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Tokyo, 2006. 1. 21
text by Yoshiyuki Suzuki
interpretation by Stanley George Bodman
translation by Ikuko Ono

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シカゴのインディー・シーンと言えば、まずスリルジョッキーの連中が思い浮かぶが、ジョーン・オブ・アークというバンドを中心とした動きも非常に面白い。恥ずかしながら、そのことを本格的に知ったのはわりと最近で、ケイヴ・インのスティーヴン・ブロッズキーがサイド・プロジェクトのニュー・アイディア・ソサエティとして05年の6月に来日したとき、ちょうど対バンしていたオーウェンのライヴを見たのがキッカケだった。ちなみにオーウェンは、ジョーン・オブ・アークを構成するメンバーの1人=マイク・キンセラのソロ・ユニットだ。そんなわけで、もともとラインナップから音楽性まで定型にとらわれない表現活動をしているうえに、数々のプロジェクトが同時進行する状況もあって未だに彼らの表現活動の全体像を把握したとは言い難いのだが、とにかく遅ればせながら少しずつその実体に迫っていこうと考えている。
そこへタイミングよく、メイク・ビリーヴという新プロジェクトが登場してきた。ジョーン・オブ・アークのメンバーのうち、マイクの実兄であるティム・キンセラ、その従弟にあたるネイト・キンセラ、ラヴ・オブ・エヴリシングとしても活動するボビー・バーグ、そしてギタリストのサム・チューリック(今回の取材には体調不良のため欠席)が、敢えて「バンドらしい」定型をとってプレイしてみようというコンセプトで生まれたメイク・ビリーヴには、決まり事がないがゆえに可能性が多すぎて活動が拡散しがちなジョーン・オブ・アーク本体への刺激として機能させようという意図もあるらしい。05年にスティーヴ・アルビニの録音でデビュー・アルバム『ショック・オブ・ビーイング』を完成させた4人は、明けて1月に日本にやってきた。このインタビューはその際にとったものである。ステージ上では、単なる「おかしな人」に見えなくもないティムが、普段こんなことを考えているのだということを知ってほしい。彼らは現在のロック・シーンにおける数少ない「真のアウトサイダー」なのだ。


「僕らは大衆文化を拒絶する方法として、自然体であること、冷静でいることを選んだんだ」

今回、ライヴを初めて見せてもらってすごく驚いたのは、まずネイトが、ドラムを叩きながらキーボードを弾いているということでした。あのスタイルはどのようにして編み出したのですか?

Nate:シカゴでは、僕以外にも同じことをやってるドラマーが結構いるよ。ユーフォンのライアン・ラプシスとか、あと……名前は忘れちゃったけど、ロンサム・オルガニストのやつとかね。で、僕の場合は、いつもと同じセットアップのドラムキットの後ろに座って、いつもと同じように叩くのに飽きてしまって、ドラムにも新しいアプローチが必要だと思い始めてね。それで気分転換のために構成を変えて、キーボードを加えてみることにしたんだ。うまくいくようになるまでは時間がかかったよ。でもドラムとキーボードを同時にプレイするのにスタンダードなやり方が存在するわけじゃないから(笑)。よっぽど下手にやらない限り大丈夫なんじゃないかな。

Tim:実際、僕らもネイトの新しい挑戦を喜んでる。僕らの曲はどれもギターから始まるんだけど、サムが弾くギターは慌ただしいのが特徴的で、僕とボビーはどうしてもついてくことができないんだ。一方でネイトは、やろうと思えばサムの弾くフレーズと完璧に合わせて叩くことができる。ただ、そうすると音の総攻撃になってしまうんだよね。それが、キーボードの導入によって、ギターに逐一合わせたドラムから、空間に余裕のあるドラムに変わってきたってわけ。

基本的にみんな担当パートは一応それぞれ決まっているけれども、実際にはどんな楽器でもこなすマルチプレイヤーなんですよね?

Tim:ジョーン・オブ・アークではパートを取り替えたりしてるけど、メイク・ビリーヴではまだそこまでいっていないね。ちなみにジョーン・オブ・アークだと、ネイトひとりでドラム、ギター、ピアノ、チェロ、そしてアコーディオンまで担当してる。全て1時間のセットの中でね(笑)。僕らのリハーサル・スペースには楽器が山のように転がってて、先週なんか文字通り座る場所もないくらいだった。みんな色んなものをどんどん持ってくるもんでさ。最近はそうでもないけど、過去にはソングライティング自体、その場で誰かがプレイした楽器に合わせて行なわれてたんだ。逆にメイク・ビリーヴは、メンバーのパートを固定することを意識して組まれたバンドなんだけど、近い将来はそこから離れて、もっと自由度が増したバンドになっていければと思ってるよ。

とりあえず、このバンドでは特定のパートに専任してはいるけれども、実は他の楽器もできるっていうことが、音楽面にも何かの形で表れていると思いますか?

Tim:僕個人にとってはすごく重要なことだね。メイク・ビリーヴで練習する時……曲作りをしてる時もそうだけど、ボーカルの部分をふたつめのドラム・パートかストリング・セクションとしてみてるんだ。ストリング・セクションのようなハーモニーが歌えるわけじゃないけど(笑)、頭の中ではそういうふうに考えてる。この部分のカウンター・リズムはなんだろうとか、メロディーに関しても……ドラムもストリングスも自分ではうまくプレイできないけど(笑)考え方としてはそうなんだ。

ボビーはどうですか? ラヴ・オブ・エヴリシングではあらゆる楽器をこなしていますけども。

Bobby:ベースはベースだから、ベースのように弾きたいと思ってるよ。ベースってドラム・パートに対して色を添える役目だよね。僕の場合は、単純化しようとしてる。自分にとってなるべくシンプルな形になるようにね。ほとんどラモーンズみたいにしてしまおうという意識が働くんだ。

Tim:リード・ベースじゃなくてね。

Bobby:そう(笑)。ギターと違ってベースは低いところを弾くから。ギターの邪魔をしないようにプレイするようにしているよ。

じゃあネイトは? 他の楽器が弾けることはあなたのドラム・プレイに影響を与えてると思いますか?

Nate:いや、僕の場合はキーボードとドラムが一緒に使えるセットアップになってるし、結構、広範囲のことができちゃうからな。曲にもよるけど……キーボードを弾くのが好きな理由の一つは、ビートを刻むだけのドラムと違って音符が弾けて、メロディーが作れるところなんだ。サムのギターはとりとめがなかったり不協和音だったりするから、そこにメロディーをのせられるのが気に入ってるよ。

Tim:これは僕ら全員が感じてることだと思うけど、曲作りは鉱山の採掘作業みたいなもんでね。サムが持ってくるリフが川だとすると、その川底に小さな金塊が眠ってるんだ。どこかに歌が隠れてる。ただ、情報量が多くて苦労するんだけどね(笑)。可能性は限りなくあるから、3人でその中から歌を引き出すってことを意識的にやってるんだよね。

素人考えだと、メイク・ビリーヴの音楽は即興演奏から出来上がっているような印象も受けるのですが、実はその場でパッとアドリブで出てきたようなものだけじゃなくて、ちゃんと計算して作っているのでしょうか?

Nate:そう、そこがジョーン・オブ・アークとの違いでもある。ジョーン・オブ・アークのライヴでは、しばらくの間インプロヴィゼーションをしてる部分があるけど、メイク・ビリーヴではほとんどないんだよね。

Bobby:あっても1分ぐらいじゃないかな。

Nate:曲は基本的に固定されてて、即興的になるのは曲間とか、イントロの前とかになるんだ。

Tim:メロディーの1フレーズを比較してみても、メイク・ビリーヴの曲はジョーン・オブ・アークの曲よりもずっとタイトだと思う。ジョーン・オブ・アークの曲には全体的に余裕を持たせてあるんだ。いろんなバリエーションのために、もっとアブストラクトな作りになってる。メイク・ビリーヴの方がずっと設計されてるよ。

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