ジャンルの壁をぶち破れ!

 

 「ジャンルの壁をぶち破れ!」とは、なんともたいそうなタイトルだが、実は、私は音楽をジャンル分けすることは必要だと考えている。これは、私がジャンル分け反対派なのではなく、「ジャンルの壁をぶち破れ!」と偉そうに言う人間が嫌いだというだけの話である。

 「僕は、音楽をジャンル分することはなくすべきだ」という人に、結構会うことがある。このような人の言い分だと、「ジャンル分けすることは、新しい音楽を創造することの妨げでしかない」という主張をするのだが、いかなものか。それは、確かにジャンル分けということのひとつの側面であることは間違いないのかもしれないが、彼らはジャンル分けがないという恐ろしさがわからないのだ。たとえば、音楽のジャンル分けがなければ、目的のCDを探すことは非常に困難になるであろうことは明白ではないか。どうも、私のこの意見を聞くと、ふざけた意見のように言う人が多いが(私がふざけたことが好きな人間だと思われているという面もあるのだが・・・)、それはその人たちが多種多様な音楽を愛好する人間ではないだけなのだ。私のような人間にとって、音楽のジャンル分けがなくなるということは、音楽愛好生活において死活問題になりかねない。

 今まで私が会ったジャンル分け反対派の人は、さも音楽を知っているというような格好付けで言ってるとしか思えないことが多い。そういうことを発言する人に限って、たいして多様に音楽を聴いてはいないのだ。そのくせに、音楽の垣根をなくせとか、恥ずかしげもなく言っているのだからしまつにおけない。そのようなことを言っている人がいたら、普段その人が聴いたことがないような音楽を聴かせてみると面白い。その人は、その音楽を受け付けずに、「こういう音楽を僕は求めていない」風なことを言うだろう。音楽の壁をなくせという割に、その人は自分がはじめて触れる音楽は否定するのだ。多様な音楽を聴いている人間が、なぜジャンル分けをなくせといわないのかというと、別にそんなことしなくても世界中にすばらしい音楽がたくさん生まれていることを知っているからである。ジャンル分け反対派に限って、新しいものや、知らないものを否定し、良い音楽が生まれないのは音楽がジャンルという枠に縛られているせいだという無茶なイチャモンを付け出すのだ。そのような人たちは、良い音楽が生まれないと嘆くのではなく、良い音楽を探し出す術を身につけていただきたい。

 あと、「最近のバンドには、どうも魅力を感じない」と、さも知ってる様な顔で言う人がいるが、それも勉強不足なだけである。というか、そのような人はたいして音楽愛好家ではないということに気がつかなければならない。最近のバンドだって、すばらしいバンドはたくさんいる。世界中捜せば、自分の好みに合うバンドはすぐに見つかるのではなかろうか。「昔のバンドは良かった」とただ言っているだけで、新しいバンドを探そうとしないのではまったくお話にならない。

 現在、ジャンル分けされた音楽は、さらに細分化されているが、それについても私は反対はしない。たしかに、多種多様な音楽を聴いたことのない人にとって、それは苦痛になる場合もあるが、音楽が好きなら、簡単に克服できる問題なのだ。それに、その仕組みがわかってしまえば、聴く前からある程度細かくどのようなタイプの音のバンドなのかを知ることができるのだから、新しいバンドを発掘するのには最適の手段になりうる。

 広いジャンルで音楽を聴いたことがないなら、詳しい人から啓蒙してもらえばいいではないかと思う人もいるとおもうが、実際にはそう簡単にはいかない。ジャンル分け反対派の人は、プライドの高い人である場合が多いらしく、無意味な対抗心(=プライド)があるようなので、新しい音楽を教えてもらうということを潔しとしない場合が多いのだ。しかも、たいして良く聴かないうちにその音楽を否定してしまう場合も多いように思う。その日に否定しても、なぜか別の人には、さも自分が探してきたバンド(およびジャンル)のように声高らかに紹介していることがあるが、別にすばらしい音楽を知っていることがえらいのではなく、その音楽を作った人が偉大なのだということに気がついてほしい。まるで、自分が作った音楽のように、得意満面で自慢する姿を見るのは、情けなくてしょうがない。

 ジャンル分け否定派が、必ずしもそのような人ばかりだとはいわない。本当に、音楽をやり尽くして、「これ以上新しい音楽を作るには、ジャンルという壁を壊すしかない」というなら、それは正しいことなのだ。しかし、そのような人は実際に、そのようなことを声高らかに唱えたりはしないだろう。むしろ、作品でその事実を世に知らしめることだろう。しかし、大して音楽を聴いていないのに、「良い音楽にめぐり合えないのはジャンル分けのせいだ」という検討外れな意見でジャンル分けをなくそうとする運動をしないでいただきたい。われわれには、ジャンル分けが必要なのだから。