長谷川久ギターSEMINAR





第19回(上級篇)ブラジルのプロ・ギタリストのコード進行例
〜パウロ・ベリナッチによる「A felicidade」


さあ、今回は上級篇と行きましょうか。ブラジルのプロ・ギタリストが弾いている、コード進行の
実際を解説したいと思います。
パウロ・ベリナッチによる、トム・ジョビンの「A felicidade」(女性ヴォーカルのバッキング)です。
ジョアン・ジルベルトやミルトン・ナシメントなどの音源と比較してみるのも面白いと思います。
ブラジルのプロが使うコードは、あなたの場合とどこが違うのか?じっくりと比較検討してみて
下さいね。

パウロ・ベリナッチによる、「A felicidade」のバッキング使用コード
(注1)音源はKey:Bに聴こえますが、便宜上key:Cとします。
(注2)構成は、[A][A][B][A][B]〜となっています。


[A](8小節)

|| C6 | / |   / | / |
| Em7 | B7 | Em7(9)/A7 |Dm7(9)/G7(13)||

[B](40小節)

|| C6   |    /    | Bm7(♭5) |Bdim7=E7(♭9) |
|  Am7   |    /   |Gm7/Gm7(11)| C7(9)/C7 |
| Fmaj7(9) |   Fm6 | Am7 | D7(9)  |
|  Am7  |  D7(9)  | Am7    |    /   |
| Cmaj7 | F7(9) |Cmaj7/Cmaj7(♯5)|Cmaj7(6)/Am7(9)(onE)A♭m7(9)(onE♭)|
| Gm7(9)(onD) | C7(13) | Fmaj7(9) | F6(9) |
| G7sus4 | G7 | C6 | Am7 |
| F♯m7(♭5) | B7 |Em7(9)/E♭7(9)|Dm7(9)/A♭dim7|
| Am7 | Am7(onG) | D(onF♯) | Dm(onF) |
| Am7 | D7(9)  |   Am7 | / ||


ポイントは、以下の通りです。

[A]
トニックのC6=6弦G+5弦C+4弦E+3弦A。ガット・ギターならではの重厚なコードですね。


[B]
4小節:|Bdim7|
=E7(♭9)です。理論的には、通常はE7(♭9)と書いた方が良い。

7〜8小節:|Gm7/Gm7(11)|C7(9)/C7|
実に、細かいコード・ワークですね。2/4拍子で、軽快に。

19〜21小節:|Cmaj7/Cmaj7(♯5)|Cmaj7(6)/Am7(9)(onE)A♭m7(9)(onE♭)|Gm7(9)(onD)|
ここが最大のポイントです。ブラジル人がよく使う5度のクリシェ、それに分数コードのオン・
パレード。かっこいいですね。

31〜32小節:|Em7(9)/E♭7(9)|Dm7(9)/A♭dim7|
ここでは、あえて直しませんでしたが、実は、1コーラス目を2倍の長さにしています。尚、
A♭dim7は、理論的にはG7(♭9)の♭9(=A♭)をベースに持って来たものと考えましょう。

33〜36小節:|Am7|Am7(onG)|D(onF♯)|Dm(onF)|
ここは、ブラジル人がよく使う分数コードです。ベース・ラインが半音で下がって行きます。

(2004年7月 第19回セミナー:講師 長谷川 久)





第18回(入門篇)あなたも5分で作曲家!〜電話番号作曲法(音程遊びの話)

たまには、柔らかく行きましょう(笑)。今回は、音程(インターヴァル)を理解するための、
楽しい方法を解説します。
コードのことを理解するためには、本当は音程が分かっていないといけないのですが
(短3度だとか、増5度とかいうやつですね)、入門者には「何のことだかさっぱり?」という
方が多いのではないかと思います。

この「短」だとか「増」だとか、「面倒だな〜」と思いますよね?おっしゃる通りです。私も
そう思います(笑)。
実は、これらは、「もっと簡単に分かりやすくして、統一したらどうか?」という動きが、昔から
あったそうです。しかし、未だ整理されていないのが、どうも実情のようです。

さて、それでは、音程の理解と作曲を同時に、しかも譜面も使わずに!たった5分で
やってみましょう。
手順は、以下の通りです。

まず、「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド・・・」に、「1・2・3・4・5・6・7・8・・・」と、順番に番号を
付けます。
高い「レ」=9になります。高い「ミ」=10=0、または、低い「シ」=0とする手もあります。

あなたの「電話番号」を紙に書き出します。仮に、「03-1625-3625」としましょう。

実に、簡単です。その番号に、ドレミを当てはめるだけです。
「03-1625-3625」は、例えば、こうなります。⇒「高いミ・ミ・ド・ラ・レ・ソ・ミ・ラ・レ・ソ」、
または「低いシ・ミ・ド・ラ・レ・ソ・ミ・ラ・レ・ソ」

これをギターで弾いてみる訳ですが(休符を入れたり、音符の長さもお好きに)、気に
入らない音には、適当に♯(増)や♭(短など)を付けて、修正してみます。同じ音は、オク
ターブの調整(入れ替え)をしても良いでしょう。「11」とあったら、「ド・ド」ではつまらない
かもしれないので、「イレブンス」にしても良いし、「4度=ファ」にしても構いません。逆から
弾いてみたり、音も好きに入れ替えてみましょう。

たった5分で、あなただけのオリジナル曲(モチーフ)ができました!

後は、これを発展させたり、コードを付けてみたり、移調してみたり、とにかく、ご自由に。

このようなやり方は全くの冗談なのですが、場合によっては、「人智の到底及ばない、
神がかり的な作品」(笑)ができるかもしれません。
以前、ジャズ・ピアニストの山下洋輔さんのエッセイだったか、ピアノの鍵盤の上で猫を
歩かせたら、とても人間業とは思えないメロディーが出て来た(笑)というような話が
ありましたっけ。

(2004年7月 第18回セミナー:講師 長谷川 久)



           


第17回(中級篇)コード進行は深く読め!
〜バーデン・パウエルの「Apelo」を題材に
  


バーデン・パウエル(故人)は日本人ギタリストに大変人気がありますが、特にクラシック・ギター
出身者に、バーデンのレコードのコピーをそのまま演奏する人が多いのは、余りいただけません。
下手でも良いから、自分のオリジナリティーを出しましょう。その方が断然、音楽的なのです。
あなたの解釈のバーデンを演奏すべきなのです。厳しいことを言えば、コピーはあくまでも物真似
に過ぎません。

しかし、一体どう考えて、どうやったら良いのでしょうか?今回は、ジャズ・ギタリストのような
アドリブは弾けないな〜、と思っている方へ、コード進行の読み方を解説したいと思います。題材
は、日本人受けする、マイナーの曲「Apelo(アぺロ)」です。Keyは、Amとしましょう。

さあ、それでは早速、「Apelo」のコード進行を分析してみましょう。

サンプルA〜ブラジルの和声理論書などに出てくるコード進行 (その1)
                                                     
|| Am | / | E(onG♯) | / | Gm6 | A7(♭13) | Dm7 | E♭7(9) |
Dm/Dm(onC) | Bm7(♭5)/E7(♭9) | Am | Am(onG) | Dm(onF) | Dm/Dm(onC)| Bm7(11) | B♭7(♯11) |
Am | / | E(onG♯) | / | Gm6 | A7(♭13) | Dm7 | E♭7(9) |
Dm7 | D♯dim7 | Am | Am(onG) | Dm(onF) | E7(♭9) | Am7 | / ||

まず、32小節ですね。ここは、しっかりおさえておきましょう。

サンプルB〜同上 (その2)
では、次の例です。上のコードと違うところが、幾つかあります。テンションが違う部分も
ありますね。


|| Am | / | E(onG♯) | / | Gm6 | A7(♭9) | Dm7 | E♭(9) |
Dm7/Dm(onC) | Bm7(♭5)/E7(♭9) | Am7 | Am(onG) | Dm(onF) | B♭7(♯11)| Bm7(11) | E7(♭9) |
Am | / | E(onG♯) | / | Gm6 | A7(♭9) | Dm7 | E♭7(9) |
Dm7 | D♯dim7 | Am7(onE) | Fmaj7 | Dm7 | E7(♭9) | Am7 | / ||


吟味・修正・整理
上の二つをまとめて、「1.「2.形式に整理し、さらに実戦的なコード進行に変えてみます。テン
ションも吟味します。勿論、ヴォーカルのヴァージョンなどもチェックしておく(メロディーとコードの
関連や、進行形式をチェックする)ことが重要であることは、言うまでもありません。

||: Am7 | / | A♭dim7(♭13) | / |Gm6 | A7(♭13) 「1.Dm7 | E♭7(9) |
Bm7(♭5) |E 7(♭9) | Am7 | / | B♭maj7 | / |Bm7(♭5) | E7(♭9) :||   「2.D7(9) | / |
Dm7 | D♯dim7 | Am7(onE) | Fmaj7 | Bm7(♭5) | E7(♭9) | Am7 | / ||


参考〜骨格のコード進行はどうなっているのか?
さらに、アレンジやアドリブなどのために、骨格を分析しておきます。結局、この曲は下のような
構造になっているのです。バンドなどでの演奏では、こちらの方が分かりやすいかもしれませ
ん。A7が続くところ(5、6小節)は、勿論Em7(♭5)〜A7として構いません。

||: Am7 | / | E7 | / | A7 | / 「1. Dm7 | / | Bm7(♭5) | E7(♭9) | Am7 | / | B♭maj7 | / | Bm7(♭5) | E7(♭9):||
「2.D7(9) | / | Dm7 | D♯dim7 | Am7(onE) | Fmaj7 | Bm7(♭5) | E7(♭9) | Am7 | / ||


(2004年6月 第17回セミナー:講師 長谷川 久)


        



第16回(初級篇)ベース・ラインが最も重要

コード進行のことを理解するには、まずベース・ラインの動き(ルート・モーションと言います)を
勉強するのが良い、というのが私の持論の一つです。どんなコード進行の曲でも、コードの
大文字のアルファベット部分がどのように連結されているのか?が最も重要です。

一般的に、ベース・ラインの動きは、下のような順で強い進行とされています。
これらは、どちらかと言うと、べーシストの知識に入りますが、ギターのコード進行を考える
上でも基本となりますので、ギターの低音弦で確認してみましょう。また、これらはイントロや
エンディングなどを考える時にも、勿論応用することができます。

完全4度上行(または、完全5度下行):例えば、KeyがCの場合(以下同様)、G ⇒ C
これは、所謂「モーション・オブ・フィフス」と呼ばれ、最も強い進行(強進行)とされています。
特に、コード進行におけるV7⇒Iは「ドミナント・モーション」と言って、強い終止感を持つもの
です。

短2度下行:D♭ ⇒ C

長2度上行:B♭ ⇒ C

完全4度下行(または、完全5度上行):F ⇒ C
これは、下の5度へ動くと、サンバのスルドの基本パターンに近いものであることに注意
しましょう。サンバやボサノヴァのギターのバッキングでよく見られる、親指で弾かれる
低音の動き(5弦ルート⇒6弦の下の5度)は、このスルドのパターンが元になっていると
考えて良いと思います。

長2度下行:D ⇒ C

短2度上行:B ⇒ C

長3度上行:A♭ ⇒ C

長3度下行:E ⇒ C

短3度上行:A ⇒ C

短3度下行:E♭ ⇒ C

(2004年6月 第16回セミナー:講師 長谷川 久)



第15回(初級篇)エンディングの方法



エンディングの方法について、ポイントだけ挙げておきます。後は、ご自分でジャズの
理論書などで研究してみて下さい。

フェイド・アウトする。
スタジオ録音では構わないが、ライブにはやや不向きです。

フレーズの最後の音を、8分音符や16分音符で短く切って終わる。また、その音符の
前に、休符を入れるのも効果的。
「ワン・ノート・サンバ」などには、ぴったりですね。

ある特定のパターンで終わる。
「黒いオルフェ」「ウエイヴ」「ジェット機のサンバ」など。第14回(初級篇)イントロの方法を参照。

V7〜I(マイナーの場合は、V7〜Im)を繰り返して終わる。

上と殆ど同じですが、♭II7〜I(マイナーの場合は、♭II7〜Im)を繰り返して終わる。
♭II7は、V7の裏コードですね。

循環コードを使って、引き延ばして終わる。これも、イントロのところを参照。

IIIm〜VI7〜IIm〜V7〜Iを使う。
例えば、Dm7〜G7〜Cmaj7とあったら、Dm7〜G7〜Em7〜A7〜Dm7〜G7〜Cmaj7と
する終わり方です。

最後の何小節かを繰り返して終わる。
Em7〜A7〜Dm7〜G7〜Cmaj7など。つまり、IIIm7〜VI7〜IIm7〜V7〜Iになっていれば、
上と同じ考え方ですね。

偽終止(ディセプティブ・ケーデンス)を使って終わる。
例えば、G7〜Cmaj7を、G7〜A♭maj7〜D♭maj7〜Cmaj7とするような終わり方。
「コルコヴァード」などに使えますね。

I〜♭VIIを繰り返す。
例えば、Key:Fならば、Fmaj7(9)〜♭Emaj7(9)のように、2度下がって上がるもの。
勿論、イントロにも使えます。
バーデン・パウエルなどもやっていますね。

最後の何小節かから、rit.(リタルダンド)して、フェルマータで終わる。

リズムのキメのフレーズを考えて、それで終わる。
打ち合わせが必要です。ドラマーやべーシストに相談してみましょう。

まだ色々ありますが、これ位にしておきます。


[補講・中級篇]

ちょっと複雑ですが、こんな終わり方もあります。よく吟味してみて下さい。
例えば、Key:Cで、F♯m7(♭5)〜Fm6〜C(onE)〜E♭dim7〜Dm7〜D♭maj7〜Cmaj7
とするようなやり方。
他のKeyでも、できるようにしておくと良いでしょう。

このようなエンディングはたくさんありますが、また別の機会に。


(2004年6月 第15回セミナー:講師 長谷川 久)



第14回(初級篇)イントロの方法

アマチュア・ギタリストの演奏で多く見られる欠点の1つに、部分的にはプロ顔負けの
テクニックを見せるのに、イントロなしで突然始めたり、エンディングを考えていなかっ
たりする、というのがあります。つまり、曲全体としての構成やバランスを考えていない
のです。

落語などを聴いて(見て)みると分かりますが、まずマクラがあって、それから本題に
入ります。そして、途中盛り上がりがあり、最後にオチが来る。よく考えられていますね。
音楽もそれと似ていて、イントロ〜テーマ〜フェイク(または、アドリブ)〜テーマ
〜エンディング、といった流れや、全体の構成を考えておくことが大切です。

音楽的な演奏とは、「イントロ〜テーマ〜フェイク(または、アドリブ)〜テーマ〜
エンディング(長い曲の場合は、後半のテーマは省略しても良い)」なのです。
誰かに「ちょっと何か弾いてくれ」と頼まれた場合、たった2コーラスでも良いから、
イントロを付け、途中にクライマックスがあり、そしてエンディングがある、そういった
演奏が最も音楽的なのです。

それでは、イントロの方法について、ポイントだけ挙げておきましょう。

イントロなしで、いきなり曲に入る場合もある。
イントロなしで、いきなり曲(テーマ)に入る場合も勿論あります。しかし、この場合はバンド
などでは、あらかじめ打ち合わせしておくことが必要です。ジャズなどで、一斉に入ることが
ありますが、決まるととてもかっこいいものです。これについては、セミナーの
「第13回(初級篇)カウントの出し方」を参考にして下さい。

ある特定のパターンがある場合、それをそのまま利用する。
これには、次の2つがあります。

(1)Verse(ヴァース)が付いている場合:テーマに入る前の導入的なメロディーのことです。
ジャズのスタンダードには多く見られますが、トム・ジョビンの曲にもよくありますね。これが
ある場合は、スロー・テンポでヴァースから始めて、イン・テンポしてテーマに入る場合が
多いようです。

(2)ある特定のパターンがある場合:「ウエイヴ」、「黒いオルフェ」、「コルコヴァード」、
「ジェット機のサンバ」など、たくさんありますね。

曲のテーマをもじって、イントロとする。

曲の最後の何小節かをイントロにする。
アウフタクト(Auftakt。ドイツ語。弱起と訳されています)の場合や、トニック以外のコードで
始まる場合に有効。ヴォーカルなどが入りやすくなります。

適当な循環コードを、4小節か8小節やる。
例えば、||:Cmaj7|Am7|Dm7|G7:||というような、トニックから始まってトニックに戻るような
定型的な進行を「循環コード」と言います。これをイントロにする訳ですが、イントロの
最後はV7(または、裏コードの♭II7)にして、入りやすくします。所謂、ドミナント・モーション
ですね。

ヴァンプ(Vamp)を付ける。
ヴァンプというのは、リズムを伴ったコードだけの伴奏で、ボサノヴァやサンバでは最も
よく使われます。これも、最後はV7〜IやIIm7〜V7〜Iにして、入りやすくします。

ベースやドラムスのリズム・パターンを使う。

全く新たに、イントロのメロディーを作る。
これは、前もって考えておきます。

その場の雰囲気で、アドリブでイントロを付ける。
私は、このパターンが好きで、よくやります。特に、マイナーの曲のルバート・ソロなどでは、
奏者自身の雰囲気作りも大切なのです。

転調を含んだイントロもある。
違うKeyで始めて、転調してテーマに入るもの。意外性があって、有効ですね。

タイトルの似た曲のメロディーを一部拝借して、イントロにする。
これは、一種のジョークですね。ジャズメンがよくやります。

4度上行、短2度上行などのコード進行を、そのままイントロにする。
4度上行なら、I〜IV7〜Iや、I〜IVm7〜Iといったものですが、ロベルト・メネスカル、
バーデン・パウエル、トム・ジョビンなどもやっています。4度上行は、とても自然な
進行です。短2度上行は、V7の裏コードですね。I〜♭II7〜Iとなります。

5度のクリシェを使う。
例えば、Fm〜Fm(♯5)〜Fm6〜Fm(♯5)といったもの。この進行は、ブラジル音楽には
大変よく見られるものです。

以上の幾つかを組み合わせる。

まだ、ありますが、取り敢えずこの位にしておきます。

[補講・中級篇]
さて、それでは、プロのイントロ例を1つだけご紹介しましょう。(Key:Gとします。)
よく吟味してみて下さい。エンディングにも使えますね。

|C♯m7(♭5)|Cm6|Bm7|E7(♭9)|Am7(♭5)|D7(♭9)|Gmaj7|D7(♭9)|
 ⇒ アナ・カラン:NY録音の曲「Voce vai ver」より。

この他にも、勿論色々ありますが、[上級篇]として、またの機会に
別途掲載したいと思います。


(2004年6月 第14回セミナー:講師 長谷川 久)





第13回(初級篇)カウントの出し方

バンドなどでアンサンブルを行う場合の、カウントの出し方を説明しましょう。

ロック・バンドなどでは、通常ドラマーがスティックを叩いて、「ワン・ツー・スリー・フォー」と
合図することが多いようですが、ヴォーカルが合図する場合は、「ワン・ツー・スリー・フォー」と
言うのと同時に、指を鳴らすこともあります。また、フルートなど、立って演奏する人が合図を
する場合は、口で言うのと同時に、片足の裏で床を踏む(叩く)こともあります。つまり、特に
こうしなければいけない、ということはありません。しかし、物事にはすべて、一応の基本と
いうものがありますので、それは押さえておくべきでしょう。

カウントには、これから始まる曲の(a)拍子(何拍子の曲なのか?)(b)テンポ(速さは
どれ位なのか?)(c)ビート(リズムと考えても構いません)(d)アタマに入るタイミングなどを、
バンドのメンバー全員に指示する、と言った重要な意味があります。決して、おろそかには
できませんし、いい加減では駄目です。

ポイントは、次の通りです。(ボサノヴァを前提に、便宜上、2/2拍子とします。
○=2分音符、●=4分音符、×=4分休符と考えて下さい。)

(1)スローやミディアム・テンポの場合
⇒ ●●●● 「ワン・ツー・スリー・フォー」
いつもやっているテンポを頭に思い浮かべながら、「ワン・ツー・スリー・フォー」と
カウントすれば、OKです。(勿論、口には出しませんが、「ファイブ」で一斉に入ります。)

(2)アップ・テンポの場合
⇒ ○○ 、●●●● 「ワーン・ツゥー、ワン・ツー・スリー・フォー」
⇒ ●×●×、●●●● 「ワン(うん)・ツー(うん)、ワン・ツー・スリー・フォー」
速い「ワン・ツー・スリー・フォー」だけでは入りにくいので、これの前に、「ワーン・ツゥー」
(2分音符が2つ)、または「ワン(うん)・ツー(うん)」(4分音符+4分休符が、2つ。)
を付け加えると良いでしょう。つまり、「ワーン・ツゥー、ワン・ツー・スリー・フォー」となります。

(3)ポルトガル語でカウントする場合
英語の「フォー」にあたる「クアトロ」が語呂が良くないので、「クァー(トロを省略)」とするか、
または「アー」などのかけ声をかけます。休符にしたり、ベース奏者にベース音
(例えば、keyがFmで、アタマがFm7コードなら、ドミナントのC音)を入れてもらうのも
良いでしょう。スローやミディアム・テンポ、及びアップ・テンポの両方を、以下に示します。

スローやミディアム・テンポの場合
⇒ ○○、●●●● 「ウーン・ドーイス、ウン・ドイス・トレス・クァー」

アップ・テンポの場合
⇒ ●×●×、●●●● 「ウン(うん)・ドイス(うん)、ウン・ドイス・トレス・クァー」


(2004年6月 第13回セミナー:講師 長谷川 久)







           
第12回(中級篇)ブラジル的なコード進行の秘密

トム・ジョビン、シコ・ブァルキ、カエターノ・ヴェローゾの曲を例に、「ブラジル的な
コード進行」の秘密の一端を解説します。
次の各曲の最初の部分です。Keyは違いますが、よく見て下さい。

(1)トム・ジョビン「A felicidade(ア・フェリシダージ)」のメイン・テーマ冒頭(ジョアン・
ジルベルトやミルトン・ナシメント風に、KeyはCとしましょう。)

|Cmaj7(9)|/|Bm7(♭5)|E7(♭13)|Am7|〜


(2)シコ・ブァルキ「Carolina(カロリーナ)」の冒頭
(本人の録音より。KeyはEです。)

||Emaj7(9)|/|D♯m7(♭5)|G♯7(♭13)|C♯m7(9)|〜


(3)カエターノ・ヴェローゾ「Sampa(サンパ=サンパウロのこと)」の冒頭
(クァルテート・エン・シー風に、KeyはAとしましょうか。)

||Amaj7|G♯m7/C♯7(♭9)|F♯m7|〜


(4)同じく、カエターノ・ヴェローゾ「Minh voz, minha vida」の冒頭
(KeyはDとします。この曲、ガル・コスタなどがやっていますね。)

||Dmaj7(9)|C♯m7(♭5)/F♯7(♭13)|Bm/Bm7(onA)|〜



さて、如何でしょうか?
そう、「I〜♭Im7(=VIIm7)〜」という、共通のコード進行ですね。(取り敢えず、小節数や
♭5の有無は無視します。)
トニック・メジャーから半音下のマイナー・コードに進行し、その後は4度進行ということに
なります。
柔らかく、自然な進行と言えますね。


(2004年1月 第12回セミナー:講師 長谷川 久)




第11回(中級篇)似たもの同士のコード進行

故意か偶然か(笑)、似たもの同士のコード進行を、幾つかご紹介します。

(1)トム・ジョビンの「Wave(波)」と「Tide(潮流)」〜全く同じコード進行が使われています。
ただし、構成は違っていますので、要注意です。

(2)同じくトム・ジョビンですが、「Este seu olhar」と「So em teus bracos」(注:bracosの
cは、本当は下にヒゲが付く文字です。悪しからず。)
〜これらは、全く同じではないのですが、非常によく似たコード進行で、小節数(32小節)
も同じです。
シルヴィア・テリス&ルシオ・アルヴェスのデュオ(メドレー)が有名ですね。

(3)これも同じくトム・ジョビンですが、「Samba do aviao(ジェット機のサンバ)」と
「Discussao(口論)」
〜「Discussao」の「1.までのコード進行で、「ジェット機のサンバ」
が歌えます(笑)。ただし、「ジェット機のサンバ」の方は、色々なコード進行が可能ですので、
各自研究してみて下さい。

(4)トム・ジョビンの「Retrato em branco e preto(白と黒の肖像画)」とバーデン・パウエルの
「Apelo(アペロ)」
〜小節数も同じで、よく似ていると言われるものですが、当然、バーデンがジョビンに影響
されたのでしょうね。
特に、最後の8小節は同じコード進行と言って良いでしょう。
しかし、コードの使い方などを、細かく見ていきますと、全体の構成としては、やはりトム・
ジョビンに軍配が上がります。
因みに、私はこの2曲を、よくメドレーで演奏します。

この他にも、コード進行パターンとして同じものなど、たくさんあります。
トム・ジョビンは、ジョークも一流だったのではないでしょうか。

(2004年1月 第11回セミナー:講師 長谷川 久)




第10回(初級篇)「I〜II7〜IIm7〜V7〜I」というコード進行

音楽には、ある程度パターンというものが存在します。コード進行然り、リズムにおいても
然りです。特に、リズムに関しては、ある特定のパターンが連続しないと、リズムを感じない
ということも確かです。しかし、最終的に、パターン=音楽ではありません。

例えば、ジョアン・ジルベルトのリズム・パターンを幾ら真似しても、ジョアンには決して
なれませんし、超えられません。偉大なジョアンは一人で十分です(笑)。
「ジョアン・ジルベルトのパターンこそがボサノヴァだと思い込まれ、みんながそれを
真似するようになってから、ボサノヴァはつまらなくなった」というのは、トム・ジョビンの
発言です。偉大な先人達をリスペクトしながらも、本質を追求し、日々研鑚に励みましょう。

今回は、上のことを念頭に置いていただき、コード進行のパターンの中でも、特に有名な
「I〜II7〜IIm7〜V7〜I」に関して解説します。

ジャズの有名曲「A列車で行こう」がこのパターンで始まりますが、ボサノヴァなど、
ブラジル音楽にも幾つか例が見られます。
「イパネマの娘」、「デサフィナード」、「ソ・ダンソ・サンバ」、「がちょうのサンバ」(O pato)、
「偽りのバイーア(娘)」(Falsa Baiana)などです。
これらは、始まりの部分が基本的に同じパターンでできています。

(1)「A列車で行こう」と「デサフィナード」は、II7に♭5(=♯11)が付くところなど、
大変よく似ています。トム・ジョビンが「A列車」の影響を受けて作曲した、と揶揄する向きも
ありますが、それは多分ないでしょう。トム・ジョビン自身は、ジャズの影響を否定しています。
寧ろ、クラシック音楽の影響でしょうね。この♭5(=♯11)という音は、恐らく100年前だった
ら、間違っていると言われたかもしれません(笑)。非常に斬新な響きを持っています。
トニー二ョ・オルタなどは、「イパネマの娘」のII7に使っていますし、ジョアン・ジルベルトも
よく使う音ですね。

(2)「ソ・ダンソ・サンバ」も、基本的には、I〜II7〜IIm7〜V7〜Iのパターンですが、最初の
IをI〜IV7とする方が渋いと思います。

(3)「偽りのバイーア(娘)」(Falsa Baiana)のみ、I〜II7〜IIm7〜V7〜I〜I7と、最後の
コードがセブンス・コードになっていて、4度上に進行することに注意しましょう。

このように、同じパターンが出て来る曲は、まとめて整理し、比較・分析しておくと良いで
しょうね。


(2004年1月 第10回セミナー:講師 長谷川 久)



第9回(初級篇)これだけは必須〜タンボリンの3つのパターン

タンボリンは、スティックでリズムのオモテを叩き、楽器を持った方の指でウラを入れる
のが基本の叩き方です。
ジョアン・ジルベルトのボサノヴァのパターンの元とも言われています。今回は、
これだけは必須の、3つのパターンを解説しましょう。
タンボリンが自在に叩けるようになりますと、ギターのリズムも格段と良くなります。
ガンザだけでは物足りないという方は、是非チャレンジしてみて下さい。

すべて2小節パターンで、○はオモテ、×はウラ、それぞれ16分音符です。

(1)最も古典的なパターン

2/4|○×○× ○○×○|×○×○ ×○○×|
 =「タツタツ・タタツタ、ツタツタ・ツタタツ」というフィールです。

古くから行われている、有名なパターンです。ジョアン・ジルベルトのボサノヴァの
パターンの元になったと言われています。また、バーデン・パウエルの有名なギター
ソロ・ヴァージョン「イパネマの娘」のイントロのリズムも、これが元になっていると推測
されます。
(バーデンの場合は、「タツタツ・タタタタ、ツタタタ・ツタタツ」となっており、1小節目の
後半、2小節目の前半がそれぞれ1ヶ所、ウラがオモテに逆転していることに注意。)
かつて、鋭い論評を展開されていたブラジル音楽評論家、大島守氏(故人)によれば、
これこそが「真のボサノヴァ・リズム」とのことです。大島氏の説に従えば、このパターンに
限り、ボサノヴァのリズム=サンバのリズムということになります。


(2)上の小節を入れ替えたパターン

2/4|×○×○ ×○○×|○×○× ○○×○|
=「ツタツタ・ツタタツ、タツタツ・タタツタ」

このウラから入るパターンは、現在でもブラジルのパーカッショ二ストがよく叩くパ
ターンで、上と比べて非常に汎用性があります。
初心者に、最もお薦めするパターンです。


(3)トム・ジョビンがギターでやっているパターン

2/4|○×○× ○○×○|×○×○ ○×○×|
 =「タツタツ・タタツタ、ツタツタ・タツタツ」

トム・ジョビンが若い頃、フランク・シナトラと録音した「イパネマの娘」のギターのイントロの
リズムがこれです。(1)の変形と言えます。2小節目の後半が違っていますね。

タンボリンの右手・左手は、ギターの右手・左手と非常に関連が深いものです。 実際は、
サンバの返し打ち(タンボリン・ヴィラード)など、もっとたくさんのパターンがあり、また
アドリブ性が高いので、非常に奥が深い楽器です。

尚、ウラ打ちの指にコインをテープで貼り付けて叩く(ウラを強調する)といった変則奏法や
(アイアート・モレイラ)、1個のタンボリンで数個のタンボリンの音を出す(一人なのに、
数人で叩いているように聴こえる)といった高度な技(フランシス・シルヴァさん)もありますが、
初心者は決して真似をしてはいけません(笑)。


(2003年12月 第9回セミナー:講師 長谷川 久)



           



第8回 (初級篇)誤ったボサノヴァ・リズムを検証する

下は、ポップス系などの出版物によく見られる、「これがボサノヴァのリズム」と紹介
されている有名なパターンです。今回は、これについて検証してみます。ハイハット、
スネアー、バスドラのドラム譜として書かれることもあります。ここでは、下記のようにします。

○は16分音符、●はアクセントを伴った16分音符です。


2/4|●○○● ○○●○|○○●○ ○●○○|
 =|タツツタ ・ツツタツ|ツツタツ・ツタツツ|    というフィールになります。

(1)これは、実は1960年頃にブラジルの音楽関係者(ミュージシャンではなさそうです)
によって、作為的に作られ、あっという間に世界中に普及してしまった「誤ったボサノヴァ・
リズム」として、識者に知られているものです。ひどい場合は、4/4拍子で書かれたりします。
(ボサノヴァは、サンバと同じく、2/4拍子。)私の知る限り、殆どのブラジル系のドラマーや
パーカッショニストが「嫌い」と言うパターンです。

(2)「タンボリンのリズムが、ジョアン・ジルベルトなどの代表的なボサノヴァのパターンの
元になっているのではないか?」というのは、バーデン・パウエルも言及していますし、
サンパウロ大学の修士論文などでも発表されていますが、上のパターンを実際にタンボリン
で叩いてみると、よく分かります。リズムのウラにあたる○が2回も3回も続くため、非常に
叩きにくいのです。つまり、不自然なのです。従って、タンボリンのリズムがボサノヴァの
リズムの元と仮定すると、上のパターンは、やはり違うのではないでしょうか。

(3)問題なのは、ドラムスでやると叩きにくくはない、ということ。最近は、割と有名な
ブラジル人ドラマーまで、このパターンをボサノヴァのパターンの1つとして捉えていたり
します。これは、かなり危ないことだと思われます。しかし、話し言葉と同様、リズムも時代と
共に変わって行くものなのかもしれません。ちょっと悲しいですね。

(4)もう1つ、ご参考までに。このパターンは何かに似ています。そう、'80年代半ば〜'90年代に
流行した、ブラジルの「サンバ・へギ」(サンバとレゲエが合体した名前)のリズムですね。
非常にロック的なフィールで、ロックの方々には申し訳ないのですが、個人的には、やはり
余り好きになれないパターンです。

さて、上のパターン、皆さんはどう思いますか?


(2003年12月 第8回セミナー:講師 長谷川 久)






第7回 (入門篇)ガンザ(シェイカー)の奏法とリズム

ガンザ(シェイカー)は、最も手軽で簡単なパーカッションの1つですが、意外といい加減に
やっている人が多いようですので、その正しい奏法などを解説しましょう。
因みに、室長はガンザはキャリア30数年、昔は「ガンザの長谷川」なんて雑誌に紹介され
たことも。そこら辺のブラジル人には負けません(笑)。冗談はともかく、今回は誰も書かな
かった、特殊奏法も解説したいと思います。


(1)基本の奏法

(円筒形のものを念頭に置きますが)片手で真ん中の辺りを軽く握り、地面(床)に対して
平行になるように構え、前後に振ります。2連や3連などの大きいものは、両端を両手で
支えるようにして振ります。最初のうちは、横から見て片仮名の「フ」を描くようにして、
強弱を付けず、ゆっくり動かして練習します。内容物をイメージし、ひと固まりにして歯切れ
良く動かすのがコツです。
サンバにおける最も基本的なリズム・パターンを2つ紹介しましょう。
どちらも、2/4拍子で、○は16音符、●はアクセントを伴った16分音符です。


(a)2/4|●○○● ●○○●|〜
⇒1拍、2拍のアタマと最後にアクセントが来るパターン

(b)2/4|○○○● ○○○●|〜
⇒1拍、2拍の最後にアクセントが来るパターン


尚、ボサノヴァなど、曲調やテンポによって、サンバほどアクセントを付けずに振る方が
良い場合もありますので、使い分けが必要です。

(2)誰も書かなかった、ガンザの特殊奏法

(a)トレモロ奏法(ロール・エフェクト)
⇒これは割りと普通のやり方です。ガンザを持った手を小刻みに震わせ、連続音効果を
 出すものですね。

(b)ステレオ奏法
⇒音質や音量の違う2個のガンザを左右の手に別々に持ち、同時に振るやり方。片方の
 リズムをわざとずらすのも面白い。

(c)デクレッシェンド(クレシェンド)奏法
⇒次第に音量を変えていくやり方。テンポはそのままで、振りながら、ガンザの傾きを
 垂直方向に変えていくものです。

(d)チェンジ奏法
⇒(立方体に少し近い)直方体のガンザを使い、振る向きを素早く水平方向に90度チェンジ
  して、音質を変えます。

(e)スティック併用奏法
⇒片手で振りながら、もう一方の手に持ったスティックでガンザを叩くといった奏法。
 これは、実際にフランス出身のパーカッショニスト、ミノ・シネルが来日した時、渡辺貞夫さん
 とのライブでやっていました。

(f)ロール・エフェクトの発展形
⇒(a)の発展形で、片手で振りながら、もう一方の手(空手の手刀のような感じ)で
 ガンザの端を柔らかく叩き、ロール・エフェクトを出す、といった高度な裏技もあります。
 これは、世界的なパンデイロ奏者、旧友のフランシス・シルヴァさんが開発したものです。


(2003年12月 第7回セミナー:講師 長谷川 久)






第6回 (中級篇)回文とパルチード・アルト

お待たせしました。今回から、リズムに関してのセミナーも開始です。
今日のお題は、「回文とパルチード・アルト」。

「サイさんて、歌うたう天才さ」「菓子与え、肥えたアシカ」「たった今、雁(がん)が舞い立った」
「悪いニワトリとワニいるわ」「チンパンジーから、怪人パンチ」「酔った虎、ふらふらと立つよ」
「神か?狼か?」...(以上、出典は河出書房新社「まさかさかさま動物回文集」)。
こういうのを回文と言いますが、パルチード・アルトなど、ラテン系のリズムにも似たようなことが
あります。

パルチード・アルトというのは、サンバのポピュラーなスタイルの1つで、そのリズム・パターンは、
最近では日本でもサンバ系のドラマーがよくやりますが、実はパンデイロなどのパターンが元に
なっています。

ブラジルという国は、そもそも最初にパーカッションやギター在りきで、ベースやドラムスは
かなり後から輸入されています。その関係上、特にリズムに関しては、歴史の風雪に耐え抜いて
来た、元のパーカッションのパターンを研究するのが、最も有効な手段の1つです。
リズムというのは、一朝一夕に身に付くものではありません。勿論、血の問題もあるでしょうし、
歌(言語)との絡みもあるでしょう。文化が違いますから。元になっているパーカッションに
ついても、単純に譜面にしてパターンとして練習しないことです。逆説的ですが、パターンから
脱却するために、パターンを勉強すべきなのです。空手などの型を練習するのに似ているかも
しれませんね。

さて、それではパンデイロによる、パルチード・アルトの典型的なリズム・パターンを2つ紹介
しましょう。
どちらも、4分の2拍子、2小節パターンで、ツとタ=16分音符、タン=8分音符、
ウ=16分休符です。以下のようなフィールになります。


(1)「ツタンタ・タンタン、タタツタ・タタツタ」 

(2)「ウタンタ・タンタン、タンタン・ウタンタ」


(2)は回文とよく似ていますね。この(2)のパターン、実はジョアン・ジルベルトがギターで
殆ど同じことをやっています。
'73発表の傑作アルバム、邦題「3月の水」から、「Eu Quero Um Samba」のバッキングの
パターンがそれです。


(2003年12月 第6回セミナー:講師 長谷川 久)






第5回 (入門篇)「C(シー)の話」


ABCのC(シー)には、色々な意味がありますね。「ビタミンC」もあれば、「あいつはC調だ」
とか(笑)、メールの「CC」(カーボン・コピー)の2つのCや、ローマ数字の「100」の意味も
ありますし、昔のアメリカあたりでは(今はどうなんでしょうか?)学業成績の「良」だそうです。
さて、音楽の世界では、Cには次の4つの意味があります。

(1)ドレミファソラシド(所謂、Cメジャー・スケール)の「ド」の音のこと。
日本式では、「ハ」の音ですね。

(2)ドミソの和音(コード)「C」のこと。
普通は「シー」で構いませんが、正確には、「シー・メジャー」と呼びます。
1度=ド=C、3度=ミ=E、5度=ソ=Gの3つの音から構成される和音(コード)
ですね。

(3)(上の2つと関連しますが)「ハ長調」のこと。
KeyがCと言えば、ハ長調ということですね。♯や♭が何も付かないやつです。

(4)「4分の4拍子」のこと。
さて、こいつが一番「曲者」ですので、注意しましょう。
よく市販の音楽理論書などに、無責任に、「common time」の略(?)と説明されていますが、
実はこれは違います!
16世紀末のイギリスの音楽理論書によると、丸(○)などの記号(メンスーラ記号という)を
使って記譜しており、視力検査表にあるような半丸も書いていたらしいのです。
アルファベットのCではなくて、昔の記譜法の名残りということです。今は4分の4拍子の意味で
使われていますが、「common time」の略ではなかったという訳ですね。因みに、私達日本人より、
英語圏の人達の方が誤解しやすいそうです。

⇒もっと詳しく勉強されたいという方は、東川清一(とうかわ・せいいち)先生の
「だれも知らなかった楽典のはなし」(音楽之友社)をご覧下さい。

段々と寒くなりました。皆さん、ビタミンCをたくさん摂って、風邪を引かないよう
にしましょうね。


(2003年12月 第5回セミナー:講師 長谷川 久)




第4回(中級篇)「Samba Triste(サンバ・トリスチ=悲しみのサンバ)」考

特に日本人の男性ギタリストに人気のある、バーデン・パウエル(故人)作曲の
「Samba Triste(サンバ・トリスチ=悲しみのサンバ)」のコード進行を分析、解説します。
ギターソロへのアレンジをする場合などのご参考にしていただければ幸いです。

基本のコード進行は、以下の通りです。(KeyはAm。「1.「2.の、トータル32小節)
                                                 
||:F♯dim7|Fdim7|Am|Am7(onG)|F♯dim7|Fdim7|Em7(♭5)|A7(♭9)|Dm7|
G7|Cmaj7/B♭7(♭5)|Am7|「1.F♯dim7|/|Dm6(onF)(またはBm7
(♭5))|E7:||「2.F♯dim7|B7(♭5)/B♭7(♭5)|Am| / ||

ポイントは、F♯dim7〜Fdim7の部分が、F7(またはF)〜E7という解釈もできるということです。
F7はF7(♭9)とすれば、構成音はF+A+C+E♭+F♯、ルートのF音を除くと、
F♯dim7=F♯+A+C+E♭と同じです。

同様に、E7はE7(♭9)とすると、Fdim7と同じ構成音(ルートのE音を除く)になります。
つまり、V7(♭9)≒♯Vdim7ということが言えますね。

ただし、ルートが違うので、使い方には注意しましょう。

この曲の演奏は、作曲者のバーデン・パウエルの録音(ライブも含めて、多数あります)
以外では、(1)私が昔聴いた、イタリア人ギタリストのミケーレの演奏が白眉かと思いますが
(音源なし)、(2)日本のベテラン・ジャズ・ギタリスト、中牟礼貞則さんの録音(「ギター・ボッサ」
というLPに収録。いいレコードです。コード・ソロもかっこいい)や、(3)天才ボサノヴァ・ギタリ
ストの伊勢昌之さん(故人)のライブ(音源なし)(4)「ショーロ・クラブ」の笹子重治さんの昔の
ライブ録音(私の家にテープあり)などがあります。他には、(5)チャーリー・バード(故人)も何度
か録音しています。

歌入りでは、(6)渋いところで、マリリア・メダーリャとセバスチャン・タパジョスの録音や、
変わったところでは、(7)ジャッキー&ロイのジャジーなものなどもありますね。(8)日本では、
和製ジョアン・ジルベルト、中村善郎さん(古い友人の一人)が昔よくライブで歌っていました。

(2003年12月 第4回セミナー:講師 長谷川 久)







第3回 (初級篇)「裏コード」とは何か?

日本語の「裏」という言葉には、何か秘密めいた、隠微で切なく、怪しげな(笑)ニュアンスが
ありますね。
「裏口」、「裏道」、「裏街道」、「裏方」....「裏窓」なんていう映画もありました。
さしずめ、この「ボサノヴァ研究室」もボサノヴァ界の「裏サイト」でしょうか(笑)。
さて、冗談はともかく、今日はよく使われる代理コードの一つ、「裏コード」の解説です。

V7の代理コードの♭II7を、通称「裏コード」と呼んでいます。
例えば、

C〜Dm7〜G7〜C(I〜IIm7〜V7〜I)

というコード進行があれば、

C〜Dm7〜D♭7〜C(I〜IIm7〜♭II7〜I)とすることができます。
実際には、

C6(9)〜Dm7(9)〜D♭7(9)〜C6(9)

という風に、勿論テンションを入れますが。

元々は、クラシックのバルトークの「増4度近親理論」から来ているようですが、要は、
V7の代理コードとして、♭II7が使えるということです。
ジャズでは常識ですが、ボサノヴァでも頻繁に出て来ますので、覚えておきましょう。

「裏コード」とは、一言で説明すると、「最も重要な3度と7th(短7度)が共通の
(実は、入れ替わっている)ため、お互いに代理関係になる」ということです。
Key:Cの場合の、G7(♭13)とD♭7(9)との構成音の比較で、具体的に見て行きましょう。

⇒ G7(♭13)コード = G(ルート)+B(3度)+D(5度)+F(7th)+E♭(♭13)

⇒ D♭7(9)コード = D♭(ルート)+F(3度)+A♭(5度。ギターでは省略)+B(7th)+E♭(9th)

重要なB音とF音、及びテンションのE♭音が共通ですね。

所謂「サイクル・オブ・フィフス(5度圏)」の図で、各々の音に7を付ける(7thコードにする)と、
その関係がよく分かります。
つまり、お互いに180度反対(裏)の関係にあるという訳です。
ということは、V7の「5度の音をフラットさせた音(♭5)がルートになった7thコード」と
考えても良いでしょう。
裏コードを使うと、ルートの半音進行が生まれ、V7〜Iと比べて、柔らかい進行感に
なります。

(補足〜上級篇)
尚、分数コードの裏コードなんていう、超高級な秘技もあります。
これは、例えば、トム・ジョビンの「3月の雨(3月の水)」(Aguas de marco)に見られます。
詳しくは、拙著「ボサノヴァ・スタンダード101」をご覧下さい。


(2003年11月 第3回セミナー:講師 長谷川 久)



第2回 (中級篇)ジョアン・ジルベルトに見られる代理コードの分析

先日、ファン待望の初来日公演を行った、ジョアン・ジルベルトの代理コードの分析など。
尚、あくまでも、偉大なジョアンの音楽の一断片の分析ですので、そのつもりで。
また、ジョアンのリズムと、サンバのパルチード・アルトのパターンとの関連など、リズム分析も
今後掲載したいと思います。

今回は、サンプルとして、ジョアンのdimコードの使い方などを見て行きましょう。
例えば、以下の2例を挙げます。

(1)IIIm7(♭5) ⇒ ♯Idim7への置き換え (2)♭IIIdim7⇒ Idim7への置き換え

〜(1)(2)共、理論的な詳細は、長谷川久ギター教室にて(笑)。

それでは、具体的に検証してみましょう。
'77発表の傑作アルバム「AMOROSO(イマージュの部屋)」より、ガーシュイン作曲の
有名な「'S Wonderful(スワンダフル)」のコード進行を、ジョアンがどう変えているのかを
分析します。

[イントロ]

ストリングスなので、分かりにくいかもしれませんが、

|Gm7(11)|/|C7(♭9,13)|/|

と思われます。
IIm7〜V7ということになり、実に(というか、意外に)論理的であることが分かります。
アレンジャー在りきなので、当然と言えば当然なのかもしれませんね。

[テーマ]

大体、以下のコード進行のようです。

          「1.
||:Fmaj7|F6|F♯dim7|/|Gm7|C7(♭9)|Fmaj7|F
6:||

「2.
|Am7(本来は、Am7(♭5))|D7(♭9)|Gm7|C7(♭9)|Fma
j7|E7(♭13)|

|Amaj7|E7(♭13)|Amaj7|/|A♭7(♭13)|G7(1
3)|Gm7|C7(♭9)|

|Fmaj7(本来は2小節)|Fdim7|/|Gm7|C7(♭9)|Fmaj
7|F6||

(1小節短縮。本来は32小節です。)


さあ、それでは具体的に分析に入りましょう。

小節数の変更(短縮)〜ジョアンの得意技の一つ(?)

歌の部分が、1小節少ない31小節に短縮されていることに注意しましょう。
最後の4段目の1小節目、Fmaj7は本来は2小節です。
白玉で音が延びている2小節目が短縮され、すぐにFdim7に入っています。
ただし、インストの部分では、オリジナルの小節数(2小節)に戻っていますので、
要注意です。
結局、そのようなアレンジにした、ということでしょう。私に言わせると、一種の
「確信犯」ということになります。
しかし、オリジナルを聴き慣れたジャズ・ファンの耳には、ちょっと違和感があるかも
しれません。
賛否両論といったところでしょうか。

進行形式の変更〜これもジョアンの得意技(?)

オリジナルの進行は、「1.「2.形式にはなっていないことに注意しましょう。
本来は、「2.Am7(♭5)の部分の単純なリピートです。
因みに、「2.のアタマはAm7(5度E音のオミット)に聴こえますが、理論的には
Am7(♭5)になるところです。

トニック・コードが連続する場合の、maj7〜6度のクリシェの多用

この場合は、Fmaj7〜F6。トム・ジョビンなど、ブラジル音楽では、頻繁に聴かれるものです。
ご参考までに、ジャズ理論では、「maj7と6度は互換性がある」とされています。

1段目の「1.F♯dim7の部分〜本来はIIIm7(♭5)を、♯Idim7
へ置き換え

IIIm7(♭5)⇒♯Idim7への置き換えが見られます。

3段目後半、A♭7(♭13)〜G7(13)〜の部分に関して

インターネットなどで、トム・ジョビンの「コルコヴァード」と同様の、Am6(または、
D7(9)onA)〜A♭dim7(♭13)という表記をよく見ることがありますが、よく
聴いてみると、ちょっと無理があります。それとは明らかに違いますね。
Amaj7〜A♭7(♭13)〜G7(13)〜と動く方が、ルート、内声、トップ・ノート共、
自然で美しい流れです。

4段目の2小節目、Fdim7の部分〜本来は♭IIIdim7を、Idim7へ置き換え

ここは、本来はA♭dim7(または、G♯dim7)です。


(2003年11月 第2回セミナー:講師 長谷川 久)




第1回(初級篇)お湯かけて3分(?)〜ワン・ノート・サンバの作り方

今日は初心者の方を対象に、コード進行の初歩の考え方を一つ。

2/4拍子のボサノヴァ(またはサンバ)の曲を作ることになったと仮定します。
仮に、KeyをG、最初の4小節は、トニック・コードの連続としましょう。

⇒|Gmaj7| / | / | / |

ジー・ジー・ジー・ジーとセミが鳴いているようです(笑)。

さて、Gmaj7に解決させる(進行感を出す)ために、3〜4小節目のGmaj7を
D7に置き換えてみます。

⇒|Gmaj7| / |D7 | / |(〜Gmaj7)

次に、3小節目のD7をAm7に置き換えます。
⇒|Gmaj7| /  |Am7 |D7  |

少し、進行感が出て来ましたね。
今度は、2小節目をE7に置き換えます。

⇒|Gmaj7|E7  |Am7 |D7 |

さらに、最初のGmaj7を代理コードのIIIm7(Bm7)に置き換えることが
できます。
ベース・ラインがすべて4度進行となり、最も普通で自然な進行と言えます。

⇒|Bm7 |E7 |Am7 |D7 |

さあ、もう一息です。俗に、裏コードと言うのですが、E7、D7を代理コードにします。

⇒|Bm7 |B♭7 |Am7 |A♭7 |

おお(笑)、トム・ジョビンのワン・ノート・サンバ(Samba de uma nota so)の最
初の4小節(実際はリピートして、8小節)の基本のコード進行が出来上がりました。

もっとも、実際は⇒|Bm7 |B♭7 |Am7(11)|A♭7(♯11)|と、メロディーとの
関連で、テンションを入れます。
ギターの場合、A♭7(♯11)=A♭7(♭5)と考えて構いません。
いずれにせよ、IIIm7〜♭III7〜IIm7〜♭II7という進行ですね。
原型のGが、このように発展させることができるというわけです。

(補足〜上級篇)
尚、ブラジルの名ギタリスト、エリオ・デルミーロが以前来日した折り、彼は1小節目
も7thコードに変えて、
以下のように弾いていました。

⇒|B7(♯9)|B♭7|Am7(11)|A♭7(♯11)|〜

面白いですね。皆さんも、色々考えてみて下さいね。

(2003年11月 第1回セミナー:講師 長谷川 久)



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