第23回放送~ゲスト・小林信彦 その1
 
《完全キキトリ版》2002.4頃
 
大瀧;大瀧詠一のスピーチバルーン。本日のお客様は「小林信彦さん」で ございます。(1曲かかる。「恋という字はヤッコラヤーノヤー」(ノーチヨサン節))
大瀧;『テレビの時代』だから、19年前でしたか?
小林;19年前。
大瀧;はぁー。
小林;83年の5月。
大瀧;あー、そんなになりますか。
小林;ええ、だから19年前っすね。
 
大瀧;いよいよ、そんな時間が経ったんですねー。
小林;だから、私が50だったんだから。
大瀧;あの時に。
小林;あぁ。
大瀧;僕の年だったんですね(^_^)
小林;(^_^)
大瀧;そうですか。
 
小林;だから、その時になんかねー。イヤだなと思ったよな、TBSだったなー。
大瀧;あー、谷さんがガチョンをやったのね。
小林;ガチョン。ガチョンの写真撮るの、イヤだったですよ。もう50になって、こういうことをね、恥ずかしいなと思って。
大瀧;ふふふっ(^_^)。
小林;20代の時に面白がっていたことをね、50でやるっていうのもね。まあ、谷啓が・・・。
 
大瀧;谷さんは、同い年ですか?
小林;同い年。
大瀧;ねぇ〜!
小林;全く同い年。で、青島幸男も、石原慎太郎も、大島渚も皆同い年。
大瀧;あの時、50でTVのエレベータの前でガチョンをやってくれたんですね(^_^)。
小林;そうそうそう。で、あの人は春の生まれだから、1つ上じゃないかと思うんですけどね。
大瀧;そうですか、学年は1つ上ですか。
小林;うん、いやだから、なんかね。でも、良くやってくれたと思うんですけどね。
大瀧;ね。ガチョン、ビローンからオヒョンまで。
小林;イヤですよ、50でそんなのやるって。
大瀧;確かにねー。
小林;でも、今やってますけどもね。
大瀧;20代の。
小林;CMで。今、CMで彼やってるから。
 
大瀧;それじゃ、久しぶりですね。『小林旭読本』で。
小林;そうですね。
大瀧;ねぇー。あれ以来、ああいうものでしたねー。まあ、しかしアキラのココまで来るのにも長かったですねー。
小林;長いですね。大瀧さんが、アレでしょ?1番最初にアキラのアレを、ナイアガラでやったのはいつですか?
大瀧;アレは77年か、、
小林;77年かその辺・・
大瀧;でしたね。ええ、それは、前年かその辺に、あのー、クラウンの細野晴臣プロデュースの、小林旭のっていうことで関わりがあって。
小林;ええ。
大瀧;で、星野哲郎さんと、作詞で“ホルモン小唄”っていうのを作って。
小林;ええ。
大瀧;で、ボツになったと。そういう線があって。
小林;なるほど。
大瀧;やってましたけれども、まあその前から、あの、アキラはファンで。えー、CM制作の“オン”(ON?)というトコロがあって、
小林;はい。
大瀧;そこの大森さんなどがよく福生に来てCM作っていたんですけれども。
小林;ええ。
大瀧;その頃から、そのー、でしたよ。そういう、アキラについての。
小林;なるほど。
大瀧;ええ、話をずっとしてたんですよ。
小林;なるほど。
大瀧;でー、それがちょっとちょうど85年から6年にかけて「熱き心に」のCMやったんですけれども。
小林;ええ。
大瀧;その時は、そのCMの「オン」の大森さんという人が、話を持って来たんですよ。
小林;ふんふん。
大瀧;その小林旭の話が来たと。だから、その福生に行ったとき、クレージーだのアキラだの色んなモノに話をしたなーというのが頭にあって。
小林;ええ。
大瀧;で、随分あの頃、大森さんと。・・・断っていたんですけどね。仕事が忙しかったんで。
小林;なるほど。
大瀧;「今回は断れませんよー!」って言ってきたんですよ。“何”って言わないで。
小林;ふふふっ。
大瀧;それがねー、「熱き心に」のCMだったんです。
小林;あー、なるほどね。
 
大瀧;はい。あの時もねー、コロンビア、日活と話しかけたんですけれどもね。なんにも動かなかったですね。
 
小林;なんか・・・ニブいですな(^_^)。世の中っていうのは。
大瀧;結構、今回もね、私なりに(不明)しながら、ニブさは継続してるっていうカンジがしますけれどもね。
小林;『TVの黄金時代』の時だって、まあ、10年前っていえばそうだけど、色々動き出したのは、その後ですもんね。
大瀧;でしたね。
小林;ええ、植木さんが、だって、例えば「スーダラ伝説」とかやったりしたのはずっと後ですよ。
大瀧;あれはずっと後です。だから『TVの黄金時代』があって、2・3年してあの実年のCMが、サントリーのCMが来たんです。
小林;だから物事っていうのは、なんていうんですかね。まあ、遅れてるというか、なんというか・・・。
大瀧;ズレてやってきますよね。で、僕はだから、小林旭のゴー・ゴー・ナイアガラの特集をやる70何年ですけれども、その前に小林さんが、「東京の暴れん坊」についてお書きになったのも1960年でしょう。
小林;ええ、あれは封切った時です。試写で見て書いたの。
大瀧;はあ。
小林;あのー、要するに、今度のその『小林旭読本』というムックというのかな?本に入ってますけれども。
大瀧;ええ。
小林;アレはねーえっと試写。アキラのは大体映画館で見てたんですよね。
大瀧;はい。
小林;で。今もう分かんないけど、渋谷にスターバックスのでかいのありますよね。角のトコロに。
大瀧;現在ね。
小林;ええ現在。アレが渋谷に日活だったんです。
大瀧;なるほど。
小林;だからあそこ行くと大画面で2本立てで見られたんで。
大瀧;はい。
小林;だから、アキラのないモノ彼処で見てたんですけれど。だけど、「東京の暴れん坊」っていうのは試写で見て、それでアレは、60年の5、6月ですね。
大瀧;はい。
小林;で、面白かったんで、で、他のはほらっ、「銀座旋男児」とか、「渡り鳥」とか流れ者やったんですね。で、なんで突然これが出てきたのかよく分かんない。
大瀧;はあはあ。
小林;で、良く分かんないけれども、しかもミュージカルじゃないかって日本的な・・。
大瀧;はい。
小林;で、とても面白いって事で、その時の『映画評論』っていう雑誌が非常に権威があったんですよ。編集長が佐藤忠夫さんなんですよね。
大瀧;へぇ〜。
小林;佐藤さんだって非常に若くって、僕があの時27だから、忠夫さん29ぐらいかな?29か、30。
大瀧;はい。
小林;で、若いですよ。その時代っていうのは、みんなね。
大瀧;若いですね。
 
■真面目度が足りない
小林;それで、いや非常に面白かった。僕はその前にヒッチコックのこと1つ書いただけで。
大瀧;ヒッチコックマガジンの編集はその時なさっていいたんですか?
小林;やってたんです、はい。ヒッチコックマガジンの編集をやって、主たる収入というのは、そこっていうことになってたんですけれども。
大瀧;ええ。
 
小林;映画好きだから、そういうの書かないかみたいなこと・・。『映画評論』っていうのは、佐藤忠夫が編集長で、副編集長って2人しかいないんですけれども・・。
大瀧;はい。
小林;それが「品田雄吉」さんだったんです。
大瀧;はい。
 
小林;で、品田さんの方が話しやすい人だったんで。で、そんなの話したらね、なんか「アレ面白かった」って言ったら要するに面白かったっていうモノを、僕は正しいと思うんですけどもね。人が何と言おうと僕はコレが面白いというのを、それを書かせるのが一番上手くいくというのが、佐藤忠夫の考えだったらしいんですわ。
大瀧;なるほど。
小林;だから、その時に言うと、小林秀雄・・・、は違った(^_^)、アキラっていうのは絶対に載らない訳ですよ。作品も名前も。
大瀧;そういうものはね。はい。
小林;まして、当時キネマ旬報辺りはありましたけれども。そこには批評は載ったかもしれないけれども、バカげたモンだっていう・・。
 
大瀧;“渡り鳥”にはもう酷評されていましたよね。
小林;でしょ?
大瀧;最近読みましたけれども。
小林;根本的に渡り鳥シリーズというモノが評判悪いんです。
大瀧;ええ、悪かったですね。
小林;それで、あの、是非それを書いてくれって言うんで。
大瀧;ああ、『映画評論』に。
 
小林;で、『映画評論』に「東京の暴れん坊」の評を書いたんですね。
大瀧;ええ。
小林;今、残って出るのと一行違っているところがあるんですけれども。
大瀧;ああ、そうですか。
小林;最後のトコロに「これは我々にとって、誠に、こういうモノを見られるのは幸せだ」というような書き方をしたんですよね。
大瀧;ええ。
小林;あの、その時の元の文章は「トニー谷ではないけれど、幸せっ」っていうのを書いて。
大瀧;ふふふっ(^_^)
 
小林;で、トニー谷が末期でね、“幸せっ!”っていう流行語かなんかが流行ったんですよ。
大瀧;はい、はい。幸せっ!幸せっていうね。言ってましたねー。
小林;だから、“幸せっ!”っていうしかないという。今、今っていうか何年か前に本に入れるときに通じないからね。
大瀧;あー、そうでしょうね。
小林;それは直さないと、トニー谷も知らないですからね。人は。
大瀧;本当に、「トニー谷も知らない」、「トニー谷の幸せも知らない」ってね(^_^)
小林;それは全部変えなきゃいけない。
大瀧;そうですね。
 
小林;それと、なんか渡り鳥がコテンパンに叩かれていたのも、やっぱり匿名で『映画評論』にフォーカスかなんか、パン・フォーカスっていうのがあって、何人かで匿名で書いてたんですよね。
大瀧;はあ。
小林;それが今度の本には、入れちゃったんですけれども。本に、そこで渡り鳥の大草原の渡り鳥などを見て、非常に面白いっていうことをまあ、そこまでいっちゃうとね。あのリアルタイム。今はそういうモノとしてみんな見るけど
大瀧;ですよね。
小林;リアルタイムで、アレが来たらビックリしますよ。
大瀧;でも、世の中ってまあ堅かったですよね。
小林;堅かった、堅かった。
 
大瀧;あの当時、それ以前はもっと堅かったでしょうね。
小林;映画はさー、黒澤明だって一番にならないんだから。
大瀧;うーん。
小林;今井正(ただし)ですから。
大瀧;一位がねー。真面目だねー。
小林;ええ、黒澤さんの映画が1位にならないんですよ。
大瀧;うーん、娯楽なんですか?あれは完璧な・・・。
小林;いや、娯楽っていうんじゃないんですよ。なんていうんですかね。真面目度が足りない(^_^)
大瀧;不真面目ですか?
小林;だからね、今井正さんっていうのは、全く笑うトコが無いけれど、真面目なんですよ。
大瀧;完璧に真面目ですね。
小林;そうすると、又左翼ってコトですよね。時代がそうだから。だから木下恵助と今井正は1位になるけれど、黒澤明は絶対・・。
大瀧;なるほど。
小林;だから、『七人の侍』が3位ぐらいでしょ?
大瀧;うーん。
小林;あれが3位っていったらね、どうすんだっていう。
大瀧;ねー、どうすんだですよね。全くね。
 
小林;ちゃんと上があるわけですよね。
大瀧;うーん、でも、日活なんていうのも、その他ですよね。
小林;うん、これはもう。
大瀧;全体が・・・。
小林;これはもう除外ですか。
大瀧;論外・・・(^_^)
小林;映画の映画評の対象にならない。
大瀧;ならないでしょうねー。
 
■マジメな時代も良かった
小林;でも僕ら、頑張って翌年61年に「紅の拳銃」と「ろくでなし稼業」をベストテンに入れましたけれどもね。
大瀧;はい。
小林;それは、僕だけじゃなくて、何人かで組んでね。
大瀧;みんなで。
小林;ええ、組んでっていってもそれほど組まなくても。要するに、年代なんですよ、それは。20代でしょ?
大瀧;はい。
小林;すると、その上のアレに対する反抗っていうのがあるから。
大瀧;はい。
小林;そんなものは認めないというのに対して、“なんだ”っていうね。それはムードなんですよ、その時代の。
 
大瀧;その上のもので、権力っていうか、上のモノっていうと誰に・・、だいたい誰になるんですか?
小林;例えば、映画だけでいうと、“キネマ旬報”とかね。
大瀧;はぁはぁはあ。
小林;これはのちに、ヒシタヨシオ(要調)が自分で、ヒシタヨシオさんっていうのが、かつてそこに編集部にいて、
大瀧;はい。
小林;「官報を作ってるみたいだ」っていうんですよね。
大瀧;はー自分で。そんなにキネマ旬報っていうのは権威だったんですか?
小林;だから、この間、崔洋一さんがラジオで言っていたけれども、やっぱベストテンに入って、後で残ったアレがあの映画のその年にベストテンに入ったととか、あれが女優の賞を取ったとかね。日本ではキネマ旬報なんですよ。
大瀧;ほぉ〜。
小林;ただ、そのキネマ旬報もね、経営者が変わったり、当時もちょっとゴタゴタしてたんですよ。
大瀧;はい。
小林;だから、無くなったんですよね。潰れたっていう。
大瀧;あー、そうなんですか?
小林;うん、一時無くなった。何年か無くなった。
大瀧;はい。
小林;それで、またお金出すトコがあったり、お金出して始めて。
大瀧;うん。
小林;だから何ていうんですか?歴史はあれ、大正時代からじゃないですかね?
大瀧;そんな古い・・・。
小林;歴史はあるけれども、時代に合わせるアレは無いわけですよ。
大瀧;うん。
小林;やっぱ、だいたい今井正を誉めていいっていう・・。
大瀧;ふふ(^_^)
 
小林;今井さんには申し訳ないですけれどもね。亡くなった人だから。で、今井さんは今井さんで、やっぱり面白い映画を撮りたいっていう気持ちは当人は有ったって言うんですよ。この間、こう、奥さんが、今井さんのことを。
大瀧;ああそうですか。「青い山脈」なんていうのは随分、こう、大衆に。
小林;これはもう娯楽。これは当時出方としても娯楽モノですよね。
大瀧;うん。
小林;だけど、民主主義濃すぎの。
大瀧;まあ、中はね。
小林;うん、だけど、大娯楽だし、当たったし、絶対。
大瀧;最後、歌に持っていかれるの、絶対イヤだったって。
小林;うん、イヤだった。
大瀧;今井さんのね、人となりとかそれで分かりますよ。
小林;それはもう、藤本真澄さんと、服部(良一)さんでしょ。藤本さんが結局、藤本さんがもう制作になった、ほとんど初めて当たった映画じゃないかなー。
大瀧;あー、そうですか。
小林;だから、藤本さんとしては、自分のプロデューサーとしての命がかかっているワケですから。
大瀧;まあ、そうでしょうね。
小林;それで、藤本真澄ありということが分かってね。
大瀧;うーん。
 
小林;だから、それは昭和24年でしたかね。
大瀧;うーん。
小林;だから、アキラの10年前ですからね。
大瀧;さらにね。
小林;これが。だから、やっぱり今井さんははじめはやっぱり娯楽的なトコが多いんですよ。ただ、
大瀧;うーん、映画を撮り始めた頃はっていうことですか?
小林;そうでしょう。だって、黒澤明の第1作は「姿三四郎」だけど、これは今の人はみんなこれは娯楽として観ると思うんですよね。
大瀧;うーん。
小林;だけど、当時は娯楽じゃなかったですけれどもね。娯楽っていうか、分け方がまず分ける必要なかったから。
大瀧;うーん。
小林;別に何でもいいんですよ。だって、戦争中だから。アメリカ映画無い訳だから。それだけ観てる訳ですから、面白きゃいいっていう。
大瀧;はい。
 
小林;だから、こないだあれも、たまたま僕は岡本喜八さんがリメイクしたのを観たけれど、黒澤明の方がずっといいですけれどもね。
大瀧;姿三四郎ね。
小林;うーん、あれ、リメイクして長いんですよ。これ、黒澤さんのは、1時間半ぐらいだけど2時間20分っていうね。いい役者使っているんだけれど、やっぱちょっと違うね。
大瀧;はー。
小林;その当時としては、いい役者を。
大瀧;よく、でもリメイクやりましたね。喜八さん。
小林;アレ、何度もリメイクね、5回もされてるっていう。日本で。
大瀧;あっ、そんなにしてました?
小林;で、岡本さんのは良くないですね。
大瀧;ふーん。
小林;月形龍之介の役が中村敦夫だから、コレはちょっと違うだろという(^_^)
大瀧;ふふふっ(^_^)
小林;志村喬の役は若山富三郎で、コレはよかったですけれどもね。
大瀧;はー、なるほどね。
小林;あの、負けて喜ぶ。姿三四郎に投げられて、私は嬉しかったっていう役でね。アレは非常に良かったです。
大瀧;なるほど。
小林;若山さんは亡くなる直前じゃないけれど、前ですよね。だから、そんな古い・・、77年ぐらい。
大瀧;あー。そうですか。
小林;ええ、だから、そんな古くない。だって、主役が三浦友和だから。
大瀧;あー、なるほどね。
小林;これも姿三四郎どうかな?っていうね、気はするんですけれど(^_^)
 
大瀧;まあ、今になってみると別の意味合いで、マジメな時代も良かったですよねー。
小林;いや、僕もそう思うんですよ。やっぱりもう少しマジメになれと(^_^)この、その手の映画をね、NHKでこの頃、時々やるんですよね。衛星で。
大瀧;はい。
小林;それで、「女一人大地を行く」という山田五十鈴主演の、これはもう左翼の、左翼に赤旗が見えるくらい、ほんと振り返るぐらいの映画を観たらね、うちの母さんが「とってもいい」っていうんですよ。
大瀧;はあ。
小林;マジメでね。
大瀧;うーん。
小林;それで、真面目さが無くて、なんか殺し屋ばっかり出てくる映画もマズイと思うんですよね。で、それも香港映画やなにかのマネでしょ?
大瀧;ああいう、まあ。
小林;日本の映画とか、やれタランティーノがどうしたとか、そういうもんでしょ?
大瀧;うーん。
小林;で、香港映画はアキラのマネですからねー。これがなんか可笑しいんですよね。
 
■「用心棒はロンバケ」
大瀧;それにしても、まあ、商業的には日活はあたったわけですけれども映画評論的には全く評価の対象ではなかった。
小林;そうですね。
大瀧;時代だったんですよね。
小林;それと不幸なのはね、日本映画のピークって、興行的なピークっていうのは、昭和でいうと、昭和33年なんですよ。
大瀧;はい。
小林;ところが、日活が当たりだしたのはその頃。
大瀧;まさにその頃。
小林;そうでしょ?
大瀧;33年暮れに、「嵐を呼ぶ男」
小林;そうでしょ、「嵐を呼ぶ男」。そこからですから。それで“渡り鳥”が34年でしょ?
大瀧;はい。・・の、秋ですからね。
小林;だから、34年35年っていうのは日活が盛り上がってるんですよ。
大瀧;うん。
小林;ところが、全体的には客は物凄い減っているワケですよ。だから、日活だけが異常に、異常なモノがあるんで、アレは何だろうって。
大瀧;ふーん。
小林;だから、全体像としてはもう日本のピークは過ぎているんですよ。
大瀧;うん、
小林;で、ピーク過ぎただけで。出来たのが、そもそも、日活の場合、昭和29年ですからね。それから4年後に、小林旭も自分で言ってたけれども、要するに森繁さんであり、三国連太郎だったと。
大瀧;って、言ってましたね。
小林;それが。その辺がもう変わってきて、裕次郎で当たっちゃって、
大瀧;ええ。
小林;で、ソコだけなんかお客が入っていて、他はあんま入んなくなってきた。
大瀧;あぁー。
小林;それはやっぱり反感があるでしょ?それで何だか変な西部劇ともつかないカッコして、ギター持って、ああしてるのは何だろうって。
大瀧;ですよねー。
小林;それはまあ、分からなくないですけれどもね。
大瀧;うーん。
小林;だけど、分からなくないけども、やっぱり誉めなきゃなんないけども。面白いからいいとかいうことは言いたくないんですよ。だから、その、あれは農家の次男坊の姿だって(^_^)。
大瀧;なんかね(^_^)。
小林;次男坊論って有るんですよ。
大瀧;それは理屈付けるんですよね。なんかね。
小林;次男坊っていうのはその家を継いだことがないし、行くところが無くなって、日本中をさすらっている日本の次男坊の姿だっていう論があって。
大瀧;それ、佐藤忠夫さんじゃないの?
小林;いや、違います。
大瀧;違うの?へぇ〜。
小林;あれはね、違うんです。佐藤さんはほとんど見ていないんじゃないかな、当時は。
大瀧;(^_^)
小林;「大草原の渡り鳥」を僕が見てきてね、しかも面白かったっていうのを「こういう風に撃ってね、パーンとくると、ピストル横に投げましてねー」とか言ったら、忠夫さんが「つまんなそうな映画だな」って(^_^)
大瀧;ふふっ(^_^)
小林;佐藤忠夫さんはマジメなんです。
大瀧;マジメなんだ。
小林;忠夫さんはまあ、本来はね、今井正の人なんですね。
大瀧;あー、そうですね。
小林;ただ、その時は大島渚が出てきたんで、
大瀧;あーなるほど。
小林;大島渚を断固、擁護するという。
大瀧;なるほど。
小林;だから、『映画批評』は紙面をあげて大島渚を擁護するみたいなことを佐藤忠夫さんがやったわけですよ。
大瀧;へぇー。
小林;ただ、あの人が偉いのは自分の好みはソコだけで、まあ今は違うけれど、どっちかっていったら、もう左翼ですよ。
大瀧;ふーん。
小林;だけど、違う面白い映画が、例えば森卓也っていうアニメだけを。
大瀧;はい(^_^)。
小林;研究している人ね、アニメだけを。今は違うんだけど。
大瀧;時代先取りしていましたねー。卓也さん。
小林;ええ物凄く早いですよ、結局。しかもソ連のアニメとかね。
大瀧;ねぇ。
小林;あのー、「雪の女王」っていうのかな、なんか、そういうものを非常に早くね、評価してた人でしょ?そういう人が。今でも良く出て、宮崎駿さんの映画のコトなんていうと岡田英美子さんっているけど、岡田英美子さんももう書いてたんですよ。
大瀧;あぁ、そうですか。
小林;それから死んじゃったけれども、佐藤重臣(じゅうしん)っていうのも書いていて、それで、コレはロジャー・コーマンのファンで。
大瀧;はあ。
小林;なんか、みんな変なんですよ(^_^)。で、僕は別に何でも。まあ、「オーシャンズ11」も、思い出したけれども、昔のね、「オーシャンと11人の仲間」っていうの誉めたけれども取りあえずヒッチコックとトリュ・・・、シャブロール論で出たけれども、僕の感覚ではいまいち、まあ、はじめは気になりますからね。文章書いてもいまいち受けないんで、これは小林旭だったらいよいよ評判悪いだろうって思ったら、それが面白いってみんなに言われて。非常に短い文章だけども、そうとう日活映画を観てないとね。
大瀧;初めて小林旭を誉めたんでしょ?きっと。
小林;まあ、その、小林旭を誉めようがないですからね(^_^)。
大瀧;はっははっ(^_^)
小林;あの、実は“映画”を誉めてるんであって、“本人”じゃないんだけども。まあ、小林旭を取り上げた、っていう。
大瀧;ですよね。
小林;「なんか変だ」っていう。
大瀧;ですよね。
 
(ペパーミントツイスト)
 
小林;だから割に短期間の、短い間で日活アクションの盛衰っていうのを書いたのが、
大瀧;はい。
小林;それから2・3年後ですよ。
大瀧;あぁ、そうですか。
小林;ほんとうにそう。だからもう、その時に日活は。それでもう僕は日活映画は終わったという。
大瀧;清順、清順論とか。
小林;清順さんが出てきた頃じゃないですかね。僕はもう、極端にいうと昭和でいうと36年に、つまり赤城圭一郎が死んで、あー、これは説明しないとアレなんですけれども、聴いてる方には。要するに、石原裕次郎がいて、小林旭がいて、赤城圭一郎がいて、和田浩二がいて、っていうこの4人がダイアモンド・ラインという。
大瀧;えぇ。
小林;この4人を回してたんですね。で、まだ吉永小百合が、出てたけど吉永小百合が映画っていうのは無いし、当たるっていうのがないから。
大瀧;ローテーションですよね。当初のローテーションって感じですね。その4人。
小林;いや、そこにもまだ入ってるの。・・・ああ、ローテーションでね。
大瀧;4人で中3日で回してる。
小林;そうそう4人で回してる。
大瀧;メジャー方式で。
小林;そうなんですよ。4人で回すっていうのは無理なんで、そこへ赤木圭一郎が事故死して僕は事故死する前の日に日活に行ってるんですけれども。で、翌日その同じ場所で亡くなったっていうのを聞いて凄いショックを受けましてね。
大瀧;うーん。
小林;それで、61年の2月だったかな、裕次郎が怪我したでしょ。これで2人いなくなっちゃったの。
大瀧;ええ。
小林;そうすると小林旭と和田浩二じゃ、いくら何でもね、っていうんで、まあ宍戸錠がその前に昇格されて、宍戸錠がいて。で、宍戸錠も1人の映画っていったらしんどいですよ。で、二谷英明と組んで「ろくでなし稼業」っていうのが成功したけれど宍戸錠一人っていうのはね。まあ、タイトルも付けようがあると思うんだけども、黒澤さんのね、と同じタイトル、黒澤さんのアレですよ。
大瀧;「用心棒」。
小林;「用心棒」と同じ2日違いで「用心棒稼業」というタイトルの映画を出すというのはね、これはむちゃくちゃな話だと思うんですけどもね。
大瀧;ふふっ(^_^)
小林;で、それはもう「用心棒」は圧倒的に当たったんですね。あの「用心棒」はとにかくその前の黒澤さんの映画が当たらなかったから、多分東宝としては、あんまり期待してなかった。
大瀧;うーん「ロング・バケーション」ですね。黒澤さんの「用心棒」はね。
 
■「弟子からもらった三十郎」
小林;僕は、試写室で見て、いや、試写室じゃなかった、有楽座で見て、いやこれはすごいな、と思ってね。この前が「悪い奴ほどよく眠る」ってね。これは非常に評判悪かったし。
大瀧;受けなかったそうですね、アレは。
小林;ええ、で、あれは、僕、その時に東宝に呼ばれて、佐藤忠夫さんとか若い人の意見を聞きたいっていうんで行ったら、まあ僕らはあんまり誉めませんよね。じゃあその、っていうんで、アレはつまり若い・・「悪い奴ほどよく眠る」から黒澤プロがなってきてるんですよ。
大瀧;なるほど。
小林;だから、黒澤プロも危険を負担しなきゃなんない。
大瀧;うん。
小林;というのは、黒澤映画を迎えて当たるか当たらないか分かんないから黒澤プロと黒澤明にもペナルティっていうか、危険を負担してもらうっていうんで、出来て、コレが当たらなかった。
大瀧;うん。
小林;で、やっぱり黒澤さんとしては、当てなきゃいかんと、
大瀧;ええ。
小林;いうんで、それはあまり人はいわないけれども、それで「用心棒」っていうのが出てきたんですよ。
大瀧;当てようと。
小林;それでなきゃ、当時の黒澤さんはああいうモノ作らないですよね。
大瀧;なるほど。
 
小林;もう、世界的なアレっていうことで。
大瀧;“悪い奴ほど”がビッグヒット、大当たりしてたらどういう路線いったんでしょうね?
小林;いや、また海外名作路線でしょうね。この前は「どん底」とか「蜘蛛の巣城」を前、やってたでしょ?
大瀧;はい。
小林;そういうモノを作ってたんですよ。で、その、あんまり黒澤明は、この世の動きと関係ないじゃないかという批判があったんで、
大瀧;うん。
小林;あれは60年安保の年だったんですよ。“悪い奴”はそれで、その、今の時代だったらピッタリ合うんですけれどもね。
大瀧;うん。
小林;アレは何ていうんですか、ちょっと時代劇みたいだっていうのね。
大瀧;今、また格別いいでしょうね。このご時世はいいんじゃないですか。
小林;そうそう、だけど、なんかね、ただ大島渚やなんかがあったから、そういうのに比べると、やっぱりちょっと違うんですよね。ズレてる、って感じがしましたもん・・。モンテクリスト伯みたいな話でしょ?
大瀧;ちょっと古い感じに見えるかもしれませんね。
小林;ストーリーの作りとしてはモンテクリスト伯ですから。
大瀧;なるほどね。
小林;だから、それでもいいけれども、チョットなーっていうところへ「用心棒」が出て。これは、まあ、だけど「用心棒」は描写が残忍だというので、随分批判もあったんです。
大瀧;ああ。
小林;だから、とにかく面白いということで、まあ、コレとぶつかっては日活は堪んないですよ。
大瀧;(^_^)「用心棒稼業」・・・。
小林;「用心棒稼業」とね。
 
大瀧;一応、「ろくでなし稼業」があたったので、“稼業シリーズ”という。
小林;そうそう、だけど、「用心棒」が出ること分かってたと思うんだけど、「用心棒稼業」っていうのは、ぶつけたんじゃないかと思うんですよ。
大瀧;あー、なるほどね。
小林;っていうのは、黒澤さんの映画はそんな怖くなかったんですかね、実は。
大瀧;当時はね、こんなに当たるとは思ってなかったでしょう?
小林;事前にあんなものだと思っていないから。で、観たら、もう“うわぁ〜”でしょ。
大瀧;なるほど。
小林;ちょっと、黒澤さんの興行の。
大瀧;勝てると思っていたかもしれない。
小林;うん、あの僕はつまり、五分では行けると思ってた。
大瀧;あー、なるほど。
小林;つまりリアルタイムで行くとね、黒澤さんの興行価値っていうのは、ソコんトコで落ちてるんですよ。明らかにそれから。映画もチョット弱いが、
大瀧;ふん。
小林;ちょっと、というか、大分弱い。
大瀧;ふん。
小林;で、まあ、それはね、ベニスの映画祭で賞を取っちゃった10年後ですからねー。
大瀧;あれから何年も経っている。
小林;で、何を・・。
大瀧;なおかつモノクロでしょ?世の中はカラー化しているときに。
小林;うん、モノクロ。
大瀧;う〜ん。
小林;だから、東宝はアレを封切ったときに、社長シリーズと二本立てでやったんですよ。
大瀧;ふふふ・・・(^_^)。
小林;信用してないんです。
大瀧;保険ですね。
小林;いや、信用してないんです。
大瀧;うーん。
小林;ところが、アレがあんなに当たると思っていなかった。で、当たっちゃったから、今度は黒澤さんの話にちょっとなっちゃうけど、あんまり当たったんで、もう1本。今度、次の年のお正月映画。
大瀧;はい。
小林;ってことは、もうその年の12月に封切るんですよ。
大瀧;ええ。
小林;12月か、早けりゃ11月頃。
大瀧;ええ。
小林;もう一本。
大瀧;早く作れっていうんですよ、会社は。
小林;そうそれでねーその“三十郎”の出てくるね、映画をなんとか作れと。
大瀧;何とか作れと。パッとですね。
小林;そうそうそう。それが、いきなりいわれて、黒澤さん困っちゃって。
大瀧;うん。
小林;それが、黒澤さんは、あのー、弟子のために、堀川さんという。
大瀧;はい。
小林;あのー、弟子のために、山本周五郎さんの原作モノで、「日々平安」っていうのが、あるんですよ。この「日々平安」の脚本(ほん)を書いて、黒澤さんが自分で書いて、
大瀧;書いて。
小林;お前のためにその、
大瀧;ええ。
小林;で、非常に弱い侍が、何ていうんですか、悪い奴らをやつけるとか。
大瀧;はい。
小林;これが小林桂樹が主役だったんです。
大瀧;おーなるほど。
小林;で、ある日やってきて、こないだ堀川さんに聞きましたけれどもね。「あれ、ちょっとちょっと、また使うんだけど」っていって(^_^)
大瀧;ふふふっ、弟子にやったのに・・・(^_^)
小林;そう、それが椿三十郎なんですよ。
大瀧;なるほどね。
 
小林;だから、小林桂樹が出て来るんです。
大瀧;ふーんなるほど、
小林;なんで出てくるんだか、良く分かんないでしょ?サラリーマン風の人が戸棚からいきなり出て来るんだから(^_^)
大瀧;スケジュールキープしてたんでしょうね、それは。
小林;そうだと思いますよ。それともう一つ、多分前もってアレしたからマズイという。
大瀧;まあ、そうでしょうね。
小林;あれはだから、一本立てだったんです。
大瀧;はー、強い人になっちゃったんですね。
小林;一本立てだけど、「用心棒」より遥かに当たったんですよ、また。
大瀧;面白かったですからね。
小林;面白い。
大瀧;娯楽性は圧倒的にありました。
小林;で、あの、僕は試写で観て、町の映画館に観に行って、入れないぐらい混みましたから。
大瀧;うーん。
小林;だから、映画館っていったって、今の映画館じゃなくて渋谷のでかい渋谷東宝のねー、でっかい建物がもう満員だったから。
 
■「S36年をすり抜けろ」
大瀧;うーん、でも黒澤さんの観客動員数のピークってソコだったんでしょ?結局。
小林;いや、まだあります。
大瀧;まだあんの?
小林;「天国と地獄」
大瀧;あっ、そうか。それ、あと・・・
小林;で、「赤ひげ」が。
大瀧;・・・赤ひげ、客動員数、上?
小林;上です。
大瀧;あ、そうですか。
小林;赤ひげがピークじゃないですか?
大瀧;へぇ〜。
小林;いや、僕こないだ調べたんです。有るんですよ、業界の。
大瀧;ちょっとイメージ違いましたねー。
 
小林;あの、「天国と地獄」はね。
大瀧;うん、あれはね。
小林;うんまあ、「用心棒」と「椿三十郎」と「天国と地獄」は、人に文句いわせないって黒澤さんが言ってますからね。
大瀧;三部作はね。
小林;ええ、そのアクション3部作というか。
大瀧;うーん。
小林;だけど「赤ひげ」まで勢いですね。
大瀧;やっぱりねー。有るんですよね、続くんですよ。
小林;で、赤ひげは割と地味なんだけども。
大瀧;うーん。
小林;で、暴力否定とかね、そういうこともあるし、黒澤さんとしてはやっぱりヤクザ映画がイヤだから、その、三船がただ強いって、いうのはもう良くないっていう考えだったんだよね。
大瀧;なるほど。
小林;それとまあ、三船さんとのコンビが。黒澤さんは、自分でもうここらでちょっと。
大瀧;そろそろね。
小林;いいとこですよね。
大瀧;うーん。
小林;だから、それはあの、白黒映画の完全に作ってやろうっていう、最後の映画じゃないですかね。
大瀧;なるほど。
小林;戸棚の、引き出しの裏まで、中まで何か入ってるっていうヤツね。
大瀧;はあ、はあ、はぁ。
小林;そういう、なんですかね、あの路線の一番最後ですよ。
大瀧;なるほど。
小林;だけど、やっぱり観るのは「天国と地獄」までですよね。
大瀧;ですよねー、アクションがね。
小林;あれはやっぱ凄いですよ。
大瀧;あれは凄いですね。
小林;あれは凄いですよ。
 
大瀧;あれから観るの、いつも、だから、黒澤はね、あれから観た方がいいんじゃないかって、いつもいってますよね。
小林;電車・・・、だって、あの時は、電車3両借り切って撮ったんですからね。
大瀧;はぁー、新幹線。
小林;そうそう、、、いや、新幹線じゃないですよ、あれは。新幹線出来る前の年だから。
大瀧;ああ。
小林;だって、窓開かないでしょ、新幹線だったら。
大瀧;開かないっていうのが、あぁ、それね。上からね、投げるっていう。
小林;そうそう、あのカバン投げるっていう。
大瀧;はいはい。
小林;だから、あれ新幹線じゃないんですよ。あれ観てると。
大瀧;新幹線じゃないの。
小林;あれ観てるとみんな新幹線だと思うんですよ。今。あのバーッとみんな走るでしょ?家の中から屋内からいきなり屋外になると。あそこでダーッと走ると、アレ、新幹線だと思うんです。
大瀧;ええ、なんとなくね。
小林;あれ、新幹線じゃないんです。
大瀧;ないの。ほぉ〜。
小林;“こだま”っていう当時のこだまって、
大瀧;あー、当時の“こだま”ね。
 
小林;なんか、あれは、だから走っているのを二度撮り、リハーサルが出来ないんですよ。
大瀧;うん。
小林;それで、三両にカメラを一つづつ置いて
大瀧;はい。
小林;で、アレ、せーので撮ってるんですよ。
大瀧;へぇー、すごいですねー。
小林;凄いですよ。だから、役者が一人蹴飛ばされてますよ。
大瀧;あっ、そうですか。
小林;だが、思うようにだって黒澤さんがいるワケじゃない、全部にいるワケじゃないから。あと、弟子が二両いるわけでしょ?
大瀧;ですよね。
小林;で、思うように動かないともう蹴飛ばすわけですよ。
大瀧;うーん。
小林;リピート効かないから。
大瀧;はあ。
小林;もう一回走っても、もう1回乗るわけにいかないから。
大瀧;ふっふっふ(^_^)
小林;だって、外があるからね。外が。
大瀧;外がね。外待ってるアレもあるから。
小林;中を撮ってるんじゃないですから。
大瀧;あー、たしかに。
小林;全部一挙にやって。
大瀧;すごいですよね。
小林;リハーサルなしですもん。
大瀧;あー、そうですか、すごい映画でしたねー。
小林;だから、普通に走ってるヤツの三両貸し切ったんでしょうね。
大瀧;すごいですね、やることが。
小林;だから、その用心棒とかその時期に日活はぶつかっちゃったから。
大瀧;気の毒・・・(;_;)
小林;非常に難しいですよね。
大瀧;裕次郎と赤木圭一郎がいないっていうのは、工藤と上原が故障したジャイアンツのローテーションですからね。
小林;そうそう。
 
で、ねえ、裕次郎は戻ってきたけれども、戻ってきたときに、もうやっぱり怪我した人っていう・・。
大瀧;工藤状態ですね。二軍でリハビリですから。
小林;そういうこと。
大瀧;で、投げないんですよね、だから。
小林;それともう一つは、アレしている間に太っちゃった。
大瀧;うーん。
小林;元々、太る体質だと思うんだけど、その療養してれば当然太りますよね。
大瀧;ええ。
小林;で、そのまま、もう回数がないから映画にはいるでしょ?
大瀧;うーん。
小林;アレはちょっとやっぱりね。
大瀧;あんまり動かなくなりましたよね。
小林;それから当人も、またそういう映画を、例えばバカらしいというね。
大瀧;源氏鶏太モノとかいうヤツをね。
小林;思うんでしょうね。
大瀧;やっぱりね、アクションがね、あー、まあそれがあってジョーさんじゃちょっと辛かったです。
小林;つらいでしょ?僕が観ていてこれはもうキツイなと思いましたよ。でも、まあ何本か続けてみたけれども、やっぱりもしやジョーの全く西部劇と同じようになっちゃうのも・・・。
大瀧;“相撃ち野郎”・・。
小林;“相撃ち野郎”とか、それから、二谷英明がボクシングみたいなアクションやってるのありましたね。
大瀧;なんかやりましたよね。ええ。
小林;あの手の。で、二谷さんなんて、そもそもアクション、アレじゃないけれども、ダンプガイとか。
大瀧;ええ(^_^)
小林;マイトガイは分かるけど、ダンプガイは無いだろうっていう。
大瀧;ちょっと気の毒でしたねー。
小林;だから、それは無理ですよね。
大瀧;うーん。
小林;日活も、だから本当にいい時っていうのは、僕は35年だと思うんですよ。昭和でいうとね。
大瀧;はい。
小林;で、36年になるともうキツくなるんですよ。
大瀧;そろそろね。
小林;ただ、そのアキラのすごいのは、そこん中を一人ですり抜けたという
大瀧;35年、36年、その映画と歌の両方の。
小林;本当すごいですよ。
大瀧;本数にしても。
小林;で、その大瀧さんの作ったCDで、制作年度をね、見ますと、映画のいいときと歌のいいときと一致してるんですよね。
大瀧;ちょうど一致してるんですよ。
 
■「ヤング道太郎&ミネ」
小林;あれは面白いですね。
大瀧;ええ。
小林;ああいうもんなんだなあ。
大瀧;で、ちょうどクラウンが、1963年の末ぐらいですから、出来るのが。ですから、ちょうどコロムビア時代っていいますかね。以前の一番良かった、戦前から一番良かったコロムビアレコードがだいたい有る程度、終焉するのも1963年なんですよ。
小林;なるほどね。
大瀧;それの最後の有終の美を飾ったのが、小林旭ですよ。
 
小林;その頃、63年っていうのは、実は僕の、人によって見方違うんだけれども、僕は興行成績とかなんとかもリアルタイムで観ているとビデオで見ているワケじゃないですから、興行とかも知ってますからね。
大瀧;はい。
小林;そうすると、もう全然お客が入らなくなるんです。
大瀧;そのへんは、入らなくなるんですか?う〜ん。
小林;ただ、小林旭は固定したファンがいたから。
大瀧;はい。
小林;小林旭モノっていうのは、当時安定した路線のナンですよ。割合にね。
大瀧;ずっとお正月映画はアキラになってますよね。
小林;そうなんです。
大瀧;その辺は1960年あたりから。
 
小林;そうなんです。それともう一つは、裕次郎が独立プロ、自分のプロダクションするでしょ?『太陽が独りぼっち』とか。
大瀧;はい。
小林;あれはもう、お仕着せの仕事はやりたくないっていうことだから。
大瀧;ええ。
小林;で、小林旭は悪役や、アケマデ(?)この間も自分で言っていたけれども、職人だと。与えられたモノを、兎に角、脚本がヒドい。ヒドいけれども、それをどれだけ膨らませるのか、っていうのが俺の仕事だってこの間語ってました(^_^)。
 
大瀧;生え抜きだとかね、まあ、大部屋上がりだとかまあそういうような、
小林;そうそう。
大瀧;ことで、お前はそれなんだから、給料が低くても我慢しろと言われて。というようなことが書いてありましたね。
小林;だから、“職人”というのは、その頃から皆言ってましたからね。あの人は本当に役者というか、職人というか。
大瀧;うーん。
小林;そういう人だと。
 
大瀧;そういう意味合いでは生え抜きですよね。
小林;生え抜きですよ。
大瀧;生え抜きで、まあ、裕次郎はFAで来たというか・・。
小林;そうそうそう。
大瀧;そういう雰囲気なんじゃないですか?
小林;そうですよね。ただ、来たのが早かったから(^_^)
大瀧;(^_^)
小林;あの人がいないと・・・。だから僕はアレだと思うんですよね。これは、全然違いますけれども、昭和の初めに“PCL”っていう映画会社が出来て、
大瀧;はい。
小林;これは、後に東宝になるんですが、これは東宝が安定したのって、エノケンの映画なんです。
大瀧;はい。
小林;エノケンの映画を何本か作って、それがもう何て言うんですか、会社が安定する元なんですよね。それ、裕次郎が初期のものっていうのは、それに物凄い貢献したでしょ?むしろ、『狂った果実』よりも『嵐を呼ぶ男』とか、あの近辺の『鷲と鷹』とかね。それから、『夜の牙』っていう。
大瀧;井上梅次モノだ。
 
小林;そうそうそう。あの井上梅次とコンビですよ、結局。
大瀧;ですねー、歌を絡めて。
小林;ええ、それが『素晴らしい男性』で、パンクして終わるわけですよ(^_^)。
大瀧;本格的なミュージカルで。
小林;ええ、そうです。井上さんっていうのは、もうミュージカルをやりたくなる人なんですよ。
大瀧;なる人ですよね。
小林;あのー、随分あの人も他の会社でもミュージカルって観ましたけれども、
大瀧;ああ、そうですか。
小林;新東宝のだったと思います。
大瀧;新東宝でやってましたよね、
小林;ええ、やってましたよ。フランキーとかね。
大瀧;ええ。
小林;で、外国の歌を使って、どんどん、どんどん、唄わせて、で、結局あれで裕次郎だったら、当たるんじゃないかって、やっぱり裕次郎がやったってダメなんですよね。
大瀧;うーん。
 
小林;だから、あの、まあ、「素晴らしい男性」が、
大瀧;裕次郎も、でも、フラさんの横で歌ってますよね。
小林;踊ってる。
大瀧;うんうん。
小林;で、あの「素晴らしい男性」っていうのは、なんか、なんていうか大ヒットしなかったですよね。歌が、裕次郎の。
大瀧;あー、歌はね。で、あーいうのじゃないんですよね。裕次郎の求められているモノは。
小林;求められてるモノは全然違う。やっぱりアクションですよ。上から殴るようなね。だけど、「素晴らしい男性」っていうのは、こう、アレに出てるんですよ、西村晃は。西村晃さんが、もう年齢的に違うと思うんだけど。それでね、まあ、この前小沢昭一さんに会ったら、小沢昭一さんがあの「素晴らしい男性」を全部歌えるっていうんですよ。   
大瀧;ほぉ〜。
小林;出てないんですよ、彼は。どうしてっていったら、西村晃の車で何処か行くことが多くって、西村晃ってあの人、結構歌とか好きなんですよ。
大瀧;あー、そうですか。なるほど。
小林;好きなんですよ。
大瀧;ほおほお。
小林;で、やりたいんです。それでね、あれ必ず歌うんですって。始めから終わりまで。
大瀧;アレ、歌うの・・。
小林;それで、覚えちゃったって、小沢さん(^_^)。これ、小沢さん、小沢さんはお元気ですからね。話聞くと、色々そういう・・。
  で、二人で競って出てたエピソードとかね。
 
大瀧;あー、脇役の。
小林;本数。本数ですね。
大瀧;うーん。
小林;そしたら、もう兎に角どっちが多く、兎に角、水ノ江滝子に言って、ちょっとでも、チョイ役でもいいから。1分でも出れば、あの、どっちが本数(出るか)競争したんです。
大瀧;あ、なるほど。
小林;そしたら、その時に、変な服装でね、どっちもね。
大瀧;はい。
小林;ところが、その西村晃がね、肩になんとオウムをとまらせてきたっていうんですよ(^_^)。
大瀧;(^_^)
小林;足を縛ったんでしょうね、それが出てきたんで、もう・・・。
大瀧;すごい(^_^)
小林;小沢さんはイヤになって、「俺は辞める」と。
大瀧;ふふふっ(^_^)
 
(ハワイアンが使われるギターイントロから
 「生まれついてのろくでなし 自慢じゃないがろくでなし」という歌)
 
小林;あの、小林旭もそうだけど、脇がね。
大瀧;脇がね、
小林;ちょっと裕次郎のだとそうだけど、なのできないですよ。
大瀧;たしかにね、高品格(たかしな かく)1人ぐらいじゃね。
小林;そう、そう、そう。
大瀧;笑い取れないしね、裕次郎の映画だと。
小林;無いしょ、あのアキラの映画だと、アキラが歌っちゃうというなんかバラエティショーみたいな。
大瀧;たしかにねー、有りましたよね。
小林;ここは歌で聞かせる、とか、ここはちょっと漫才になる、とか。
大瀧;で、どんな悪者が出てきても、なんか、コミカルなんです。
小林;そう、そう、そう。また、そういうフリを付けたんですよね。
大瀧;ですよね、
 
小林;だいたい、あのー、ラーメンを食いながら部下を叱るっていう(^_^)。
大瀧;(^_^)
小林;このパターンっていうのは、結構長く続いたんですよね。
大瀧;続きました?ふーん。
小林;近藤宏とかね。
大瀧;近藤宏。
小林;これは先年亡くなりましたけれどもね。
大瀧;あー、そうですか。暴れん坊シリーズでね、銀座の次郎長に必ず付いて来るの、近藤宏が。
 
小林;随分角川映画なんかでも、「人間の証明」なんかにも出てましたよ。
大瀧;近藤ひろし。あぁー。
小林;あのひとはね、たしかすごい年上のハズですよ。
大瀧;なんか若く見えますよね。
小林;それはねー、まあ、宍戸さんかな?確かに聞いたの。宏さん幾つだと思いますか?って訊いたの。っていうのは、日活っていうのは戦前からの映画のワキ役っていうのは、
大瀧;ずっといたんですか?
小林;あのー、いるんですよ、ワキに。だから小林旭が初めにイビられたっていうあの自伝でも言っているのは、あれ、みんな昔の人なんですよ。
大瀧;イヤな役者って言うのは・・・
小林;大部屋もそうでしょうし。
大瀧;戦前からの。
小林;そうです。
大瀧;はー。
 
小林;だって何かっていうと、小林旭が入ったときは、水島さんと森繁さんと三国さんだったって。三国さんって言うのは、まあアレ言わないから全部。三国連太郎っていうことは分かるけれども、水島道太郎っていうのは分かんないですよ。
大瀧;ねえ。
小林;これは、聞いてる人にね、水島さんって。
大瀧;知らないでしょう。
小林;これは、戦時中の『新雪』の主役で売り出して、あの「新雪」っていう歌が・・。
大瀧;あります。灰田勝彦。
小林;あの歌の出た映画ですよ。
大瀧;ほぉー。
 
小林;で、水島道太郎と、月丘夢路はその時出てきて、
大瀧;苦み走った二枚目っていう役柄ですか?
小林;そうですね。で、戦後は『地獄の顔』という
大瀧;「顔」とね。
小林;松竹で。だから、ギャングをやってたんですよ。だから、日活は最初人気が落ちてきて、
大瀧;(不明)みたいな感じですか?
小林;そうです。
大瀧;はあ。
小林;だから、今の日活スターに比べれば背も低いし、アレだけど、なんとなく。
大瀧;なんか高そうに見えますね、映画の中で。そうですかー。
小林;それでね。その頃、水島道太郎さんっていうのはちょっと人気・・
大瀧;落ちたんですね。戦後、随分経ってますからね。
小林;落ちてきたんです、スターとしては。もうだって、戦後15年近く経っているから。
 
大瀧;だから、日活が始まった頃、初期は次々と水島道太郎のギャングモノの主演を・・・。
小林;そう、やって。
大瀧;多いですよね。
小林;で、後にさらにあの、それこそ、宍戸錠がなにかやることを水島さんがやってたんですね。
大瀧;後半、ワキ、たまに出てましたね。
小林;で、この人はね、長いですよ。まあ、最近亡くなったでしょ?
大瀧;あー、そうですか。
小林;ええ、亡くなったの、本当最近です。
大瀧;ああ、そうですか。まあ、有名な話では、“南国土佐”がね、最初、水島道太郎だったという。
小林;そうですね。当然、あれはそうでしょうね。戦時中の話ですよね。
大瀧;ヤング水島道太郎だったわけですね。アキラは。
小林;そうですよね。全然違いますけれどもね。
大瀧;ふっふっふ(^_^)
小林;ただ、凄みっていう・・。
大瀧;ちょっと凄み、ありますね。
 
小林;戦後直ぐの松竹の『地獄の顔』では、彼がギャングで、弟分がディック・ミネですからね。
大瀧;ねー(^_^)。
小林;で、あの「夜霧のブルース」はここから生まれた。
大瀧;ね、ヤング・ディックミネは裕次郎だったんですからね。
小林;そうですね。
大瀧;これもまた、不思議な巡り合わせですね。
 
■「ピストルの南国土佐」
小林;そうですよ。なんたって、その監督とか、全部松竹から来てるから。
大瀧;ええ。日活はね。
小林;日活は。それが大きいですよ。
大瀧;なるほど。
小林;だから、あの、裕次郎が出るまで、日活映画っていうのは、割合に松竹の映画みたいに作られて・・。
大瀧;っぽいですね。
小林;あの、それは三国連太郎さんなんか出るの、違うけれども。例えば、斎藤武市さんなんてのは、ワリに、あの人、小津安二郎の助監督ですから。割に地味な映画撮ってたんですよ。
大瀧;滝沢英輔なんて、松竹そのものじゃないですか。
小林;いや、あの人は東宝なんです。
大瀧;あの人は、東宝なんです?へぇー。文芸モノばかりでしたよね。
小林;そうですね。だから、いや、日活が文芸物だったんです。
大瀧;日活自体が文芸モノ。
小林;そうです。日活は、やりようが無いわけですよ。スターがいないから。
大瀧;国定忠治で。
小林;ええ、まあ、そう。
大瀧;新国劇もってきて。
小林;やったり、ギャングったって。そんなにね、画期的なギャングじゃないし。
大瀧;はあ、はあ。
小林;それから、マキノさん呼んできて、また「次郎長三国志」の続きを撮ったり。
大瀧;やってましたね。
小林;そういうことやったって、やりようがないから。だから、大ざっぱにいうと文芸物っていうのは一つの路線でしたね。
大瀧;うーん。
 
小林;だから、小林旭も自分がその、33年に賞を取ったのがあるんですよ。
大瀧;ああ、そうですか。
小林;あの、浅丘ルリ子が脇役で、後に舟木一夫にリメイクされた・・。
大瀧;『絶唱』
小林;『絶唱』。
大瀧;あれ、賞取ったんですか?
小林;あれで、アキラは賞を取った。
大瀧;へぇー。アレ、滝沢英輔じゃないですか?
小林;まあ、新人賞とかそういうんでしょうね。で、それがあったんで、“南国土佐”に繋がったという。
大瀧;なるほど。
小林;この間ラジオで言ってましたよ。
大瀧;あ、そうですか。へぇ〜。
小林;だから、その“南国土佐”の時にソコやるのか、あれはどう見ても本来はペギー葉山でやるんですよね。
大瀧;ええ。(^_^)
小林;で、「誰かいないか?」って言ったら、いないかって言うときに、「絶唱」で割に注目されて、「アイツ、いけるんじゃないか」って。
大瀧;あー、そうですか。
小林;だけど、もうその時は・・。
大瀧;いい映画でしたよー、「絶唱」。
小林;いいんですよ。だって、自分で、当時アキラが新聞にコラムを書いてて、“マイトガイ、ついに涙す”って自分で書いて(^_^)
大瀧;自分で書いてますか(^_^)
小林;もうその時、マイトガイだったのかって、僕は、今思います。
大瀧;まあダイナマイト、もうデビュー曲は出てたかもしれないですね。
小林;“マイトガイ、ついに涙す”ってんで自分で泣いたんでしょ、きっと。
大瀧;うーんまあ文芸物、川嶋雄三『飢える魂』から文芸物多いんですよね。
小林;そうそう、非常に文芸物多いんですよ。
大瀧;多いですよね。
 
小林;だって、裕次郎の、裕次郎が「太陽族映画、けしからん」、って叩かれて。それから、乳母車と・・・
大瀧;はい。
小林;陽の当たる坂道を、あれ・・。
大瀧;石坂洋次郎。
小林;石坂洋次郎監督、石坂洋次郎監督の、あれは「エデンの東」のまるまるパクリですけれど。
大瀧;ふふふっ(^_^)
小林;“朝日”に載ったちゃんとした文芸物ですから。
大瀧;なるほど。
小林;ええ、だからそういう文芸物路線ってあるんですよ。
大瀧;たしかにね。
小林;アレは結局、あのダイアモンドラインが揃ってからは、完全に消しちゃったけれども。
大瀧;学園モノで、吉永小百合の学園モノにやっぱり・・。
小林;ありますね。
大瀧;ラインが残っている。
 
小林;それから、この小林旭もずっと後で「さぶ」をやってるでしょ。
大瀧;「さぶ」ね。
小林;山本周五郎の。
大瀧;はい。
小林;で、ああいうモノをちょっとやるんですよ。
大瀧;なるほどね。
小林;それはもう、けっこうお客が入ったかどうか知らないけれども、結構、割に日活というのは文芸物を、
大瀧;やってたんですよねー。あとで、僕も知ったんですけれども。
小林;だから、そういうマジメなね、もうちょっと。アレ?また違うなっていう。アレがあったんですよね。
大瀧;“渡り鳥”以前の方が僕は映画見返したら面白かったんですけれども。
小林;それはそうでしょ(^_^)。
大瀧;ふふふっ(^_^)、“渡り鳥”で産湯を浸かったんでね。ああいうモノかなと思ったんですかねー。マジメな映画の方が面白かったですよ。
小林;マジメな映画。
 
大瀧;マジメな映画と、その後のヤクザ映画と。意外にねー、“渡り鳥”とか、“流れ者”は、あんまり今ひとつ面白くなかったですね。
小林;なんか、まあ、だって。
大瀧;見慣れたせいもありますしね。
小林;いや、それよりリアルタイムでもね、そんな面白いっていう、アレじゃないから。
大瀧;『南海の狼火(のろし)』はワクワクしましたよ。
小林;なんかね。
大瀧;中1ですけどね。
小林;あれは、確かアレでしょ?キャバレーの入り口にアキラがスーッと入って来ちゃうヤツでしょ?やっぱり、いくら四国でもキャバレーの番人ぐらいいるだろうって。
大瀧;橋の上で対決する。
小林;そうそう。
大瀧;宍戸錠と、あの最後何か投げて、止まったら撃つとかいう。
 
小林;これはねー、差し障りがあったら、アレですけど、当時割に四国っていうのはピストルが自在だったんですね。
大瀧;ふふふっ、四国で(^_^)。
小林;いや、本当ですよ、あの。
大瀧;宇和島だもんな。
小林;あの60年っていうのは、60年安保の時でね、非常に拳銃にうるさかったんです。
大瀧;あー、拳銃の本作ってましたよね、小林さんね。
小林;だから、知ってんですけれどもね、四国の人っていうのは割合に。
大瀧;ふふふっ(^_^)。
小林;だから、大藪春彦が捕まったのはね、四国のヤクザが吐いたんですからね。
大瀧;あ、そうですか。
小林;ええ。
大瀧;入手ルートはそこだったんですか(^_^)。
小林;入手ルートは、大藪春彦だった(^_^)。それで、いや、あの、売りに来たんですよ、拳銃を。
大瀧;ほぉー。
小林;で、あの1960年はなぜかっていうと、60年安保の荒んだ空気っていうのも有るんでしょうか。で、大藪春彦が、また「中央公論」に警官の拳銃をですね、
大瀧;ええ。
小林;いざとなったら警官の拳銃を奪って撃つ、普通撃てませんからね、あんなの取ったって。
大瀧;うんうん。
小林;撃つときの方法をね(^_^)。そんなモン「中央公論」に書くなっていう。
大瀧;すごいなー(^_^)。そういう時代でしたね。
小林;割合ねー、それで安かったですよね。
大瀧;はあー。
小林;例えば給料が1万5千円、僕の給料が1万5千円ぐらいかな。そうすると、僕はその人の家を、二階借りてたから出来ませんけどね。家構えると、拳銃ブームで好きそうな人のところ来たんですよ。
大瀧;売りに来た(^_^)。
小林;お金がないから向こうが。
大瀧;あらら・・・。
 
■「カサブランカは時の過ぎゆくままに」
小林;すると、僕の記憶じゃ、ベレッタが3万円ですよ。
大瀧;ほほぉ、そんなもんで手に入ったんですか?
小林;僕は、大藪春彦の家で見たからベレッタを枕の下に入れてるんですよ。
大瀧;ふふふっ(^_^)
小林;007じゃない。
大瀧;子供じゃないんでしょ?それ。
小林;007じゃないしねぇ。彼が住んだトコっていうのはね、目白の近くでね、なにもそんなトコでピストルを・・・。
大瀧;持って無くても。
小林;いや、彼はなんか楽しいんですね。
大瀧;ほぉー。
小林;で、出るときにね、ショルダーフォルダーにね、背広の下に入れてる。
大瀧;ええ。
小林;「コレ、分かんないだろう、これだ」と。で、分かんないと思って、捕まったり(^_^)。で、そのくせ結構拳銃のルートにはうるさいですよ。
大瀧;なるほど。
 
小林;で、まあ、これは無駄話になるけど、彼はね、猟銃を何丁も持ってた。
大瀧;はあ。
小林;4丁ぐらい持ってたんですよ。
大瀧;ええ。
小林;それで、こう、ガンケースに入れてあるんですよ。
大瀧;アパートに立てかけてあるんですか?
小林;そう、アパートに。
大瀧;ほぇ〜。
小林;だって、あの人はアパートの二階の部屋に行ってからいいけど、下の部屋にいたときに、夜酔っぱらって帰って撃っちゃって、隣の部屋に突き抜けて、大騒ぎになったんですから(^_^)
大瀧;ふっふっふ(^_^)
 
小林;それで壁に穴が空いてるんですよ。「コレなんだ?」って言ったらね、柱に。
大瀧;撃ってんの??
小林;いや、ピストルですよ。抜き撃ちを。
大瀧;部屋の中で。
小林;抜き撃ちの練習してるんですよ。
大瀧;ふっふっふ(^_^)
小林;それでねー、その、
大瀧;早撃ち何秒かってやってるの?
小林;そう、それで、柱、もう一杯になちゃったんでねー。このミカン箱に新聞紙を縦に入れるんですよ。で、あれ、突き抜けないんです。
大瀧;ほぉー。
小林;そうすると、それに向かって、こう撃ってるうちにね、また手元が狂って。隣の部屋に撃って、隣の部屋のオヤジが酒飲んでるトコにバーンと。物凄い怒られたという・・。
大瀧;ギャグじゃないですか。
小林;いや、本当に、僕はそこに彼の原稿取ってましたからね。
大瀧;うーん。
 
小林;それで、そのうち2階が空いて、2階に6畳と4畳半がね。ソコが空いたんですよ。それまで4畳半一間で撃ってるんですからねー。
大瀧;ふふっ(^_^)
小林;それで6畳と4畳半のソコ入って、6畳の方にガンケースがあって。
大瀧;本当に狩りとかハンティングやってたんですか?
小林;やります、やります。それで、その前にね、家のトコ、本当に1960年ですよ。窓のトコに行ってね、「風呂屋の煙突見ろ」って言うんです。それで、僕に双眼鏡渡して、見てろって言うんで・・。
大瀧;ふふふっ(^_^)
小林;見てるとねー、彼が撃つわけですよ。
大瀧;はい。
小林;そうするとねー、煙突の上の方に黒い煙がパーッと上がるんですよ。
大瀧;日活映画そのものですね。
小林;ええ、いやだから、あれはねー、地続きだったんですよ、だから。地続きだからウケたんですよ。
大瀧;ああいうことはね。
 
小林;それで、今フィクションって、コレはフィクションだけれども、わりにそうだったんです。
大瀧;そうですね。
小林;それで、ヤクザが売りに来るんで、好きな人は買うんですよね。
大瀧;うーん。
小林;で、だから、その特集をやると売れたっていうのは、そういうことなんですよ。なんも単にわりにポピュラーだったんですね。
大瀧;(^_^)
小林;僕は、だから新聞で叩かれましたもん。
大瀧;でしょうね。
小林;“ガンブームって、ガンって胃ガンとかそういうものなら、そういうものを”ね。
大瀧;そんなつまんないことも言ったんですか?(^_^)
小林;いや、だから新聞で書かれたんですよ。それでね、聞いてみたら、ピストルのガンていうのはね、僕は江戸川乱歩っていうのは、推理小説の。
大瀧;はい。
小林;なんていうんですかね。産みの親の大御所。会社の錦紗ですから。
大瀧;はい。
小林;江戸川乱歩さんに、「きみ、なんかピストル。あれはなんだね?」って言われ、「いやアレは僕は好きじゃないんですが」。ああいうモノほとんど興味ないんですけどもね。
大瀧;うん。
小林;好きじゃないけれども、ちょっとやると売れるから。売らなきゃなんないから。それがないと、宍戸錠特集だって出来ませんよ。
大瀧;(^_^)、二度もやってましたね。
小林;全然、宍戸錠なんて、だって知らないですからねー。一般は。我々はもう内輪でガーッとコレモンでいったけれども、んなもんは分かんないから、それやるためには丁度組み合わせて、ピストルと組み合わせて、ちょっとそういう話入れてもらってとかいうね。
大瀧;う〜ん、詳しい図解が載ってましたよね。
小林;そうなんですよ。そうするとね、そういうのって、売れるんですよ。で、四国はそういうの自由自在だったんですよ。だから。
大瀧;背景としてはね、完璧に。
小林;だから、日活がアッチに持っていったっていうのはいいと思う。
大瀧;なるほど。
 
小林;で、キャバレーで、咎め立てもなくギター持ってスーッと入って。
大瀧;入っていった。
小林;普通、アレとがめられますよね。きっとね。四国でも、1つ海渡るとね。
大瀧;うーん。
小林;で、やっぱ、なんか抗争で、やってたんじゃないですかね。
大瀧;あー、今もあるような“抗争”ね。
小林;そうそう。
大瀧;はぁ〜ん。
小林;だって、あとで“仁義無き戦い”観るとずーっと繋がってますよね。
大瀧;抗争なんですね。で、日活アクションは、それの非常になんと言いますか、さわりというか、
小林;そうそう
大瀧;やわらかーいヤクザ映画だったんですね。
小林;そうそう。柔らかいヤクザ映画ですよ。やくざの詩(うた)ですから。
大瀧;「うた」ってぐらいなもんですからねえ。たしかに、あのタイトルのおかげで曲は本当に損しているなって思いましたよね。違うタイトルにすればいいんだけど、映画屋さんって必ずタイトル付けるんですよ。歌は宣伝だからっていうんですよ。
小林;ええ、そうですよ。
大瀧;なんだけれども、カサブランカにしてもなんにしても、そのタイトルがそのままなるっていうのは、向こうは少ないんですよ。
小林;ないですね。
大瀧;で、日本でもやっぱり別の方があたるケースが多い。曲が残ってるケースが多いんですけどもねー。必ず同じにするんですよ。これがもう悪しき伝統ですね。
小林;うーん。
大瀧;ヤクザの詩はいい歌だったのに・・・・(^_^)
 
小林;映画もいいんですけどもね。そこそこいってるんですよ。
大瀧;だから曲のタイトル見ただけで、みんな何だコレっていうんですよ。
小林;うーん、ヤクザっていきなり出しちゃマズイですよね。なんとかの歌っていうのは。
大瀧;なんか違うタイトルにして欲しかったなぁ。
小林;それで詩とかいて「うた」と読ませるというね。いっそう陳腐なという・・・(^_^)。昔から僕は思ってたから。
大瀧;(^_^)
 
(ピアノのイントロにつづき「ワビしくー消えた〜 ヤクザのウタ」
 アキラが丁寧に歌ってる)
 
大瀧;来週はこの続きをお送りいたします。                     
            
Speach Baloon Chapter 2
2002-3-9