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Tokyo, 2000.10
text by Yoshiyuki Suzuki
interpretation and translation by Ikuko Ono

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80年代に再結成して以降のキング・クリムゾンではシンガー兼ギタリストを務め、さらに、古くはトーキング・ヘッズ/デヴィッド・ボウイから最近ではナイン・インチ・ネイルズに至るまで数多くのアーティストとのコラボレーションを通じ、その素晴らしい才能を発揮してきたアーティストである。10年くらい前には、「ギターで動物と話をしたいと思った男」および「ギター1本でオーケストラを奏でようと考えた男」としてCMに登場していたことを御記憶の方もいるかもしれない。僕は、この人の歌や特異なギタープレイはもちろん、それらの表現活動を通じて伝わってくる人柄も含めて大好きで、いつか直接対面して話を聴きたいという希望を持っていた。その願いは、2000年10月、新作『コンストラクション・オブ・ライト』リリースに伴うキング・クリムゾンの来日公演が行なわれた際に実現された。従来のクリムゾンのコア・ファンの視点からとはまた違ったインタビューができたと思う。

「クリムゾンの難解な曲にフレンドリーな顔を付けてやるのが僕の仕事なんだ」

昨日までに、今回の来日公演を3夜分終えたわけですが、これまでのところ自分たちのステージについて、どのような感触を得ていますか?

Adrian:日本で演奏するのは大好きだから、戻って来れてすごく嬉しい。バンドは公演毎に少しずつ良くなってきてると思う。セットリストには新曲が多いからチャレンジのし甲斐があってね(笑)。

アルバム『ザ・コンストラクション・オブ・ライト』の日本盤の解説に、「“ザ・コンストラクション・オブ・ライト”を4人全員が一度もミスをせずに通しで演奏できるように、いつかなるだろう」というようなことが書いてありましたが、今では完璧に演奏できるようなったのでしょうか?

Adrian:(笑)。なったなった。大丈夫。今は他の曲でミスるけどね(笑)。

(笑)4日の渋谷公会堂でのショウを見させていただいたのですが、ロバート・フリップさんは、ヴォリューム・ペダルの操作に苦心しているように見えました。実際のところはどうだったのでしょうか?

Adrian:どうだったかな……。彼はいつもヴォリューム・ペダルを操作している。なんだか知らないけど、いつもいじくり廻してるね。

(笑)何か実験的な意味合いでもあるのでしょうかね?

Adrian:いや、実験じゃないと思うけど。ただ……とにかく気がつくとヴォリューム・ペダルを触っているから、僕も彼の所へ行って「こら、よしなさい」って言いたくなるんだよ(笑)。まぁ、僕達のステージには夥しい量のテクノロジーがあるからね。毎晩のように、メンバーの誰かの機材にトラブルが起きる。それでも笑っていられるのは、そういう時にどう持ち直すかが面白いからだろうね。一人が何かの問題で数小節の間いなくなった時に、どうやって切り抜けるか……その部分も僕達は楽しんで演奏してるんだ。

私が観た日も“太陽と戦慄・パート4”で、あなたのギターにトラブルがありましたが、そういうことが起きた時には、終演後にスタッフで反省会を開いたりするのでしょうか?

Adrian:うん、やるよ。あの後、専属のギター・テクニシャンに相談してるし、今も解決法を探ってるところ。何が問題だったのかまだハッキリしないんだ。急に一斉に止まってしまったんだよな。バンドとしてもいろんな話をするよ。前は――前回のクリムゾンの時は後で音楽の話をするということが全くなかったんだけど、今回のバンドでは終演後によく話し合うんだ。笑いながら、和やかな雰囲気の中でね。基本的に楽しみながらやってる。改良すべき点とか、変更点とか、曲順とか、テンポとか……結構細かい所まで、遅かれ早かれ話し合うって感じなんだ。

どのショウの後でも話し合いが持たれてるんですか?

Adrian:いや、毎回ってわけじゃないけどね。

前の6人編成の時はやらなくて、今になってよく話し合うようになったという理由は何だと思いますか?

Adrian:このバンドの方が、よりカジュアルでフレンドリーだからじゃないかな。リズム隊がトニーとビルからパットとトレイに替わったことは大きいと思う。パットとトレイが自分たちの演奏について積極的に話し合うから、僕やロバートも引き込まれるんだ。あと、ロバートにとってはドラマーがビルよりパットである方が落ち着くようだから、それも多少関係してるかも。

ビル・ブルフォード&トニー・レヴィンと、パット・マステロット&トレイ・ガンとでは、特に生演奏の場において、どのような違いを感じているのでしょうか?

Adrian:それを要約するのは僕には難しいけど、トレイとパットの方が今の時点で、より新鮮なアプローチを持ってるとは言えると思う。ドラミングは特に。パットは今まで誰もやったことないような画期的な方法を取り入れてるんだ。80年代にビルがやっていたようにね。もちろん、ビルとトニーに対して文句を言いたいわけじゃないよ。彼らは人間的にもミュージシャンとしても素晴らしい。今でも大好きな人達だ。ただスタイルが違う。新しいメンバーを迎え入れると、音楽にそれまでと違った特徴が加わって、選択肢が変わるんだ。でも、パットとトレイのリズム・セクションは、ビルとトニーと根本的に違うってことはないと思う。いろんな面で共通点は多いよ。

“ワン・タイム”や“ダイナソー”のような曲の場合には特に、シンプルな4人編成でプレイされた今回の方が、曲本来の魅力がより引き出されているのではないかと感じられました。あなた自身はどう思いますか?

Adrian:正直言って、僕も本当にカルテットの方が気に入ってる。各メンバーが貢献しなければならない度合いが高いし、より挑み甲斐があるからね。6人編成の時は、ドラムもベースも2人ずついたから、それぞれが少し譲りながら演奏してるような気がしていた。それに対して今の形だと、みんなが自分の領域でプレイヤーとして自由に君臨できる。ドラマーは一人だけだし(笑)。

今あげた2曲や、“ピープル”、“セックス、スリープ、イート、ドリンク、ドリーム”などには、あなたのポップ・ミュージック感覚が非常に良い形で反映されていると思うんです。他のメンバーが、いわゆるプログレッシヴなサウンドをクリエイトしていく中で、やはり、あなた自身はそこにどうポップさを持ち込もうかと常に意識して努力したりしているのでしょうか?

Adrian:いや、意識的にそうすることはないけど、僕の音楽の一部であることは確かだよ。僕には、よくできたポップソングが好きな一面と、キング・クリムゾンのような変わったアバンギャルドな音楽が好きな一面がある。その二つの要素を一緒にしてみたいという気持ちがあっても無理はないと思うんだ。そして、それがバンド内での僕の役割になってる。曲作りのプロセスの中で、自分のメロディーセンスを発揮できるなっていう場面があるんだ。だから、それをうまく乗っけられるように努力してる。例えば、新曲の中では――というより、クリムゾンの曲はどれを取っても難解だからね。それにフレンドリーな顔を付けてやるのが、僕の仕事なんだ。

『ザ・コンストラクション・オブ・ライト』に収録された“プロザック・ブルーズ”や“イントゥ・ザ・フライング・パン”では、従来のクリムゾンらしくない要素が出ていますが、これもあなたの貢献なんですか?

Adrian:いや、伝統的な形のブルーズを基に何かやってみようというのは、大分前からロバートと話してた事なんだ。クリムゾナイズされたブルーズをやってみよう、ってね。ある日、その線で僕がそれまでに出ていたアイディアを発展させてできたのが“プロザック・ブルーズ”だった。半分トラディショナルで半分モダンな感じにしてみたんだ。「今朝起きたら……(Well I woke up this morning)」という歌い出しは、ブルーズ曲の常套句だけど、その先が「医者にプロザック(抗うつ剤)を処方してもらった」と続くブルーズ曲は他にないと思うよ(笑)。“イントゥ・ザ・フライング・パン”の初めの方はプロジェクツの幾つかのトラックから流用した。後半は僕とロバートで新規に書いた。とても魅惑的なメロディーの部分と、ヘヴィなギターの部分が、交互に現れる所が気に入ってるよ。

ブルーズをやってみようっていう話を始めたのはいつ頃だったんですか。

Adrian:昨年か一昨年くらいじゃないかな。

その前はブルーズの曲を全然作らなかったのですね。

Adrian:ああ、純然たるものはね。ブルーズは禁じ手だったんだ。

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