書籍の紹介

蔵書の中からDELIUSとその演奏者・紹介者に関連する書籍の一部を紹介します



  E.Fenby  DELIUS AS I KNEW HIM

   失明により創作活動に困難が生じていたDELIUSの元に駆けつけた音楽青年、E.Fenbyが晩年のDELIUSとどのように関わっていったのか、またDELIUSの創作への姿勢などが赤裸々に語られる、いわば世界中のDELIANにとっての旧約聖書でしょうか。 K.Russellの《SONG OF SUMMER》の原作でもあります。 写真や譜例などもあり、それほど難解な言い回しもないので何とかぼちぼち読んでいます。 ちなみに手元にあるのは1994年にDoverより出版されたリプリント版のペーパーバックです。 $7.95のものが渋谷TOWER RECORDで\1190でしたから、なまじ輸入書取り扱い店で購入するよりお手軽でした。



  Brigg Fair and other Favorite Orchestral Works in Full Score

   著作権切れのスコアのリプリントでおなじみのDoverは、ちゃんとDELIUSも扱ってくれています。 収録は《ブリッグの定期市》・《舞踏狂詩曲》・《夏の庭にて》・《春初めての郭公を聞いて》・《河の上の夏の夜》・《高い丘の歌》だけですが、これらの作品は、ややオーケストレーションが複雑化した晩年の作品よりも、私のような素人にはスコアの追い易い作品ばかりです。 いたずらにオケを厚くするばかりではない、DELIUS独特の知的な音色の処理を、目で確認するのもたまには良いものです。 第2弾・第3弾を待ちつづけているのですが・・・。 $13.95のものが渋谷TOWER RECORDで\2590でした。



  J.Hunt  MUSICAL NIGHTS

   イギリスの指揮者でNight爵に叙せられた6人の指揮者、収録順に、Wood , Beecham , Boult , Barbirolli , Goodall , Sargentのディスコグラフィーです。 特にBeecham , Barbirolli , Sargentの3人が残したDELIUSの録音が一覧できるので助かります。 多少データに甘いところがありますが、その辺は使う側の知識が試される所です。 コンサートのポスターやプログラム、それに写真なども少々、珍しいものが見られます。 初版1995年で、£20となっていますが、購入価格は失念しました。 たしか池袋HMVにて購入のはず。



  セシル・グレイ(大田黒元雄 訳)  現代音楽概観

   英国人のC・Gは巻頭の≪リヒアルト シュトラウス≫に続けて≪フレデリック デリアス≫を持ってきています。 ちなみに3人目は≪エドワアド エルガァ≫。 以下≪ドビュッシイ≫・≪ラヴェル≫・≪ストラヴィンスキイ≫・≪スクリヤアビン≫・≪シェエンベルヒ≫・≪シベリウス≫・≪バルトック≫・≪ブゾオニ≫・≪ディーレン≫・≪群小諸星≫で構成されています。 サティも群小諸星の一人として扱われているあたり時代を感じさせせます。 C・GはDELIUSをあくまで芸術家として評価し、音楽家としての価値評価の低さを退けていいる点、またすでにこの時代にDELIUSの英国風(アングリシズム)を指摘している点、慧眼と言ってさしつかえないのでしょう。 それなりに古い本ですが、時代を考えればそこそこ売れたようです。 手元にあるものの奥付には≪昭和十四年六月一日第三刷一千部発行≫とあるので、初版(昭和五年)以来3500冊刷られたことになります。 定価一円三十銭、神保町古河書店にて古書として購入しました。 たしか\1500位だったと思います。



  三浦淳史  レコードのある部屋

   故・三浦淳史さんの単著としては初めてのものだとおもいます。 私もご多分に漏れず巻頭の≪夏の歌≫を読んでDELIANになったクチです。 ブリテンもバターワースもこの本で教わりました。 既出エッセイの集成ですが、長短取り混ぜてご本人の本当に好きな音楽のみが語られています。 10数年前高校時代に神保町の三省堂で購入しました。 当時は版元在庫切れで田舎では入手できずにあちこち探し回った結果、行き着いた先でした。 現在はどうなんでしょうか。 湯川書房1979年4月刊、\2000。



  三浦淳史  レコードを聴くひととき

   奥付だけだと、《レコードのある部屋》より先行しますが、これは出版プロセスの結果でしょう。 実のところ、直接DELIUSに言及している部分はほとんどありません。 デュ・プレのエルガーのカップリングとしてちょこっとだけでしょうか? そのデュ・プレやビーチャムなど、イギリスのアーティストに関する記事が多いのが三浦淳史さんの特徴ですが、それ以外でも現在の日本でのマイナーな扱いがもったいないような魅力的なアーティストの様々なエピソードが多数紹介されています。 なお、左の初版に比べて、右の再販は写真の印刷が悪いのが難点です。 その代わり、表紙カバーにはフィラデルフィア時代のストコフスキーから三浦さんへ送られたサイン入りのブロマイドが掲げられています。 東京創元社、1979年1月刊。



  三浦淳史  レコードを聴くひととき ぱあと2

   その名の通り、上述書の第二弾です。 こちらでは当時現役、あるいは直前まで現役だったさまざまな指揮者のエピソードが中核となっています。 このあたりは実に読み応えがあるのですが、おしまいの方に『音楽の窓』によせたエッセーが纏められており、ブリテンへの追悼文や、「犬派か 猫派か」など、小編ながらも三浦淳史さんらしいハートフルな文章があふれています。 ちなみにこの「ぱあと2」の出版の結果、前述書は「ぱあと1」として、その名称と装丁が改められたようです。 東京創元社、1983年8月刊。



  三浦淳史  演奏家ショート・ショート

   1979年から1981年にかけて、『音楽の窓』・『音楽の友』に寄せたエッセーを纏めたもので、表題の通り、ショート・ショートな文章ばかりです。 特にデュ・プレのステージ復帰のくだりは、実に生々しく当時の雰囲気を伝えてくれます。 故人も売り出し中の若手も等しく扱ってしまう三浦淳史さんですが、時には時代の証言者になったりします。 音楽之友社、1983年4月刊。



  三浦淳史  続・演奏家ショート・ショート

   主として1982年から1983年にかけて、『音楽の友』・『ステレオ』に寄せたショート・ショートな文章と、1983年から『レコード芸術』に連載をはじめた「スクラム・サイド」から纏めた、上述書の続編です。 カルロス・クライバーのシカゴデビューと、バターワースの実演についてはこの本で知りました。 初めてこの記事を読んだときは、まさかCDでその音を聴くことが出来る日が来るとは思ってもいなかったのですが、それでもこの事実自体を知らなかったら、例の海賊盤にも気がつかなかったかもしれません。 音楽之友社、1984年6月刊。



  三浦淳史  20世紀の名演奏家 今も生きている巨匠たち

   副題はもちろん比喩です。 彼らが生きているのはあくまでレコードという媒体の中だけです。 三浦淳史さんは、もはやレコードの中にしか生きていないアーティストに、エピソードの紹介によって暖かい血を通わせています。 もとになったのは1984年から『音楽の友』に連載されたものですが、そのためか全体として指揮者が多く、ピアニストが少なくなっています。 当時はまだケンプやアラウ、ゼルキンなどがぎりぎり存命していましたから。 三浦さんが愛して止まなかったジャクリーヌ・デュ・プレが生命の最後の炎を燃やしていた時期でもあります。 その闘病生活にあったデュ・プレの代わりに取り上げられているのが、ビアトリス・ハリスンという、これもイギリスの女流チェリストです。 ヴァイオリニストだった姉のメイとともにDELIUSとも親交厚く、こういう人選は三浦さんならではのものです。 1987年5月の初版が、手元の本では早くも8月に2刷になっているので、けっこう売れたようです。 音楽之友社刊。



  三浦淳史  アフター・アワーズ 三浦淳史の音楽切抜き帖

   『レコード芸術』に連載された「スクラム・サイド」から纏められた、おそらく現状では最後の単行本だとおもいます。 圧巻は「ディーリアスへの旅」と題して3回にわたって語られている紀行文です。 また、その若すぎる晩年と、亡くなってまもなく、そして追悼と、3度にわたってジャクリーヌ・デュ・プレが取り上げられ、言うなれば「三浦ワールド」全開です。 三浦さんはこの後もしばらく『レコ芸』への連載を続けますが、「病気療養のため休載」という編集部からのお知らせ文を半年ほどおいた後、帰らぬ人となってしまいました。 音楽之友社、1990年5月刊。



  エリーザベト・シュワルツコップ(河村錠一郎 訳)  レコードうら・おもて レッグ&シュワルツコップ回想録

   原著"On and Off the Record"は早くから三浦さんが紹介されていましたが、それによれば、レッグの舌鋒鋭い原著を、シュワルツコップがかなり書き直しているとのこと。 そのへんの事情はともかくとして、ビーチャムとの思い出話にかなりの分量を割いており、DELIUSの最大の擁護者であった指揮者の多面性、とくにレコードプロデューサーと歌手の目から見た姿は、じつに生々しいものがあります。 ビーチャムに関しては、既に亡くなって久しいし、また多くの書物で様々なエピソードが暴露されているせいか、あまりトーン・ダウンはされていないようです。 音楽之友社、1986年2月刊。



  ジェラルド・ムーア(萩原和子・本澤尚道 共訳)  お耳ざわりですか ある伴奏者の回想

   名伴奏者、といったらまずはこの人でしょう。 原著のタイトル"Am I too loud?"にその人柄がにじみ出ています。 「サモンズとビーチャム」と題された一節の中で、ベアトリス・ハリスンの紹介で、生前のDELIUSの元に滞在した時のエピソードが語られています。 K.Russellの《Song of Summer》さながらのグレのDELIUS邸の描写と、女流チェリストと老作曲家との音楽的な交流を語るくだりは、彼の人柄がにじみ出ています。 様々なスタイルの作品・アーティストをどのように理解してゆくのか、これは聴く側の姿勢にも通じるのかもしれません。 そういう意味では、三浦さんのアプローチの正しさを証明しているのでしょうか。 音楽之友社、1982年9月刊。



  山尾敦史  ビートルズに負けない 近代・現代英国音楽入門

   「三浦先生がまかれた種をしっかりと育て、引き継いでゆくことが後に残された人間の役目なのではないか」(はじめに)との著者の言葉、その言葉どおりに咲いた花の一つだと思います。 「入門」と銘打ってはありますが英国音楽オタクにも十分楽しめるだけの質を持っていると思います。 わかりやすく書くということと質を落とすということが同義ではないことを証明する良い例でしょう。 ちなみにこのHPでことさらにDELIUSの生い立ちや人となりなどについて説明をしないのは、このように優れた紹介がすでになされているからです。 音楽之友社、1998年10月刊。




  マイケル・トレンド(木邨和彦 訳)  イギリス音楽の復興 音の詩人たち、エルガーからブリテンへ

   現在読書中。 全10章中、第2章がエルガーとDELIUSに充てられています。 旺史社、2003年7月刊。




  ゴトフリート・ケラー(草間平作 訳)   村のロメオとユリア

   DELIUSのオペラの代表作《村のロメオとジュリエット》の原作です。 旧訳から十数年を経た新訳だそうですが、それでも「初版 昭和九年」。 「瑞西」生まれ「伯林」に移ったケラーについての簡単な訳者の序があるだけの120ページに満たない短い小説です。 話の中身以上に、旧漢字と旧文語体の雰囲気になんとなく騙されてしまいます。 結局、このままでは日本人にとっては教養小説の域を出なかったでしょう。 音は偉大です。 岩波書店、1966年7月 第21刷。 早稲田界隈の古書店にて、¥60でした。