*これはセブンスファーアスタリズムの神話でのオリジナル設定(フィクション)です。

◆始まりの王国

南アリゴール大陸の大部分を騎兵民族であるヴァイズが支配していた時代、
その中心部であるアクロ大平原より東北の山岳部を越えた先に、
城塞都市ラッセルは位置していた。
黄半島海峡を背にするその地を、獰猛なヴァイズ民から守っていたのは、
騎兵隊に不利な山岳地の利が全てというわけではない。
ラッセルという国が生まれるその起源に秘密があったのである。

そもそも彼の地は国として長い歴史を持っているわけではない。
寒冷と小国間の戦禍に包まれた、
北アリゴール大陸からの難民集落がその始まりと呼ばれる移動民族ソレイユの民が、
長き放浪生活の末にたどり着いた大陸の終着地点――
それがラッセルの位置する黄半島だといわれている。

しかしその建国は、半ば追い詰められた彼らの抵抗のようなもので、
北の小国クレーズと西の蛮族であるヴァイズに、山脈を隔てて挟まれた形となっていた。
クレーズは武に秀でた軍事国家であり、
名家ごとの独立した騎士団による円卓軍という強力な剣を有していたが、
国境付近のヴァイズ集落を襲い、
屈強な戦士を補充するという歴史を繰り返してきたため、
常にヴァイズとは緊張関係にあった。

彼らとしては自国の隣接する地域に自治権が無く、
逃亡民族が支配しているという状況を見逃せなかったのだが、
険しい山岳部での戦いを強いられる中で、
圧倒的な数量を誇るヴァイスの横槍を受ければ国が危ういことになるため、
国防と北アリゴール戦乱への注力に専念せざるを得なかったのである。

そうしてソレイユの民は山脈を利用した岩石要塞と、
自分たちが安心して暮らしていけるだけの堅固な城壁を持った、
城砦を造るだけの年月を獲得した。
もともと黄半島は、海峡を挟んだ黄半島諸島、
通称、「最果ての島」コーと遥か昔、地続きであったと言われている。
火山が島の大部分を占めるコーと同じく、
大地は火山岩を主とした地表の低い部分と高い部分の入り組んだ、
複雑な構造になっていて、
その構造を利用した古代の遺跡などが多く埋もれている地であった。

特にヴァイズの民はその地を古くから呪われし地として恐れ、
近づかなかったと言われているが、
他の地から流れてきたソレイユの人々にとっては、
自然を利用した城塞都市の建設にうってつけの、
ただ自分たちにとって都合のよい地だったわけである。
やがて戦禍の拡大によるクレーズの滅亡の折、
ソレイユの民の一人の英雄の暗躍によって、
クレーズ王国は崩壊に導かれたと伝えられている。
かの有名な英雄ラッセルの誕生であり、
時を待たずして、この地にラッセル皇国は建国されたのである。

(中略)

歴史上に、最も強く皇国の名が刻み込まれた時代より数百年。
黄半島に鎮座し、西のノア大陸との交流により安定した平和を手にしたラッセルは、
規模こそ小さいが、商が街に栄える健やかな国となった。
元々、国の成り立ちからして、反武力の民である。
対外的な征服力を持たず、自衛のための武力に特化したラッセルは、
群雄時代終結後の繁栄期において、
冒険者たちが集い、新たな旅路の始まる場所――
始まりの王国と呼ばれるようになっていた。

『セブンスファーアスタリズムの伝記・第一章』(サーカイラムハーツ著)より抜粋