ドルチェカント技法集 1 「大小の技法」 

 「イタリア歌曲集1 中声用」第11曲、“ Sento nel core “ (Alessandro Scarlatti) の練習中に再発見した技法です。

 何か新たに発見・再発見するときは、「何かおかしいぞ、何かあるぞ。」という「勘」が働き始めます

” Sento nel core “ までうまく歌えて、“ certo dolore “ のフレーズに進むと何か流れが滞る感覚がありました。よく見てみると、「オ」の母音が3つ続くことに気づいたのです。
「同じ母音が続くとむずかしいだよ。」
という声がまず聞こえてきました。そういう時、Padre Luigi Dal Fior はどう解決したでしょうか?
「大きいボールと小さいボールでいくだよ。」
そうだ、「オ」の母音は「色分けの技法」ならば黄色だから、こういうときは黄色の大きいボールと小さいボールを使って歌うように指示したでしょう。しかも、
「ボールを見るだけ!」
Padre Luigi Dal Fiorのレッスンでは、例によってこうして、禅問答の世界に入り込んでいきます。

この方法をこのフレーズに応用してみよう。

図1



    チェル‐     ‐ト      ド‐     ‐ロー‐    ‐レ

「エ」は「色分けの技法」では緑色となっています。
最初の「チェル」は強拍なので大きいボールに、
最後の「レ」は弱拍なので小さいボールにしました。

ローマ字ではなくカタカナで書いたのは「カナふりの技法」によっています。
なお、ドルチェカント式では「チェルト・ドローレ」とことばを切る。
これを「分割の技法」と呼びます。

実際にこれでやってみると、まだしっくりしない所がありました。試しに「ドロ」の部分の大小を逆にしてみると、「はまった!」という感覚が得られました。

図2



 チェル‐     ‐ト      ド‐     ‐ロー‐    ‐レ

さらに大小の関係を意識する所は「トドロ」と「オ」が連続する所だけでも同様の効果がありました。

さて、これにはどういう意味があるのでしょうか?他のところにも応用した結果を箇条書きにしてみます。

1. 歌いやすくなる。
2. つまり、同じ母音が続く所は問題のある箇所である可能性がある。
3. 聞いた感じが自然になる。
4. つまり、歌い手が楽に歌っていることがわかる。
5. 自然な息が音楽の流れのなかにできてくる。
6. 一つずつチェックして練習していくと、自然に感情が出てくる。
7. 旋律のなかに新たな「相」(注1)が見えてくる。

※ 注1 「相」は英語では phase 。「人相」とか「手相」の「相」。「位相」というとちょっと難しいことばですね。漢字はそのまま読むと「木の目」。年輪のことでしょうか。そこには年毎の気候の変化が刻み込まれているという事です。

次の問題は、どこで大きいボールを使って、どこで小さいボールを使うと決めたらいいのか、その基準は何か、ということになってきますね。

これまでの楽譜の見え方はこうでした。
まず、イタリア語のアッチェントがみえます。
“ certo dolore “
つまり、
「エオ / オオエ」
という母音が、
「+− / −+−」
というアッチェント構造を持っている。ことばの持つ「アッチェントの相」がここにあります。

そしてこれが生きるように、小節の頭、つまり1拍目に「+」が置かれています。
これは、「左右の技法」を使うと、
「右左 / 左右左」
となります。

これはまた、「音楽の理論と実習」第3巻、付録V「リズムとアゴーギク」、1リズム、p.414〜424 (注1) の「リズム構造の分析」法によれば
「Ac Ds / At Ac Ds」
となります。

 この上さらに調、和声などの音楽語の分析が加わりますが、これは別のところで述べることにしましょう。

 こうした基本的な「情報」を基に実際に音にしながら適切な「大小」を選択していくことが必要です。手間隙がかかりますが、ワンフレーズずつ検討していくことによって、音楽そのものの「相」を発見して、深く音楽に入り込んでいくことができるのではないでしょうか。

       2003年4月29日  見上潤

   2003年5月7日     見上潤

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