テレビのヒーローと音楽:昭和30年代

 昭和20年代は月刊誌(少年倶楽部か)とラジオの時代だった。圧倒的に時代劇ヒーローが多かった。子供達は紅孔雀や猿飛佐助になりきり,野原で泥んこになってチャンバラや忍術ごっこをしていたのである。そこは信州天魔境であり宿場の外れの荒野だったのである。そのイメージは銀幕のヒーローの登場で世代に特化された共通な体験となってゆく。意外なことにと言うか当然のことながらと言うか,戦記モノのヒーローは夢の世界の住人にはなりにくいのだろう。特記するキャラクターがいない。
 昭和30年代に入ると銀幕とブラウン管を通して,日本中を熱狂の渦に巻き込んだ同時代的ヒーローが誕生した。その最初の一人が月光仮面である。それまでにも「多羅尾伴内」や「明智小五郎」などの探偵モノのヒーローがいたことはいたが,少々大人向きの娯楽作品だった。探偵ものにミステリー風味を加えた物語が成立したのは,都会の発展と無関係ではあるまい。子供達は路地裏にビルディングの暗がりを見,悪人を探して走り出したのである。そして,さらに映像の力は科学と未来へと空想の世界を広げるのである。スーパー・ヒーローの誕生はもうすぐだ。

ラジオ
●新諸国物語s27(1952)〜北村寿夫/ 【「白鳥の騎士」「笛吹童子」「紅孔雀」「オテナの塔」「七つの誓い」に加え,「天の鶯」「黄金孔雀城」,その外伝のごとき「風小僧」までを含めることができる。ラジオの他に映画・絵物語・テレビにまで数々のバリエーションがある。それだけで一つのサイトが作れるくらいなのでここでは取り上げない。興味がおありの方は,その方面の研究・思い出サイトを訪れたい。】
●赤胴鈴之助 s32(1957)10月〜福井英一&武内つなよし/尾上緑也,吉永小百合

●番組タイトル・放送年度・原作/俳優
テレビ
月光仮面 s33(1958)2月〜 (宣弘社) 音楽:小川寛興
遊星王子 s33(1958)11月〜 (宣弘社) 音楽:服部克久
怪人二十面相 s33(1958)11月〜
●口笛探偵長 s34(1959)
●風小僧 s34(1959)2月〜 北村寿夫/ 目黒ユウキ,山城新伍
少年ジェット s34(1959)3月〜 (大映テレビ室)
●変幻三日月丸 s34(1959)3月〜 西川清之/ 中山大介,高木新平
鉄腕アトム s34(1959)3月〜 (松崎プロ)
●まぼろし探偵 s34(1959)4月〜 桑田次郎/ 加藤弘,吉永小百合
●矢車剣之助 s34(1959)5月〜 堀江卓/ 手塚茂夫,小林重四郎
●七色仮面 s34(1959)6月〜 川内康範/ 波島進,千葉真一
●豹の眼 s34(1959)7月〜 高垣眸/ 大瀬康一,天津敏
●海底人8823 s35(1960)1月〜
●白馬童子 s35(1960)1月〜
●鉄人28号 s35(1960)2月〜
●小天狗小太郎 s35(1960)3月〜
●快傑ハリマオ s35(1960)4月〜
●アラーの使者 s35(1960)7月〜
●ナショナルキッド s35(1960)8月〜
●まぼろし城 s135(960/)0月〜
●少年発明王 s36(1961)2月〜
●少年ケニヤ s36(1961)5月〜
●恐怖のミイラ s36(1961)7月〜
●隠密剣士 s37(1962)10月〜
●忍者部隊月光 s39(1964)1月〜

●月光仮面 原作:川内康範/大瀬康一,高塔正康,谷幹一,宇野よし子, 布施由起江,小栗一也
主題歌「月光仮面は誰でしょう」 作詞:川内康範/作編曲:小川寛興/歌:近藤よし子&キング子鳩会
挿入歌「月光面の歌」 作詞:川内康範/作編曲:小川寛興/歌:三船 浩
憎むな! 殺すな! 許しましょう!
 歌い出しの♪「何処の誰かは知らないけれど…」を「何処かに知らない人がいるかもしれないけれど…」という意味だと思い込んで歌っていた時期がある。♪「誰もがみんな知っている…」そう,ウルトラマンを知らない人がいないように,月光仮面を知らない人はいなかったのだ。♪「正義の味方よ,良い人よ…」風呂敷をマントにして口ずさみ,ついでにお面をかぶれば,誰もが月光仮面になれたのだった。♪「疾風のように現れて,疾風のように去ってゆく…」樹脂のサングラスはデパートでも,祭りの夜店でも,町一軒の駄菓子屋にも売っていて,バネの力で小豆や大豆を発射するピストルや火薬の巻紙をセットした連発銃さえあれば,日が暮れて家に帰るまでヒーローでいられたのだった。
 二番はちゃんと覚えている人は少なそうだ。♪「どこかで不幸に泣く人あれば,必ずともにやって来て…」とても日常的なのである。♪「真心こもる愛の歌,しっかりしろよと慰める…」とても人間的なのである。この点が後の超人ヒーローの性格との大きな違いだが,その変遷を時代と共に辿るのがこのページの主眼の一つなのである。
●遊星王子 原作:伊上勝/ 三村俊夫,日吉としやす
主題歌「遊星王子のうた」 作詞:伊上 勝/作曲:服部克久/編曲:小川寛興/歌:ひばり児童合唱団

・・・私は怪しい者ではありません。
 子供が真似して怪我をするから悪い番組だという,PTAの理不尽な圧力に屈してテレビの月光仮面は終了した。舞台が宇宙では塀や木から飛び降りる真似はすまい,とPTAが納得した…かどうかは知らないが,遊星王子である。歌詞は覚えやすく,忘れやすい,平均的な初期ヒーロー主題歌。だって♪「すんだ青空 浮かぶ雲 明るい心 希望の瞳…」だよ。♪「ひかりかがやく 海原を キンキン飛ぶよ 空飛ぶ円盤…」これを書いた伊上勝は赤影〜仮面ライダーで気を吐くことになる,時代物が得意の脚本家である。音楽の服部克久は服部良一の息子で,留学帰りの初仕事がこれだったらしい。その後,テレビ・軽音楽の世界で大活躍する。
●怪人二十面相 原作: 江戸川乱歩/ 佐伯徹,高田稔
主題歌「少年探偵団」
挿入歌「追跡の歌」作詞:長田恒雄/作編曲:鏑木創/歌:上高田少年合唱団
   
 江戸川乱歩の原作の映画は,現在までに50本近い作品が作られているそうだ。昭和2年(1927)の「一寸法師」が第一作,ぜひ観てみたいものだ。明智小五郎モノは昭和29年から2年間で7本作られている。♪「ぼ,ぼ,ぼくらは少年探偵団…」で親しまれているのはラジオドラマ「少年探偵団」の主題歌で,映画は昭和31年から34年までに9本あるが,歌と音楽がどうだったのか今のところわからない。テレビでも昭和32年に10回シリーズの「少年探偵団」があるが,詳細は不明だ。この欄では32年の番組を取ったが,2年後に別の局で同じスタッフ・キャストで「少年探偵団」として放映されている。取りあえず歌詞だ。♪「勇気凛々 瑠璃の色」♪「力洋々 海の色」♪「知恵は七色 虹の色」♪「誓いは堅く 鉄の色」の歌詞に勇気付けられた方も多いと聞く。単純明快で力強く深い内容と構成の歌だ。心を奮い立たせる旋律とマーチのリズムは子供番組の歌の王道と言ってもよいだろう。♪「望みに燃える 呼び声は 朝焼け空に」♪「胸も高鳴る 呼び声は 真昼の空に」♪「夢も膨らむ 歌声は 夕焼け空に」♪「明日をめざす 歌声は 月夜の空に」こだまするのだ。
●少年ジェット 原作:武内つなよし/中島裕史,高田宗彦
主題歌「少年ジェット」 作詞:武内つなよし/作編曲:宮城秀雄/歌:藤沼一美,大道寺重雄,ビクター児童合唱団
挿入歌「ぼくのシェーン」歌:宮城まり子
う〜 やぁ〜 たあああぁぁああぁぁぁぁぁ
 子供にとって憧れるヒーローには2通りあったと思うのだ。大人のおじさんとちょっと年上のお兄さんと。実際子供達はどちらのヒーローを愛するのだろうか。自分は大人の方が好きだったな。大きくなって悪と戦おうと思ったもんな。で,主題歌冒頭のセリフ。「強く 明るく 正しい心 少年ジェットこそ まことの少年の 姿なのである。」少年が憧れ理想とする存在としてのヒーロー。これを大人の価値観の押し付けだとか,現実的ではないと否定する風潮がやがて生まれる。いいじゃないの,気持ちの問題だぜ。「いかなる困難 危険を越えて 少年ジェットは 今日も行く」。前向きな建前が消失してしまえば,愛だの正義だのは空疎な言葉に堕すのだ。
●鉄腕アトム 原作:手塚治虫/瀬川雅人,田中明夫
作詞:青木義久/作編曲:益田克幸/歌:上高田少年合唱団
ジェット推進十万馬力!
 ♪「パンチだ 空手だ 正義の力だぞ」暴力礼賛とはいわないが(笑),手塚治虫はこの歌詞をどういう思いで聞いたのだろうか。悪いやつは徹底的に叩きのめす。それはとても健全な考え方だ。悪者が悪者になったのは何らかの社会的な理由があるから社会問題を取り上げるべしとか,善悪相対主義でドラマを作るべしといった考え方が,どのように子供番組を変質させていったか,歌詞を辿るだけで読み取れるかもしれない。かつては,勧善懲悪を唱えながらも,真のメッセージは罪を憎んで人を憎まず,勇気の心で許すことを伝えてきたはずだ。♪「僕らも一緒に 力を合わせ 平和な世界を 作るんだ
●昭和40年代  ●昭和50年代  ●昭和60年代  ●ヒーロー音楽TOP  ●宝物殿TOP
 
 
 

作曲家・編曲家
小川寛興 服部克久 宮城秀雄 益田克幸 渡辺浦人 渡辺岳夫
作詞家
川内康範(原作者) 伊上勝(脚本家) 武内つなよし(漫画家) 青木義久 照井範夫・山本流行 加藤省吾 黒沼健(小説家) 鈴木厚
資料はTVDRAMA-DB.COMを参考にしています。http://www.tvdrama-db.com/