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Tokyo, 2005. 10. 5
text by Yoshiyuki Suzuki
interpretation by Kyoko Fukuda
translation by Satomi Kataoka

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 スキニー・パピー、そしてナイン・インチ・ネイルズの熱心なファンならば、きっとデイヴ“レイヴ”オギルヴィーの名を目にしたことがあるだろう。彼はそういったバンドの周辺で、どちらかと言えば裏方として能力を発揮し、いわゆるインダストリアル・ミュージックの発展に大きな貢献を果たしてきた人物だ。そんな彼が05年になって、キュートな女性シンガーと組んでジャカロープというユニットをスタートさせた。これまでに培ってきた技能と人脈を総動員し、ポップに弾けた――しかし奥行きの深いサウンドと表現イメージをクリエイトしているのが非常に興味深い。
 記念すべき初来日公演が行なわれた翌日にデイヴと対面し、ジャカロープのことだけでなく、それ以前のキャリアについてもじっくりと話を聞かせてもらった。


「これまでのキャリアで一番ツラかった経験は、やっぱりマリリン・マンソンの『アンチクライスト・スーパースター』の制作じゃないかな」

まだアルバムが出る前にインタヴューした時「北米の悲惨な音楽シーンに一石を投じたい」と意気込みを語っていましたが、実際に作品がリリースされ、ライヴ活動もスタートした今、どんな手ごたえを感じていますか?

Dave:おかしな話、どの国のリスナーも批評家も、マリリン・マンソン風の音、あるいはナイン・インチ・ネイルズ風の音が聴けると期待してたようなんだよ。実際にアルバムを聴く前から、みんなそういう先入観を抱いてたんだ。だから、実はそうじゃないと分かった途端、ちょっとした反発が起きたんだけど、実際に作品が出回り始めてからは、リアクションも素晴らしいものに変わっていった。アルバムをリリースしたどこの国も、みんな本当に気に入ってくれて、テレビでもラジオでもガンガン取り上げてくれてるしね。まさに僕が計画していた通りのことが実現しつつあるんだ。ちなみに日本は、そういう反発が起きなかった唯一の国なんだよ。ところがスカンディナビアの方じゃ最初は総スカンをくらったし、カナダですらそうで、みんな期待してたものと違ったもんだから混乱しちゃってね。でも、その1〜2ヵ月後には、批評家からもリスナーからも「2005年のベスト・アルバムだ」っていう正反対の評価が出てきたんだ。「最高にゴキゲンな、新しいタイプの音楽だ」ってね。まさにこっちの思惑通りに、うまく進んでくれているという感じさ。

「ポップなものを作ろうと、最初から意図的に考えていた」と言っていましたよね。

Dave:その通り。

そういう意味では、コアなインダストリアル・ロック・ファンからの反発というものも予想できていたのではないですか?

Dave:確かにね。ただ、僕でさえ意外だったのが、プロの批評家まで挙って反発してきた、ってことでさ。それには不意を突かれたというか、「批評家の多くは実際レコードをきちんと聴かずにレヴューを書いてるんだ」って、すごく考えさせられたよ。「このレヴューを書いた批評家は、きっと1曲さらっと聴いただけで書いたに違いない」ってね。アルバムをきちんと最後まで聴いてたら、こんなレヴュー書けるワケがないっていうような内容だったからさ。おかげでライターたちに対して新たな軽蔑の念が生まれたよ……主に北米のライターたちのことを言ってるんだけど。そんなやつらが仕事にありつけてるということ自体が、ショックだったね。あとおかしかったのが、最初は特にハードコアなインダストリアル・ファンの中で反発が起きたわけだけれど、その後いきなり他の連中が「これ、最高じゃないか! 何が不満なわけ?」って言い出して、ファンの間で議論が起きたんだよ。そんな風にファンベースの中――友達同士の間で――このアルバムについて議論が起きたっていうのは、すごく嬉しいことだと僕は思ってる。僕がこのアルバムを通して言いたかったのは「インダストリアル・ミュージックが好きなのは大いに結構。でも他のタイプの音楽に対してオープンになることもできるはずだ」ってことだからね。別に、アヴリル・ラヴィーンやブリトニー・スピアーズを好きになれって言ってるんじゃない。もともと大好きなハードコア・ミュージックから新たに派生した、素晴らしいスタイルの音楽がここにあるわけでさ。ファン自身もようやく、そのことに気づき始めたんだ――「自分たちの大好きな音楽が装いを新たにしたのが、このジャカロープなんだ」ってね。これもまさに僕が狙っていた通りの展開になっている、と言っていいんじゃないかな。

この夏ナイン・インチ・ネイルズが来日した際、トレント・レズナーにも同じような質問をしたのですが、あなたが敢えてポップ・ミュージックを作る理由は何なのでしょう?

Dave:そっちの方が、もっと大変でやりがいがあるからさ。僕に言わせれば、枠に縛られない何でもアリの実験的な音楽の方が、作るのがずっと簡単なんだ。僕にとってもトレントにとっても、何千人なんていう限られた人数じゃなく、何百万人というリスナーに対して音楽を発信する方が、いろんな感性を取り入れなければならなかったりするし、ずっと大変なことなんだよ。「今まで聴いた中で最高だ」と思ってくれる人間が500人いるけどそれ以外の人間は聴きもしない、っていうようなノイズ・レコードの方が、よっぽど作るのが簡単なわけ。そんなレコードより何百万人もの人が聴いてくれるレコードを作る方がずっと大変だし、だからこそチャレンジするんだよ。僕やトレントが理解してて多くの人間が分かってないのは、そこなんだよね。よくトレントと冗談で言ってるんだ――「お前と俺とで、たった1日で作ったインダストリアル・レコードの方が、他のやつらが手間暇かけて必死で作ったものより、きっとずっと良かったりするんだよな」ってね。実際、努力なんて全く必要ないわけだから。でもそんな簡単なもの作ったって、楽しくともなんともないのも事実で、アンサンブルの豊かな、世界中のラジオ局がかけてくれるような音楽を作る方が、大変だけどずっとやりがいがあるんだ。

なるほど。

Dave:ただ、ハードコアなエクスペリメンタル・レコードも作りたいとは思ってるし、必ず作るよ。それはジャカロープではなくて別のプロジェクトとして取り組むつもりだけどね。純粋なインダストリアル・ファンを満足させるためのレコードは、そっちでやるんだ。でもその前に、まずはジャカロープを強固な存在にしたいんだよ。そうすることで逆に、自己満足のための――他人が聴いてくれるかどうかは二の次の音楽を、別の場所で作って楽しむ余裕も生まれてくると思うからさ。

では、そうした特性を持たせたジャカロープの音楽に、ケイティはどのように貢献してくれていると思いますか?

Dave:ケイティのポップ・センスは僕のとはかなり違ってる。僕はメロディが好きで、そのことは僕の強みだと思ってるんだけど、彼女のポップ・センスっていうのはそれ以上に強いものなんだよね。それから歌詞に関しても、ジャカロープの詞のアイディアは全て彼女から生まれてきたものだし、実際に彼女が歌を通じて言おうとしてることはとても素敵で、すごく感銘を受けてるんだ。ポジティヴだし発想もすごくいいし、まるで絵を描いてるみたいな歌詞なんだよね。それは僕には決してできないことで、だから彼女の貢献がなければ、ジャカロープは全くの別物になってたと思うよ。

ヴィデオクリップなどを観ても、非常にコンセプチュアルな独特の世界観を感じるんですが、あれらはどういうところから生まれてきたものなんでしょう?

Dave:僕らの周囲にいる、ものすごく才能のある連中から生まれたものだよ。僕のワイフのローズマリーもその一人で、ヴィジュアル・アスペクトの多くは妻が手がけてくれた。彼女は本当に素晴らしいアーティストだから、そこに魅力を感じて、ぜひ参加してもらいたいと思ったんだ。もともと僕は広告の世界にいたんで、自分の持ってるアイディアを大衆に伝える方法を頭の中では分かってるつもりなんだけど、それをアートの形で表現する能力が今ひとつなんだよね。そこで、僕の中にあるアイディアや気持ちをどんな風に表現してほしいかを、ワイフとヴィデオ監督に伝えて、それを2人の間で具体的な形に映像化してもらってる。そのプロセスたるや、まるでマジックを見ているようさ。そんな風にして色んな才能の持ち主たちに囲まれながら、こっちが望んでいるものを彼らに形作ってもらうことで、本当にスペシャルなものが創り出されているんだ。ジャカロープのヴィデオの秘訣はそこにあって、一緒に作業してくれてる連中が、僕の持ってるアイディアを必ずスペシャルなものに変身させてくれるっていう感じなんだよ。

ヴィデオの中では、ミステリアスな科学者と少女の関係が描かれていますが、このストーリーはこれからどう展開していくのでしょう?

Dave:今月末には3本目のヴィデオを作って、そこで続きを描くことにしてる。以前にも話したと思うけど、念頭に置いているのは『スター・ウォーズ』のようなコンセプトなんだ。『スター・ウォーズ』では物語が完結するのに6エピソード必要だったわけだけど、このストーリーも、ケイティが演じるキャラクターの物語がずっと続いて、今のところ彼女は自分が誰なのか、何故そこにいるのか、自らが現実なのか天使なのかドクターの創造物なのかも分からないんだよね。でも次の新しいヴィデオでは、彼女は自分自身のことをさらに知ることになる。これまで暮らしてた世界から完全に自由になれたと思ってたけれど、実はそれこそ自分の世界だったんだと気づくんだよ。これはずっと僕の頭の中であたためてたストーリーで、それをこういう形でみんなに見てもらうことにしたんだ。普通、音楽なりヴィデオなりに「コンセプト」って言葉がついただけで、とんでもなくつまんない代物になりがちだけど、僕は一連のヴィデオを通して「確かにこれはコンセプチュアルな作品だけど面白いぜ」ってことを訴えようとしたわけ。どんなストーリー展開になるかは僕以外誰も知らないけど、これから先もずっとストーリーは続いてくよ。まあ、これ以上は詳しいことは話せないな。

(笑)。

Dave:少なくとも次のヴィデオでは、ケイティが自分は何者なのかをさらに知ることになるのは確かさ。でも今は、彼女にさえ全て秘密にしてある。知ってもらいたくないし、あまり考えてほしくもないんだよね。新鮮なリアクションをヴィデオに収めたいんだ。だからその都度その都度「今から君のキャラクターはこうなる」と伝えるだけで、先のことは絶対に教えないんだ。考える間を与えたくないからさ。だからヴィデオに収められてるのは「こうなる」と伝えた瞬間に彼女が見せたリアクションばかりなわけ。現場でのそういうやり方とストーリーの内容が似通ってるのは確かだね。マッド・サイエンティストによって創られた少女が、自分がどこからやってきてどこに向かおうとしてるのか分からずにいるわけだから。実際の撮影プロセスもそんな状態にしておきたいんだ。

次のヴィデオが今から楽しみです。

Dave:次のは構成をふたつに分けて、バンドのライヴ映像も入れるつもりなんだ。昨日の晩のショウの映像も入れたいと思ってる。彼女が実はシンガーだっていうことが分かる、という設定になってるからね。

なるほど。

Dave:おっと、これはケイティには内緒だよ(笑)。で、まずは適法かどうかを調べなきゃならないけど、東京の映像も何らかの形で入れるつもりではいるんだ。

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