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2003
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タブの作り方
基本編
MAKING OF WASHTUB BASS

試行錯誤の日々

 JIM KWESKINやNITTY GRITTYのレコードジャケットにあったウォッシュタブは長年の夢だった。
 USでは雑貨屋で簡単に手に入るウォッシュタブが、日本ではなかなか手に入らない。JugBandはもともと身近な物で楽器の代用を作ってきたのだから、入手簡単且つ安価な素材を探した。
 最初に作ったのは、18リットルのペール缶に自転車のブレーキワイヤ−を張った物だ。これは把手が付いていて持運びが楽だったが、音量が小さく、なにより音域が高くてベースらしくなかった。

 念願のUSA産WashTubを手に入れたのは、かなり後の事だ。
最初はやっぱりベース弦を張っていた。音量も音域も申し分なく、これでWashTub Bassは一応の完成をみた・・・と思っていた。
 しかし、根本的に僕はまだこの楽器の弾き方を理解していなかった。 写真を見て外見はそれらしくなったものの、肝心の音がどうも違う。切れがないというか、しまりがないのだ。こんな楽器やと云ってしまえばそれ迄の事だったけれど・・・。


 次の転機が訪れたのは、フリッツ・リッチモンドの来日である。
マリア・マルダー、ジェフ・マルダー、ビル・キースと云った、このジャンルに首を突っ込んでいる者にはたまらないメンバーと一緒にフリッツは来た。
 僕は目を皿のようにして、彼の楽器は勿論その指先の動きにもかじりついた。
 なにしろ彼はWashTub Bassの第一人者なのだ。
 フリッツの動きには無駄がなく、特に弦を弾いた後、右手首の返しでもう一度弦を弾く弾き方には唸った。まさに目からうろこが剥がれまくった。

 コンサートの後、楽器に駆け寄った僕にフリッツは一つ一つ楽器の素材と作り方を丁寧に教えてくれた。
 それからの何ヵ月は、それこそ無我夢中で楽器作りに取り組み、ようやく納得のいく物に仕上がった。
 フリッツ式WashTub Bassの作り方を紹介しよう。
フリッツ式Washtub Bass

Washtub
 
 JIM KWESKIN&JUG BANDのレコードジャケットに写っているタブは、おそらく直径62cm、高さ29cmのブリキ製。フリッツが日本で弾いていたのが、直径54cm、高さ29cm・・・おそらく日本に来てから調達した物だろう。やけに光っていた。

 Tubに関しては軽い方がいい。
 持運びも楽だし、重いからと云って、いい音が出るとは思えない。却って振動というか、音の広がりを殺してしまう気がする。Tubに付いてる把手は雑音の原因となるので切り落とす。

ネック
 
 ネックを作る手間を省いて、よくモップの柄が用いられるが、折れやすいので勧められない。
 フリッツのネックは角材を削った物ー長さが2m、厚みが2cm、幅が8cmあった。長さに関しては、長い方がいい。
 これは音域が広くなるからで、長い程低音が出る。
 かと云って余り長いと肩がだるくなるので、自分の背丈に応じてカットする。
 因みに僕のネックは154cmである。
 幅に関しても同様、8cmにすると手がつってしまうので、僕の場合4cmまで削った。


 ハンドメイドの楽器を紹介した本には、ウッドベースの3弦を使用とあるが、これは切れやすい。
 フリッツは2mmのワイヤーを使っている。これは彼が強調していた事で音色を左右する。
 後で実際試したが、1mmでは頼りなく、3mmでは音の伸びがない。このワイヤー弦をネックとTubに張るのだが、ネック、Tubの双方に穴をあけ、ワイヤーを通して両端をワイヤー専用ボルトで留める。
 この際、取り外しが出来るように固定しない方がいい。
 スパナを2つも持ち歩かんとあかんけど。

その他

 WashTubの下に敷き板をかませる。
 これにより音が前に抜けるし、マイクで音録りする際マイクケーブルの通り道となる。
 フリッツは無指向性のバウンダリ−マイクをTubの下に置いていた。

 それから、Tubの周りにはゴムのバンドをまく。
 これは余分な振動を抑え、ビビリを軽減すると共に音を引き締める。フリッツは自転車のチューブをまいていた。

 あと左手で弦を押さえる際、よりクリアーな音を出す為に工夫が要る。フリッツは左手に革の手袋をはめ、薬指の背にあたる部分にコインを、人差し指と中指の腹にあたる部分に鉄板をそれぞれ縫い付け固定していた。
 そして弦をこの間に通しネックと一緒に握る。
これに拠ってギターのブリッジに相当する部分を指で作る事になり、音が安定する。これらはフリッツの来日の際の資料であり、WashTub Bassの基本型と云える。
 このフリッツ型を僕も長年愛用してきた。

CAN式
Washtub Bass

 基本的には僕のTubBassはフリッツの物と同じだが、使い勝手の面でいくつか改良している。
 先ず、ネックの寸法の違いは先に述べたが、それに加えてネックの下方ーTubとの接点を変えた。
 このネックとTubとの接点に関しては、いくつかのやり方がある。接点になる部分のネックに切り込みを入れ、Tubのエッジに立てる方法。こうすると左手が楽で、ネックを後に反らしてもTubから外れる事はない。

 しかし、ベンドの際の軋みがノイズになりやすいので、静かな曲や室内でのマイク録り、レコーディングには不向きである。

 次にTubの側面にネックを受けるホルダーを取り付ける方法。
 これに関しては、弾き方の違いから試した事がないのでなんとも云えない。

 で、僕の方法は、ネックの下に、いすの脚に履かせるゴムを取り付け、ノイズを殺そうとするものだ。
 これにより、前後左右にしか動かなかったネックを斜めにベンドさせれるようになった。

 WashTubにも手を加えた。
 これは弾き方も関係するので、先にその辺りの話をしよう。
 WashTub Bassの弾き方は大きく二つに別れる。
 ウッドベースに見立てて、ネックを立てたまま固定し、その上を押さえるポジションの上下だけで音程を変えようとするやり方とネックを後方へベンドさせる事により、弦を引っ張って音程を変えようとするやり方だ。
 大抵この二つをMIXして弾く場合が多いが、その混ぜ具合がBassistを特徴付けている。

 これは弾き手の楽器に対する意識の違いが大きく影響していると思う。
 つまり、WTBをあくまでも代用楽器と捉えている人は前者の弾き方に意味を持たせるだろうし、全然別個の新しい楽器だと思う人は、その楽器の特質を活かした後者の弾き方をするだろう。
 これはもう弾き手の好みの問題である。
 で、フリッツや僕はネックのポジションも変えながらも、基本的にはベンドに重きを置いている。
 それにより生ずるWashTubへの負担が改良を余儀なくした。


 引っ張って音程を変えるのだから、当然常に引っ張られるTubの特に穴の所は、すぐに傷む。
 Tubの底もベコベコになる。簡単に手に入る物なら消耗品と考えて取り替えるだろうが、そうもいかない以上補強を考えなければならない。
 先ず、穴にワッシャ−をかませる。と云っても通常の大きさのワッシャ−では、ワッシャ−ごと持ち上がって却ってダメージを大きくする。かといって大きなブリキ板をかませば、振動を殺してしまうし、ビビリの原因となってしまう。

 僕は直径6cm、厚さ1mmのアルミ板を5枚重ねてワッシャ−にしている。それをTubと同色のメタルテープで張りつけている。
 ハンダや接着剤は振動に弱く、ビビリやすい。
 このメタルテープはTub自体の補強にも役立つ。
 Tubの底に格子状に張り、Tubが引っ張られてベコンベコン鳴りだすのを防ぐ。
 
それから、これは楽器本体の事ではないのだけど、マイクについてちょっと触れておく。
 WashTub Bassはラインを通すとなかなか思った音にならない。そこでPAに頼る前に自分で音響を考えていた方がいい。
 僕の場合先ずTubの側面に吸盤式のPickUpを取り付け、プリアンプで増幅させている。これだけでは固い音だが、音の芯を作るのだ。
 Tubの中には低域専用マイクを立てる。これにはAUDIXのD3を使っている。

 中に入れるマイクが、音の中核を成す訳で、音域の広いコンデンサーマイクでもしっかりした音が録れる。
 更に外部に音の表情を録る為にもう一本マイクを立てるといい。僕はkick drums用のSHURE BETE52を使っている。
 これはWashTub Bass特有のブーンブーンを再生する際、エアー感を持たせるのに役立っている。
 いつもいつも使う訳ではないが、最低1本は持ち歩いている。

★●▲■ なんか書いてる内にとっても難しくなってしまった。
要は、WashTub Bassを楽しんでもらえればそれでいいのだ。
なんせTub Bass人口は今まだ少ない。極めれば君もすぐに第一人者だ!これを読んで少しはWashTub Bassに興味を持ったら、迷わずNO-BREAK 楽゛TIME BANDのライブに行こう!
この超楽天的サウンドが君に元気と活力を与えてくれるだろう。

伊藤式
Washtub BASS

 僕には一人弟子がいる。春待ちの現役伊藤君である。
今でも会えば“師匠 ”と持ち上げてくれる好青年だが、最近はエレベにも手を出している浮気者である。
 その伊藤君への教えの第一声は「これを楽器と思え」だった。
なかなか深い言葉である。これを理解するか否かで将来ミュージシャンになるか芸人になるか分かれるのだ。
で、彼は理解を示し、いまやBANDマンの一員となった訳だが、他のメンバーが楽器屋の話をしている隣で僕達は雑貨屋の話をしている。

 彼もまたTub Bassを改良している。
なんと洗い桶の代わりに飼い葉桶を使っている。
亜鉛製で非常に重いが底がしっかりしていて、引っ張ってもへこむ心配がない。それから左手で作るブリッジには水道管のJOINTを使用している。これはいい考えで、指が痛くならない。

 長年フリッツ式にコインを使っていた僕も最近はギターのボトルネックでブリッジを作っている。

 こうしたきっと二人にしか分からない地道な努力がWASH TUB BASSの明日を支えているのだ。
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