Tokyo, 2000.9
text by Yoshiyuki Suzuki
translation by Sakura Okada


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90年代初頭には、ニルヴァーナに入れあげるあまり、グランジに括られた他のバンドに対して必要以上に厳しい見方をしたため、マッドハニーのこともちゃんと評価できるようになるまでには、ずいぶん時間がかかってしまった。ニルヴァーナのアルバム『イン・ユーテロ』のライナーで、マッドハニーを「ロクでもないバンド」と形容したことで、ファンから文句を言われたこともある。やがて時はすぎ、「マッドハニーの連中がロクデナシであることは厳然とした事実だ」とは今でも思っているけれど(笑)、ようやくそのロクデナシっぷりを愛せるようになった。マーク・アームとスティーヴ・ターナーの2人が参加する、いきあたりばったりプロジェクト=モンキーレンチの新しいアルバムも凄く気に入った。そして、モンキーレンチ来日時にマークの単独インタビューをさせてもらうことにした。マッドハニーは常にメンバー全員で取材を受け、現場はいつも馬鹿ギャグ連発おふざけ大会になってしまうのだが、マーク1人と相対すれば真面目な会話も成立するはず、と以前から考えていたからだ。結果、彼の個人的な音楽履歴などが語られた、かなり貴重な発言がとれたと思う。

「人生を振り返る時『俺はなんてバカなことをやってるんだ』と感じるかって? うん、いつもだよ。後悔もしてないけどね」

今回モンキーレンチとして初めて来日して、すでに何回かショウをこなしているわけですが、ライヴ・パフォーマンスにおいてマッドハニーと何か違いはありますか?

Mark:うん、まずモンキーレンチではギターをプレイしなくていいから、歌に専念できるよね。

確かに。今回のライヴではオルガンを弾いてくれるかなあと期待してたんですけど、セットになかったのは歌に集中したいという気持ちが強かったからですかね?

Mark:うん、そうだね。それに新しいレコード『エレクトリック・チルドレン』でもオルガンはプレイしてないし。

そういえば、先週リキッドルームでのライヴを見たときに、随分女の子が多いなと思ったんですが、それには気づきました?

Mark:ふーむ、特に気づかなかったけど、すごくいいことじゃない? 確かに恵比須みるくでは多いなって思ったけど、別にモンキーレンチを見にきたんじゃなくて、ただ遊びにきただけかもしれないし。

(笑)。ところで『エレクトリック・チルドレン』がリリースされた今春にも、電話でインタヴューをさせてもらったんですが、その時「もうマッドハニーとしてのレコーディングをはじめた」と話していましたよね、その後どうなったんでしょう?

Mark:うん、あの時には3曲レコーディングしたんだけど、それからすぐモンキーレンチのツアーで忙しくなったから今はストップしてる。具体的に何があったかっていうと、インターネット上のMUSIC BLITZという会社から「自分たちのために特別に1曲欲しい」って言われてね。元MC5のウェイン・クレイマーがそこに関わってるんだけど、それで彼がジャック・エンディーノと俺たちと共同でプロデュースすることに決まったんだ。マッドハニーが3人になってたから、最初スタジオではスティーヴがベースをプレイすることにしてたんだけど、ウェインが俺の家に練習に来たりして「ベースやってもいいかな?」って言うから、結局そのレコーディングでは、彼がベースをプレイしてくれているんだよ。

今後マッドハニーは3人で続けていくことになるんでしょうか?

Mark:うん、誰かいいメンバーが見つかればわからないけどね。

将来的にはこの2つのバンドをどうやって続けていくんでしょう?

Mark:うーん、何というか、うまく言えないけど、モンキーレンチの場合はティムがテキサスに住んでいることもあっていろいろ難しい部分もある。でも現時点ではマッドハニーにベーシストがいないっていうことがあるから、それでもモンキーレンチの方がやりやすいとは言えるかな。今のところショウは楽しく進んでるし、それにギターのこと心配しなくてもいいし(笑)

なるほど。ちなみにモンキーレンチを最初に始めた時は、どういうバンドにしようとか、何か特別な考えがあったのでしょうか?

Mark:いや、なかった。モンキーレンチを始めた時っていうか、91年にモンキーレンチの最初のアルバムを作った時には、ティムがポイズン13っていう前のバンド用に書きためていた曲をリリースするのが目的で、バンドを始めるっていうよりも、曲があるから、とりあえずバンドを作ってアルバムを出そう、って感じだったんだ。でも2作目の場合は、特に曲があるわけでもなく、というより、曲どころか、どうしたいっていう考えすらなくて、ただ、モンキーレンチでまたアルバムを作ろうっていうメンバーの気持ちだけで始まったんだよ。そういう意味じゃ、縛られるものは何もないし、どんなスタイルにも挑戦できたわけだけど、今回は先にカバー曲を何曲か録音した後に、自分たちの曲作りに取り組んだから、今考えると、カバー曲を選んだ時点で今作の方向性が定まったんじゃないかな。

じゃあ、『エレクトリック・チルドレン』は、こういうアルバムを作ろうという最終目標があって生まれた作品というより、もっと自然発生的なものなんですね?

Mark:そうだね。みんな、それぞれ曲を書いてきて、アレンジはメンバー全員で一緒に練習しながらつけていってって感じで、全員が同じくらい貢献したし。あと、前回と比べて、時間にももっと余裕があったんだ。1枚目の時は、曲を覚えるのに1週間ちょっと、レコーディングに3〜4日って感じで、2週間のうちに全部やらなくちゃいけなかったんだけど、今作の場合は、曲作りにも数ヵ月かけることができた。あと、前回は、ティムとマーティンがシアトルに移ってきてすぐだったから、とにかく、アルバムに収録する曲をうまく仕上げることが先決みたいな感じだったんだけど、今回は、この7年の間にお互いと一緒に演奏をする機会が何度かあって気心がしれてたから、そういう意味でもやりやすかったね。

今回のモンキーレンチのアルバムは前作から8年経ってリリースされたわけですが、次のアルバムはもう少し早く聞けそうでしょうか?

Mark:実はもう新曲にとりかかってるんだよ。

ではもう、2つのバンドが並行して活動している状況なんですね。

Mark:うん、たった今はモンキーレンチとしてやってるけどね。

こういう風に、2つのプロジェクトが同時に進行している状況だと、曲を書いた時などにどっちのバンドで使おうか?なんて混乱してしまうことはないですか?

Mark:うーん、それはないかなあ。これはこっちのバンド用にって曲を書くんじゃなくて、まずアイデアが浮かんだらそれをメンバーの所に持っていくんだ。その後で、練習したり、アレンジする時なんかにバンドによって違いがでてくるんだよ。

その段階で、具体的にはどのような違いがでてくるんでしょう。

Mark:まず、たった一つだけ、2つのバンドに共通してるのは俺の声で、あとは全てが違うね。トムとティムは2人とも全然違うスタイルのギタリストで、スティーヴや俺のスタイルとも違う。ベースもスティーヴはマッドハニーとは違ったスタイルで弾くし、マーティンもダンもすごいドラマーだけど、全然違うタイプなわけだよね。ラッキーなことに俺はこういった素晴らしいミュージシャンたちと一緒にプレイしてるわけだよ。

たとえばティムとトム、そしてあなたとスティーヴのギター・プレイの違いは具体的にはどんなところでしょう?

Mark:えっと、ティムは俺が知ってる中でもかなり変わったギタリストなんだよ。彼はサム・ピックを使うんだけど、バレーコードは絶対に使わない。子供の頃にニック・ドレイクとかジョーン・レイヴォーンなんかのフォークを聞きながらプレイしはじめて、それからパンクに移ってったんだ。ただ、いろんなギター・プレイの影響を受けた今でもフォーク・スタイルが混ざってる感じ。トムはすごくクリーンなギターを弾く。U−メン(※シアトル・シーン黎明期のバンド)の時はディストーションをよく使ってたみたいだけどね。あと、彼も変わったコードを使うよね。9THとか7THとか。俺にはよくわかんないやつ。スティーヴはバレーコードをプレイするし、すごく面白いリードをひくね。自分のことに関してはよくわからないよ。

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