良寛さんとわらべうた






子供らと 手毬つきつつ此のさとに 遊ぶ春日は くれずともよし

手毬唄 ひふみよいむなここのとを とをと納めて また始むるを

いざさらば 我れもやみなむここのまり 十づつ十を 百と知りなば

さすたけの 君がおくりし新毬を つきてかぞへて この日くらしつ

霞たつ ながき春日に子供らと 遊ぶ春日は 楽しくあるかな

いざ子供 山べに行かむ桜見に 明日ともいはば 散りもこそせめ

子供らよ いざいでいなむ伊夜日子の 岡の菫の 花匂い見に

秋の雨 晴れ間にいでて子供らと 山路たどれば 裳の裾濡れぬ

この園に 散りくる梅を袖にうけて 遊びてのちは 花は散るとも

人の身は ならわしものぞ子供らを よく教へてよ ねぎらひまして

人の子の 遊ぶを見ればにはたづみ 流るる涙 とどめかねつも

子を思ひ 思ふ心にまかりなば その子になにの 罪を負ふせむ

もみじばの すぎにし子等がこと思へば 欲りするものハ 世の中になし

白雪は 千重にふりしけわが門に 過ぎにし子らが 来るといはなくに

世の中の 玉も黄金も何かせむ 独りある子に 別れぬる身は

花見ても いとど心は慰まず 過ぎにし子らが ことを思ひて

里子らの 吹く笛竹もあはれ聞く もとより秋の調なりせば

はつとれの 鰯のやうな良法師 やれ来たといふ 子等がこえごえ


さわぐ子の とる智慧はなし はつほたる


山陰の 槙の板屋に 雨も降り来ね
この岡に あさ菜摘む子が 立ちとまるべく


春されば 木々の梢に 花は咲けども
もみじ葉の 過ぎにし子等は 帰らざりけり


あづさゆみ 春さり来れば 飯乞うと 里にい行けば 里子供
道のちまたに 手鞠つく われも交りぬ
そがなかに ひふみよいむな 汝がつけば
吾は唄ひ 吾が唄へば 汝はつきて
つきて唄ひて 霞立つ
永き春日を 暮らしつるかも


也 児童と 百草を闘わす
闘い去り闘い来って 転 風流。
日暮 寥々たり 人帰って後
一輪の明月 素秋を凌ぐ。


欲無ければ 一切足る
求むる有れば 万事窮す。
淡菜 飢えを癒すべく
衲衣 いささか 身に纏う。
独り往きて 麋鹿に伴い
高歌して 村童に和す。
耳を洗う 岩下の水
意に可なり 嶺上の松。


歳晩 仮の一庵
庵は荒村の陲に在り。
蕭々たり 寒雨の裡
落葉 空階を埋ずむ。
無心に唄葉を理め
時有りては我が詩を吟ず。
偶 牧童の来るあり
我を伴いて村斎に赴く。


頭髪 蓬々 耳 卓朔
衲衣半ば破れて雲烟の若し。
半酔半せい 帰来の道
児童 相擁す 後と前と。


日々 日々 又 日々
のどかに児童を伴って此の身を送る。
袖裏の毬子 両三個
無能 飽酔す 太平の春。


石階 蒼々 蘚華重なり
杉松 風薫って 雨はれ初む。
児童を喚取し 村酒をおぎのり
酔後 払却す 数行の書。


宮門 新雪の朝
千樹 春の還るに似たり。
誰が家の少年子ぞ
等閧ノ狂てんを打す。






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