譜面台の陰から



                       >吟味する<



 吟味するというタイトルが利き酒をするということではない。

この言葉の意味を引くと、

いくつかある意味の中に「念入りに調べて選ぶこと」ということがある。

要するにこの意味が大事ということだ。

楽器を演奏するというときに、

自分の楽器に張る弦を吟味する。

自分の出す音を吟味する。

フレーズの運指を吟味する。

メロディーがうまくつながるように色々運指やタッチを試すという経験は、

ある程度の難しい曲にチャレンジするときには必ずあると思う。

今回、吟味してみたいのがテンポに関してだ。

これはほとんど楽器を演奏する限りついて回る問題だ。

今まで教室に来ていただいた方の演奏を聴いていると、

同じ曲でも弾き手によって随分テンポが変わるのが、

面白いといっては語弊があるかもしれないですが、

どうしてこれだけ違いが出るのかなということをよく考えさせられた。

長年そのことを引っ張ってきて気が付いたことが、

人にはそれぞれ固有のテンポ感があるということ。

Aの人にはメトロノームの80のテンポが早く感じる。

Bの人には同じ80のテンポがゆっくり聞こえる。

この違いはどこから来るのだろうか・・・。

同じ曲を課題に出してみると、

80のテンポが、速く感じる人はかなりゆっくり演奏する。

80のテンポが、ゆっくり感じる人は早めに演奏してくる。

こう見てくると同じ曲にもかかわらず早い遅いが出てくるのは、

その人の持つ固有のテンポ感から来るのではないかといういことだ。

いわゆるのんびりした感じの人。

せっかちな人という感じの人。

何も言わずに同じ曲を弾くのを聴いていると、

あきらかにテンポに差があるのだ。

持っている技術力とは関係なく、

その人の持っているテンポ感で演奏されるから、

そこにいろいろ問題が起こってくる。

個々の人の持っている弾く技術力というのは違いがあるから、

遅いからうまく弾ける、早いからうまく弾けないという違いはあまりない。

技術力とテンポ感は関係ないのだ。

ここからが問題なわけですが、

ここに一曲ある・・・。

この一曲をどう弾いていくのか。

まず一番問題になってくるのがその人の持っている固有のテンポだ。

テンポ感の早い人は、

まず左指がフレットを押さえるのが間に合わなくても強引に弾こうとする。

テンポ感の遅い人は左指が間に合う可能性が高いからうまく弾ける。

それは必ずしもそんなことはなくて、

今度はゆっくり過ぎて何を弾いてるか良く分からないということが起こる。

このテンポ感に違いをどう解決していくのか。

これがまさに一番難しい問題で、

そもそも無意識に持っているテンポ感を、

言葉で指摘して治すのは至難の業だ。

本人は無意識なわけだから下手をすると、

何を言われてるのかもよく分からないってことが起こる。

曲のテンポというのは千差万別で、

世界的なプロでも一人一人違いがある。

下手をするとCDとかYou Tubeのテンポがすべてと思い込んでしまう。

そこでのテンポというのは大体普通は弾ける早さではない。

それをすべてと思い込んだところから悲喜劇が始まる。

持っているテンポ感が早い人も遅い人も思いこんだテンポで演奏しようとする。

白紙の状態のところにパッと飛び込んできた色を真似しようとする。

だいたい相手は世界的なプロであるわけだから、

同じように演奏するなんてことができるわけはない。

ほとんどその演奏に近づけることがすべてという感じになってしまう。

世界的な才能に恵まれてればそれも可能かもしれないが、

ほとんど無理・・・。

そこに気が付くことが重要だと思う。

ほとんどの情報のソースがCDとかYou Tubeになっている現在、

なかなかその先入観を打破するのは難しい・・・。

難しいから放置・・・というと元も子もなくなるわけですが、

やはりここで重要なのがすべて初心に戻るということではないか・・・。

その曲を知るにはCD,You Tubeは有効といえる。

しかし、実際の演奏となると、

まずはすべて白紙にして、

自分の持っているテンポ感、技術力を客観的に見て、

まず左手が間に合うテンポから練習する。

ギターは左指の動きが設定したテンポに間に合わないと、

最後まで安定して弾きとおすことはできないです。

自分の持っている曲に対する見方をどう解釈するか。

CD,You Tubeでの情報をリセットして、

その曲に対する自分なりの情報発信を考える。

自分にとってのその曲の落としどころを考えていくということだと思う。

CD,You Tubeの情報より遅いから即ダメなんてことはまずありえない。

曲の表現というのはテンポで決まるわけではないからだ。

いろんな角度から曲をつついて見ると、

いろんな面白いことが出てくる。

しかし、テンポに縛られてしまうと、

なかなか多様性というのは生まれこないと思う。

テンポを吟味するというのは多様性という意味も含んでると思う。

曲に対して指が慣れてくるといつの間にかテンポが、

自分の持っているテンポ感になってしまい、

なんだか時間がたつにつれてうまくいかなくなるというのはよくあることだ。

上手くいかなくなるというのは、

だいたいテンポが乱れてきてる場合がほとんど・・・。

弾き慣れてくると曲に対して無意識になってくるから、

テンポも乱れてくるわけだ。

弾き慣れた後もテンポは吟味されるべきものだと思う。

テンポに無意識になってはいくら練習しても、

結果はついては来ないと思う。

吟味されるのがテンポだけということではないが、

非常に重要なことの一つだと思う。



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