュー作「不夜城」。新宿歌舞伎町を舞台に、台湾人、北京人、上海人、日本人、たちが裏の社会で騙し合い、殺し合う。まさに「人間とは何か」と考えさせられる。
歌舞伎町に昔「不夜城」というおおきなキャバレーが本当にあって、学生時代バンドマンをやってたことがある。今はあの辺は「日本」じゃないんだなあ。

 もう一冊は「漂流街」。
これはブラジル移民の三世が主人公で、例によって東京に暮らす在日外国人、日本のヤクザ、などの間での暗黒世界の冒険談だ。
「不夜城」以上に暗く、絶望的な話で、登場人物はほとんどすべて悲惨に死んでいく。しかし読み始めたら最後まで本を閉じることが出来ず、読後感は爽快である。


1999
「カブキの日」

おもしろい小説を読みたい人に推薦します。
小林恭二著「カブキの日」。これはおもしろいです。

「カブキ」が最大の娯楽になっている「もうひとつの日本」。そこにある世界最大の劇場「世界座」を舞台に少女の冒険がはじまる。
SFマニアなら筒井康隆の「美藝公」や小松左京の「お糸」のような「パラレル・ワールド物」と言えばすぐピンとくるはず。
「ガラスの仮面」的な演劇界の裏での駆け引きもおもしろく、そちらのファンにもおすすめです。テンポよく進む文章は読みやすく、一つの都市のように大きな「世界座」の廊下を進み少女が扉を開けるごとに広がる異世界のイメージが「不思議の国のアリス」のようです。「三島由紀夫賞」受賞作品。


1995
クライブ・カッスラー「ダーク・ピット・シリーズ」を推す

 今回は新潮文庫から出ているカッスラーの冒険物を紹介しましょう。
 アメリカ国立海中海洋機関という水中に沈んだ物を回収するプロ集団に属すダーク・ピットが主人公のシリーズで、「タイタニックを引き揚げろ」から「インカの黄金を追え」まで12巻(半数は上下2冊本)出ています。

 1912年に沈没し4千メートルの海底に眠る豪華客船タイタニック号にまつわる秘密、ハドソン河に沈んだマンハッタン急行にあるアメリカの国際条約書、氷づけのまま見つかった古代ローマ船、ナイル河底のファラオの葬船、等々いかにも面白そうな設定でしょう。
全世界を舞台に過去の大事件が現代とかかわり、魅力的なキャラクター・書き込まれた細部描写・小技のきいたユーモア・巧妙な伏線・・を伴って壮大な物語が進行しだすと、もう止まりません。新作を手にすると何もかも忘れてむさぼり読むしかありません。
 たとえば最新刊「インカの黄金を追え」は1532年インカ帝国末期の皇帝が大量の黄金をある島の地下に隠すところから始まります。
 そして1578年イギリス海賊ドレークがスペインの船を襲い、積み荷のインカの財宝から黄金を隠した場所を示す工芸品を見つけますがその工芸品もろとも津波にのまれて内陸の熱帯雨林の奥へ運ばれます。
そして現代のアンデス山中ではインカ遺跡の池を調査中の考古学者が事故に会いダーク・ピットが救助に向かいます。 大規模な美術工芸品の盗掘密売贋作組織、地下に眠るインカの黄金、ペルー山地、エクアドルの熱帯雨林、という題材で個性ある人物たちが右往左往し、クライマックスはアメリカとメキシコの国境地帯を貫く長大な地下水路での冒険です。面白いなあ。

 さて、このシリーズ12巻もありますが映画化もされた「タイタニックを引き揚げろ」あたりから読むのがお薦めです(映画よりはるかに面白いはず)。
ただ、10作目の「ドラゴンセンターを破壊せよ」には世界征服をめざす日本企業の黒幕(!)が登場してまるで昔の007映画のようでもう一つでした。
あとはどれも面白いことは保証します。
 もう一言つけ加えると、ヒット作「タイタニック・・」の題名が命令形だったためにシリーズすべてが原題と無関係に「〜せよ」などと命令形のタイトルにしてあるのは<ダサイ>ですな。


1994
この本がおもしろかった

 今回は去年読んだ生物関係の本から特におもしろかったものを紹介します。
@ 「ワンダフル・ライフ」スティーヴン・ジェイ・グールド
A 「ブラインド・ウオッチメイカー」リチャード・ドーキンス
B 「ルーシーの子供たち」ドナルド・ジョハンスン
C 「解剖学教室へようこそ」養老孟司

@は五億年前の地層から発見された、現生の生物と大きく異なった化石生物をめぐる生物進化の話。
有名なアメリカ映画「素晴らしき哉、人生!(It's a Wonderful Life!)」にたとえて進化の偶然性と生命の驚異を語ります。映画もついでにレンタルして見るとおもしろいです。
 Aは<利己的遺伝子>説で有名なドーキンスがダーウィンの自然選択説の誤解を徹底的に正していき、生物進化を理論的に説明できるのはダーウィンの考え方しかないことを納得させてくれます。
 Bは最古の人類と言われる300万年前の化石<ルーシー>(The Beatlesの歌にちなんで名ずけられた)を発見した古人類学者の最近の発掘行の話。彼は再び大発見をした!
 Cはテレビでもおなじみの東大の解剖学者のエッセイ。例によって解剖と死体の話がいっぱい。

 今回紹介した本の共通点は皆一流の学者のくせに(?)ユーモアに満ちていること。
グールドは面白いたとえ話を次々に繰り出して来るし、ドーキンスの本の一節には「・・私の初めての通信簿には・・こう書かれてあった<ドーキンスには三つのスピードしかない。つまり、遅い、ひじょうに遅い、止まっている、である>」という挿話から「進化の停滞期」の話に入るのである。
養老孟司のエッセイは筒井康隆が絶賛したように鋭く、クールでブラックなおもしろさがたまらない。
 どの本も生物(特に進化のところ)に興味を持った人ならば十分に楽しめるはずです。


1993
安部公房追悼・・・「壁−S.カルマ氏の犯罪」

 一月、ディジィ・ガレスピー、園山俊二、オードリー・ヘプバーンと訃報がつづき、とどめをさすように安部公房も亡くなった。
相撲取りやお廻りさんが自分より若いひとが多くなると歳を取ったと感じるものだが、若い頃から親しんできたミュージシャンや俳優、漫画家、作家が次々に死んでいくというのも自分の一部が失われていくようではある。
 安部公房を知ったのは高校に入学したばかりの頃だった。
図書室の棚から何気なくとった「安部公房作品集」の巻頭、「S.カルマ氏の犯罪」を立ったままちょっと読んだ。

 衝撃だった。

 そのときの図書室の様子、手に持った本の感触をいまでもはっきり思い出すことができる。
朝眼を覚ました主人公が自分の名前を失っていることに気づくところから、最後の「見渡すかぎりの曠野です。その中で僕は静かに果しなく成長していく壁なのです。」というフレーズまで、シュール・リアリスティクなイメージと不思議なユーモアのまさに静かな嵐だった。
 こういう小説を読みたかったんだ。
オスカー・ピーターソンのピアノもいいけど山下洋輔のフリー・ジャズも面白い。ヴィバルディの「四季」もいいけどバルトークの「弦楽四重奏」はもっと面白い。えーと「さだまさし」より「三上寛」のほうが・・というような感じ・・・か?。

 今読み返すと、筒井康隆の近作のごとく前衛的かつ面白い小説を読んでしまったので当時ほどの感動は望めないが、私は高校一年生でこの本に出会って「世の中にはまだ知らない面白いことが沢山あるのだよ」ということをあらためて認識したのであった。

 というわけで、知的な生徒諸君に安部公房著「S.カルマ氏の犯罪」を推薦する。  (この作品は中編なので新潮文庫「壁」か作品集を捜して下さい)


1993.
今回のテーマは恋愛小説だそうで

 図書室の日本文学の棚をながめてみました。
今回のテーマに合った本というと、「100%の恋愛小説」のコピーでベストセラーになった村上春樹「ノルウェイの森」しか思い付かない。
新作「国境の南・・・」もそうだったけど、読み終わって時間が経つと細かいストーリーは忘れて、実に面白かったことと妙に靜的な透明感のあるエロティックなシーンの印象が強い。全く独特な村上春樹節だ。
村上といえば村上龍「トパーズ」も書架に並んでいる。これも実に面白く村上龍を見直した。でも初心者(何の?)にはおすすめしません。

 同じ書架に筒井康隆の七瀬三部作がある。こういうのをぜひ読んでほしいと思う。「家族八景」「七瀬ふたたび」「エディプスの恋人」筒井SFの傑作です。
でも「心温まる」「恋愛小説」ではないだろうなあ。


1992
映画もいいけど本も読めよな

 今回のテーマは映画化された小説ということですが(変更してないよね石野君?)
僕は好きな小説が映画化されてもあまり見る気になりません。本で読む方が確実におもしろいからです。

 高校生のときマルキ・ド・サドの「ジェスティーヌ」という小説を読みました。
これは美貌の姉妹の姉ジュリエットはこの世の悪徳すべてを身につけ栄華を極め、美徳の権化の妹ジェスティーヌは悲惨のあげく雷に打たれて死ぬ。という、反モラル・反宗教的な寓話なんですが、眼からウロコの落ちるおもいでいたく感動しました。
そうか小説っていうのはなんでもありなんだ−−−!!。

たまたまそのすぐ後に映画化されたのでわざわざロードショーを見に行ったのですが・・・なんと!
悪徳の姉はその報いを受け、妹は美徳ゆえ助かり幸せになりました、などという原作と反対の凡庸な話になっているではありませんか。
これ以来小説の映画化には期待しないようになりました。

 最近の映画ではS・キングの「スタンド・バイ・ミー」T・ウルフの「羊たちの沈黙」を映画化したのは原作の雰囲気がよくでていたけれどやっぱり小説の方がおもしろかった。

 小説の映画化で印象に残っているのは「ブレード・ランナー」。P・K・ディックの「アンドロイドは電気羊の夢をみるか?」があんなふうに映像化されるとは思わなかった。

 キューブリックも「シャイニング」より原作をまったく自由に改変した「博士の異常な愛情」の方がおもしろいと思う。
 今回の結論・小説は小説。映画は映画。


1992
筒井康隆のこと

 「私の好きな現代作家」というお題を頂戴しました。
好きな作家は大勢いますが、<旧作はすべて読破し新作を本屋で見つけたら長編短編随筆を問わず即レジへ持っていく>という作家は現在、S・キング、C・カッスラー、J・ケラーマン、筒井康隆、小林信彦、村上春樹の六人です。(漫画家も入れたい所ですが、また次の機会に。)

さて、私のこの<発見・即・レジ行き>作家は何人も入れ替わってきましたが、二十年以上変わらないのは唯一人、そう筒井康隆です。今回は彼の作品について書くことにします。

今の高校生は筒井康隆を読まないのかしらん。図書室には全集が揃っていますがあまり貸し出されていないようで残念です。私は、中学二年生頃からSF小説にのめり込み、その一環としてデビュー間もない筒井康隆を知りました。
 以後二十余年、同時代の作家としてリアルタイムで彼の作品を読み続けて来れたのは全くもって幸運でした。

 彼の作品は大ざっぱに分けて二つの傾向の作品群があるように私には思えます。
 一つは、ナンセンス、シュール・リアリスティックで笑いをさそうあるいは痛快な小説。 もう一つは、叙情的な、人の心の深層に潜行していくような、何とも言えない不思議な作品群です。

 前者で私の好きな作品は、「マグロマル」「関節話法」「また何かそして別の聴くもの」など言語そのものを扱い爆笑をさそうもの。「48億の妄想」「俗物図鑑」「大いなる助走」「おれに関する噂」などの疑似イベントものなど。

 後者では、「わが良き狼(ウルフ)」七瀬三部作として有名な「家族八景」「七瀬ふたたび」「エディプスの恋人」それから「旅のラゴス」そして私の一番好きな短編「家」などがあります。
 彼のようにアイディアと想像力と芸術性を圧倒的なおもしろさの内にまとめ上げた作家が他にいるでしょうか。

最新刊「夜のコント・昼のコント」は十八篇の短い小説が集められています。これには純文学的な幻想小説から嫌煙権の行き着く先最後の喫煙者の演じるドタバタまで、多様性に富んだきわめつきのおもしろさを持つ作品が詰まっていました。
 先月この本を読んで私は完全に圧倒され同時代に筒井康隆が生きて小説を書いている幸せをしみじみとかみしめたのでした。


1991
本格ミステリとハードボイルド

 まず私のミステリ小説体験から書くと、高校生までは当時の本好き少年の必読書「シャーロック・ホームズ」「エラリー・クイーン」「ファイロ・ヴァンス」「エルキュール・ポアロ」等の名探偵もの、いわゆる古典的本格推理小説を読んでいて好きではあったけどいわば余技で本業(!)はSFマニアでありました。

それが浪人してたころからミステリ特にハード・ボイルドが面白くなってハヤカワ・ミステリ(新書版で独特の色と表紙のミステリ専門のシリーズ本。新刊はけっこう高いから古本屋で買うのを勧めます)を積み上げるようになりました。
 私の好きなミステリを紹介しますが、ミステリと言っても、ホラー・冒険小説・スパイ物などいろんなジャンルがあります。今回は本格物とハードボイルドに限りましょう。

まず本格物。謎ときを中心にして名探偵が出て来るやつですね。始めに書いたシリーズの定評ある作品はやはり面白いです。特にアガサ・クリスティーは、どうしようもない駄作と言う物がなく死ぬまで面白いミステリを書き続けたのはほんとに見事で、私は一時期毎日一冊ずつ1月以上ハヤカワ・ミステリでクリスティーを読み続けたことがありましたが、彼女の分身のような老嬢ミス・マープルが活躍する晩年の作品が特に好きでした。

 日本人作家を三人。まず横溝正史の「獄門島」「八墓村」「犬神家の一族」はなんと言っても面白い(映画は問題外)。
現在活躍中の作家では都筑道夫と泡坂妻夫。前者の「七十五羽の烏」は日本の本格推理小説ベスト1と断言します。後者は「11枚のとらんぷ」や亜愛一郎のシリーズが最高です。
都筑道夫と泡坂妻夫の二人の本格ミステリに共通することは、奇想天外なトリックと魅力的な探偵役そして全編に溢れる良質なユーモアです。

 さて、ハードボイルド小説についてですが、私立探偵小説ともいいましてアメリカの都市を舞台に私立探偵の一人称で語られ、謎解きより状況に応じて主人公が何を感じてどう行動するかに焦点をあてて書かれています。
よく誤解されますがアクションや暴力はほとんどありません。(アクション・暴力を扱うのは通俗ハードボイルドとかタフガイ小説などと呼ばれミッキー・スピレーンなどが有名ですがむしろ日本の大薮春彦や平井和正のウルフ・ガイの方がはるかに素晴らしい。これは別のジャンルになりますね)

 ダシール・ハメットとレイモンド・チャンドラーはハードボイルドの創始者ですべて面白い。特に前者は「マルタの鷹」。後者は「長いお別れ」。チャンドラーの「プレイバック」のなかの主人公フィリップ・マーロウの有名なせりふ<しっかりしていなかったら生きていられないない、やさしくなれなければ生きていく資格がない>って聞いたことありませんか。
こんな気の利いたせりふを吐きながら汚れた町を行く私立探偵、というのがハードボイルドです。村上春樹のような小説が好きな人には絶対気に入ると思いますよ。

 ハメットとチャンドラーの次の世代にあたる作家がロス・マクドナルドで、私立探偵リュウ・アーチャーが病んだアメリカを案内してくれます。「さむけ」「象牙色の嘲笑」など好きだなあ。

そして、彼ら三人を引き継いでまさに現代のアメリカを舞台に活躍するハードボイルド探偵たち−−ローレンス・ブロックの「八百万の死にざま」、マイクル・Z・リューインの「沈黙のセールスマン」ビル・ブロンジーニの「誘拐」(新潮文庫)、ロバート・パーカーの「約束の地」−−など現在の社会では単純な“正義の味方”はありえず、いろいろな問題を抱えるアメリカの都市での物語は日本にいても共感できます。

日本といえば最近(フリージャズ・ピアニストあがりの直木賞作家)原ォ は「そして夜は甦える」などで東京を舞台にハードボイルドを書いています。これも良いですよ。
ハードボイルドは気に入った作品を見つけたら、同じ主人公のシリーズを続けて読んで行くと面白いですし特に最近の作品は一冊ごとに主人公が(生身の人間であれば当然そうであるように)事件や人間関係の影響を受けてすこしずつ変化していくところがまた興味深いところです。
(ハードボイルドで紹介した作品は特記した本の他はすべてハヤカワ・ミステリ、早川文庫で読めます)


1991
スティーヴン・キングについて

 ホラー小説と言えばまずスティーヴン・キングだ。
彼の小説は「キャリー」「スタンド・バイ・ミー」をはじめ大半が映画化されている。しかし僕に言わせれば彼の小説は映画化する必要はない。
と言うのはスティーヴン・キングの小説は実に細かいところまで書き込まれていて、読んでいるうちに自分の頭の中に完璧に映像が浮かんできて良くできた映画を観た気になってしまうからだ。
だからあのキューブリックの傑作「シャイニング」でさえ、違う!こんなもんじゃない!と言いたくなってしまうのだ。

 これからキングの小説を読んでみようという人にはまず「呪われた町」(集英社文庫)「ファイアスターター」(新潮文庫)はどうか。
前者は吸血鬼の、後者は念力放火の能力を持った少女の物語である。どちらも彼の特徴である現代のアメリカ地方都市の市民生活の詳細な描写と超自然的なものとの対比が実に素晴らしく読みだしたら本を閉じたくなくなるほど面白い。
そして「シャイニング」(文春文庫)を読もう!雪に閉ざされた山中のホテルの管理人として一冬を過ごそうとした小説家に何が起こったか、
過去の亡霊・幽霊屋敷・超能力(シャイニング)をもつ少年・・・映画では大幅にカットされたエピソードの数々に読み終わるのが惜しくなり、残りのページを数えてもっともっと読んでいたいのにーと絶叫する事間違い無し。
 さあ後は出版されているどの本を選んでも間違いない。

この文章がでる頃に「ミザリー」以来16カ月も待った新刊「IT」がやっと翻訳出版されるはずだ。やっとスティーヴン・キング中毒の禁断症状が癒される。待ちどうしいなあ。


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