酷く暑い日差しの中、僕はただしゃがみこんでアリの行列を眺めていた。
にじむ汗は手の甲でぬぐって、ひたすら働き続けるアリたちを見下ろす。
世間では夏休みだというのに子供たちの喧噪はなく、おそろしいほど
静かなものだから夏が音を飲み込んでしまったような錯覚に陥る。
たいして広くない駐車場が果てしなく遠い砂漠を思わせたが、布ごしに
感じるジャリ石の確かな熱さが僕に現実を伝える。


こうやって一人でいるほうが好きだった。ヒステリックな叱責の声、
ひっきりなしに泣いては僕から奪っていったあのぬくもり。
やさしかったあの人は空の色に溶けてしまった。深い歴史を刻んだ手で
またなでて欲しかった。まだ甘えていたかった。


「何してるん?」

顔を上げれば見慣れた幼なじみの日に焼けた顔。

「別に、、、アリ見てただけ。ケンちゃんは野球?」

「アリィ?んなもん見て楽しいか?おまえも野球にくればよかったのに。」

「ありがと。でもいい。」

一つ年上の彼は僕が発した少ない言葉ですべてを感じとったようだ。
普段はやんちゃでイノセントな、キミ。時折みせる横顔に僕の知らない世界を垣間見る。


「テツが想ってる限りは生き続けてるよ。」


唐突にかけられたセリフに僕はマヌケな声しか出せなかった。


「泣きたかったらウチにくればいい。話だって聞くから、我慢すんな。」


たったそれだけで今まで必死に守ってきたシェルターがはじけた。
蓄積した想いが溢れ、頬を涙がつたう。

夏の大きな太陽に赤く染まった背中は彼を大きく見せて、追いつきたい背中を
また遠くさせた。