Tokyo, 2004.1.10
text by Yoshiyuki Suzuki
interpretation by Stanley George Bodman
translation by Ikuko Ono

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 2004年初頭に単独再来日を果たしたマーズ・ヴォルタ。筆者が観た渋谷AXと渋谷クアトロでの公演はどちらも超満員の客入りで、特にクアトロでのパフォーマンスは期待に違わぬ凄まじいテンションを放出していた。以下のインタビューはその本番前の楽屋にて、ギタリストにしてサウンド面での中心人物であるオマー・ロドリゲスを相手に行なったものである。
 彼らの日本公演は02年の初来日、サマーソニック03への参加に続いて3度目となるが、ファンの方ならばご存じの通り、これらの公演は全て異なった編成で行なわれている。べ−シストが交代しただけでなく、今回の来日ではオマーの実弟がパーカッショニストとして新たに参加しているし、なによりサウンド・マニピュレーターを務めていたジェレミーの不在は大きな違いだと言えるだろう。果たしていた役割が通常のバンドにはない特殊なものであるうえに、予想以上に早くバンドが活動を再開したこともあってか、彼を失った時にマーズ・ヴォルタがくぐり抜けた大きな試練とバンドとしての変化については、案外見落とされがちなのではないだろうか。しかし困難を経てなお、オマーが創造性の加速を緩めることはないようで、果たしてそれが今後どのような形でエクスプロードしていくのか、ますます彼らに対する興味はつきない。


「こないだメキシコのピラミッドを見に行ったんだけど、どんなドラッグよりもハイになれたよ。頂上に立った時、素晴らしいサウンドが頭の中で鳴り出したんだ。そういう音をキャプチャーできればな、って思ってる」

つい今さっき楽器を買ってきたそうですね。何を手に入れたんですか?

Omar:ヴィンテージもののシンセサイザーを2台買ったんだ、ローランドの7-D。グレートだよ。古いローランドのスペース・エコーとかが一杯置いてある店でさ。アメリカで買おうとするとすごい高価だから、嬉しかったね。

へえー。さて、僕は、あなたのことを「21世紀を代表するロック・ギタリスト」だと思っているのですが――

Omar:ええっ。アハハハッ。

あなたが使っているギターやその他の機材について、どんなものか教えてくれますか?

Omar:ライヴで使ってるのは、オレンジのアンプ。ペダルに関しては、いろんなものを使ってるね。エレクトロハーモニクスのメモリーマン、同じくエレクトロハーモニクスのホーリーグレイル、ローランドのスペース・エコー、ボスのDD5 デジタル・ディレイ、ランダム・アルぺジエイター、80-A フランジャー……。あとライン6も幾つか。ディレイのやつとかを、主にサンプリング・モードでね。それからあの紫のやつはシンセ・フィルターズ。シンセの音に近いような大音量のギターサウンドを作るためのものなんだ。アルバムでも、シンセサイザーはまったく使ってなくて、それっぽく聞こえるのは全部ギターの音なんだよ。キーボードで実際に使ってるのは、昔ながらのウーリッツァーとかオルガンだけ。それと……そうだ、リング・モジュレイター。あれは大好きだよ。そう、ムーグね。

あの独特な音をどういう風に作り出していくんでしょう。やはりスタジオで実験を繰り返すのでしょうか?

Omar:ツアーに出てる期間が長いから、ライヴで編み出していったサウンドをスタジオで再現する、っていう場合も結構あるよ。即興演奏の中で生まれたサウンドとかね。でもスタジオではやっぱり、大部分の時間が新しいサウンドを作ることに費やされるね。僕とエンジニアだけで心ゆくまで実験するんだ。ある特定の曲に取りかかってる途中で思いついた何小節かを、後で使うためにキープしておいたりとか。わりと抽象的な作業なんだよね。

そういう風にして作られた音から曲が生まれることもあると思うんですけれども、作曲に関しては、主にどういうところからインスピレーションを受けているのですか?

Omar:んーと……何にでも、どんなものからもインスパイアされるよ。例えば、すごくいい映画を観た後なんか、すぐに飛んで帰ってギターを弾きたくなるしさ。ツアーに出ることからだって触発されるしね。ステージでは既に出来上がった曲を演奏するわけだから、ホテルに戻ると新しい曲を書きたくなるんだ。僕はあまりテレビとか観ないんで、8トラックのレコーダーと小型のペダル持参でツアーに出るんだよ。だからホテルの部屋で思いつくままに弾いて、いつでも録音できるんだ。ほとんどノン・ストップで曲を作り続けてる生活だよ。

すごいですね。ちなみに、一般的にロックの世界で「ドラッグをやってインスピレーションを得る」という話をよく聞きますけども、あなたはそれについてどう思いますか?

Omar:僕の場合は違うんだ。ドラッグはもう卒業してるからね。ありとあらゆる麻薬のお世話になったよ。ヘロインからクラック、マリファナ、アルコール、煙草……。でも今はまったくやらないんだ。カフェインさえ摂らない。僕がインスピレーションを受けるのは、例えば、神秘的なものに触れた時なんかだな。こないだみんなでメキシコのピラミッドを見に行ったんだけど、どんなドラッグよりもハイになれたよ。ピラミッドの頂上に立った時、なんとも素晴らしいサウンドが頭の中で鳴り出したんだよね。そういう音をキャプチャーできればな、って思ってる。他には、食べ物に触発されることもあるよ。なかなか理解されにくいかも知れないけど、食べ物が引き起こす陶酔感ってあるんだよね。ある特定の組み合わせとか、辛い食べ物、唐辛子の類とか。人間が体内に入れた刺激で、脳の神経系統が伝達できることって、もっと評価されていいと思う。

なるほど。では、マーズ・ヴォルタがどのように曲を完成していくのか、具体的なプロセスを教えてください。

Omar:普通は曲が先なんだ。僕が曲全体を作って持ってくることから始まるというのがいつものパターンだよ。

もうその時点で曲全体が出来上がっているんですか?

Omar:ああ。曲を幾つか作って録音して、それをセドリックに聴かせてみて、一緒に1〜2曲を選んでそれを集中的に仕上げてくんだ。彼が聴いてピンとくる曲に対して「これでアイディアが浮かんだ」って言ってくるから、それを選ぶことになるけどね。そして歌詞をつけるのよりも先に、その曲をドラムのジョンに示して、時間をかけてタイミングや細かいアレンジを決めていくんだ。アレンジがほぼ決まったところで、セドリックが歌詞とメロディーを付けていく。で、メロディーができたら、今度はそれがうまく入るようにアレンジを調整するんだ。

他のメンバーのプレイからフィードバックはあったりしますか?

Omar:間違いなくあるよ。時には、僕の頭の中での聴こえ方に忠実にやってもらおうとすることもあるけど、ジョンのキャラクターが出てるドラミングになってるのを聴いて「へぇ、それもいいな」って思うこともあるんだ。僕が最初に思い描いてたフィーリングとは違ってるけど、それでうまくいっててエキサイティングなら、それでいくことは十分ありうるよ。

あなたの現在のギター・プレイは、コードストロークがほとんどなくて、延々とソロを取っているかと思うようなスタイルで、前のバンドの時とはかなり違っているわけですが、いつぐらいからこういうプレイを探求し始めていたのですか?

Omar:最近になってからこういうプレイを編み出したわけじゃないんだ。セドリックも僕も、アット・ザ・ドライヴ・インの前にやってたバンドが、マーズ・ヴォルタに近いサウンドだったんだよね。今の音は、その頃の音にアット・ザ・ドライヴ・インの音をミックスさせたようなものだとも言える。発展形みたいな感じでね。アット・ザ・ドライヴ・インの時に「前のバンドとは演奏スタイルを変えたい」と思って、より厚みのあるコードを使ったあのスタイルになった。でも、やってくうちにそれに限定される窮屈さを感じるようになってね。そして、当時のメンバーではその殻を破って成長することは難しかった。だからマーズ・ヴォルタという形で、過去と現在と未来を視野に入れた新しいサウンドを目指すことにしたんだ。

ちなみにサイド・プロジェクトのデファクトではベースを弾いてますが、デファクトとマーズ・ヴォルタでのアプローチの違いをどう考えていますか?

Omar:そうだな。デファクトではロックの世界にクロスオーバーすることが全くない、ってところが一番違うね。デファクトはラウドになることがない。僕らの中の穏やかな部分が表れたバンドなんだ。腰を落ち着けてチルアウトしたい、メロウなレベルで音楽を奏でたい、と思ってる部分が表に出ている。一方、マーズ・ヴォルタは僕らの全エモーションを出し切ってるバンドだからね。部屋でクラシック音楽をかけてリラックスしたいな、っていう感じがデファクトで、日頃のフラストレーションとか怒りとか、そういった感情のすべてを爆発させるのがマーズ・ヴォルタ。そういうのはラウドなギターを使った方がやりやすいからね(笑)。

なるほど。ところで7日の渋谷AXでのライヴを観て、インプロヴィゼーションの部分から曲の固定したパートに戻る時に、バンドの息がものすごくピッタリで驚かされたんですが、あれはどのようにして合わせているんでしょうか? 誰かがサインを出しているようにも見えなかったんですけれども。

Omar:いつもコミュニケーションを密に取ってるし、もうずいぶん長い間いっしょにプレイしてるからね。実際いっしょに住んでたこともあるし、ツアー中は狭いバスやバンの中で共同生活してるようなものだし。僕らのプレイにはそれぞれの性格が滲み出てると思う。このバンドのいいところは、それぞれパーソナリティーがうかがえる演奏をしていることで、そこは技術的なものではないんだ。親しい友人同士だと、お互いの機嫌がどんな感じかわかるよね。頭にきてキレそうな時、他人は騙せても身内は騙せない。それと同じで、お互いの演奏を聴いているとわかるんだよ。僕のギターやジョンのドラミングの雰囲気で、「そろそろ戻りそうだ」とか「そろそろ爆発するな」ってことが聴き取れるんだよね。そうやって楽器でコミュニケーションを取りながら合わせてるんだ。

例えば、ライヴで演奏のガイド役を勤めているのは、やはりジョンとあなたなんでしょうか。

Omar:楽器で会話してるのは、主に僕とジョンだね。

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