曲目解説

 

1.男声合唱組曲「海豹と雲」

男声合唱組曲「海豹(かいひょう)と雲」は、第1回と第2回の東京都男声合唱フェスティバルで合同曲として歌われた曲です。コール・ヴァフナも第2回フェスティバルに参加しました。あれから3年。あのときの感動を胸に抱きつつ、改めてこの組曲に取り組みました。

多田先生は北原白秋の多くの詩に作曲されています。組曲「柳川風俗詩」「雪と花火」「三崎のうた」など。また、詩集「海豹と雲」の中からも「老鶏」「白鷺」「白牡丹」等の曲を作曲されています。今回この詩集の中から6つの詩を新たに選ばれ、あえて組曲「海豹と雲」とされています。詩集「海豹と雲」は大正12年から6年間の白秋の詩を集めたものです。白秋は、早稲田大学以降の青年時代に脚光を浴びたかと思えば、実家が破産したり、不倫が発覚して拘留されたりと、波乱の人生と窮乏の生活を送っていましたが、大正10年佐藤菊子と再婚が転機となります。翌年、長男隆太郎が、14年6月には長女篁子(こうこ)が生まれ、家庭的安息を得ました。ちょうどこの時期に作られた詩です。

I 「猟夫」 白秋の晩年の詩に多用される「神」という言葉で始リます。ここでの「神」とは、万物に宿る「神」のことであり、大自然の力に感謝する歌です。凛として毅然とした男らしい曲で、男声合唱組曲の一曲目にふさわしい曲です。

II 「朝」 白秋が大正14年41歳の8月に友人と北海道を旅したときの詩です。函館のトラピスト修道院での、静かな朝。

III 「青野」 草の茂った野原で少女と追いかける男、空想の世界。

IV 「曇り日のオホーツク海」 灰色一色ではっきりしない海と空。自分も誰だか…

V 「風を祭る」「祭る」とは「神」として一定の場所に崇め奉ることであり、「風」の吹いた所々に風を祭っていく。太陽の光、草と木の緑…あらゆるところに「風」が吹く。そして最後に、ありとある花に「祭る」。軽快な音楽で、さわやかな「風」を感じさせる曲です。

VI 「冬の夜」 隆太郎と篁子のための子守唄といわれています。波の音がザザンサと寄せてる。

 

2.Toivo Kuula男声合唱曲集

トイヴォ・クーラは1883年フィンランドの西海岸、オストロボスニア地方のヴァーサという町で生まれた。フィンランドというとシベリウスがあまりにも有名であるが、シベリウスより18才若いクーラは、いろいろな意味でシベリウスの影響を大きく受けた作曲家の一人である。

彼は1918年戦争のさなか一発の銃弾に倒れ34才の若さでその生涯を終えている。クーラの作曲家としての活動期間も1904年から18年までのわずか14年間しかなく、その間に約70の合唱曲、20曲の歌曲、そのほか若干の室内楽曲やオーケストラ曲が残されており、作品番号も37番までしかつけられていない。

貧困であった彼は生活費のために作曲をすることもあったが、1906年のエイノ・レイノの「流れは舟を運ぶ」の詩と出会い、この曲は彼の最もすばらしい男声合唱曲のひとつとなり、以降素晴らしい男声合唱曲を生涯に渡って書いている。

クーラのすばらしい合唱曲が誕生した背景には、現在よりはるかに合唱が重要視された時代というものがあり、当時のフィンランドを代表する混声合唱団「スオメンラウル」や「ヘルシンキ大学男声合唱団」などと親交があり、記念コンサートにあわせて作曲の委嘱が多かったこともある。

クーラが生きた時代はまさに過渡期で、ロシア支配が強まる中でフィンランド民族の自覚が強く求められ、そういった意味でも啓蒙的な音楽が多く作られた。クーラの作品の中にもいろいろなイデオロギー的な団体のために作曲されたマーチも多くあるが、他方、民族ロマン主義的な作品や印象主義的作品などには、深く大きく流れる川のような激しさと夜空に瞬く星のような輝きとがクーラ独特の雰囲気を醸し出している。  

 

3.夢の肖像

「夢の肖像」は1991年、東京六大学合唱連盟の委嘱で初演された。その後、2曲を入れ替え「夢色スケッチ」として女声、混声に編曲され、女声版の楽譜が出版されている。編曲者の須田和宏氏はサラリーマンの傍ら合唱編曲者として活躍しており、ヴァフナでも毎年のようにアンコールに編曲を採り上げている。また、自らの編曲を演奏するために結成された混声合唱団コール・フォレストでは指揮者を務めている。

「夢伝説」…スターダスト☆レビューの代表曲の一つ。1984年発表。カルピスのCMソングであった。

「Daydream Believer」… 1960年代のアメリカのアイドル・ポップ・バンド、ザ・モンキーズのヒット曲。

「My Dream」…フランツ・リストのピアノ曲「愛の夢」第3番をもとに、Linda Hennrickが付けた英訳詩を白鳥英美子が歌った曲をオリジナルとしている。

「夢をあきらめないで」…岡村孝子の1987年の作品。応援歌的な内容を持っており、高校野球番組のイメージソングとして使われた。

「When You Wish Upon A Star」…ディズニー映画「ピノキオ」(1940) のオープニングで、進行役のコオロギ、ジミニー・クリケットが歌っている。アカデミー主題歌賞を受賞。

「ゆめいっぱい」…TVアニメ「ちびまる子ちゃん」(1990-92放送分) のオープニング主題歌。今回の編曲はB.B.クィーンズのアレンジに基づいている。

 

4.男声合唱とピアノのための「新しい歌」

本日の最終ステージ「新しい歌」は、作曲者である信長貴富氏により、ヨーロッパ・アメリカ・日本の詩に、創造力豊かな旋律と和声とリズムを与えられ、男声合唱として2000年5月に東京六大学合唱連盟定期演奏会にて初演されました。

この曲集の最大の魅力は、その洗練された旋律でしょう。非常にわかりやすく、それでいて心をとらえるメロディー。特に新しい技法を使っているわけではないのですが、歌えば歌うほど、旋律の素晴らしさが見えてきます。氏が、「夜空ノムコウ」や「WAになって踊ろう」などのポップスの合唱編曲を多く手がけたという影響もあるのかもしれません。

各曲には、「きみ歌えよ」「素晴らしい音楽が欲しいんだ」「さあ、永遠の夏の方へ飛んでゆけ」等々、鮮烈で清新なメッセージがちりばめられています。本日は皆様の耳に、そして心にこれらのメッセージをお届け出来るよう、歌いたいと思います。もちろん、指揮者の舞と、美しいピアニスト(ピアノ)も必見(?)です。

I 「新しい歌」 既成の観念や価値観に束縛され摩耗しきった歌ではなく、自由で開放された、光り輝いている「新しい歌」。その歌を、Finger-snap、Hand-clapなどをつけて、高らかに歌います。

II「うたを うたう とき」 まど・みちお氏の暖かみのある詩を、アカペラで柔らかくしっとりと歌います。自由に伸びやかに「うた」うことの喜びを表現できればと思います。

III「きみ歌えよ」 楽しげなピアノにのせて、親しみやすいポップなメロディを歌います。思わず一緒に歌い出したくなるような曲です。

IV「鎮魂歌へのリクエスト」 後半2曲は死に向かう心情を歌っています。この「鎮魂歌へのリクエスト」は合唱曲としては珍しいブルースで、いわゆる「合唱らしさ」にこだわらない演奏をお聴かせしたいと思います。

V 「一詩人の最後の歌」 「死」を力強く圧倒的に歌い上げます。最後にアカペラで「ありがとう」とやわらかく、美しく締めくくります。