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Tokyo, 2003.11.4
text by Yoshiyuki Suzuki
interpretation and translation by Erika Yamashita

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 80年代初頭にはアイシクル・ワークスの中心メンバーとして、ティアドロップ・エクスプローズやエコー&ザ・バニーメンなどとともに、ネオ・リバプール・シーンの一翼を担ったイアン・マクナブ。バンド解散後もソロ・アーティストとして、『ヘッド・ライク・ア・ロック』『マージービースト』など優れた作品を地道に作り続けてきたが、そんな彼の来日が03年、アルバム『ジェントルマン・アドヴェンチャラー』のリリースに合わせて唐突に実現した。新宿のライヴハウスにて行なわれた弾き語りのパフォーマンスは、そのソングライターとしての才能が未だ衰えるどころか、さらに磨きをかけられてきていることを証明する充実した一時となった。以下はその翌日に行なわれた貴重なインタビュー・テキストとなる。
 ただし……この時に新作の日本盤を発売した日本のインディー・レーベルがとんでもないところで、ここでは詳細は省くが、イアンは詐欺にあった形となり、現在も問題は解決していない。よって、非常に残念なことだが、本文最後の発言に反して、再来日のメドは全く立っていない。ここに記事を掲載することが、少しでも事態を良い方向に動かす手助けの、ほんの糸口にでもなってほしいと思う。
※ちなみに、インタビュー中に出てくるベスト・アルバム+レアトラック集『Potency』(※次ページにジャケットを掲載)は04年6月にリリースされた。イアン・マクナブのソロ・キャリアに関する格好の入門盤となっているので、機会があったらぜひ聴いてみてほしい。


「アイシクル・ワークスを再結成しないか?っていうオファーもあったけど、僕は首を横に振った。そういうことをしてもソロの方の価値が低いみたいな感じにしかならないだろ。金だけのために何かやったことは1度もないし、やっぱりそれはやっちゃダメだっていう直感があるんだ」

今回あなたのライヴを観ることができて、とても嬉しかったです。新作『ジェントルマン・アドヴェンチャラー』が発売になり、本当に久々の来日も果たしたわけですが。

Ian:そう、ほとんど20年ぶり。地球の裏側で、今も僕のやってることに興味を持ってくれてる人がいて、そこまで来られたんだから嬉しいね。僕の音楽を聴いてくれる人達がいる場所なら、どんなところでも行くよ。

『ジェントルマン・アドヴェンチャラー』は全部1人で作ったということですが、どうしてそういうことになったのですか。

Ian:その前のアルバム(※『Ian McNabb』:通称『バットマン』)はいろんな人と一緒に、フル・バンドでやったんだよね。で、今作はもともと、リバプールのスタジオで新曲のデモを作るぐらいの気持ちだったんだ。そしたらスタジオがバーを改装中で「デモ・スタジオは使えないけどちゃんとしたスタジオなら空いてる」っていうから、こりゃあ神のお告げだと思ってフル・アルバムを録ることにしたんだよ。それでも、使うのはごくごく基本的な機材でいきたいと考えてね。大々的なプログラミングなんかはやめて、ちっぽけなドラム・マシンだけ使ってごくシンプルにやりたかった。で、20ぐらいの楽曲を……13日間で録ったのかな。ギター2本とドラム・マシンとキーボードを少しと、それだけで。そうやって録ったものが気に入ったんで、このまま出そうって思ったんだよ。ソロとしてのデビュー作『トゥルース・アンド・ビューティ』に似たシンプルさを狙ったんだ。ちょうど10年目だからね。それにまあ、そうやった方がずっと安く済むし(笑)。

『トゥルース・アンド・ビューティ』には2〜3人は参加者がいたんじゃありませんでしたっけ?

Ian:いや今回と全く同じで、僕と、ロイ・コーキルっていう仲間がドラム・マシンとベースを全部やってくれて。

バンドにはバンドのバイヴというものがあり、一方でソロ・アーティストとして全てをコントロールしたいという気持ちもあると思うのですが、その辺のバランスはどうやってとっているのでしょう?

Ian:ソロでやるのはすごく好きだな。ギター1本ででっかいPAを通してやってる時って、大きなノイズも出せるし、とても小さな音でもできる。テンポや、その日によってちょっと曲調を変えたりできるし、喋りも長くてもいい。でもバンドだと、リハーサル済みのものをセットリストに沿ってやるからね。ソロでライヴをやる時には僕はセットリストは作らないんだ。DJみたいなもので、観客の反応を観ながらやる曲を決める。全体的にソロの方がコントロールはずっと効くよ。ま、どっちも好きだけどね。両者はとても違うんだ。もちろんエレクトリック・ギターで思いっきりロックするのもやりたい。典型的なシンガーソングライターの枠に収まってしまいたくはないしさ。

今回のアルバムではドラム・マシンの音をわざとチープな感じで使っていて、味があっていいなと感じたんですが、今はスタジオ技術が発達していて打ち込みでもリアルなドラムの音を作ろうと思えば可能ですよね。そういうことに興味はないのですか?

Ian:だけど、リアルって何?っていう話でさ。僕にとってはリアルなものっていうのは歌そのものなんだ。確かに『ジェントルマン〜』には、いちばん安いドラムマシンを持ってきてただスイッチを入れた、みたいなサウンドが幾つも入ってる。テクノロジーの力を借りてリアルなバンドみたいな音を作ることだってできたよ。でもそれをやるくらいなら、リアルな生身のバンドを持ってくるね。むしろ僕はとてもベーシックなサウンドにしたかった。初期のJJ・ケールや、ポール・マッカートニーの1枚目とか、あ、ほら、ロバート・ワイアットが安いキーボードやドラム・マシンを使ってたみたいな。歌そのものが素晴らしければ、充分にそういうサウンドに耐えうるだろうって思うんだよ。特に音楽に化粧して見栄えよく見せなくてもね。

今回の来日公演を観ても、弾き語りだけであれだけ長い時間もたせられるのは、ヴォーカルと楽曲そのものが持っている力以外の何物でもないと感じました。では、バンドでやる時と1人でやる時では、曲を書くプロセスに違いはないのでしょうか?

Ian:うん。というか、曲が良ければいろんなプレイの仕方があるって思っている方なんだ。決して究極の歌のかたちというのは存在しないんだよ。レコードを作る時も完璧というのはありえなくて、どこかで止めなきゃならないだけだし、ライヴならひとつの曲を毎回違う風にもプレイできるわけだし。ただ、ソロでやってる時の僕の歌は、歌が最初に出来あがった時に一番近いかたちだから、そこには特別なものがあるけどね。僕のファンにも、やっぱりでっかいロックのノイズが聴きたいからバンドの方がいいっていう人達もいるけど、バンドで演る時はちょっと声を張り上げたりしなきゃならないんで、歌い方も変わってきちゃうんだ。その点ソロのショウだと自然に歌えるから、ヴォーカルの質はそっちの方が高いと思うよ。

なるほど。最新作もかなり多くの曲が入っていて2部構成になっているぐらいですし、ここのところコンスタントにアルバムも出していますよね。自分は多作なソングライターだと思いますか?

Ian:そうだね。確かに年1枚はアルバム出すし、それでも書いた曲を全部リリースしてるわけじゃないしね。あまりアルバムが長すぎるのもなんだし、この曲はどうもアルバムに合わないとか、いろいろあるからさ。僕はいつでも曲を書いてるってわけじゃなくて、書く時期と書かない時期があるんだ。ていうか、ふだんは曲は書かないんだよ。それで、今だ!っていう時がくると10〜20曲を2週間ぐらいで書き上げてしまうんだ。今年(03年)はまだ10曲ぐらいしか書いてないんじゃないかな。これは少ないね。

充分に多いですよ(笑)、標準からすれば。

Ian:(笑)あ、そう? とにかく、今はあまり書く気がしない時期なんだ。でも、いったんインスピレーションが湧いてきたら、だーっと書き始めて、書きすぎてしまう(笑)。使わなかった曲は貴重版やコンピレーションなんかに入れられるから、いいんだけどね。最近も未発表曲の2枚組アルバムを出したばかりだよ。そういうのは本当のコア・ファンが買ってくれて、次のアルバムを作るための資金の足しになる。今は資金繰りは全て自前で回してるからね。自分のレーベルから出して配給元を通すんだ。もう、よそから金をもらってレコードを作るのはイヤなんだよ。利子を返したりしなきゃならないからさ。というわけで2004年には2枚アルバムを出すんだ。ベスト盤と、自分のニュー・アルバムをね。

楽しみにしてます。さて、曲を書く時に、メロディから思いついたりフレーズから思いついたり人によっていろいろだと思いますが、あなたの場合、歌いたいテーマが最初に明確に思い浮かんで歌詞とともに出てきたりすることが多かったりしますか。

Ian:特に決まった方法はないね。毎回違うよ。最初にすごくいいコーラスを思いつくこともあるし、とってもいいタイトルが浮かぶことだってある。その場合はタイトルに沿って何が言いたいのか歌の中で説明しなきゃならない。たとえば“ジャーマン・ソルジャーズ・ヘルメット・1943”っていう曲はタイトルから思いついたんだよね。だから、そこから歌を作るっていう挑戦だった。でもまあ一般的には、詞と曲は別々に書くんじゃなくて一緒に出てくることがほとんどだね。1回書いて、ずっと放置しておいてまた手を加えて全然違うものになることもある。そういう風に、歌はいつも進化し続けてるんだ。アルバムを作って出した後でさえ、曲によっては聴き返して「もともとの形の方が良かったなあ」なんて思うこともあるけど、その時はもうすでに遅し、だよ。

“ジャーマン・ソルジャーズ〜”を思い付いた時は、実際にヘルメットがあなたの前にあったんですか?

Ian:うん、ドイツ軍のヘルメットを持ってるんだよ。どこに引っ越してもそいつが身近にあるんだ。で、これで歌を書いたらいいんじゃないか、とね。で、どういう内容にしようかなと思って、子供の時に買ってもらってずっと忘れてたものを大人になって見つけた人間が、買ってもらった状況を思い出して胸が熱くなるっていうストーリーを思いついたんだよ。僕は、意外なところから感情に訴える詞を作り出すのが好きなんだ。言ってみればこれは僕の両親に向けたラヴソングだね。でも、“ママとパパへのラヴソング”なんていう曲は書けないだろ。ロックンロールじゃ親の話は喜ばれないからさ。

(笑)“ジャーマン・ソルジャーズ〜”をライヴで聴いた時、対訳はまだ読んでなかったのですが、歌の力そのものによって内容が伝わってきたような気がしました。

Ian:うんうん、そういうことなんだよね。物はドイツ兵のヘルメットでなくたっていいんだ、くだらないオモチャか何かでいいんだよ。でもこの歌、すごく気に入ってるんだよね。ちょっと普通と違う表現の方法だし。恋愛モノとかそういうのと違うだろ。世の中の歌はまあその手の内容が大半だけど。

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