ラルフ・ホームズ讃
    RALPH  HOLMES : 1937.4.1 - 1984.9.5

  1937年4月1日、ケント州ベンジの「音楽が家具の一部になっているような家庭」に生まれたラルフ・ホームズは、8歳でヴァイオリンをはじめ、10歳でRoyal Academy of Musicに入学、13歳でRPOと共演してロンドン・デビューをかざりました。 そののち、パリでエネスコに師事、また1964年にはN.Y.のガラミアンのもとで4ヶ月間、運弓法の指導を集中的に受けました。 母校RAM所蔵の1736年製ストラディヴァリウスを借り受けたホームズは、母校で教鞭をとりながらキャリアを重ね、そのパーソナリティでも人気を博しました。
  M.キャンベル女史をして「イギリスの奇跡」と称せしめたホームズですが、1984年9月5日、ケント州のベッカムで亡くなりました。 47歳の働き盛りでした。



UNICORN-KANCHANA
DKP(CD)9040
DELIUS
Concerto for Violin and Orchestra
Suite for Violin and Orchestra
Legende for Viloin and Orchestra


Vernon Handley , Royal Philharmonic Orchestra
Rec. 1984 May 21,22

  私にDELIUSを刷り込んだ思い出のCDのひとつです。 この演奏でDELIUSのVnの協奏作品を覚えたので、私自身はどうしても抜けられない魅力を感じてしまうのですが、それと同時に、ホームズの「白鳥の歌」となってしまったこの録音には、彼の他の録音には聞けない、独特の境地があります。
  ホームズ自身、早くからDELIUSの協奏曲の録音を切望していたそうで、彼の早すぎる晩年に間に合ったこの録音セッションに臨んだ彼の心中には、どんなものがあったのでしょうか。 ハンドリー/RPOの「つけ」を含めて、ある種の軽さを排してしまったような、シリアスで、ちょっと時代のニオイを感じさせるDELIUSの姿がここにはあります。
  1980年代の後半には、少々値が張りましたが、こんなCDが国内盤として田舎でも入手できました。 日本フォノグラム(当時)の慧眼のおかげです。 国内盤に附せられた三浦淳史さんの解説や、オリジナル・ライナーのハンドレーによる追悼文も、かけがえのないものです。



UNICORN-KANCHANA
UKCD2074
DELIUS
Sonata for Violin and Piano


Erick Fenby (pf.)
Rec. 1972 Mar. 20,21

  上記の協奏曲とはかなり雰囲気の違う演奏です。 こっちのほうがホームズ本来の持ち味に近いのかもしれません。 聴いていて、奏者がDELIUSの音楽が好きなことがストレートに伝わってくる点が、最大の魅力です。 しかしながら、ほぼ時を同じくして録音されたウィウコミルスカの演奏と比べると、DELIUSの音楽に含まれている、ただ好きなだけでは済まされない「何か」、その部分の掘り下げには、あまり意を砕いてはいないようです。 体調(とマーケット)が許したなら、10年後に再録音をして欲しかった、と思えてなりません。


CHANDOS
CHAN7032
HARTY
Violin Concerto


Bryden Thomson , Ulster Orchestra
Rec. 1979 Jun.

  ハンドレーは追悼文の中で、特にこの録音に言及していますが、このDELIUS以上に珍しい協奏曲の普及に大いに活躍した音源のようです。 ブリスやパヌフニクの協奏曲と並んでホームズが普及に努めたこの曲、せっかくの力演にもかかわらず、残念ながら現行CDでカップリングされているピアノ協奏曲の魅力には一歩及ばないようです。 この関係はDELIUSと逆のようです。


CHANDOS
CHAN7033
HARTY
Variations on a Dublin Air


Bryden Thomson , Ulster Orchestra
Rec. 1979 Jun.

  ややもすると散漫な印象を受けかねないこの曲に、ちょっと渋めな響きで聴き所を作ってくれる、じつにホームズらしい録音です。 おそらくオリジナルLPは上掲のVn協奏曲とのカップリングだったと思われますが、主題のせいもあり、こちらのほうが楽しめる曲にしあがっています。 ホームズはどっちが好きだったのでしょうか?


koch schwan
311 003 F1
SIBELIUS
Pieces for violin and orchestra


Vernon Handley , Radio-Symphonie-Orchester Berlin

  国内盤(ウェーヴ:29ANN512)としても紹介されたことのあるCDです。 こういったレパートリーをさらっとこなしてしまうあたりが、ホームズの持ち味なのでしょう。 実演でもホームズとの共演が多かったハンドレーとの録音である点も魅力を高めています。 この組み合わせで協奏曲の録音も残して欲しかったのですが、こういう録音の残り方もホームズらしいともいえます。


AMON RA : CD-SAR9



AMON RA : CD-SAR16
BEETHOVEN
Sonata for Piano and Violin Op.24 in F major ("Spring")
Sonata for Piano and Violin Op.30 No.2 in C minor

Sonata for Piano and Violin Op.47 in A major ("Kreutzer")
Sonata for Piano and Violin Op.30 No.3 in G major


Richard Burnett (Fortepiano)
Rec. 1983 Jan. & 1984 Jan.



AMON RA : CD-SAR12
HUMMEL
Sonata Op.50 in D , Sonata Op.5 in E flat , Nocturne Op.99


Richard Burnett (Fortepiano)
Rec. 1983 Jan.



AUDIO FIDELITY
50023-2
TCHAIKOWSKY
Concerto for Violin and Orchestra Op.35


Othmar M. F. Maga , Nurunberg Symphoniker
Rec. unknown



LONDON : POCL-3758
Homage To Kreisler

James Walker (pf.)
Rec. 1974 Sep.

  珍しくメジャーレーベルへの録音です。 手元のCDはマントヴァーニ等と一緒に《クラシック・ファンタジー》というシリーズで発売されたものです。 マントヴァーニが悪いとは言いませんが、なんとなくこの録音の扱われ方が窺い知れます。
  さて、このアルバム、ホームズの美点が、どんな曲でも貫かれるということを確認するのに最適です。 ここでホームズは、歌うことに頼り切って、クライスラーを俗っぽくすることを恐れたのでしょうか? ウォーカーの控えめな伴奏とともに、歌いすぎることなしに、クライスラーを響かせています。 結果、下手にウィーンっぽさを追及しなかったことが吉と出ているようです。 演奏機会に恵まれているとは言いがたい《羊飼いの牧歌》で、その特徴を確認することができます。



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