譜面台の陰から





                          >テンポについて<






  発表会まであと一ヶ月というところまできました。

練習にもだいぶ熱が入ってきてると思います。

ここからの集中練習というのは、

上達の上でも非常に意味のあることだと思います。


 舞台の上で楽器を使って演奏するということは、

自己表現をするということだと思います。

自己表現の手段というのはいろいろあると思いますが、

少なくともギターを演奏しているということは、

ギターを弾くことによって自己表現を実現しようとしてると思います。

これは意識するしないにかかわらずです。

人間という動物は、

自己表現というものを抜きにしては、

生きていけないというのが宿命だと思います。

言葉というのはそういうことのためにも存在してるわけで、

一番手っ取り早い手段だと思われます。

ま、ギター演奏の発表の場ということである以上、

言葉での発表はもちろんありません。


 舞台で演奏した後で、

よく演奏が上手くいったいかないという会話が必ず出ます。

この上手くいったいかないというのはどうして起こるのか、

また上手くいったという基準はなにかということです。

ここが一番曖昧になりやすいところでもあるわけですが、

一つはっきりしてることは、

演奏したその曲がどういうメロディーかが、

聴いていてる人に分かったかどうかです。

弾き始めた途端、

全然違う曲を弾くなどということはないわけだから、

弾くべき曲のメロディーが相手に伝わったかどうかが、

まず第一のポイントだといえると思います。

では、どうしてわかりやすく聴こえて、

分かりにくく聴こえるのだろうか・・・。

皆さんにも経験があると思う。

しっくり耳に入ってきて印象としてメロディーが残る演奏と、

いまのはなんだったのかな・・・、

という疑問が生まれるメロディー・・・。

こういう違いというのはどこが原因で起こるのだろうか・・・。

現象があるということは理由があるということだと思う。


 先にも書きましたが、

言葉で言いたいことを言おうとするとき、

また言葉で聴いた時、

分かりやすい言葉の印象と、

なにを言っていたのか半分くらいしかわからないという印象。

これは意外に身近に起こることではないかと思う。

言葉というのは非常にたくさんの要素を含んでるので、

単純に語ることはもちろんできない。

しかし、その分かりやすい分かりにくいという要素に、

実はしゃべる速さがあると思う。

同じ言語でしゃべる以上、

誰もわからない言葉でしゃべる人はいないわけですが、

同じ言葉でしゃべっていても、

わかりやすいとわかりにくいが分かれてしまう。

なぜか・・・。

このなぜかの中に速さという要素が含まれていると思う。

あまり早くしゃべりすぎるとまず内容が印象として残りにくい、

しゃべる速さがあまりに違いすぎると脈絡がつかみにくい・・・。

こんなことも経験があるのではないかと思う。


 なぜこのことを書いたかというと、

実は演奏も似たようなところがあるということです。

要するに音楽用語のテンポのことを言いたいわけです。

短い曲だとそもそもそれほどテンポが問題になることはありません。

人間ある一定の長さまではテンポが保たれるからです。

短い会話で速さが気になることはそうはないと思います。

それと同じことです。

 しかし、レベルが上がっていると、

曲というのはだいたいは長く動きも複雑になっていくものです。

そうすると人間が保てる一定の速さの枠を、

超えてしまうということです。

しかも左指の押さえ方、

右指の一本一本の動きも複雑になります。

テンポが保てない要素がいきなり壁のように立ちはだかります。

ギターという楽器は前にも書いたことがあると思いますが、

右手と左手が全く違う動きをする楽器です。

そういう楽器はギターだけじゃないといえば確かにそうですが、

ギターは和音を押さえて演奏する楽器です。

そうすると右手に比べると左手というのは、

はるかに多くの動きを要求されます。

和音の瞬時の移動というものはやはり難しいものです。

ここでテンポというのが重要な要素になってくるわけです。

非常に少し乱暴に言ってしまうと、

右手と左手のテンポ感はバラバラということです。

ギターにおける基礎練習というのは、

この左右の指のテンポ感を合わせる練習だと、

言いきってもいいくらいだと思います。

しかし、曲というのは複雑な動きの要素の集合体と考えると、

基礎練習でOKとはならないと思います。

やはり曲ごとに右手と左手のテンポ感をそろえる練習が必要です。

要するによりよくメロディーを相手に伝えるために、

左右の手のテンポ感をそろえようということです。


 メロディーの一つ一つのフレーズというのは、

それごとに違いがあって複雑です。

同じ動きというのは繰り返し以外は全部違います。

繰り返しの動きが同じということがまたテンポを狂わせることもあります。

メロディーを分かり辛くする失敗の多くは、

テンポの乱れから起きるものがほとんどです。

 
テンポに狂いを生じさせる要因は複数あります。

まずは左手の押さえの易しさと難しさ。

メロディーに表情をつけて演奏するとき。

ほとんどはこの二つが原因といえると思う。

この二つを見極めテンポを一定にキープすることが、

メロディーを相手に分かりやすくするために非常に大事なことだと思います。

プロのギタリストとアマチュアのギタ愛好家との決定的な違いといえば、

一つにはこのテンポのキープ力の違いにあるのです。

発表会まであと一ヶ月。

フレーズごとの左手の動きとメロディーごとの表情、

この二つによるテンポの変化を客観的に見つめて、

対策を立てていくことが重要だと思います。





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