この地上で.net
[2006]
グレゴリー・シャトンスキー

Sur-Terre.Net
[2006]
Gregory Chatonsky

http://www.arte.tv/sur-terre

 仏TV局アルテの協力で完成させたオンライン型の物語発生装置。2000年の『この大地の下で』と対を成す内容になっています。
 物語の中心は「駅」。ここに3人の登場人物が配置されています。
 一人目(↑上の写真)は悲しそうな目をした20才前後の女性。構内で誰かを待っているような様子で、列車から降りてきた旅行客たちを観察しています。
 
 画面中央にフランス語、あるいはドイツ語の文章が現れるのですが、曖昧な呟きに似ていて「何を」「誰を」が説明されることはありません。(ちなみにシャトンスキーの初期設定では「父親を探すために列車に乗ろうとしている」となっています。正式な公開版では「彼氏の連絡を待っている」になっています)
 一方、駅の側に立ったアパルトマンの一室、窓際にアラブ系らしい男性が立っています。何かから逃げているような表情を浮かべた青年です。テーブルには一台のタイプライターが置かれ、パチパチと機械的な音を立てています。繰り返し現れてくる「父」の言葉。紛争のイメージ。何かを書き残し伝えようとしているのですが、言葉はまとまらず粉々になって逃げていきます。
 3人目の登場人物は40才前後の女性です。父親の葬式(あるいは墓参り)を済ませた後、淡い回想を重ねながら、おそらくは誰かに会うために列車に乗ります。
 
  『この地上で.net』は三人の登場人物が重なり合い、あるいは重なり合わない形で進んでいくランダムな物語となっています。フラッシュで作成された画面上には幾つものリンクが設定されていて、それをクリックすることによって別な場面へと移動していくことが出来ます。
 特別ドラマチックな結末があるわけでもなく、何のつながりがあるのか定かですらない言葉とイメージの連鎖に飲みこまれていくのですが、読み手の想像力しだいではその飛躍を幾らでも好きに埋めていくことができ、その都度異なった物語を夢想していくことが可能です。
 「駅」「窓」「父」「恐れ」「喪」「待ち人」・・・様々なテーマを結びつけ、機械の想像力を乗り越えていく束の間の「物語」が紡がれていきます。シャトンスキー作品でも随一と言ってよい完成度だと思います。
 《サウンドトラック》として編纂されたCDにはフェネスやスキャナー、ティム・ヘッカー等が参加。「都市における音の在り方を問い直す」という意味で非常に優れた内容となっています。