Easy Blog







by telephone, 2005.7.25
text by Yoshiyuki Suzuki
interpretation by Ryo Uchida
translation by Ikuko Ono

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 イアン・マッケイには誰もかなわない―――本当に、そう思う。午前中から約1時間、語りに語ってくれた超ロング・インタビュー、心して読んで下さい。

「新しいアイディア、新しいアプローチというものは2000人の前では起こらない。そういうのは20人〜25人が目撃するものなんだ」

おはようございます。このたびは取材を受けていただき、どうもありがとうございます。さて唐突ですが、本日はこのインタビューの後、どのようなスケジュールになっていますか? ツアーに出たりレコーディングに入っていない時のあなたの典型的な1日はどんな様子なのか教えてください。

Ian:ほとんどの時間を電話に費やしてるね。これには良い面と悪い面があって、デスクワークがとりわけ好きじゃない、ってことが悪い面。でも、人と話をするのは好きなんだ。人の意見を聞いて、問題を解決したり、会話を通じて解決の糸口を探ったりするのは、僕にとって非常に興味深い。もちろん、電子メールやそういった手段で議論をしたりもするけど、直接話すのと比べるとつまんないね。無感覚になるというか、どうも気持ちが悪い。メリットがあることは認めるけど、欠点をカバーできるほどのメリットはないと思うんだ。まぁ、他には、ディスコードの共同経営者として、レーベル運営の雑務をこなしていかなきゃならない。管理者の立場だからレコードのパッキングをやることはあまりないけど、実際、他に人手がなかったらそれもやるし、床を掃いたり、拭き掃除をしたりもするよ。僕は初めてバンドを組んだ時から、自分がいたすべてのバンドをマネージしてきたんだ。いまだにマイナー・スレットのことも、フガジのことも僕がやってるし、現在ではイーヴンスの事務関係のことを全部やってる。そしてこれまでに関係を築いてきた多くのアーティストたちのプロジェクトを手伝ったりもしてる。だから、基本的に予測不能な毎日だよ。今日はディスコードのオフィスに行かないことにしたんだ。自宅にいた方が雑音に邪魔されず、集中できるからね。ディスコードにいるとどうしても、僕の25年間に及ぶキャリアの遺産と格闘しなければならなくて大変なんだ。

一日中、電話で話している、その相手はどういう人たちなんですか?

Ian:君みたいな人たちさ。電話インタヴューは長年の間に何千回とやってるし、あとはディスコードと契約することに興味があるバンドの代表者と話したり、フガジのことでギーと話したり……。ここのところ、ある馬鹿げた訴訟問題に、かなり時間をとられててね。ナイキに関することなんだけど。

ああ、聞いています。実際どうなんですか?

Ian:本当言うと、コップの中の嵐みたいなもんで、大した問題じゃないと思ってるんだよ。マイナー・スレットのアルバム・ジャケットを流用したチラシを、ナイキが許可なしに作ってしまった、なんてことはね。でも、それに対する抗議の声がかなり上がったんだ。少なくともこの国では。だからとりあえず、なんらかのリアクションを取るに値する、創造的な解決にもっていくべき問題だとは思う。ナイキのやったことは確かに間違ってたし、多くの人々の感情を害した。感情を害された人々にとっては、なんらかの結果が出されることが重要なんだ。それがどういうものであるべきか、今はまだ検討してる最中なんだけど、非常に複雑でね。僕としては、ごく普通のよくある解決法以外のアプローチを考えてる。よくある解決法っていうのは、要するに、示談金をもらって和解することだけどね。示談金というのは本質的に口止め料で、この国では最も一般的な方法なんだ。特に大企業とモメごとが起きた時はね。訴訟を起こそうとすると、示談金のオファーがある。いったんそれに応じたら、その額を公にしてはならないことになってるんだ。僕はそういうのに興味はない。今回の問題も、僕自身が今までずっと従ってきた基本的な哲学とか理想、政治学に沿ったアプローチがしたいと思ってるんだよ。

あなた自身、今回のことで感情を害されましたか?

Ian:いや、あまり。戦争の方がよっぽど感情を害されるね。戦争は不快だ。人間の残忍性、貪欲さ、貧困。そういったものの方がよっぽど腹が立つ。ナイキの件では、ジャケットをパクった人たちは、純粋なファンだったんだよね。悪意があってやったわけじゃない。大企業の影響力とか、世間にどんな風に見られるかに神経が回らなかっただけなんだ。だから、僕が感情を害されたということは特にないよ。単なるケアレスミスさ。ある意味、腹を立てて大騒ぎしてる側から飛び出した言説の方に、ちょっとどうかなあと思わせるものがあるね。例えば……ナイキ・ストアに爆弾をしかけよう、なんていう脅しとか。むしろそういうものに気分を害されるよ。なるべく客観的に正しい事実をとらえておきたいんだよね。現実に世界では、無実の男が私服警官に地下鉄の車両の中まで追跡されて、頭に5発弾丸を食らう、なんて狂ったことが起こってる。そしてそれを引き起こしたのは、多くの人間を殺すために自爆することを選ぶ人間によって引き起こされたパニックと恐怖心、ときてる。さらにそれを引き起こしたのは、現在もイラクで進行中の占領政策と狂気の戦争なわけだ。本当に腹が立つのはこういうことだよ。感情を害される。それと比べると、スニーカーを作ってる会社のチラシがパンク・ロック・バンドのジャケットを使ったことなんて、全然たいしたことないと思うね。

様々な角度から見たとらえ方ですね。

Ian:そう、きちんと様々な角度から冷静に見れば、イラク戦争は犯罪だと分かるはずだよ。あんな戦争はあっちゃいけないんだ。始めるべきでなかった。信じ難いほどの過ちだ。最初から大間違いだったんだ。

そうですね。先日イギリスで起こったことも本当に狂ってると思いますし、やった方の言い分も理解できるってところが、また狂気の度合いを深めてる、というか。

Ian:異常な状況が飛び火してるからね。国家レベルでの狂気が、一般レベルまで波及してしまってる。

確かに……。質問に戻らせてもらいますね。改めて、イーヴンスとしての来日公演が決定しまして、心から喜んでいます。

Ian:僕もだよ。

まず、このバンドについて色々と質問させてください。フガジの活動停止にともなって新たにスタートしたプロジェクトという印象がありますが――

Ian:プロジェクト的な、副業的なものじゃなくて、普通にバンドだよ。僕らはバンドって呼んでる。2人しかいないから正確にはデュオなんだけど、まぁ、パンク・ロッカーとしてのバックグラウンドがあるからバンドって言っちゃうね。

あなたがエイミーと組もうと思いつき、実際にバンドを立ち上げるまでにはどのような経緯があったのでしょうか?

Ian:エイミーとはつき合いが長いんだ。過去にも何回か、他のバンドの時に一緒に仕事をしたことがあったし、彼女はKレコーズのロイスのツアーでプレイしたりしていて、僕も彼女らのレコーディングにつき合ったりした。それから、僕の弟のアレックスとザ・ウォーマーズっていうバンドもやってたし、そういったことを通じて彼女とはとても親しくなって、いつも音楽のことを話し合ってたよ。この10年ぐらい、ずっと「いつか一緒に音楽をやりたいね」って言い合ってたんだ。最初に言ったのは6年とか7年とか前になるかもしれない。でも、お互いに自分のバンドとか仕事で忙しくて、なかなか実現しなくてね。で、2001年にフガジが活動を止めて……確かブレンダンの子供が生まれるってことで休んだんだけど、その数ヵ月後に、今度はジョーの子供が生まれて。どうもまとまった活動の期間が取れない、っていう時期だった。僕としては音楽がやりたくてたまらなかったから、たまたまその頃、音楽活動をしていなかったエイミーに声をかけたんだ。実際に一緒にやるのはまったく初めてだったから、最初は緊張したけどね。でも、いったんプレイし始めたら、まったく努力を要しないくらいスムースにいったんだ。これは明らかにうまくいく、ってことですぐに曲作りに入ったよ。バンドとしてやってくとか、ライヴ・パフォーマンスをすることは念頭になくて、ひたすら一緒に曲を書いていった。何年も、そうやって個人的に一緒にプレイしてるだけだったんだ。その後、フガジの方がついに活動休止になった。その期間が永遠になるか、10年になるかは分からないけど、とにかく休止が決まって、僕としては解放された気分になってね。さらに1年ほどエイミーとプレイした後、「そろそろショーをやってみようか」ってことになったんだ。イーヴンスではすべてが新しい挑戦でね。僕らのライヴは全部、ロック向けのクラブじゃないところでやっている。フェスティバルもやらない。ロック・ビジネスには興味がないバンドだからね。僕らは音楽を、いわゆるロック的な環境から抜け出した場所へ持っていくことに興味を持っているんだ。このことはイーヴンスを日本に呼んでくれたタイムボムのスタッフにも話してあるけど、今回は招待されたことだけで幸運に思ってるから、あくまで例外的にロック・クラブでも演奏するんだ。ロック・クラブが嫌いなわけじゃないよ。ただ、音楽がある一定のタイプのヴェニューに押し込まれてる気がする。僕らは、セッティングによる制約を受けない演奏の仕方を求めてるんだよね。ロック・クラブでプレイするのって、あまりにもパッケージングされたものになりがちだと思う。3〜4組のバンドで合計4時間のショーになるってことが入る前から想像できて、まず最初のバンドが大音量でプレイして、幕間ではBGMが大音量でかかってて、次のバンドが大音量でプレイして……終わる頃には体中に煙草の匂いが染みついてて、「一刻も早く帰りたい」って気持ちになってるパターン。イーヴンスの場合は、僕ら1バンドだけで、自前のPAで、8時に始まって9時には終わる。しっかりと明るく照明のついた、禁煙の会場でプレイしてるんだ。人の家の裏庭でもやったし、駐車場でもやったし、インド料理店、ハイスクールの食堂、オープンな会場ならばどこでもやるよ。とにかく、音楽中心の考え方で、だからすごく気に入ってる。今までとは全く違う環境がね。フガジでプレイするのが気に入らなかったわけじゃないんだ。あれはあれで楽しんでたよ。でも、僕は人生を通して常に型を破ることを考えてきた。いつでもものごとを改善しようと努めてきた。これもその一環なんだ。つくづく思うんだけど、僕がこれまで自分の芸術、音楽を人々に公開してきたヴェニューというのは、自己破壊行動に基づいた経済で成り立ってるんだよね。それがどうしても、僕自身の性に合わなくて。

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