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Tokyo, 2003.10.28.
text by Yoshiyuki Suzuki
interpretation by Stanley George Bodman
translation by Ikuko Ono

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03年10月、ついに初来日を果たし、期待に違わぬ凄まじいパフォーマンスを見せつけていったカーシヴ(※余談だが、東京2公演に関しては、イースタンユースの極東最前線に参加する形となった新宿リキッドルームよりも、ファウルのサポートを得た下北沢シェルターでのライヴの方が素晴らしかった。聞いた話では、さらに名古屋〜大阪〜京都と、回数を重ねるにつれてその内容は強烈なものになっていったという)。当サイトにも掲載してある通り、中心メンバーのティム・ケイシャーには、すでにE-メールおよび電話でインタビューしているが、もちろんこの機会にも再度対面で取材させてもらった。今回は、カーシヴの表現中に暗くとぐろをまく情念の本質にどこまで近寄れるかが自分にとっての課題だったわけだが、いざ彼の方から「自らの厄介な性格」について語り始めた時には、なんだか少し動揺してしまって、どうもうまく話を聞けなかったかもしれない。それでもこのテキストが、大傑作『The Ugly Organ』を聴きながら、その根底にある複雑な精神性について考えを巡らす手がかりのようなものになればいいと思っている。27日夜の打ち上げではシンディ・ローパーの“タイム・アフター・タイム”をカラオケで熱唱していたティムの姿を思い返しつつ、その特異な、そして希有な才能に改めて感じ入った。

「正直に言って、次のアルバムを作ること自体ハードだし、このバンドを続けるべきかどうか、すごく悩んだよ。でも結局、続ける努力をした方が最終的にはベターだって決心したんだ」

念願の初来日を果たし、昨夜には最初のライヴを行なったわけですけど、まずはその感想を聞かせてください。

Tim:目いっぱい楽しんでるよ。昨日の晩のショーもすごくよかった。日本であれだけ大勢の前でプレイできて光栄に思ってるんだ。イースタンユースとやらせてもらえたこともね。今年はこれまでずっとツアーし続けてきたから、すっかり準備はできてたし。ベストが尽くせたと思うよ。

イースタンユースとは、ずっとアメリカを一緒に廻ってきたわけですが、彼らの日本でのショーも観てみて、改めてどうでした?

Tim:本当に……圧倒されたね。彼らが彼ら自身のファンの前で演奏するのを観たくて楽しみにしてたんだ。アメリカであれだけ受け入れられたんだから、本来の環境ではさぞすごいんだろうと想像してたんだよ。どこでやっても、必ずオーディエンスを引き込んで、みんなに愛されてたからね。今回、日本の観客のエネルギーのすごさを感じることができたし、しかも、アメリカでの短めなセットとは違って曲数を多く聴けたこともよかったね。いい曲がたくさんあって感激したよ。

ちなみに、一緒にツアーした時の思い出やエピソードなんかがあったら教えてもらえますか?

Tim:とにかく、どこへ行っても盛り上がったんだ。イースタンユースはブラッド・ブラザースの前に演奏してたんだけど、ブラッド・ブラザースがいなかったジョージア州のアトランタでは、イースタンユースが格別にいいショーをやってくれてね。観客の反応が凄まじくて、グッズもよく売れてたよ。ソールドアウトの日も多かったし、客の入りは本当によかった。日によっては残念なことに、会場に入れない客が出たりもしたんだ。僕はおかしいと思うけど、クラブ側が混雑するのを嫌ってね。イースタンユースが目当てでチケットを買って並んだファンの人達が入れなかったことも何度かあった。彼らがアメリカを回るのは初めてじゃなかったし、すでにそれだけの実力があるっていう証拠だと思う。

ありがとうございます。さて、昨日あなた方のライヴを初めて観て、最新アルバムでの凝ったアレンジを手元のキーボード1台だけでかなり完璧に再現できていたと思うんですけども、やはり相当工夫は重ねたんでしょうか?

Tim:最新作のレコーディングでは、とにかく思いついたことは何でもやってみたんだけど、ライヴに関しても満足してる。『The Ugly Organ』というタイトルを決めた以上、なにがしかの形でキーボードを入れなければならなかったわけだけど、ちょうどTedがサンプラーを買って「曲間のSEとかに使えるな」と思ってたら、“Butcher the Song”のティンパニの音とか、“Some Red Handed Sleight of Hand”のオープニングとかを再現するのにも重宝したね。ライヴでの再現性には概ね問題なかったけど、“Bloody Murderer”だけはいくら頑張ってもできなかった。あれだけは鐘の音だの何だの入りすぎてて無理だったよ(笑)。キーボードで代用しようとすると、音はおかしくなるし、体裁もよくなくて。まあ、全ての細かいパートをキーボードに置き換えるにはある程度アレンジしなければならなかったけど、全体的には思ってたほど難しくはなかったな。確かに、ツアーの前には普通の大きさのピアノを使って練習してたから、それを小さなキーボードでやろうとすると、面倒くさい部分もあったにせよね。

本当はできることならキーボードは誰かに任せてしまって、自分はギターと歌と、ノリを生み出す部分に集中してみたいという気持ちがあったりはしないでしょうか?

Tim:いや、それは別にないよ。『The Ugly Organ』に関してはかなりうまくいったと思ってるんでね。もうこのアルバムでのツアーは4日間しか残ってないし、すでに気持ちは次のアルバムへと向いてるんだ。次のアルバムのためのソングライティングに入る時は、もうちょっと大きなキーボードを使おうと思ってるよ。もっといろんなことができるキーボードをね。そうだな、その時は6人目のメンバーに入ってもらって、任せてもいいかしれない。でも、5人でまとまるのも大変なのに、さらに増えたらどうなるんだろう、って気もする(笑)。

その、キーボードという楽器に対する興味は、『The Ugly Organ』というタイトルを思いついてから大きくなってきたものなんでしょうか?

Tim:うん、アルバム制作のプロセスの半分ぐらいまでは、キーボードっていう発想なしに、5人の楽器だけで書いたんだ。半分ぐらい行ったところでタイトルを思いついて、それからオルガンの音を入れることを考え始めたんだよ。クラシック音楽によくある、アルバム全体に渡って繰り返し現れるテーマみたいな感じでね。これまでのアルバムでも、主にテクスチャーに変化を付けるために、ちょっとずつピアノで作曲することはあったけど。で、今回の場合はライヴでもオルガンの音が必要になるってわかってたから、ついでにピアノの音も作れるサウンド・モジュールを手に入れることにしたわけ。それまではピアノの音をライヴで再現できなかったけど、今回からできるようになったんだ。

じゃあ、まだ話すのは早いのかも知れないですけれども、今後カーシヴの音楽性っていうのは、さらに劇的に変わっていくことが予想されるんでしょうか?

Tim:そうなるといいと思ってるよ。アルバム毎に変化していきたいと思ってるから。『The Ugly Organ』がチェロを大公開したアルバムだったとすれば、次のアルバムはピアノをフィーチャーしたアルバムになるかも知れない。キーボードを使って逆上した耳障りなサウンドも出せるって気付いてから面白くなってきてね。歪んだギター以外でアグレッシヴにプレイする方法として有効じゃないかって思えてきたんだ。いつもと違ったアングルでね。

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